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2005.03.25

ライブドアvsニッポン放送:保全異議決定

H17. 3.16 東京地方裁判所 平成17年(モ)第3074号 保全異議申立事件

◆H17. 3.16 東京地方裁判所 平成17年(モ)第3074号 保全異議申立事件

事件番号  :平成17年(モ)第3074号
事件名   :保全異議申立事件
裁判年月日 :H17. 3.16
裁判所名  :東京地方裁判所
部     :民事第8部


平成17年(モ)第3074号 保全異議申立事件
(基本事件 平成17年(ヨ)第20021号 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件)

決        定
   債権者     株式会社ライブドア
   債務者     株式会社ニッポン放送
主文
1 債権者と債務者間の東京地方裁判所平成17年(ヨ)第20021号新株予約権発行差止仮処分命令申立事件について,当裁判所が平成17年3月11日にした仮処分決定を認可する。
2 異議申立費用は債務者の負担とする。

理        由
第1 異議申立ての趣旨
1 主文1項記載の仮処分決定を取り消す。
2 債権者の上記仮処分命令申立てを却下する。
3 申立費用は債権者の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,債務者の株主である債権者が,平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて債務者が現に手続中の新株予約権4720個の発行について,�@特に有利な条件による発行であるにもかかわらず株主総会の特別決議がないため法令に違反すること,�A著しく不公正な方法による発行であることを理由として,これを仮に差し止めることを求めたものである。当裁判所は,平成17年3月11日,債権者の仮処分命令申立てを認容する決定(以下「原決定」という。)をしたが,債務者はこれに対して保全異議を申し立て,原決定の取消しを求めた。
 債務者の異議申立て理由の主な骨子は,別紙1記載のとおりであり,これに対する債権者の反論の主な骨子は,別紙2記載のとおりである。
 (なお,以下,略称等については,原決定において用いられているものを本決定においてもそのまま用いることとする。)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件仮処分命令申立てには,被保全権利及び保全の必要性が存するから,これを認容した原決定は正当であると判断する。その理由は,後記2ないし7において,異議申立て理由に対する判断を付加するほかは,原決定の「理由」中の「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 権限分配論は商法の解釈として採り得ないとの主張について
(1) 債務者は,我が国では新株発行は取締役会の決議事項であり,取締役の行為によって株主構成が変更されることを商法は当然に予定しているのであるから,原決定が,権限分配論に基づき,取締役が株主構成に影響を与えることを原則違法としたのは誤りであると主張する。
  (2) そこで検討すると,確かに,商法は授権資本制度を採用し(商法166条1項3号),授権資本枠内の新株等の発行を,原則として取締役会の決議事項としている(商法280条ノ2第1項,280条ノ20第2項)。そして,公開会社においては,株主に新株等の引受権は保障されていないから(商法280条ノ5ノ2,280条ノ27参照),取締役会決議により第三者に対する新株等の発行が行われ,既存株主の持株比率が低下する場合があること自体は,商法も許容しているということができる。
 しかしながら,これは,資金調達や従業員に対するストック・オプションの付与のためといった本来取締役会の一般的な権限に委ねられた事項について,実際にこれらの必要性があると判断され,そのような経営判断に基づいて第三者に対する新株等の発行が行われた場合に,結果として,既存株主の持株比率が低下することがあることを許容しているにとどまるものであって,会社の支配権に現に争いが生じている場面において,取締役会が,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれに友好的な特定の株主の支配権を維持・確保することを主要な目的として新株等を発行することまで,これを取締役会の一般的権限である経営判断事項として認めているとはいえないというべきである。商法上,取締役の選任・解任は株主総会の専決事項であり(商法254条1項,257条1項),取締役は株主の資本多数決によって選任される執行機関といわざるをえないから,被選任者たる取締役に,選任者たる株主構成を変更することを主要な目的とする新株等の発行権限を一般的に認めることは,商法が定める機関権限の分配秩序に明らかに反するものである。