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2005.03.24

H17. 3.23 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第429号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告

H17. 3.23 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第429号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告

事件番号  :平成17年(ラ)第429号
事件名   :新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告
裁判年月日 :H17. 3.23
裁判所名  :東京高等裁判所
部     :第16民事部
結果    :抗告棄却
原審裁判所名:東京地方裁判所
原審事件番号:平成17年(モ)第3074号

主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は債務者の負担とする

理由

第1 保全抗告の趣旨
 1 原決定を取り消す。
 2 東京地方裁判所平成17年(ヨ)第20021号新株予約権発行差止仮処分命令申立事件について,同裁判所が平成17年3月11日にした仮処分決定を取り消す。
 3 債権者の上記仮処分命令の申立てを却下する。
第2 事案の概要
1(1) 本件は,債務者の株主である債権者が,債務者が平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて現に手続中の新株予約権4720個(以下「本件新株予約権」という。)の発行について,�@特に有利な条件による発行であるのに株主総会の特別決議(商法280条ノ21第1項)がないため,法令に違反していること,�A著しく不公正な方法による発行であることを理由として,これを仮に差し止めることを求めた事案である。
(2) 原審仮処分決定は,上記�@の点について,本件新株予約権の発行が新株の発行と実質的に同一であるとの本件における特殊な事情を考慮しても,本件発行価額が公正な価格を大きく下回り,本件新株予約権の発行が「特ニ有利ナル条件」による発行に当たるとまでいうことはできないとし,上記�Aの点について,公開会社において,現にその経営支配権につき争いが具体化した段階において,取締役が,現に支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営陣の経営支配権を維持することを主要な目的として新株等の発行を行うことは,会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されず,新株等の発行が許容されるのは,会社ひいては株主全体利益の保護の観点からこれを正当化する特段の事情がある場合に限られる,本件において,債務者は,債権者による大量の債務者株式取得という公開買付けの開始後に発生した事情に影響を受けることなく,債務者が賛同を表明したフジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成する手段として,本件新株予約権を付与しているから,本件新株予約権の発行は,現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的としており,現経営陣の経営支配権を維持することを主たる目的とするものであるところ,債権者の経営支配権取得により債務者の企業価値が著しく毀損されることが明らかであるということはできず,企業価値の毀損防止のための手段として,従前の発行済株式数の約1.44倍にも上る本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるということもできない等とした上,債務者の本件新株予約権の発行により,債権者が著しい損害を被るおそれがあるから,本件では保全の必要性も認めることができるとし,債権者が本決定の送達を受けた日から5日以内に,債務者のために5億円の担保を立てることを保全執行の実施の条件として債権者の仮処分命令申立てを認容すべきものとした。これに対し,債務者が,仮処分異議の申立てをした。
(3) 原審異議決定は,上記�Aの点につき,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれに友好的な特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権発行がされた場合には,原則として,著しく不公正な方法による新株予約権発行に該当するが,株主全体の利益の保護という観点から新株予約権発行を正当化する特段の事情がある場合には,例外的に,一種の緊急避難的行為として,支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行を行うことが可能である,本件新株予約権の発行は,債務者の取締役が自己又は第三者の個人的利益を図るために行ったものではないとはいえるものの,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者に友好的な特定の株主の経営支配権を確保することを主要な目的として行われたものであるから,これを正当化する特段の事情がない限り,不公正発行に該当する,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,支配権の維持・確保を主要な目的として行われた新株予約権発行は,原則として不公正発行に該当するから,例外的にこれを正当化する特段の事情があることは,抗弁事実として債務者が主張立証責任を負うところ,本件においては,特段の事情があることについての疎明はない等との判断を付加した上,原審仮処分決定の判断部分を引用し,原審仮処分決定を認可すべきものとした。
(4) 債務者は,原審異議決定に対し,本件抗告の申立てをしたところ,債権者は,本件仮処分申立ての争点を,新株予約権発行が商法280条ノ21第1項の「特ニ有利ナル条件」による新株予約権の発行である旨の主張を撤回した。
 2 争いのない事実関係等
(1) 当事者等
ア 債務者
(ア) 債務者は,昭和29年4月に設立され,放送法に基づく一般放送事業(AMラジオ放送),BSデジタル音声放送の企画・制作・運営,その他関連物の企画・制作・運営等を主たる事業内容とする株式会社であり,AMラジオ業界における売上高1位のラジオ局である。平成17年2月現在の資本金は41億5000万円,発行済株式総数は3280万株であり,その発行する普通株式を東京証券取引所第二部に上場している。債務者においては,単元株制度が採用されており,1単元の株式数は10株である。また,平成16年3月期における総資産額は791億3100万円である。(甲1,3,乙5,審尋の全趣旨)
