« 特定非営利活動促進法 | トップページ | 祝:おめでとう »

2005.06.18

H17. 6.15 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第942号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告

◆H17. 6.15 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第942号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告


事件番号  :平成17年(ラ)第942号
事件名   :新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告
裁判年月日 :H17. 6.15
裁判所名  :東京高等裁判所
部     :第15民事部
結果    :抗告棄却
原審裁判所名:東京地方裁判所
原審事件番号:平成17年(モ)第6329号

判示事項の要旨:
敵対的買収者が出現したときに,新株予約権が行使され,会社の発行済株式総数が約3倍に増加して,議決権割合を希釈するという方法で,現在の取締役が支配権を維持することを企図した新株予約権の発行が,既存の株主に不測の損害を与えるものであって「著しく不公正」な発行に当たるとされた事例

                 主             文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は債務者の負担とする。
                 理             由
第1 保全抗告の趣旨及び理由
1 抗告の趣旨
(1) 原決定を取り消す。
(2) 東京地方裁判所平成17年(ヨ)第20050号新株予約権発行差止仮処分命令申立事件について,同裁判所が平成17年3月11日にした仮処分決定を取り消す。
(3) 債権者の上記仮処分命令の申立てを却下する。
2 抗告の理由
債務者の抗告の理由の骨子は,別紙債務者の主張記載のとおりである。
なお,債権者は,別紙新株予約権目録記載の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)の発行は,株主に過度の財産上の損害を生じさせるものであって,甚だしい制度的欠陥を有するものであるから,これを認めるべきではない,原審仮処分決定及び原審異議決定は,株主構成の変更を主たる目的とする新株予約権の発行も一律に禁止されるわけではなく,「相当な方法」による場合は許されるとしたものであって,いわゆる敵対的買収防衛策にも一定の配慮を示した,極めて適正かつ妥当なものである旨を主張する。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本件は,債務者の株主である債権者が,債務者が平成17年3月14日の取締役会決議に基づいて現に手続中の本件新株予約権の発行について,�@商法が定める機関権限の分配秩序違反,取締役の善管注意義務・忠実義務違反等の法令に違反すること,�A著しく不公正な方法による新株予約権の発行であることを理由として,これを仮に差し止めることを求めた事案である。
(2) 原審仮処分決定は,上記�@の点については本件新株予約権の発行は法令に違反しないとしたが,上記�Aの点について,ア本件新株予約権発行は,株主総会の意思を反映させる仕組みとして欠けるところがないとはいえず,また,イ本件新株予約権の行使条件の成就に関する判断基準は明確性を欠く部分を含む上,取締役会が特別委員会の勧告に従わない余地があり,取締役会による恣意的判断の防止が担保される仕組みとなっているとはいえない,さらに,ウ本件新株予約権発行により割当基準日以降に債務者株式を取得した株主は持株比率が約3分の1まで希釈されるリスクを負担するが,こうした事態が発生するか否か現時点では著しく予測困難であり,合理的な投資家は重大なリスクを抱えた債務者株式への投資には慎重となるから,既存株主は債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下という不測の損害を受けるので,敵対的買収に対する事前の対抗策としての本件新株予約権の発行は,取締役会の決議による事前の対抗策としての相当性を欠くから,「著シク不公正ナル方法」による新株予約権発行として差止請求が認められ,本件新株予約権の発行によって直ちに債権者が看過し得ない不測の損害を被るおそれがあり,保全の必要性もあるとして,無担保で本件新株予約権の差止めを認める仮処分決定をした。
