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2005.03.02

損害賠償請求事件(最高裁判例)

判例 平成16年09月07日 第三小法廷判決 平成15年(オ)第975号、平成15年(受)第1030号、1031号損害賠償請求事件

『要旨:
1 代用監獄である警察署に勾留中の被疑者について「接見等の指定に関する通知書」を発した検察官が留置担当官から弁護人が接見の申出をしたことの連絡を受けて約40〜45分後又は約34分後に接見指定をしない旨の回答をしたことが違法とはいえないとされた事例
2 代用監獄である警察署に勾留中の被疑者について弁護人から接見の申出を受けた留置担当官が接見を開始させた直後に接見を中断させた措置が違法とはいえないとされた事例』

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成15年(オ)第975号、平成15年(受)第1030号、1031号 平成16年09月07日 第三小法廷判決 一部棄却,一部破棄自判)
原審 大阪高等裁判所 (平成13年(ネ)第2766号)

主    文
1 平成15年 (オ) 第975号・同年 (受) 第1030号上告人の上告を棄却する。
2 原判決のうち平成15年 (受) 第1031号上告人の敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する平成15年 (受) 第1031号被上告人の請求を棄却する。
3 第1項に関する上告費用は,平成15年 (オ) 第975号・同年 (受) 第1030号上告人の負担とし,前項に関する訴訟の総費用は,平成15年 (受) 第1031号被上告人の負担とする。

理    由

第1 事案の概要
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 当事者等
 ア 平成15年 (オ) 第975号・同年 (受) 第1030号上告人兼同年 (受) 第1031号被上告人(以下「第1審原告」という。)は,京都弁護士会所属の弁護士である。
 イ 被疑者Aは,平成10年6月26日,暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の容疑で逮捕され,同月28日,代用監獄である大阪府警察旭警察署の留置場に勾留された。被疑者Bも,同月27日,同容疑で逮捕され,同月28日,代用監獄である大阪府警察曽根崎警察署の留置場に勾留された。その被疑事実の概要は,被疑者Bはいわゆる総会屋グループの首領であり,被疑者Aはその構成員であるが,他の総会屋と共謀の上,C株式会社の株主総会会場において,一般株主に対し,数人共同してその生命身体に危害を加えかねない気勢を示して脅迫したというものである。第1審原告は,同月27日に被疑者Aから,同月30日に被疑者Bから,それぞれ弁護人に選任された。
 ウ 大阪地方検察庁のD検事は,同年7月1日,被疑者Aとの接見につき旭警察署長に対し,被疑者Bとの接見につき曽根崎警察署長に対し,それぞれ,「被疑者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との接見又は書類(新聞,雑誌及び書籍を含む。)若しくは物(糧食,寝具及び衣類を除く。)の授受に関し,捜査のため必要があるときは,その日時,場所及び時間を指定することがあるので通知する。」と記載された「接見等の指定に関する通知書」(以下「本件通知書」という。)を送付した。なお,D検事は,本件通知書を発するに先立ち,第1審原告に電話をし,上記被疑者両名との接見については接見指定をすることがあ骼|を説明し,接見に赴く場合の事前の連絡方を依頼したが,第1審原告は,弁護人に事前連絡の義務はないとして,これを断った。
 エ 昭和62年12月25日刑総第1061号法務省刑事局長通達「事件事務処理規程の改正について」は,「接見等の指定を行うことがあると認める場合には,監獄の長に対して(中略)『接見等の指定に関する通知書』によりその旨を通知することとされたい。」と定めており,本件通知書は,この通達に基づいて発出されたものである。また,上記法務省通達を受けて,昭和63年1月28日丙総発第7号警察庁官房長通達「刑事訴訟法第39条第3項の規定による検察官等の指定に係る事件事務規程の改定について」は,「通知書が発せられた被疑者について,弁護人等から接見等の申出があった場合には,その者が接見等に関する指定を受けているときを除き,当該通知書による協力依頼に基づき,速やかに申出があった旨を検察官等に連絡すること」と定めている。
 (2) 本件接見(1)
 ア 第1審原告は,平成10年7月4日(土曜日)午前9時35分ころ,事前の連絡なしに曽根崎警察署に赴き,留置係官であるE巡査部長(以下「E留置係官」という。)に対し,被疑者Bとの接見を申し出た。これに対し,E留置係官は,検察官から本件通知書を受けているので,検察官に接見指定をするかどうかを確認するとして,第1審原告に対し,待機を求めた。
 イ E留置係官は,直ちに大阪地方検察庁に電話をし,応対した検察事務官に対し,第1審原告が被疑者Bとの接見を求めて曽根崎警察署に来ていることを告げ,検察官が接見指定をするか否かを照会した。