(イ) 債務者はいわゆるフジサンケイグループの一員であり,株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビ」という。)とは持分法適用関連会社の関係にあり,平成17年1月時点で同社の発行済株式総数のうち22.5%を保有している。(甲5,26の3,乙1,5,43,77の1,2,乙79)
 株式会社ニッポン放送プロジェクト,株式会社一口坂スタジオ,株式会社彫刻の森は,いずれも債務者の100%子会社であり,株式会社ビッグショット及び株式会社ニッポンプランニングセンターは,いずれも株式会社ポニーキャニオンと債務者の子会社であり,株式会社フジサンケイエージェンシーは,債務者とフジテレビの子会社であり,株式会社ポニーキャニオンは,債務者,フジテレビ,株式会社産業経済新聞社等の子会社である。(乙15から21までの各1,2)
(ウ) 債務者の定時株主総会は,毎年6月に招集され,定時株主総会において権利を行使することのできる株主は,債務者の定款上,毎決算期の最終(3月31日)の株主名簿に記載又は記録された株主とされている。(乙4,70)
イ 債権者等
 債権者は,平成8年4月に設立され,その資本金を240億3000万円(平成17年1月現在)とし,コンピュータネットワークに関するコンサルティング,コンピュータネットワークの管理,コンピュータプログラムの開発・販売,ネットワークコンテンツの編集・デザイン等を主たる事業内容とする株式会社である。(甲29の1)
 株式会社ライブドア・パートナーズは,平成16年10月に設立され,その資本金を1000万円とし,投資顧問,証券投資信託委託等を主たる事業内容とする株式会社であり,債権者の子会社である。(審尋の全趣旨)
ウ フジテレビについて
 フジテレビは,昭和32年11月に設立され,放送法に基づくテレビジョン放送,放送業務一般等を主たる事業内容とする株式会社である。フジテレビは,以前より債務者の発行済株式総数の12.39%(406万4660株)を保有する債務者の株主であったが,後記の本件公開買付けにより,債務者の発行済株式総数の36.47%(1196万1014株)を保有する債務者の株主となった。また,フジテレビの取締役のうち4名は,債務者の取締役を兼務している。(甲1,2,5,乙111,112)
  (2) 本件新株予約権の発行前の状況
ア フジテレビは,平成17年1月17日,債務者の経営権を獲得することを目的とし,債務者のすべての発行済株式(債務者の保有する自己株式は除く。)の取得を目指して,証券取引法に定める公開買付けを開始することを決定した(以下「本件公開買付け」という。)。本件公開買付けにおいては,買付予定株式数をフジテレビの既保有分を含めて債務者の発行済株式総数の50%となる1233万5341株(ただし,応募株券の総数が買付予定株式数を超えたときは,応募株券の全部を買い付ける。),買付価格を1株5950円,買付期間を平成17年1月18日から同年2月21日までとしていた。(甲5,7)
 債務者はこれを受けて,平成17年1月17日開催の取締役会において本件公開買付けに賛同することを決議し,同日付けの「公開買付けの賛同に関するお知らせ」と題する書面を公表した。(甲6,8,乙41)
 フジテレビ及び債務者は,本件公開買付け終了後,債務者の株式を上場廃止することを念頭においていた。(乙93)
イ 債権者は,債務者の発行済株式総数の約5.4%(175万6760株)を保有していたが,本件公開買付け期間中である平成17年2月8日に,東京証券取引所のToSTNeT−1を利用した取引によって,株式会社ライブドア・パートナーズを通じて,債務者の発行済株式総数の約29.6%に相当する株式972万0270株を買い付け(以下「本件ToSTNeT取引」という。),その結果,債権者及び株式会社ライブドア・パートナーズ(以下「債権者等」という。)は,債務者の発行済株式総数の約35.0%の割合の普通株式を保有する株主となった。(甲4)
そして,債権者は,同日付けの「意向表明書」により,債務者の何人かの株主に対し,債務者の普通株式全部の取得を希望する旨を伝えた。(乙34)
また,債権者の代表取締役堀江貴文(以下「債権者代表者」という。)は,同日,記者会見を行い,債務者株式の取得の意図について,放送局が保有するWebサイトをポータル化し,シナジー効果を得ることを目的とするものであり,また,フジサンケイグループとの業務提携をも見据えたものであることを明らかにした。(甲9,42,乙27)
ウ フジテレビは,平成17年2月9日ころ,本件公開買付けについて,取組方針を鋭意検討しているとのコメントを発表し,また,フジテレビの代表取締役会長日枝久(以下「フジテレビ代表者」という。)は,記者に対し債権者と業務提携の気持ちはない旨を述べ,債権者が求めている提携に対し否定的な考えを示した。(甲53,審尋の全趣旨)
フジテレビは,同月10日,本件公開買付けに係る買付条件を変更し,買付株式数の下限はフジテレビの既保有分を含めて債務者の発行済株式総数の25%,買付価格は1株5950円,買付期間は平成17年3月2日までとした。また,本件公開買付けの目的を訂正し,従前の目的に加え,外部企業との事業提携については,今後の放送と通信の融合の時代への転換を展望して,ブロードバンド・モバイル関連分野において積極的に推進していくこと,その際には債務者及びフジサンケイグループとしての今後のインターネット戦略を基軸にしつつ,提携候補先の有する事業ノウハウ,技術開発力,営業インフラ,人材等の諸要素,加えて当グループとの親和性とシナジー効果につき総合勘案して主体的に決定していくことを方針としているとした。この本件公開買付けに係る買付条件の変更は,同月18日に公告された(甲10,13)。
債務者は,これを受けて,同月16日開催の取締役会において前記の本件公開買付条件等の変更等を含む本件公開買付けに賛同することを決議した。(甲14,15,乙62)
   エ 債権者等は,平成17年2月21日までに債務者の株式1152万9930株を取得し,債務者の総議決権に対する割合が37.85%となった。(甲16,17)
金融庁が,債権者の株式取得に関して,「時間外だが,東証での市場内取引のため,TOBを採用する必要はなく,違法と認定できない。」とのコメントを発表したとの新聞報道が,同月16日ころになされた。(甲58)