この理は,現経営者が,自己あるいは現経営者と友好的な特定の第三者の経営方針が買収者の経営方針より合理的であると信じた場合であっても同様に妥当するものであり,誰を経営者としてどのような方針で会社を経営させるかは,株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべき問題というべきであるから,現経営者が自己の信じる経営方針を維持するために,株主構成を変更すること自体を主要な目的として新株等を発行することは原則として許されないというべきである。一般論としても,取締役自身の地位の変動がかかわる支配権争奪の局面において,果たして取締役がどこまで公平な判断をすることができるのか疑問であるし,会社の利益に沿うか否かの判断自体は一義的に明確とはいえない上,同じく会社の支配関係に質的な変更をもたらす合併や株式移転が株主総会の決議事項となっていることとの均衡を考えても,誰を経営者としてどのような方針で会社を経営させるかを取締役会の判断に委ねることは許されないと解すべきである。そして,仮に好ましくない者が株主となることを阻止する必要があるというのであれば,定款に株式譲渡制限を設けることによってこれを達成することができるのであり,このような制限を設けずに市場から資本を調達しておきながら,多額の資本を投下して大量の株式を取得した株主が現れるやいなや,取締役会が事後的に,支配権の維持・確保は会社の利益のためであって正当な目的があるなどとして新株予約権を発行し,当該買収者の持株比率を一方的に低下させることは,投資家の予測可能性といった観点からも許されないというべきである。
    これに対して,債務者は,権限分配を根拠とするのであれば事前の対抗策も全部否定されることになって明らかに不当であるし,原決定が権限分配を根拠としながら事前の対抗策の余地を残したのは矛盾していると主張する。しかしながら,上記の機関権限の分配秩序を前提としても,今後の立法によって,事前の対抗策を可能とする規定を設けることまで否定されるわけではない。また,後記(3)のとおり,機関権限の分配秩序も,株主全体の利益保護の観点からの対抗策をすべて否定するものではないから,新たな立法がない場合であっても,事前の対抗策としての新株予約権発行が決定されたときの具体的状況・新株予約権の内容(株主割当か否か,消却条項が付いているか否か)・発行手続(株主総会による承認決議があるか否か)等といった個別事情によって,適法性が肯定される余地もある。このように,権限分配を根拠としたからといって,事前の対抗策が論理必然的に否定されることになるわけではなく,原決定及び本決定の射程は,事前の対抗策の適否にまで及ぶものではない。債務者の上記批判は当たらない。
  (3) 以上述べたとおりであって,会社の支配権に現に争いが生じている場面において,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれに友好的な特定の株主の支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権発行がされた場合には,原則として,商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10にいう「著シク不公正ナル方法」による新株予約権発行に該当すると解するのが相当である。
    もっとも,支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が許されないのは,取締役の権限の正統性は会社所有者たる株主の意思に基づくという機関権限の分配秩序によるものであるから,株主全体の利益の保護という観点から新株予約権発行を正当化する特段の事情がある場合には,例外的に,支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しないと解する余地がある。例えば,当該買収者たる株主が,真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式買取を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)には,濫用目的をもって株式を取得した当該買収者は株主として保護するに値しない一方,当該買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから,取締役会は手段の相当性が認められる限り,一種の緊急避難的行為として,支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行を行うことが可能である。また,当該買収者がいわゆるグリーンメイラーと認められなくとも,当該買収者が支配権を取得すると会社に回復しがたい損害をもたらすことが明らかであって,他の株主はもちろん,買収者たる株主の利益を含めて考慮しても,これを阻止することが株主全体の利益に資すると認められる場合には,取締役会は手段の相当性が認められる限り,一種の緊急避難的行為として,支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行ができると考えられる。