 ウ 上記検察事務官は,当日は閉庁日でD検事が出勤しておらず,その自宅に電話をしたものの,応答がなかったため,当直の検察官の指示を受けることとした。当該検察官は,当日送致された身柄事件の被疑者の弁解録取手続中であったため,同検察事務官は,その手続が終了するのを待って,当該検察官から接見指定をしないとの指示を受けた。同検察事務官は,同日午前10時15〜20分ころ,曽根崎警察署に電話をし,留置係官に対し,上記指示を伝えた。なお,この間に,同警察署の留置係官であるF警部補(以下「F留置係官」という。)は,同検察事務官に対し,2度にわたり,回答を催促する電話をしていた。
 エ 一方,同日午前9時45分ころ,曽根崎警察署において,第一東京弁護士会所属の弁護士が,接見の日時を同日午前10時から午前11時までの間の20分間とする接見指定書を持参して,他の被疑者との接見を求めた。第1審原告は,同警察署の留置場の接見室が1室しかなかったことから,上記弁護士が先に接見することを了承し,同弁護士は,同日午前10時ころから午前10時20分ころまで上記被疑者と接見した。
 オ 第1審原告は,上記弁護士が接見を終えてしばらくした後,F留置係官から接見室への入室を促され,同日午前10時25分ころ,被疑者Bとの接見を開始し,同日午前11時ころまで接見した(以下,この接見を「本件接見(1)」という。)。
 カ 被疑者Bの取調べは,同日午後から開始された。
 (3) 本件接見(2)
 ア 第1審原告は,平成10年7月16日(木曜日)午前8時45分ころ,事前の連絡なしに旭警察署に赴き,被疑者Aとの接見を申し出た。これを受け付けた同警察署の留置係官であるG巡査部長(以下「G留置係官」という。)は,本件通知書が発せられていることを失念し,接見指定書の有無を確認することなく,直ちに第1審原告を接見室に案内し,被疑者Aとの接見を開始させた。
 イ その直後,旭警察署の留置係官であるH警部補(以下「H留置係官」という。)は,G留置係官から接見指定書の有無を確認していないことを聞き,直ちに接見室に入り,第1審原告に接見指定書の提示を求め,第1審原告がこれを持参していないことを知った。H留置係官は,「指定書がなければ会わせられない。」と言って,被疑者Aを接見室から連れ出そうとした。第1審原告はこれに抗議し,被疑者Aも抵抗の姿勢を示したが,H留置係官は,接見室を消灯し,被疑者Aに対し,立つことを命じ,その左腕をつかんで被疑者Aを接見室から連れ出した。その時刻は,午前8時50分ころであった。
 ウ H留置係官は,遅くとも同日午前8時54分ころまでに大阪地方検察庁に電話をし,応対した検察事務官に対し,第1審原告が被疑者Aとの接見を求めて旭警察署に来ていることを告げ,接見指定をするか否かを照会した。
 エ 上記検察事務官は,D検事及びその立会事務官であるI検察事務官に連絡を取ろうとしたが,両名の当日の出勤予定時刻は午前9時15分であり,まだ出勤していなかったため,旭警察署に電話をし,検察官がまだ登庁していないが,連絡が取れ次第電話をする旨を告げた。
 オ I事務官は,同日午前9時ころ,大阪地方検察庁に出勤し,同日午前9時5分ころ,被疑者Aの接見指定について照会が来ている旨の報告を受け,直ちにD検事の携帯電話に電話をしたが,つながらなかった。
 カ D検事は,同日午前9時20分ころ,大阪地方検察庁に出勤し,I事務官から,被疑者Aの接見指定について照会が来ている旨の報告を受け,同日午前9時28分ころ,旭警察署の留置係官に対し,接見指定をしない旨の回答をした。
 キ 第1審原告は,同日午前9時28分ころ,被疑者Aとの接見を再開し,同日午前9時50分ころまで接見した(以下,この接見を「本件接見(2)」という。)。
 ク 被疑者Aは,当日は取調べがなく,終日在監していた。
 2 本件は,第1審原告が,D検事が発出した本件通知書のために,留置係官に上記被疑者両名との即時の接見を拒まれ,接見を妨害されたなどとして,担当検事が,本件接見(1),(2)につき,?@本件通知書を発したことの違法,?A留置係官からの照会に対して速やかに回答しなかったことの違法を主張し,また,留置係官が,本件接見(1),(2)につき,?B即時の接見を拒み,検察官からの回答あるまで第1審原告を待機させたことの違法,本件接見(2)につき,?C接見を中断させ,担当検事からの回答があるまで第1審原告を待機させたことの違法を主張し,平成15年 (オ) 第975号・同年 (受) 第1030号被上告人国(以下「第1審被告国」という。)及び平成15年 (オ) 第975号・同年 (受) 第1030号被上告人兼同年 (受) 第1031号上告人大阪府(以下「第1審被告大阪府」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,各20万円の慰謝料とその遅延損害金の支払を求めるものである。
 3 原審は,上記事実関係の下において,要旨,次のとおり判断し,第1審原告の第1審被告国に対する請求を棄却し,第1審被告大阪府に対する請求を,慰謝料10万円とその遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却すべきものとした。