これに対して,債務者が仮処分異議の申し立てをした。
(3) 原審異議決定は,ア本件新株予約権の発行の目的は,株式会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面において,将来,敵対的買収によって経営支配権を争う株主が生じることを想定して,かかる事態が生じた際に新株予約権の行使を可能とすることにより当該株主の持株比率を低下させることを主要な目的として発行されるものである,イ本件新株予約権が行使され新株が発行されたときには,債務者株式全部が持株比率で約3分の1までに希釈されることになるが,将来新株予約権が行使され新株が発行されるかどうかが予測不能であるため,株式市場における債務者会社の株式動向が定まらず,債務者株式を投資対象とする魅力が減少し株価の低下を招き,債権者をはじめ既存株主が将来にわたって損失を被る危険にさらされることになるから,債権者には現実の損害が発生している,ウ商法上,取締役の選任,解任は株主総会の専決事項であり,被選任者たる取締役に選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株予約権の発行をすることを一般的に許容することは,商法が機関権限の分配を定めた法意に反するものであり,現に株式会社の経営支配権に争いが生じている時期であれば,取締役会において,株主総会の意思を問う時間的余裕がないため,一種の緊急避難的行為として,取締役会限りでかかる目的を有する新株予約権の発行等を行うことに一定の合理性が認められるのに対し,そのような状況が発生していない時期においては,株主総会の意思を問う時間的余裕があるのが通常であるから,取締役会限りで,濫用的な買収防衛策としての新株予約権の発行をすることができる場合はより限定的に考えるのが相当である,エ本件新株予約権の発行自体によって,債権者を含む既存株主に「債務者株式の投資対象としての魅力の減少による価値の低下」という損害が現実に生じるから,新株予約権の行使段階における新株発行差止めという方法によって,上記損害を回避することができないし,また,本件で問題となる既存株主の損害は財産上の損害であるが,仮の地位を定める仮処分命令は,「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」ことが要件とされている(民事保全法23条2項)ものであって,事後の損害賠償によっては償えないような損害が生じない限り発令の余地がないと解すべき理由はないから,債権者にとって事後の損害賠償によっては回復することが困難な損害があれば他の事情と相まって保全の必要性を肯定することができるところ,本件新株予約権の発行によって債権者が被る損害は,直接的かつ具体的に発生するものであり,かつ,本件新株予約権の発行により,相当長期間にわたり,債務者株式を市場において合理的な価格をもって売却してその投下資本を回収することが著しく困難となるから,「著しい」損害ということができるなどの理由を付加した上,原審仮処分決定の判断部分を引用して,原審仮処分決定を認可した。
2 前提となる事実関係
後掲の各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 債務者
債務者は,昭和25年に設立され,オートメーション装置及び計測装置の製造,販売等を主たる事業とする株式会社であるが,もともとは自動制御機器メーカーであるドイツ企業の日本法人として昭和6年に設立されたアスカニア合資会社が敗戦後,戦敗国ドイツの企業であることを理由に解散を命ぜられたため,その技術を活かした鉄工業向けの油圧式制御装置を製造する目的で大手製鉄会社等の出資を得て設立された会社(当時の社名は日本レギュレーター株式会社)である。その後,鉄工業の衰退とともに,債務者は,従前から有していた独自の制御技術を特化して,油圧技術を応用した製品や電子,光学技術を応用した自動制御機器,製造ライン用の計測機器,印刷用制御機器等を製造するようになり,現在では,ウエッブ(巻物状製品)の製造工程の制御に独自の高い技術を有する企業に成長し,外国ファンド等が投資対象として注目するハイテク企業の一角を占めるようになった。