    したがって,現に支配権争いが生じている場面において,支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が行われた場合には,原則として,不公正発行として差止請求の対象となるが,例外的に,株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること,具体的には,買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではないこと,あるいは,買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらすことが明らかであることを会社が立証した場合には,会社の支配権の帰属に影響を及ぼすような新株予約権の発行も例外的な措置として許容されるというべきである。
 3 支配権維持目的の認定は誤りであるとの主張について
(1) 次に,債務者は,本件新株予約権の発行目的は,フジテレビの子会社となり,債務者の企業価値を維持・向上させる点にあるところ,原決定は,現経営陣の支配権の維持が主たる目的であると認定しており,明らかな事実誤認であると主張する。
(2) そこで検討すると,債務者取締役会は,債権者及び株式会社ライブドア・パートナーズ(以下「債権者等」という。)が債務者株式を大量に取得する以前から,フジテレビによる公開買付けに賛同することを決議していたものであり,社外取締役4名が本件新株予約権発行に賛成していることからしても,本件新株予約権発行が,債務者の現取締役の保身を目的として決定されたとは認められない。また,本件新株予約権が,フジサンケイグループに属する経営陣の個人的利益を図る目的で発行されたことを窺わせる証拠もない。
  しかしながら,本件新株予約権の発行は,債権者等が債務者の発行済株式総数の約29.6パーセントに相当する株式を買い付けた後にこれに対する対抗措置として決定されたものであり,かつ,その予約権全てが行使された場合には,現在の発行済株式総数の約1.44倍にも当たる膨大な株式が発行され,債権者等による持株比率は約42パーセントから約17パーセントとなり,フジテレビの持株比率は新株予約権を行使した場合に取得する株式数だけで約59パーセントになるというのであるから(原決定8頁18行目から9頁2行目まで),債務者は企業価値の維持・向上が目的であると主張しているものの,その実体を見る限り,債権者等の持株比率を低下させ,フジテレビによる債務者の支配権確保を主要な目的とするものと同義であることは明白である。
  以上によれば,本件新株予約権発行は,債務者の取締役が自己又は第三者の個人的利益を図るために行ったものではないとはいえるものの,会社の支配権に現に争いが生じている場面において,支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者に友好的な特定の株主の支配権を確保することを主要な目的として行われたものであるから,上記2のとおり,これを正当化する特段の事情がない限り,不公正発行に該当するといわざるを得ない。原決定が本件新株予約権発行について,「現経営陣の支配権を維持することを主たる目的とするものというべきである」と判示しているのは,上記の趣旨を述べているものと理解できるから,債務者の上記主張は採用することができない。
 4 正当化のための特段の事情(企業価値の毀損防止)につき明白性まで立証しなければならないとするのは誤りであるとの主張について
(1) 債務者は,原決定が企業価値の毀損防止につき明白性の立証を要求したことは,債務者側の立証責任のみを一方的に厳格にしているものであって,要件事実の立証につき疎明で足りるとする仮処分の性質に反し不当であると主張する。
(2) しかしながら,前記2のとおり,会社の支配権に現に争いが生じている場面において,支配権の維持・確保を主要な目的として行われた新株予約権発行は,原則として不公正発行に該当すると解されるから,例外的にこれを正当化する特段の事情があることは,抗弁事実として債務者が主張立証責任を負うと解すべきである。
 そして,本件は仮処分事件であるから,その立証の程度は疎明で足りるが(民事保全法13条2項),支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行を正当化するに足りる「特段の事情」は,具体的には前記2(3)で示したような事情に限られるから,債務者は本件新株予約権発行についてこのような例外的事情が認められることを疎明しなければならない。原決定は,債務者に疎明を超える立証を要求したのではなく,債務者が主張し疎明の対象とすることのできる抗弁事実の内容を限定的に解しているにすぎないから,何ら仮処分の性質に反するものではない。よって,債務者の上記主張は採用することができない。