オ フジテレビ代表者は,平成17年2月17日に債務者の代表取締役亀渕昭信(以下「債務者代表者」という。)に対し,債権者が債務者の株式の過半数を取得し,子会社化した場合には,フジテレビ及びフジサンケイグループは,債務者及びその子会社との従前の取引を中止せざるを得ないと口頭で伝えた。なお,フジテレビにおいては,取引中止は担当役員の決裁事項であり,取締役会決議事項ではない。平成17年2月28日のフジテレビの取締役会で,債務者に対して前記の取引中止の意向を記載したフジテレビ代表者作成の陳述書を本件仮処分事件の疎明資料として提出することの承認決議がされ,その後,同陳述書が本件仮処分事件の疎明資料として提出された。(乙2,63から65まで)
  (3) 本件新株予約権の発行の公表
ア 債務者は,平成17年2月23日の取締役会において,大量の新株予約権をフジテレビに発行するとする別紙3「本件新株予約権の要綱」記載の要領による本件新株予約権の発行を決議した。この取締役会決議は,債務者の19名の出席取締役のうち,特別利害関係人に当たる可能性のある4名の取締役を除いた15名の取締役の全員一致によってされたものであり,その15名の中には4名の社外取締役も含まれていた。
イ 債務者は,上記の取締役会決議後に平成17年2月23日付けで「第三者割当による新株予約権発行のお知らせ」と題する書面を公表した。この書面には,本件新株予約権の発行は,債務者の企業価値の維持と,債務者がマスコミとして担う高い公共性の確保のために行うものであり,債権者が債務者の支配株主となることは債務者がマスコミとして担う高い公共性と両立しないと判断し,債権者による大量の債務者株式取得という公開買付けの開始後に発生した事情に影響を受けることなく,債務者が賛同を表明したフジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成する手段として,フジテレビへの本件新株予約権の付与を決定した旨が記載されていた。また,本件新株予約権の発行により取得する払込金(新株予約権の発行価額の総額)は,(仮)臨海副都心スタジオプロジェクトへの整備資金に充当する予定であるとされていた。(甲18,25,26の1,2)
ウ 債務者代表者とフジテレビ代表者は,同日,共同で記者会見に出席し,フジテレビ代表者は,フジテレビの機関決定はされていないとした上で,本件新株予約権の発行に賛成を表明した。(甲37の1,2)
フジテレビは,平成17年2月24日付け書面で,債務者の行う本件新株予約権の引受け及び行使については,本件公開買付期間終了後,買付結果を踏まえた上で,フジテレビとして十分な検討を行って決定する予定であることを公表した。(甲22)
  (4) 本件新株予約権の発行公表後の状況
ア フジテレビは,平成17年2月24日に本件公開買付けの条件を更に変更し,買付期間の満了日を平成17年3月2日から同月7日に変更した。(甲23)
イ 株式会社産業経済新聞社の代表取締役社長住田良能は,平成17年2月25日付け書面で,債務者代表者に対し,債務者が債権者の子会社となる事態になった場合には,債務者との従前からのすべての事業上の関係を清算する意向であることを示した。住田良能の前記意向は,平成17年3月1日に開催された株式会社産業経済新聞社の取締役会において事後承認された。(乙3,66)
ウ 本件については,平成17年2月24日,衆議院予算委員会において質疑がされ,七条明金融担当副大臣は,債権者が行った本件ToSTNeT取引は,現行法上,基本的には違法と評価されないと答弁した。(甲38の1,2)
(5) 本件新株予約権の内容と株価の状況
ア 発行価額の算出方法
本件新株予約権の発行価額(1株当たり336.2731円。1個当たり336万2731円)は,新株予約権の目的となる株式の数を4720万株(希薄化率143.9%),株式の基準時価を6750円(平成17年2月22日の終値),ボラティリティ(株価変動率)を26.1%(平成17年2月7日における65日間ヒストリカルボラティリティ),無リスク金利を0.099%(TIBOR3か月),配当利回りを0.089%,借株レートを5.0%(市場実勢を踏まえた推測)との前提条件を置いて,大和証券エスエムビーシー株式会社が,同社で開発した三項ツリーモデルと呼ばれるオプション価格算定モデルを用いて算出したものである。(甲18,25,26の1,2,乙42,45,93)
イ 本件新株予約権の行使の影響
 本件新株予約権の発行総額は,158億7209万0320円であり,これがすべて行使された場合に発行される株式数4720万株は,従来の発行済株式総数の約1.44倍に当たる。また,新株予約権がすべて行使されて普通株式に転換された場合の株式の発行総額は,2808億4000万円(新株予約権の行使により発行される株式1株当たりの払込金額が5950円の場合)となり,これは債務者の現在の資本金額の約68倍,債務者の平成16年3月期の総資産額の約3.5倍となる。さらに,本件新株予約権がすべて行使されて普通株式に転換された場合,債権者による債務者株式の保有割合は,約42%から約17%へと減少し,一方で,フジテレビの保有割合は,新株予約権を行使した場合に取得する株式数だけでも約59%になる。
ウ 債務者の株価の推移
 平成17年1月27日から同年3月3日までの債務者の株価の推移は,別紙4「債務者の株価推移表」のとおりである。(甲51)
 また,債務者の過去の市場価格の平均は,次のとおりである。(乙72の1)
                 過去1か月平均 過去3か月平均 過去6か月平均
平成17年1月16日まで 5133円   4938円   5122円
平成17年2月7日まで   5849円   5240円   5184円
平成17年2月22日まで 6450円   5591円   5327円
エ 日本証券業協会の自主ルール
 日本証券業協会の平成15年3月11日付け一部改正に係る「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(以下「自主ルール」という。)は,株主総会特別決議を経て発行される場合以外の第三者割当増資の発行価額について,「発行価額は,当該増資に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は,当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9を乗じた額以上の価額であること。ただし,直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し,当該決議の日から発行価額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる。」と規定している。(乙71) 
  (6) 現在の株式保有状況
 債権者は,本件ToSTNeT取引以降も債務者株式を買い付け,平成17年3月7日現在で,子会社である株式会社ライブドア・パートナーズを通じて保有するものも含めて,発行済株式総数の42.23%(1385万2590株。債権者保有分322万5180株,株式会社ライブドア・パートナーズ保有分1062万7410株)を保有している。(甲96)