 (1) 検察官の発する「接見等の指定に関する通知書」は,検察官が監獄の長に対し,接見指定をすることがあり得ると考える一定の事件について,弁護人が指定を受けないで接見の申出をした場合に,その旨を検察官に連絡することを依頼する趣旨の行政機関の事務連絡文書である。上記通知書が発せられた場合であっても,検察官が接見指定をしていない限り,接見を申し出た弁護人に対し,これを認めるか否かは,監獄の長がその独自の権限に基づいて決することができる。したがって,検察官が本件通知書を発すること自体が,弁護人に対する関係で違法となることはない。
 (2) 検察官が接見指定の照会を受けてから回答するまでに,被疑者Bについては約40〜45分間,被疑者Aについては約34分間かかっており,いずれも,接見指定をするかどうかを回答するまでに要した時間としては相当の長時間である。しかし,監獄の長は,上記のとおり,接見を申し出た弁護人に対し,これを認めるか否かを独自の権限で決すべきであり,本件通知書は,合理的な範囲内において弁護人を待機させることを依頼するものにすぎないから,検察官が本件通知書を発しながら接見指定の照会に速やかに回答しないことが,弁護人に対する関係で違法となることはない。
 (3) 留置係官が検察官に連絡をして接見指定をするかどうかの回答を得るためにある程度の時間を要するのは当然であり,その間,弁護人が待機することになり,それだけ接見が遅れることになっても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許されるものと解するのが相当である。被疑者Bとの接見については,当日の午前10時ころ以降は,第1審原告自身が他の弁護士に接見の順序を譲ったために待機する結果となったものであり,同弁護士の接見終了後まもなく第1審原告の接見が開始していることに照らすと,E留置係官が第1審原告を待機させた時間は,午前9時35分ころから午前10時ころまでの約25分間とみるべきである。そして,当日は土曜日で閉庁日であったこと,第1審原告は閉庁日であることを知りながら事前の連絡をしないで接見に赴いたことを考慮すると,E留置係官が第1審原告を約25分間待機させたことは,合理的な範囲を超えたものとはいえず,違法とはいえない。
 (4) 本件接見(2)につき,H留置係官が第1審原告を接見再開までの約38分間待機させたことは,合理的な範囲を超えたものとはいえず,それ自体は不法行為とならない。
 しかしながら,弁護人と被疑者が接見を開始した後は,特段の事情がない限り,留置係官が被疑者と弁護人との接見を中断させることはできないというべきである。このことは,検察官から「接見等の指定に関する通知書」が発せられている場合において,留置係官の過誤等により,検察官に対する連絡をしないで接見を開始させたときであっても変わりがない。ところが,H留置係官は,第1審原告が被疑者Aと接見を開始した直後に接見室に入り,第1審原告の抗議にもかかわらず,被疑者Aに退去を命じ,接見室を消灯し,左腕をつかんで被疑者Aを接見室から連れ出して接見を中断させたのであるから,H留置係官の行為は違法であり,第1審原告に対する不法行為となる。
 上記不法行為によって第1審原告が被った精神的苦痛を慰謝するには10万円が相当である。
 第2 平成15年 (オ) 第975号上告代理人出口治男の上告理由について
 1 上告理由第1について
刑訴法39条3項の規定が憲法34条前段,38条1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁平成5年 (オ) 第1189号同11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁)。論旨は,採用することができない。 
 2 その余の上告理由について
 所論は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
 第3 平成15年 (受) 第1030号上告代理人出口治男の上告受理申立て理由第4について
 1 検察官,検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)は,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)から被疑者との接見又は書類若しくは物の授受(以下「接見等」という。)の申出があったときは,原則として,いつでも接見等の機会を与えなければならないのであり,捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合など,接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限り,接見等のための日時,場所及び時間を指定することができるが,その場合には,弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し,被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである(前掲平成11年3月24日大法廷判決参照)。