平成17年4月26日現在,債務者の資本金は30億7235万2740円,発行する株式の総数は3940万株,発行済株式総数は1000万5249株である。債務者の大株主(平成16年9月30日現在)は,債務者(101万4000株),みずほ信託銀行株式会社(=新日本製鐵の信託口,79万株),JFEスチール株式会社(56万8000株),株式会社博進企画印刷(56万2000株),ニレコ取引先持株会(49万5000株),株式会社東京都民銀行(44万4000株),株式会社みずほ銀行(41万9000株),■■■■■■(■■万■■■■株),株式会社損害保険ジャパン(31万9000株),債権者(28万5000株。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■している(甲63の1,2,甲64)。)である。債務者は,平成元年10月,その発行する株式を株式会社ジャスダック証券取引所(以下「ジャスダック」という。)の開設するジャスダック市場(以下「ジャスダック市場」という。)に上場している。なお,債務者においては,単元株制度が採用されており,1単元の株式数は1000株である。(甲1ないし3,乙33.49,56ないし58)。
イ 債権者
債権者は,平成15年9月に英領西インド諸島ケイマン諸島法に基づいて設立され,欧米,アジアのファンド,年金,企業やファミリーオフィス,プライベートバンク等の機関投資家から調達した資金を,債権者の取締役で構成される投資委員会に基づき,日本の上場企業の株式に投資することを主たる事業とする有限責任会社である(甲4の1,2,甲6の1,2)。
債権者は,債務者の株主であり,平成17年3月31日現在,債務者の発行済株式を28万5000株■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を保有している。この保有株式数は,債務者の発行済株式数の2.85%(小数第4位以下四捨五入)に相当する。(甲4の1,2,甲5,甲6の1,2,乙43)
(2) 企業買収の現状と債務者の対応
ア 近年,金融取引の国際化,自由化が進展する中で,海外投資ファンド等が,バブル経済の後遺症の残る我が国の不動産や株式に対する割安感から,これらへの投資を活発化させている。一方,国際的規模での企業再編が始まり,企業間関係の著しい流動化により,株式持合を解消する動きが活発化し,特に,平成14年ころから進められた企業間の株式持合の解消が急激に進み,浮動株の比率が上昇したことに伴い,企業買収が活発化し,いわゆる敵対的買収(以下「買収対象会社の現経営者が望まない買収」の意味で用いる。)に対する懸念が取りざたされるようになった(乙31,32,顕著な事実)。そして,買収されるおそれのある企業において事前に敵対的買収への防衛策を導入する必要性があるのではないかとの議論が活発化し,平成17年3月16日付けで経済産業省主導の企業価値研究会による敵対的買収に対する防衛策のあり方についての提言がなされ,また,同年5月27日付けで経済産業省・法務省による株主共同利益の確保を前提とした「買収防衛策に関する指針」が公表され,平成18年4月施行の新会社法においても,敵対的買収に対する防衛策の導入の有無等が検討されている(甲53,69,乙8,15)。
イ このような状況の中,債務者は,かつて鉄工業向けの油圧式制御装置の製造を本業としていたころには,鉄鋼会社や銀行などの安定株主が存在したが,その後,債務者の事業内容が自動制御機器等の製造に変わったことにともない,かつての安定株主であったJFEスチール,みずほ信託銀行(新日本製鐵)等からも持合解消の申し出がなされるなど安定株主の減少が懸念されるようになった(甲3)。一方,債権者のほか,取引関係のある企業を含め,新たに大量の債務者の株式を取得した企業もあり,その持株比率が合計約15パーセント程度と高くなっており,これらの企業が敵対的買収者に債務者の株式を売却すると敵対的買収者が不意打ち的に現れるのではないかとのおそれを抱くようになった(乙24,46)。