 フジテレビは,平成17年3月7日に終了した本件公開買付けにより,新たに789万6354株の債務者株式を取得し,発行済株式総数の36.74%(1196万1014株)を保有する株主となった。(乙111,112)
3 債権者及び債務者の当審における主張
  債権者の主張は,別紙1記載のとおりである。
  債務者の主張は,別紙2記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件における新株予約権が商法280条ノ39第4項,280条ノ10に規定する「著シク不公正ナル方法」によるものであり,これを事前に差し止める必要があると認めるべきであるから,本件仮処分命令申立てには被保全権利及び保全の必要性が存するとして,これを認容した原審仮処分決定は正当であり,したがってこれに対する異議申立事件において原審仮処分決定を認可した原審異議決定も正当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
 2 本件新株予約権の発行の適否について
  (1) 商法は授権資本制度を採用し(166条1項3号),授権資本枠内の新株等の発行を,原則として取締役会の決議事項としている(280条ノ2第1項,280条ノ20第2項)。そして,公開会社においては,株主に新株等の引受権は保障されていないから(280条ノ5ノ2,280条ノ27参照),取締役会決議により第三者に対する新株等の発行が行われ,既存株主の持株比率が低下する場合があること自体は,商法も許容しているということができる。
 しかしながら,一方で,商法280条ノ39第4項,280条ノ10が株主に新株等の発行を差し止める権能を付与しているのは,取締役会が上記権限を濫用するおそれがあることを認め,新株等の発行を株主総会の決議事項としない代わりに,会社の取締役会が株主の利益を毀損しないよう牽制する権能を株主に直接的に与えたものである。
 取締役会の上記権限は,具体化している事業計画の実施のための資金調達,他企業との業務提携に伴う対価の提供あるいは業務上の信頼関係を維持するための株式の持ち合い,従業員等に対する勤務貢献等に対する報賞の付与(いわゆる職務貢献のインセンティブとしてのストック・オプションの付与)や従業員の職務発明に係る特許権の譲受けの対価を支払う方法としての付与などというような事柄は,本来取締役会の一般的な経営権限にゆだねている。これらの事項について,実際にこれらの事業経営上の必要性と合理性があると判断され,そのような経営判断に基づいて第三者に対する新株等の発行が行われた場合には,結果として既存株主の持株比率が低下することがあっても許容されるが,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,取締役会が,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれを支持して事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株等を発行することまで,これを取締役会の一般的権限である経営判断事項として無制限に認めているものではないと解すべきである。
 商法上,取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であり(254条1項,257条1項),取締役は株主の資本多数決によって選任される執行機関といわざるを得ないから,被選任者たる取締役に,選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株等の発行をすることを一般的に許容することは,商法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反するものである。この理は,現経営者が,自己あるいはこれを支持して事実上の影響力を及ぼしている特定の第三者の経営方針が敵対的買収者の経営方針より合理的であると信じた場合であっても同様に妥当するものであり,誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは,株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題というべきである。したがって,現経営者が自己の信じる事業構成の方針を維持するために,株主構成を変更すること自体を主要な目的として新株等を発行することは原則として許されないというべきである。
 一般論としても,取締役自身の地位の変動がかかわる支配権争奪の局面において,果たして取締役がどこまで公平な判断をすることができるのか疑問であるし,会社の利益に沿うか否かの判断自体は,短期的判断のみならず,経済,社会,文化,技術の変化や発展を踏まえた中長期的展望の下に判断しなければならない場合も多く,結局,株主や株式市場の事業経営上の判断や評価にゆだねるべき筋合いのものである。
 そして,仮に好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるというのであれば,定款に株式譲渡制限を設けることによってこれを達成することができるのであり,このような制限を設けずに公開会社として株式市場から資本を調達しておきながら,多額の資本を投下して大量の株式を取得した株主が現れるやいなや,取締役会が事後的に,支配権の維持・確保は会社の利益のためであって正当な目的があるなどとして新株予約権を発行し,当該買収者の持株比率を一方的に低下させることは,投資家の予測可能性といった観点からも許されないというべきである。
    これに対して,債務者は,会社の機関等の権限分配を根拠とするのであれば事前の対抗策も全部否定されることになって明らかに不当であるし,原審異議決定が機関の権限分配を根拠としながら事前の対抗策の余地を残したのは矛盾していると主張する。しかし,上記の機関権限の分配を前提としても,今後の立法によって,事前の対抗策を可能とする規定を設けることまで否定されるわけではない。また,後記のとおり,機関権限の分配も,株主全体の利益保護の観点からの対抗策をすべて否定するものではないから,新たな立法がない場合であっても,事前の対抗策としての新株予約権発行が決定されたときの具体的状況・新株予約権の内容(株主割当か否か,消却条項が付いているか否か)・発行手続(株主総会による承認決議があるか否か)等といった個別事情によって,適法性が肯定される余地もある。このように,機関権限の分配を根拠としたからといって,事前の対抗策が論理必然的に否定されることになるわけではないから,債務者の上記主張は失当である。