そして,弁護人等から接見等の申出を受けた者が,接見等のための日時等の指定につき権限のある捜査機関(以下「権限のある捜査機関」という。)でないため,指定の要件の存否を判断できないときは,権限のある捜査機関に対して申出のあったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があり,こうした手続を要することにより,弁護人等が待機することになり,又はそれだけ接見等が遅れることがあったとしても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許容されているものと解するのが相当である。そして,接見等の申出を受けた者が合理的な時間の範囲内で対応するために採った措置が社会通念上相当と認められるときは,当該措置を採ったことを違法ということはできないものというべきである(最高裁昭和61年 (オ) 第851号平成3年5月31日第二小法廷判決・裁判集民事163号47頁,最高裁平成5年 (オ) 第1485号同12年3月17日第二小法廷判決・裁判集民事197号397頁,最高裁平成6年 (オ) 第2302号同12年3月17日第二小法廷判決・裁判集民事197号433頁参照)。
 2 所論は,担当検事が,本件接見(1),(2)につき,本件通知書を発出したことの違法をいうが,本件通知書は,弁護人等から接見等の申出があったときに接見指定をすることがあり得る旨を通知する捜査機関の内部的な事務連絡文書であって,検察官が接見指定権を適切に行使する機会を確保するとともに,接見交通権の行使と捜査の必要との調整を図ることを目的として発出されるものであるから,これを発出すること自体を違法ということはできない。原審の前記第1の3(1)の判断は,以上の趣旨をいうものとして是認することができ,この点に関する論旨は,採用することができない。
 3 また,所論は,担当検事が,本件接見(1),(2)につき,留置係官からの照会に対して,速やかに回答しなかったことが違法であると主張する。
 そこで,この点について検討するに,検察官から被疑者との接見等に関して「接見等の指定に関する通知書」が発せられている場合,弁護人等から当該被疑者との接見等の申出を受けた留置係官は,検察官に対して接見等の申出があったことを連絡し,その具体的措置について指示を受ける等の手続を採る必要があるから,接見等のため警察署に赴いた弁護人等は,こうした手続が採られている間待機させられ,それだけ接見等が遅れることとならざるを得ない。そして,前記説示したところによれば,上記通知書を発出した検察官は,上記の手続を要することにより接見等が不当に遅延することがないようにするため,留置係官から接見等の申出があったことの連絡を受けたときは,合理的な時間内に回答すべき義務があるものというべきであり,これを怠ったときは,弁護人等の接見交通権を違法に侵害したものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,前記の事実関係によれば,担当検事は,留置係官から接見の申出があったことの連絡を受けてから接見指定をしない旨の回答をするまでに,本件接見(1)の場合は約40〜45分間,本件接見(2)の場合は約34分間を要しているが,本件接見(1)の場合は,第1審原告が閉庁日(土曜日)に事前の連絡なく突然に代用監獄である曽根崎警察署に赴いたものであり,また,本件接見(2)の場合は,第1審原告が担当検事の登庁前の午前8時45分ころに事前の連絡なく突然に代用監獄である旭警察署に赴いたものであること,これに対し,留置係官は,いずれの場合も,速やかに,第1審原告の接見の申出を大阪地方検察庁に連絡し,同検察庁の検察事務官も,速やかに担当検事に連絡を取ろうとしたこと,そして,前記のような事情で担当検事への連絡は直ちには取れなかったものの,担当検事は,連絡が取れ次第,速やかに回答をし,故意に回答を遅延させたりなどしていないことが明らかであり,以上の諸点に照らすと,本件における担当検事の回答は,いずれも合理的な時間内にされたものというべきであり,これを違法ということはできない。そうすると,本件における担当検事がした回答に違法がない旨の原審の前記第1の3(2)の判断は,結論において是認することができ,この点に関する論旨は,採用することができない。
 第4 平成15年 (受) 第1031号上告代理人井上隆晴ほかの上告受理申立て理由について
 所論は,本件接見(2)につき,留置係官が接見を中断させ,担当検事からの回答があるまで第1審原告を待機させたことは違法ではないと主張する。
 そこで,この点について,検討するに,弁護人等から接見等の申出を受けた者が,権限のある捜査機関でないため,権限のある捜査機関に対して申出のあったことを連絡し,これに対する指示を受けるまでの間,弁護人等を待機させる措置を採ったとしても,それが合理的な範囲内にとどまる限り,許容されているものと解すべきであり,また,上記申出を受けた者が,合理的な時間の範囲内で対応するために採った措置が社会通念上相当と認められるときは,当該措置を採ったことを違法ということができないことは,前記のとおりである。そして,弁護人等から接見の申出を受けた留置係官が,「接見等の指定に関する通知書」が発せられているため,検察官に対して接見の申出があったことを連絡する等の手続を採る必要があったのに,これを失念し,同手続を採ることなく接見を開始させた後,これに気付いて,同手続を採るために接見を中断させる措置を採ることも,それが接見開始直後にされたものであるなど社会通念上相当と認められるときは,当該措置を採ったことを違法ということはできないと解すべきである(前掲最高裁平成6年 (オ) 第2302号同12年3月17日第二小法廷判決参照)。