また,一般に,株価純資産倍率(PBR,投資判断指標の一つで,株価を1株当たり純資産で除したもの)が1未満の会社は,株価が割安であるとして買収の対象となりやすい会社であるといわれており(乙34から36まで),債務者のPBRは,平成15年9月当時0.31,平成16年3月当時0.40,同年9月当時0.55と極めて低い値であったこと(その後株価の上昇に伴い現在は0.7程度になっている),債務者の総資産に対するネットキャッシュ(現金その他即時に換金可能な資産から有利子負債を差し引いた残高)の割合が高いこと,債務者株式の時価総額が比較的小さいことから,債務者は,買収の対象となりやすい会社であるとの指摘もあり(乙49),会社四季報(2004年第2集)によると,公開買付(TOB)によって買収されやすい会社の71位とされていた(乙33)。
ウ 債務者は,敵対的買収に対する防衛策についての検討を行い,弁護士及び証券会社などの専門家の助言を受けて,将来,敵対的買収に直面した場合の防衛策として,後記(4)記載のような方式によって,新株予約権を発行することを決定した(甲8,乙55)。
(3) 債務者の新株予約権の発行の決議及び公表
債務者は,平成17年3月14日開催の取締役会において,「株式会社ニレコ新株予約権発行要項」(乙21)に基づき,平成17年3月31日現在の株主名簿上の株主に対し,1株につき無償で2個の割合で新株予約権を与えることを決議し,その内容を記載した「セキュリティ・プラン」(以下「本件プラン」という。)をジャスダック市場向けに公表した(甲7)。
(4) 株式会社ニレコ新株予約権発行要項の概要
ア 新株予約権発行の目的(1項)
債務者は,債務者に対する濫用的な買収等によって債務者の企業価値が害されることを未然に防止し,債務者に対する買収等の提案がなされた場合に,債務者の企業価値の最大化を達成するための合理的な手段として用いることを目的として,本発行要項に定める新株予約権を発行する。
イ 割当日及び割当方法(3項)
平成17年3月31日最終の株主名簿又は実質株主名簿に記載又は記録された株主に対し,その所有株式(債務者の有する普通株式を除く。)1株につき2個の割合で新株予約権を割り当てる。
なお,新株予約権の割当基準日(権利確定日)である平成17年3月31日の株主名簿に株主として登載されるためには,基準日から起算して4営業日前までに株式を購入する必要があり,本件では,同月25日の金曜日までに債務者株式を購入しなければ本件新株予約権の割当てを受けることができない(3月25日を「権利付け最終日」といい,その翌々日の3月28日(月曜日)を「権利落ち日」という。なお,3月25日は債務者の平成17年3月期末配当の権利付け最終日,3月28日は権利落ち日でもある。)(乙49)。
ウ 発行する新株予約権の総数(4項)
平成17年3月31日の発行済株式数(ただし,債務者の有する債務者普通株式の数を除く。)に2を乗じた数を上限とする。なお,新株予約権1個当たりの目的となる株式の数は1株とする。
エ 各新株予約権の発行価額(5項)
無償とする。
オ 新株予約権の発行日(7項)
平成17年6月16日
カ 各新株予約権の行使に際して払込みをなすべき額(9項)
各新株予約権の行使に際して払込みをなすべき額(以下「払込価額」という。)は1円とする。
キ 新株予約権の行使期間(11項)
平成17年6月16日から平成20年6月16日までとする。
ク 新株予約権の行使の条件(12項)
新株予約権者が新株予約権を行使することができるのは,平成17年4月1日から平成20年6月16日までの間に手続開始要件が満たされた場合でなければない。
手続開始要件は,特定株式保有者の存在を債務者の取締役会が認識し,公表したことである。
特定株式保有者とは,公開買付者等であって,その者及びその者と一定の関係にある者が,債務者の発行済議決権付株式総数の20パーセント以上を保有する場合の当該保有者をいう。
新株予約権の行使は,新株予約権の割当てを受けた者が,その割当てを受けた新株予約権についてのみ行える。
ケ 新株予約権の消却事由及び消却の条件(13項)
�@ 債務者は,手続開始要件が成就するまでの間,取締役会が企業価値の最大化のために必要があると認めたときは,取締役会の決議をもって新株予約権の発行日以降において取締役会の定める日に,新株予約権の全部を一斉に無償で消却することができる。