 5 企業価値の毀損のおそれに関する事実認定に誤りがあるとの主張について
(1) 債務者は,債権者が債務者の親会社となり,支配権を取得した場合,債務者及びその子会社に回復しがたい損害が生じるのは極めて明らかであるから,原決定が「債権者による支配権取得が債務者に回復しがたい損害をもたらすことが明らかとはいえない」と結論づけたことは事実誤認であると主張する。
(2) しかしながら,既に述べたとおり,会社の支配権に現に争いが生じている場面において支配権の維持・確保を主要な目的とした新株予約権を発行することが許容されるのは,前記2(3)のような例外的事情がある場合に限られるところ,原決定が認定したとおり(21頁11行目から26頁22行目まで),本件記録を精査しても,債権者が債務者の支配株主となった場合に,債務者に回復しがたい損害が生じることが明らかであることを疎明するに足りる証拠はなく,また,債権者が真摯に合理的経営を目指すものではないことを窺わせる証拠も提出されていない。よって,債務者の上記主張は採用できない。
 6 債権者等の株式取得経緯は証券取引法違反であるとの主張について
  (1) 債務者は,本件のToSTNeT−1取引が証券取引法27条の2(強制公開買付)に違反しないとした原決定の判示は,全く形式的な解釈論であって,法の趣旨を全く考慮に入れていない点において不当であるし,仮にこれが証券取引法違反ではないとしても,公開買付規制の趣旨に反した不当な株式買占行為に対して対抗措置をとることは不公正発行に該当しないと主張する。
  (2) しかしながら,本件のToSTNeT−1取引が証券取引法27条の2に違反しないことは,原決定(26頁23行目から28頁17行目まで)が判示するとおりである。また,債権者等がToSTNeT−1取引によって債務者株式を大量に買い付けたことについては,証券取引法27条の2の立法趣旨との関係において相当性を欠くとみる余地はあるとはいえ,これが現行法下で違法でないといえることは上記のとおりであり,買付方法に相当でない点があったということのみをもって,支配権確保を主要な目的とすることが明らかな本件新株予約権発行を正当化することはできない。証券取引法の解釈に当たっては,取引ルールの一義的明確性が要求されるというべきであり,条文に忠実な解釈を行うべきものであり,その観点からしても原決定の判断は相当というべきである。よって,債務者の上記主張も採用することができない。
 7 株主としての不利益が存在しないとの主張について
(1) 債務者は,商法280条ノ10にいう不利益を受けるおそれがある株主とは,当然株主であることを会社に対抗できる株主のことをいうから,原決定が名義書換を完了していない分も含めて債権者の不利益性を判断したのは商法206条に違反すると主張する。
  (2) この点,確かに,債務者等への実質株主名簿の書換えがなされていない現時点では,債権者は3万1420株を超える株主であることを,株式会社ライブドア・パートナーズは1062万7410株(平成17年3月7日現在)の株主であることを,債務者に対抗することができない。しかしながら,本件のように,債務者も債権者等が大量の株式を有することを自認しており(甲11,16),名義書換請求に対する拒絶事由も特になく,半月後には実質株主名簿が書き換えられることが確実であるにもかかわらず,保管振替機関からの実質株主名簿書換えのための通知が9月末日と3月末日に限られているとの制度上の制約ゆえに,名義書換未了の株式数を不利益性判断の基礎から除外するのは明らかに不合理というべきである。したがって,上記のような本件事実関係のもとにおいては,平成17年3月31日以降に債務者に対抗できることになる株式数も含めて不利益性を判断すべきであって,債務者の上記主張は採用することができない。
 8 結論
   以上述べたとおりであって,債務者による本件新株予約権の発行は,その内容及び発行の経緯に照らしても,債権者による債務者の支配を排除し,現在債務者と友好的な関係にあるフジテレビによる債務者に対する支配権を確保するため行われたことが明らかである。そして,本件に顕れた事実関係(債権者等による債務者株式の立会外取引による取得,債権者代表者のマスコミに対する発言等)のもとでは,債務者の現経営者が,債権者による債務者の支配に対して不安を覚え,企業防衛のためにフジテレビとの関係強化が必要であると考えたこと自体は理解できなくはないが,そのために採用した本件新株引受権の大量発行の措置は,既に論じたとおり,本来債務者の取締役会に与えられている権限を逸脱したもので,著しく不公正な新株予約権の発行と認めざるを得ないのである。そうであるとすれば,債権者の本件仮処分命令申立てには,理由があると認められるから,これを認容した原決定は正当である。よって,主文のとおり決定する。
平成17年3月16日