  (2) 以上のとおり,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行がされた場合には,原則として,商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10にいう「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行に該当するものと解するのが相当である。
    もっとも,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が許されないのは,取締役は会社の所有者たる株主の信認に基礎を置くものであるから,株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には,例外的に,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しないと解すべきである。
    例えば,株式の敵対的買収者が,�@真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合),�A会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権,ノウハウ,企業秘密情報,主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど,いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合,�B会社経営を支配した後に,当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合,�C会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産,有価証券など高額資産等を売却等処分させ,その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など,当該会社を食い物にしようとしている場合には,濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし,当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから,取締役会は,対抗手段として必要性や相当性が認められる限り,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。そして,株式の買収者が敵対的存在であるという一事のみをもって,これに対抗する手段として新株予約権を発行することは,上記の必要性や相当性を充足するものと認められない。
    したがって,現に経営支配権争いが生じている場面において,経営支配権の維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には,原則として,不公正な発行として差止請求が認められるべきであるが,株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること,具体的には,敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく,敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情があることを会社が疎明,立証した場合には,会社の経営支配権の帰属に影響を及ぼすような新株予約権の発行を差し止めることはできない。
 3 本件新株発行予約権の発行の目的について
(1) 債務者は,本件新株予約権の発行の目的は,フジテレビの子会社となり債務者の企業価値を維持・向上させる点にあり,現経営陣の経営支配権の維持が主な目的であるとはいえないと主張する。
  そこで検討すると,甲14,15,37の1及び2,乙62,93,121,122によれば,債務者取締役会は,債権者等が債務者の株式を大量に取得する以前から,債務者をフジテレビの完全子会社化して株式の上場廃止も意図し,フジテレビによる公開買付けに賛同することを決議していたものであり,社外取締役4名が本件新株予約権の発行に賛成していることが認められ,これらの事実からみて,本件新株予約権の発行が債務者の現取締役個人の保身を目的として決定されたとは認められない。また,フジサンケイグループに属する経営陣の個人的利益を図る目的で本件新株予約権の発行が決定されたことをうかがわせる資料もない。
  しかしながら,甲4,23及び審尋の全趣旨によれば,本件新株予約権の発行は,債権者等が債務者の発行済株式総数の約29.6%に相当する株式を買い付けた後にこれに対する対抗措置として決定されたものであり,かつ,その予約権すべてが行使された場合には,現在の発行済株式総数の約1.44倍にも当たる膨大な株式が発行され,債権者等による持株比率は約42%から約17%となり,フジテレビの持株比率は新株予約権を行使した場合に取得する株式数だけで約59%になることが認められる。
  そうすると,債務者は企業価値の維持・向上が目的であると主張しているものの,その実体をみる限り,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,株式の敵対的買収を行って経営支配権を争う債権者等の持株比率を低下させ,現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるフジテレビによる債務者の経営支配権確保を主要な目的とするものであることは明白である。
(2) また,債務者は,本件新株予約権の発行の目的は,フジテレビと共同で計画している臨海副都心スタジオプロジェクトへの整備資金を調達することにあるとも主張する。
  甲18,25,26の1及び2,乙42,43,61によれば,上記プロジェクトの整備資金のうち債務者が負担する分は,当初債務者の保有しているフジテレビ株をフジテレビに売却することで調達されることが予定されていたのであり,その後それでは資金不足のおそれがあることが判明したとの理由で本件新株予約権の発行による手取金約158億円でもって調達することに計画を一部変更したことが認められる。しかしながら,本件新株予約権の発行及びその行使に基づく新株発行によって債務者が調達する資金は上記金額をはるかに上回るものであり,その後にもフジテレビは本件新株予約権の全部を取得しても債務者の株式の過半数を取得する限りでしか権利行使しないことを表明しているから(乙168),本件新株予約権の発行の主要な目的が上記プロジェクトへの整備資金にあるというのは,本件紛争になって言い出した口実である疑いが強く,にわかに信用し難い。かえって,債権者等による株式の敵対的買収対抗策としてフジテレビによる債務者の経営支配権の確保を主要な目的としていることが認められる。