�A 債務者は,手続開始要件が成就するまでの間,取締役会が上記アに定める目的を達成するための新たな制度の導入に際して必要があると認めたときは,取締役会の決議をもって新株予約権の発行日以降において取締役会の定める日に,新株予約権の全部を一斉に無償で消却することができる。
�B なお,消却事由及び消却条件は,あらかじめ株主に開示される。
コ 新株予約権の譲渡制限(14項)
新株予約権の譲渡については,債務者の取締役会の承認を要する。ただし,債務者の取締役会は,譲渡の承認を行わない。
(5) 新株予約権の消却に関するガイドライン(平成17年3月14日付け)
債務者取締役会は,本件新株予約権の消却等の是非について判断する際の指針として,平成17年3月14日付け新株予約権の消却等に関するガイドライン(乙11。以下「旧ガイドライン」という。)を定めた。
これによると,取締役会は,債務者の事業計画その他の資料等に基づいて算出される債務者の発行済株式の正当な価値に関する事項,買収者等による買収が債務者の少数株主に与える影響に関する事項,買収者等による買収提案の内容に関する事項等,ガイドラインの定める考慮すべき事項を合理的範囲内において十分考慮した上で,企業価値の最大化を実現することができるように,本件新株予約権の無償消却をする又は無償消却をしないという取締役会における決議を行うものとする(2条),取締役会決議に際しては,特別委員会による勧告を最大限尊重する(3条),特別委員会は,債務者の代表取締役社長及び債務者取締役会が指名した本件新株予約権の消却等につき利害関係のない弁護士,公認会計士又は学識経験者から2名の合計3名の委員で組織されるものとする(4条)旨が定められている。4条に基づき,債務者の代表取締役社長,弁護士1名及び大学助教授1名が特別委員会の委員に指名された。
(6) 新株予約権の消却等に関するガイドライン(平成17年5月20日け)
債務者取締役会は,平成17年5月20日開催の取締役会において,旧ガイドラインを改正し,同日付け新株予約権の消却等に関するガイドライン(乙46の1,2以下「新ガイドライン」という。)を策定し,これを公表し(乙48),株主に対し通知書をもって知らせた(乙47)。
その主な改正点は,概略は次のとおりである。
ア 手続開始要件が成就した時点の明確化(2条)
発行要項12項(1)�J(上記(4)ク)の「公表した」ことの意義につき,特定株式保有者が債務者の発行済議決権付株式総数の20パーセント以上を取得したことを債務者取締役会が認識した後遅滞なく,債務者取締役会の決議に基づき,ジャスダックの定める適時開示規則所定の開示の方法に従い,その旨を開示し,かつ,債務者ホームページ上に掲載した上で,これらを行った日から2週間が経過した日以後の日で債務者取締役会が定める日に,当該ある者が当社の発行済議決権付株式総数の20パーセント以上を取得した旨の公告を行ったことをいうものとした。
イ 債務者取締役会が本件新株予約権を消却しない旨の決議を行うことができる場合の明確化(3条4項)
債務者取締役会は,企業価値最大化のために必要があると認めず,本件新株予約権を一斉に無償で消却しない旨を決議する場合は,原則として,次の各号に定める場合に限り行うことができる旨を明確化した。
�@ 買収者等が,真に債務者の経営に参加する意思がないにもかかわらず,株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で債務者の株式の取得ないし買収提案を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)
�A 買収者等が,債務者の事業経営上必要な知的財産権,ノウハウ,企業秘密情報,主要取引先や顧客等を当該買収者等やそのグループ会社等に移譲させるなど,いわゆる焦土化経営を行う目的で債務者の株式の取得ないし買収提案を行っている場合
�B 買収者等が,債務者の資産を当該買収者等やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で債務者の株式の取得ないし買収提案を行っている場合