 前記の事実関係によれば,H留置係官は,第1審原告が被疑者Aとの接見を開始した直後に,G留置係官が上記手続を採っていないことを知り,直ちに接見室に入り,上記手続を採るため,接見を中断させたというのであるから,H留置係官の上記行為は,その態様等を考慮しても,社会通念上相当と認めることができ,これを違法ということはできない。
 そうすると,上記と異なる見解の下に第1審原告の第1審被告大阪府に対する請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。
 第5 結論
 以上によれば,第1審原告の上告は,これを棄却し,第1審被告大阪府の上告に基づき,原判決のうち第1審被告大阪府の敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する第1審原告の請求を棄却すべきである。
 よって,判示第4につき裁判官濱田邦夫の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官濱田邦夫の反対意見は,次のとおりである。
 私は,第1審被告大阪府の上告を棄却すべきであると考える。
 私は,弁護人等から接見の申出を受けた留置係官が,「接見等の指定に関する通知書」が発せられているため,検察官に対して接見の申出があったことを連絡する等の手続を採る必要があったのに,これを失念し,同手続を採ることなく接見を開始させた後,これに気付いて,同手続を採るために接見を中断させる措置を採ることも,それが接見開始直後にされたものであるなど社会通念上相当と認められるときは,当該措置を採ったことを違法ということはできないと解すべきであるとの多数意見に賛成することはできない。多数意見が引用する最高裁平成6年 (オ) 第2302号同12年3月17日第二小法廷判決は,変更すべきものと考える。
 いったん弁護人と被疑者とが適法に接見を開始した後においては,留置係官が接見の場所に突然に立ち入ることは,それが接見開始の直後であったとしても,弁護人等と被疑者との秘密交通権を侵害するおそれを生じさせることとなるものであるから,「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものといわなければならない(刑訴法39条3項ただし書参照)。加えて,多数意見のいう「接見開始直後」及び「社会通念上相当と認められるとき」という基準は必ずしも明確ではなく,接見交通権が憲法上の基本的人権であること及び弁護士の職責の公益性にかんがみると,留置係官による接見中断措置の違法性の有無の判断をするに当たり,このような不明確な基準によることは相当ではないと考える。また,接見開始に先立ち留置係官が検察官に連絡をする等の手続を採る必要があったのに同手続を採らなかったという捜査機関側の内部的な取決めの違反を,被疑者及び弁護人等の時間的かつ心理的な負担において是正することを認めるべきではない。
 したがって,いったん弁護人等と被疑者とが適法に接見を開始した後においては,特段の事情が存しない限り,留置係官は接見を中断させることはできないと解すべきである。そして,上記特段の事情が存する場合とは,いったん適法に開始された接見の中断を正当化できるだけの捜査の必要性が存する場合に限定されるべきである(なお,原判決は,上記特段の事情が存する場合の例として,合理的な時間の範囲内に検察官から接見指定をするか否かの回答を得られなかったため,留置係官が,接見を開始させたところ,その後,指定する日時までは接見をさせてはならない旨の接見指定がされた場合を挙げるが,このような場合に上記特段の事情を認めるのは相当ではない。)。
 本件接見(2)においては,前記の事実関係によれば,検察官に接見指定の意思もなく,接見が開始された時刻に接近した取調べの予定もなく,現実に取調べもされなかったというのであるから,いったん適法に開始された接見の中断を正当化できるだけの捜査の必要性が存するものとはいえず,上記特段の事情はなかったというべきである。
 そうすると,上記特段の事情がないにもかかわらず,第1審原告の抗議や被疑者Aの抵抗を無視して接見を中断させたH留置係官の行為は違法というべきであり,過失も肯認し得るから,第1審原告に対する不法行為が成立する。
 よって,第1審原告の第1審被告大阪府に対する請求を一部認容すべきものとした原判決は,正当であり,第1審被告大阪府の上告は,これを棄却すべきである。
(裁判長裁判官 藤田宙靖 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三)

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