(3) 以上によれば,本件新株予約権の発行は,債務者の取締役が自己又は第三者の個人的利益を図るために行ったものでないとはいえるものの,会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,株式の敵対的買収を行って経営支配権を争う債権者等の持株比率を低下させ,現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるフジテレビによる債務者の経営支配権を確保することを主要な目的として行われたものであるから,上記2のとおりのこれを正当化する特段の事情がない限り,原則として著しく不公正な方法によるもので,株主一般の利益を害するものというべきである。
 4 本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情について
   債務者は,債権者がマネーゲーム本位で債務者のラジオ放送事業を解体し,資産を切り売りしようとしていると主張する。 
   しかしながら,債権者が上記のような債務者の事業や資産を食い物にするような目的で株式の敵対的買収を行っていることを認めるに足りる確たる資料はない。
 5 債権者による債務者の経営支配による企業価値の毀損のおそれとフジサンケイグループに属して債務者を経営支配することの企業価値との対比について
(1) 債務者は,債権者が債務者の親会社となり経営支配権を取得した場合,債務者及びその子会社に回復し難い損害が生ずるのは極めて明らかであり,債務者がフジサンケイグループにとどまり,フジテレビの子会社となって経営されることがより企業価値を高めることから,そのための企業防衛目的の新株予約権の発行であると主張する。
  しかしながら,債務者が債権者の経営支配下あるいはその企業グループとして経営された場合の企業価値とフジテレビの子会社としてフジサンケイグループの企業として経営された場合の企業価値との比較検討は,事業経営の当否の問題であり,経営支配の変化した直後の短期的事情による判断評価のみでこと足りず,経済事情,社会的・文化的な国民意識の変化,事業内容にかかわる技術革新の状況の発展などを見据えた中長期的展望の下に判断しなければならない場合が多く,結局,株主や株式取引市場の事業経営上の判断や評価にゆだねざるを得ない事柄である。そうすると,それらの判断要素は,事業経営の判断に関するものであるから,経営判断の法理にかんがみ司法手続の中で裁判所が判断するのに適しないものであり,上記のような事業経営判断にかかわる要素を,本件新株予約権の発行の適否の判断において取り込むことは相当でない。
  したがって,債務者の上記主張は主張自体失当といわざるを得ない。
(2) なお,上記(1)の点は原審以来事実上争点とされ,原審仮処分決定も原審異議決定もこれに言及しているので,当裁判所も念のため,以下のとおり判断を付加しておく。
   ア 債務者の企業価値毀損の防止策について
    (ア) 債務者は,本件新株予約権の発行は,債務者の当初からの事業戦略(フジサンケイグループとの連携強化)を妨害している債権者を排除することにより,債務者の企業価値の毀損を防ぎ,企業価値を維持・向上させるために行ったものであり,本件新株予約権の発行は正当なものであると主張する。
      そして,債務者は,債権者の子会社になりフジサンケイグループから離脱すると企業価値が毀損するおそれがあることの根拠として,�@放送事業のうち看板放送である野球放送について契約を打ち切られ,番組作成についてグループからの協力が得られず聴取率が低下してスポンサーを失い,グループ各社との共催によって実施していたイベントができなくなって収入が激減する,�A債務者の子会社らもフジサンケイグループ各社との取引を中止されることにより収入が激減する,�B債務者の従業員は債権者の経営参画に反対する旨の声明を出しており,債務者が債権者の子会社となると,債務者の人的資産が流出する,�Cフジサンケイグループとしての債務者のブランド価値も失われる,�D既に債権者が債務者の経営支配をするなら債務者との出演契約を見合わせることなども表明する芸能人,タレント,パーソナリティなどがいることなどを挙げる。
    (イ) しかしながら,新株予約権の発行差止めは,新株予約権の違法又は不公正な発行によって株主が不利益を被ることを防ぐために株主に認められた権利であり,その抗弁事由として位置づけられる特段の事情が株主全体の利益保護の観点から認められるものであることに照らすと,特段の事情の有無は,基本的には買収者による支配権の獲得が株主全体の利益を回復し難いほどに害するものであるか否かによって判断すべきである。
      そうすると,債務者の主張する企業価値毀損の防止策のうち,債務者が債権者の子会社となった場合に,債務者がフジサンケイグループから離脱することにより債務者やその子会社の売上げ及び粗利益が債務者が主張するとおり減少し,債権者による支配権取得が債務者に回復し難い損害をもたらすかどうかは,一応特段の事情として引き直す余地もある。これに対し,買収者による支配権の獲得についての従業員の意向等の事情は,経営者が代わった段階での労使間の処理問題であり,株式の取引等の次元で制約要因として法的に論ずるのが相当な事柄にならないというべきである。
      以下,個別の論点ごとに順に検討する。
    (ウ) 債務者は,債権者がインターネットにおいてアダルトサイトを運営したり,メディアリンクスの粉飾決算にかかわったり,架空取引を行うなど問題のある会社であることや,債権者代表者の言動等からすると,債務者が債権者の子会社となり,フジサンケイグループから離脱した場合に,債務者の取引先やフジサンケイグループ各社から取引を打ち切られるのは当然であり,そのような取引の打切りは独占禁止法違反に当たらないと主張する。
      しかしながら,債務者は,債権者が債務者の経営支配権を手中にした場合には,フジテレビ等から債務者やその子会社が取引を打ち切られ多大な損失を被ることを主張しており,このことは有力な取引先であるフジテレビ等は取引の相手方である債務者及びその子会社が自己以外に容易に新たな取引先を見い出せないような事情にあることを認識しつつ,取引の相手方の事業活動を困難に陥らせること以外の格別の理由もないのに,あえて取引を拒絶するような場合に該当することを自認していると同じようなものである。そうであれば,これらの行為は,独占禁止法及び不公正な取引方法の一般指定第2項に違反する不公正な取引行為に該当するおそれもある。
      そして,債務者が債権者の子会社となった場合に,フジテレビやフジサンケイグループ各社が取引停止を示唆したことが独占禁止法違反に該当するか否かについては,個々の取引関係を詳細に検討して判断すべきであり,フジサンケイグループ各社の取引打切りの当否について,現段階で断定的に論ずることはできず,独占禁止法違反に当たらず当然に適法に行うことができるものともいい難い。