�C 買収者等が,債務者の資産等の売却処分等による利益をもって一時的な高額の株主還元(略)をさせるか,あるいは一時的な高額の株主還元等による株価上昇に際して買収株式の高値売り抜けをする目的で,債務者の株式の取得ないし買収提案を行っている場合
�D その他,買収者等が債務者の経営を支配した場合に,債務者株主,取引先,顧客,地域社会,従業員その他の債務者の利害関係者を含む債務者グループの企業価値が毀損される虞があることが明らかな場合など,債務者取締役会が,本件新株予約権を一斉に無償で消却しない旨の取締役会決議を行うことを正当化する特段の事情がある場合
ウ 特別委員会の委員の一部変更(5条1項)
特別委員会は,債務者及び本件新株予約権の消却等につき利害関係のない有識者,弁護士又は公認会計士2名以上3名以内の委員で組織されるものとし,債務者代表取締役社長に替えて,弁護士を委員に指名した。
エ 取締役会は例外的な場合を除き特別委員会による勧告に従って本件新株予約権の消却等について決議を行うこと(4条1項)
債務者取締役会は,本件新株予約権の消却等について決議を行うに際し,特別委員会による勧告を最大限尊重し,特別委員会による勧告に従うことによって債務者の企業価値が毀損されることが明らかである場合を除き,特別委員会による勧告に従って取締役会決議を行うことを明確化した。
オ ガイドラインの改正を行った場合の改正内容の開示(8条)
特別委員会の委員全員から同意を得た場合に限り,取締役会決議をもって,ガイドラインの改正を行うことができるものとし,ガイドラインを改正する旨の決議を行った場合,債務者取締役会は,遅滞なくガイドラインの改正内容を適時開示しなければならないものとした。
(7) 本件新株予約権の引受けの申込み
債権者は,平成17年5月13日,債権者の株式数を28万6000株として,1株につき2個割り当てられた57万個全部について,本件新株予約権の引受けの申込みをした(乙43,44)。
(8) 本件新株予約権行使の効果
本件新株予約権につき行使要件が具備し,全部について無償消却されることなく,新株予約権者の予約権の行使に基づき新株が発行されると,本件新株予約権は,割当基準日である平成17年3月31日現在の株主名簿に記載された株主に対し,その所有株式1株につき2株の割合で発行されることになるから,割当基準日以降に債務者株式を取得した株主の株式の持株比率は約3分の1に希釈されることになる。
例えば,平成17年3月31日現在において債務者の発行済株式総数の5%を保有していた株主が,その後併せて発行済株式総数の20パーセントの株式を保有するに至ったとしても,本件新株予約権が行使されて新株が発行されると,当該株主の保有する株式の持株比率は,債務者の発行済株式総数の約10%にまで希釈されることになる(債務者の自己株式保有割合が平成16年9月30日現在の数値である10.14%であること(甲3)を前提とする。以下同じ。)。
概算による算定式(15+15)÷(100+89.86×2)=10.72
また,平成17年3月31日現在において株主ではなかった者がその後発行済株式総数の20%の株式を保有するに至った場合には,本件新株予約権が行使されて新株が発行されると,その持株比率は約7%にまで希釈される。
概算による算定式20÷(100+89.86×2)=7.15
(9) 本件プラン導入前後の債務者株式の取引の状況
ア 債務者株式の1株当たりの株価(各取引日の終値)の推移でみると,平成13年中は高値652円,安値500円,平成14年中は高値610円,安値352円,平成15年中は高値500円,安値370円で取引されていたが,その後,人員削減効果等経費削減効果による収益改善が進み,平成16年1月に安値475円を付けた後,株価は上昇し12月に高値870円を付けた。平成17年2月10日から本件プランが発表された同年3月14日までの約1か月間は807円から900円(その間の日経平均は1万1500円前後から1万1966円)程度で推移していた。平均的には概ね825円から840円程度で推移しており,本件プランが発表された同年3月14日は843円であった。しかし,翌日の同月15日には,943円に株価が急騰し,同月16日には1043円に,同月17日には1124円となったものの,その後株価は急速に下落して,権利付け最終日(新株予約権,配当双方)の同月25日の終値は935円,権利落ち日(前同)の同月28日には929円,同年4月1日には785円,同月5日には848円となった。