東京地方裁判所民事第8部

裁判長裁判官   西 岡 清一郎
裁判官   渡 邉 千恵子
裁判官   山 口 和 宏 


(別紙1)債務者の主張

1 権限分配論は商法の解釈として採り得ないこと
 原決定は,権限分配論に基づき,取締役が株主構成に影響を与えることは原則として違法であり,もって正当な事由がある場合にしか許されない,という判示をしている。
しかし,権限分配論は,ドイツの法制を前提とした西ドイツの学説であり,授権資本制度を採用し,株主総会ではなく取締役会に新株発行の権限が帰属する日本の法制では採り得ない理論である。そのため,既に学会では放棄されている。また,経営の迅速性・効率性のために経営を執行する取締役に権限を与えていくという昨今の商法改正の流れにも逆行する理論である。
以上のとおり,わが国の商法の下で権限分配論は採用できず,新株の発行によって株主構成が変動するとしても,それは何ら違法・不当ではない。それが自己または第三者の利益を図る意図でなされた場合にだけ,違法・不当となる。
2 支配権維持目的の認定は誤りであること
原決定の指摘する理由部分は,すべて本件新株予約権の発行を「会社の利益のため」にしているという証拠及び認定ばかりであり,何ら不当な目的であることを示す証拠あるいは認定ではない。にもかかわらず,原決定はかかる証拠から「支配権維持目的」を認定している。
原決定が,この推論プロセスで明白な誤りを犯した理由は,行為自体とその目的を混同してしまったことにあるのではないかと推測される。
フジテレビの子会社となる→フジテレビの支配権→フジテレビの経営陣の支配権→不当な目的
と推論し,フジテレビの子会社となるという事実を,役員個人の利益と勘違いしてしまっているのではないかと思われる。
 しかし,「フジテレビの子会社となる」のはあくまでも行為であり,その目的は債務者の利益のためである。債務者の取締役に,フジテレビの子会社となることによってフジサンケイグループ経営陣の支配権を維持させるなどという目的は全く存在しないし,それを示す証拠も存在しない。
さらに,原決定は,「フジサンケイグループの経営陣の支配権維持目的」を「債務者の現経営陣の支配権維持目的」と同一視しているが,その理由も証拠も全く説明されていない。
債務者の取締役は,フジテレビの子会社となるのと,ライブドアの子会社となるのと,どちらがより債務者の企業価値が高まるか,という視点から判断したのであり,債務者の経営陣の支配権維持目的などを示す証拠はどこにも存在しない。
3 正当化のための特段の事情(企業価値の毀損防止)につき明白性まで立証しなければならないとするのは誤りであること
 原決定は,原則として取締役が会社の支配権の帰属を自ら決定することは許されず,支配権につき争いが具体化した段階で現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として新株等を発行することが許されるのは,会社ひいては株主全体利益の保護の観点からこれを正当化する特段の事情がある場合に限られるという判断基準をたてているが,かかる基準は,わが国の商法の下で採り得ない権限分配論を前提としている点で不当であるほか,これまで裁判例が採用してきた主要目的ルールとも全く相容れないものである。
 まず,そもそも不当目的が主たる目的であるかどうかは,併存する目的の中のどれが主要かという観点から判断されるべき事柄である。片方の目的を先に認定して,他の目的を「特段の事情」として立証責任の転換をするなどというのは,主要目的ルールに反する。
 また,仮処分においては,要件事実の立証につき疎明(裁判官が事実の存在が一応確からしいとの認識を持つこと)で足りるのであるから,債務者の主張する正当目的(企業価値の毀損防止)についても疎明で足りるはずであり,これを新株予約権発行を正当化する特段の事情であると位置づけて明白性の立証まで要求するのは,当事者間の公平を失し,債務者側のみに厳格な立証責任を課すものであって不当である。また,買収側の方が事業計画作成に当たって不利な立場にあるともいえないから,債権者による支配権取得が債務者に回復しがたい損害をもたらすことが明らかといえない限り,特段の事情があるといえないとした判示は,さらに当事者間の公平を失するもので不当である。
4 結論
  本件で提出された全ての証拠によれば,ライブドアが親会社となった場合に債務者グループ各社の企業価値が毀損されることの疎明は十分であり,債務者経営陣の支配権維持目的は存在しないから,「著しく不公正な方法」による新株予約権発行でないことは明らかである。
以  上