      そもそも,フジテレビが株式の公開買付けの期間中に,公開買付けがその所期の目的を達することができず,敵対的買収者に株式買収競争において敗れそうな状況にあるとき,公開買付価格を上回っている株式時価を引き下げるような債務者の企業価値についてのマイナス情報を流して,公開買付けに有利な株式市場の価格状況を作り出すことは,証券取引法159条に違反するとまでいわないとしても,公開買付けを実行する者として公正を疑われるような行動といわなければならない。
      また,フジサンケイグループ各社以外の取引先との取引についても,それらの取引先の取引打切りが許されるかどうかは,個々の取引関係を詳細に検討して判断すべきものである。
      そうすると,債務者の上記主張は,その前提とする事実がいまだ不確実であるから,このような不確実な前提事実を基に算出した企業価値毀損の数値の信用性も疑義があるといわざるを得ない。
      この点をおき,債務者の主張する企業価値毀損に関する資料についても念のため検討しておく。
      株式会社ポニーキャニオンなどの債務者の子会社には,その事業につきフジサンケイグループとの取引に大きく依存しているものが少なくなく,債務者が債権者の子会社になったことにより同グループから取引を打ち切られた場合には,少なからぬ影響を受けることは否定できない(乙15の1から4まで,乙48,68)。また,フジサンケイグループ各社以外の取引先も,債務者がフジサンケイグループの一員であるために取引を継続しており,債務者が同グループを離脱した場合には取引継続を再考する場合もあることも否定できない(乙67,124から130まで,184,185)。
      しかし,債務者の放送事業のうち野球放送の契約が打ち切られる点については,球団との契約の中に債務者の主張する解除条項が従前の契約にはなかった平成17年2月22日になって加えられていることは認められるが(乙12の1及び2,乙13),本件係争を債務者が有利に展開することを狙って意図的に合意した疑いが強く,債務者が債権者の子会社になった場合に球団側が放送権料の収入を放棄してまで解除権を行使するのか否かは,現段階では明確ではないといわざるを得ない。
      さらに,番組に出演する芸能人,タレント,パーソナリティの人材の確保ができなくなるとの点についても,それらの人材には代替性がないわけでもないことなどをも考慮すると,将来継続するか,代替の人員で行うのか,多様な展開が予想されるのであって,現段階でそれらの人材の確保ができなくなることまでを認めるに足りる的確な資料があるとはいえない。また,番組コンテンツの提供を受けることができなくなるとの点についても,上記人材の確保の点と同様である。
      これに加え,債務者とフジサンケイグループ各社との取引は,平成16年3月期の売上高の実績で13億4000万円,同期の債務者の単体の売上高が308億円以上であることを考慮すると,フジサンケイグループ各社との取引中止が債務者の単体の業績に及ぼす影響は必ずしも甚大ということはできない。
      以上によると,債務者の単体に対する売上等の低下が債務者の試算するほどの金額に上ることの確たる資料はない。
    (エ) 債務者は,フジサンケイグループの一員として大きなブランド力を有しており,それによって強い営業力を維持しているとし,債権者の子会社となってフジサンケイグループを離れれば,ブランド力は大きく毀損されると主張する。
      しかしながら,債務者はもともとAMラジオ業界における売上高1位のラジオ局であり,高い知名度を有すること等からみて,債務者の事業がフジサンケイグループのブランド力にどれほど依存しているかは必ずしも明らかとはいえず,債務者がフジサンケイグループから離脱することによってブランドイメージが毀損され,中長期的にも回復し難いほどに著しく営業力が損なわれるとまで認めるに足りる確たる資料はない。
      逆に,債務者がフジサンケイグループのグループ内取引に拘束されないという営業上の利点が生ずる可能性もある。
    (オ) 放送事業者において,人的ネットワークや各種特殊技能を用いて番組の企画制作や営業に当たる従業員は,極めて重要な役割を担う利害関係者であるところ,債務者の従業員らは,債権者が支配株主となることに反対を表明している(乙56から58まで)。
      しかし,債権者が債務者の従業員らに対し,これまで自らの事業計画を説明したことはなく,債務者の従業員らが反対しているのは債権者代表者の発言をとらえてのことであることなどを考慮すると,債務者が債権者の子会社になった場合に,債権者が信認した新しい経営者が従業員らと十分な協議を行うとともに,真摯な経営努力を続ける可能性がないわけでなく,債務者の従業員らの大量流出が生ずるとまでは認めるに足りない。
  イ 債権者の真摯な合理的経営意思の有無について
   (ア) 債務者は,債権者は真摯に債務者との事業提携,債務者の合理的経営を目指すものでないと主張し,その根拠として,�@債権者は,債務者の株式の大量取得に先立ち,債務者と業務提携を行うことを前提とした詳細な事業計画を一切検討していない,�A債権者作成の事業計画書の試算は極めていいかげんであり,提案内容は実現困難なものである,�B債権者の事業は主に金融子会社の収益によって成り立っており,ポータルサイト運営事業の基盤は極めて脆弱である,�C債権者の真の意図は,債務者との事業提携でなく,フジテレビを支配することであることを挙げる。
   (イ) しかしながら,債権者が債務者の経営支配権を確立していない段階で債務者の上記主張のような事柄を明らかにすることは無理であり,企業秘密上得策でないこともあるから,その一事をもって債権者に債務者を合理的に経営する意思も能力もないと断定するわけにはいかない。
  ウ まとめ
以上のとおりであるから,債権者が債務者の支配株主となった場合に,債務者に回復し難い損害が生ずることを認めるに足りる資料はなく,また,債権者が真摯に合理的経営を目指すものでないとまでいうことはできない。
 6 株式買収者の株式買収手段の証券取引法上の適否と現経営者による対抗手段としての新株予約権発行との関係について
  (1) 債務者は,債権者等が本件ToSTNeT取引により平成17年2月8日に発行済株式総数の約30%に当たる債務者株式を買い付け,その結果,発行済株式総数の約35%の債務者株式を保有することとなったのは,証券取引法27条の2に違反するものであり,仮にこれが証券取引法違反ではないとしても,公開買付規制の趣旨に反した不当な株式買占行為であるとし,このような買収者の違法性は「著シク不公正ナル方法」に該当するかどうかの判断において当然に勘案すべきであり,これに対する対抗措置として本件新株予約権の発行を行うことは不公正発行に該当しないと主張する。
  (2) 債務者の上記主張は,まず,本件ToSTNeT取引につき,�@ToSTNeT取引によって抗告人の発行済株式総数の3分の1超を取得した点,�A売主との事前合意に基づくものである点において,証券取引法27条の2に違反するというものである。
    しかしながら,上記�@の点につき,証券取引法は,その規制対象の明確化を図るため,その2条において定義規定を置き,「取引所有価証券市場」は「証券取引所の開設する有価証券市場」と定義しているところ(2条17項),ToSTNeT−1は,東京証券取引所が立会外取引を執行するためのシステムとして多数の投資家に対し有価証券の売買等をするための場として設けているものであるから,取引所有価証券市場に当たる。そうすると,本件ToSTNeT取引は,東京証券取引所が開設する,証券取引法上の取引所有価証券市場における取引であるから,取引所有価証券市場外における買付け等には該当せず,取引所有価証券市場外における買付け等の規制である証券取引法27条の2に違反するとはいえない。
    また,上記�Aの点につき,乙101,103,193によれば,売主に対する事前の勧誘や事前の交渉があったことが推認されるものの,それ自体は証券取引法上違法視できるものでなく,売主との事前売買合意に基づくものであることを認めるに足りる資料はないから,この点の証券取引法違反をいう主張は,その前提において失当である。
  (3) ところで,ToSTNeT−1は競争売買の市場ではないから,そこにおいて投資者に対して十分な情報開示がされないまま,会社の経営支配権の変動を伴うような大量の株式取得がされるおそれがあることは否定できない。これに対し,公開買付制度は,支配権の変動を伴うような株式の大量取得について,株主が十分に投資判断をなし得る情報開示を担保し,会社の支配価値の平等分配に与る機会を与えることを制度的に保障するものである。公開買付制度の上記趣旨に照らすと,債権者等が,フジテレビによる債務者の株式の公開買付期間中に,本件ToSTNeT取引によって発行済株式総数の約30%にも上る債務者の株式の買付けを行ったことは,それによって市場の一般投資家が会社の支配価値の平等分配に与る機会を失う結果となって相当でなく,その程度の大規模の株式を買い付けるのであれば,公開買付制度を利用すべきであったとの批判もあり得るところである。
    しかしながら,本件ToSTNeT取引が取引所有価証券市場外における買付け等の規制である証券取引法27条の2に違反するものでないことは前示のとおりであるから,上記問題があるとしても,それは証券取引運営上の当不当の問題にとどまり,証券取引法上の処分や措置をもって対処すべき事柄であって,それ故に債権者の本件株式の取得を無効視したり,債務者に対抗的な新株予約権の発行を許容して証券取引法の不当を是正すべく制裁的処置をさせる権能を付与する根拠にはならない。
    そうすると,債権者等が本件ToSTNeT取引によって債務者の株式を大量に買い付けたことが,証券取引法27条の2以下の公開買付制度の趣旨・目的に照らし相当性を欠くとみる余地があるとの一事をもって,主要な目的が経営支配権確保にある本件新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるということはできない。
  (4) したがって,債務者の上記主張は採用することができない。
 7 株主としての不利益が存在しないとの主張について
(1) 債務者は,商法280条ノ39第4項,280条ノ10にいう不利益を受けるおそれがある株主とは,当然株主であることを会社に対抗できる株主のことをいうから,名義書換を完了していない分も含めて債権者の不利益性を判断するのは同法206条に違反すると主張する。
  (2) 債権者等への実質株主名簿の書換えがされていない現時点では,債権者は3万1420株を超える株主であることを,株式会社ライブドア・パートナーズは1062万7410株(平成17年3月7日現在)の株主であることを,債務者に対抗することができない。
    しかしながら,本件のように,債務者も債権者等が大量の株式を有することを自認しており(甲11,16),名義書換請求を拒絶し得る正当な理由も特になく,間もなく実質株主名簿が書き換えられることが確実であるにもかかわらず,保管振替機関からの実質株主名簿書換えのための通知が9月末日と3月末日に限られている制度上の制約ゆえに,名義書換未了の株式数を不利益性判断の基礎から除外するのは明らかに不合理というべきである。上記のような事実関係の下においては,平成17年3月31日以降に債務者に対抗できることになる株式数も含めて不利益性を判断すべきである。
    したがって,債務者の上記主張は採用することができない。
  (3) 平成17年3月24日に発行され,翌25日から行使請求期間となる本件新株予約権がすべて行使された場合,債権者等による債権者株式の保有割合は約42%から約17%に減少することからすると,債権者が本件新株予約権の発行によって著しい不利益ないし損害を被るおそれがあることが明らかである。
 8 保全の必要性について
   債務者の本件新株予約権の発行によって債権者が著しい損害を被るおそれがあることは,前記7に判示したとおりであるから,保全の必要性も認めることができる。
 9 結論
   以上述べたとおりであって,債務者による本件新株予約権の発行は,その内容及び発行の経緯に照らしても,債権者等による債務者の経営支配を排除し,現在債務者の経営に事実上の影響力を及ぼす関係にある特定の株主であるフジテレビによる債務者に対する経営支配権を確保するために行われたことが明らかである。そして,本件に現れた事実関係の下では,債権者による株式の敵対的買収に対抗する手段として採用した本件新株予約権の大量発行の措置は,既に論じたとおり,債務者の取締役会に与えられている権限を濫用したもので,著しく不公正な新株予約権の発行と認めざるを得ない。
   したがって,債権者の本件仮処分命令申立ては理由があるから,これを認容した原審仮処分決定及びこれを認可した原審異議決定は正当である。
   よって,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。
    平成17年3月23日
     東京高等裁判所第16民事部
           裁判長裁判官   鬼  頭  季  郎

              裁判官   福  岡  右  武

              裁判官   畠  山     稔

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