(別紙2)債権者の主張
 債務者は,原決定について,(1)いわゆる権限分配論を前提にしていると捉え,(2)新株予約権の発行が許容されるのは,これを正当化する特段の事情が存在する場合に限られると考えたものと理解したうえで,(3)債務者の主要な目的が支配権維持目的にあると認定したのは誤りであると難じ,(4)前記正当化のための特段の事情があるというためには,債権者の買収により債務者の企業価値が毀損されたことが明らかであることを要するとした点を批判する。
 しかし,(1)ないし(4)はいずれも失当である。
(1) (権限分配論)について
  債務者は,原決定の「会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されない」という片言を捉えて,権限分配論に依拠するものと即断したようであるが,決定全体をみればそのような一部の学説に依拠したわけでないことはたやすく読み取れるし,少なくとも後に述べるようにこの点は(4)における疎明の責任や程度には何の影響もなく,その他原決定の結論を左右するようなものではない(上記引用部分は,決定の中では必要のない記載であったとさえいえる)。
(2) (特段の事情の要否)について
  原決定における不公正発行該当性の判断枠組みは,素直に読み取るなら以下のとおりである。
 �@ 不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合は「著シク不公正ナル方法」による発行となる。
 �A 株式会社においてその支配権につき争いがあり,従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株予約権が発行され,それが第三者に割り当てられる場合に,その新株予約権が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは,不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたる。
 �B 会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がある場合は別である。
  これからわかるとおり,原決定は,支配権維持目的が主要な目的である場合には,新株予約権の発行はこれを正当化すべき特段の事情が必要であるとしているのであり(何もないところで,いきなり債務者に正当目的の疎明責任を負わせているわけではない),疎明責任の分配としてはバランス感覚にすぐれ至極公平かつ常識的である。
(3) (主要目的としての支配権維持目的の存否)について
  債務者は,原決定が債務者(取締役会)の発行決議においては支配権維持目的が主要目的であると認定したことに対し,第一に,不当な目的は取締役個人の利益を図る場合に限られるから,本件の場合はこれに該当しないと批判し,第二に,債務者(取締役会)には企業価値維持目的があるのだから,支配権維持目的は主要な目的ではあり得ないと批判する。
  しかし,第一に,不当な目的とは,会社ひいては株主全体の利益の保護の観点からその該当性を判断すべきであるから,必ずしも取締役個人の利益を図る意図がなくても第三者(一部の株主を含む)の利益を図る意図があればそれで十分である。本件では,債務者(取締役会)にはフジサンケイグループないしそれらの経営陣の意向に沿おうとする意図がある。
  また,第二に,債務者の説くところでは支配権維持目的が中間目的,企業価値維持目的が究極目的となっているから(目的の二重性),支配権維持が主要な目的であることは否定のしようがないのであり,本件で問題となっているのは,それにもかかわらず,特段の事情である企業価値の維持をもたらすことで新株予約権の発行が正当化されるか否か(判断枠組み�Bの問題)である。
  この点は,従来の多くの裁判例において,新株において資金調達目的と支配権維持目的の優劣が吟味され(判断枠組み�Aの問題),あるいは,新株予約権においてインセンティブ目的と支配権維持目的の優劣が吟味される(江頭教授,神田教授など有識者が想定しているであろう議論)(前同)のとは次元が異なる。
  なお,企業価値の維持を正当化事由とする場合,「企業価値」をどのようなものとして把握するかによってどのような結論でも導きうることに注意する必要がある。
(4) (疎明の程度)について
  支配権維持が企業価値維持に結び付くことのあり得ることは理論的に否定できないにしても(アライアンス目的や資本提携目的が正当化される場合もこれに類する),安易に企業価値の維持を認定してしまうなら,支配権維持を目的とする発行はいとも簡単に容認されることになってしまう。したがって,企業価値の維持の認定は慎重に行うべきであり,そのために支配権の維持が必要であると主張する者が,これを明らかにする責任を負うと考えるべきである。
  この点については,以下の諸点も十分に考慮すべきである。
 �@ 支配権の維持が図られる状況では,取締役(やそれと人的に密接な関係にある第三者)と会社ひいては株主全体の間には極めて深刻な利益相反が生じうるから,疎明の程度は高度なものであって然るべきである。
 �A 当該利益相反は,企業支配の帰属をめぐる争いが具体化した段階においてはさらに先鋭化するから,疎明の程度は一層高度なものであって然るべきである。
 �B 一般に,買収者と対象会社の取締役には企業情報の質と量に格差があるから,後者による疎明の程度は高度なものであって然るべきである。
 �C 特に対象会社の株式について市場価格が存在する場合,買収者の登場により市場価格が上昇しているのに,それに反する説明を試みて下落(=企業価値の毀損)の必然性を主張するのであれば,疎明の程度は高度なものであって然るべきである。
以  上

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