その後も,株価は800円前後で推移し,本件申立てがなされた同年5月9日は839円,同月24日は801円,原審仮処分決定がされた日の翌日の同年6月3日は800円,原審異議決定の翌日である同月10日は高値823円,安値803円(いずれもざら場での取引)となっており,権利落ち日である同年3月28日の929円から見れば,それ以降,債務者の株価の終値は顕著な下落傾向を示してはいるが,直近1年間の株価の推移からみれば,同年4月以降の株価水準は必ずしも低いとはいえない(甲62,94,乙45の1,3,乙121の1ないし6,顕著な事実)。
他方で,平成17年1月1日から同年5月20日までの間の債務者株式の株価の25日移動平均値をみると,本件プランが公表された同年3月14日以降一時的に,敵対的買収劇による株価高騰を期待したと推測できる思惑買いによる株価の急騰の影響が見られたものの,総じて若干の下降傾向を示していて,同月28日の権利落ち日以降は,その下落傾向が多少強まっている(甲48)。
また,平成17年2月1日から同年5月17日までの間を3期間(�@2月14日から3月14日,�A3月15日から3月31日,�B4月1日から5月17日)に分割し,各期間における債務者株式の株価の加重平均価格(総売買代金÷出来高)をみると,�Bの期間の加重平均価格は�@の期間のそれと比較して下落している(甲49)。
イ 債務者株式の出来高についてみると,平成17年2月10日から同年3月14日までの約1か月間における一日の出来高はゼロから2万2000株の間にあり,出来高ゼロ(値つかず)の日が相当日数あった。本件プランが発表された後,同月17日から同月23日ころにかけて,上記の思惑買いが入り一時的に出来高が急増し,同月17日には出来高が12万2000株となった。しかし,その後は,権利付け最終日である同年3月25日の出来高は1万9000株,同年4月1日は1万1000株と多かったものの,それ以後,1万株を超える取引はなく,一日の出来高はゼロから9000株の間で推移し,本件申立てがされた同年5月9日は出来高4000株,同年5月24日の出来高はゼロであった。また,債務者株式はもともと出来高の少ない株式であり,権利落ち日である同年3月28日を経過した後も,その出来高が顕著に減少したものということはできない(甲62,94,乙45の1,3)。
ウ 債務者株式の保有者の過去の変動状況等について調査した結果によれば,自己株式取得分,自己株式消却分,本件債権者の購入分及び株式持合分を除くと,過去3年間に株式保有者の変動があった株式数は発行済株式総数の約8ないし13%にすぎない(乙50,51)。
(10) 本件プラン導入前後の市場関係者等の反応
ア 株式会社東京証券取引所は,平成17年4月21日,同取引所上場会社に対して,敵対的買収防衛策の導入に際しての投資者保護上の留意事項を通知したが,その中で,「例えば,買収者が現れたことを行使の条件とする新株予約権を利用した防衛策(ライツプラン)のうち,新株予約権を防衛策導入時点の株主等に割り当てておくといったスキーム(実質的に防衛策発動時点の株主に割り当てるために,導入時点において暫定的に特定の者に割り当てておくような場合を除く)では,防衛策が実際に発動されると,新株予約権を保有していない株主(割当日後に株主になった者)は,買収者以外の株主であっても,保有している株式の希釈化による著しい損失を被る可能性があります。また,実際に発動されないまでも,発動が懸念される状況が生じた際には,株式の価格形成が極めて不安定になることが想定されます。このように買収者以外の株主・投資者に不測の損害を与える要因を含む防衛策の導入は,市場の混乱を招くものであり投資者保護上適当でないと考えます。」との見解を示した。(甲15)
イ ジャスダックも,同日,ジャスダック市場上場会社に対し,上記イと同様の留意事項を通知した。(甲16)
ウ 経済産業省・法務省も,前記「買収防衛策に関する指針」において,新株予約権を無償で付与する仕組みについて,「買収防衛策は,買収が開始された後に発動され,そこではじめて法的効力を具体化させて買収を防衛することができれば目的を達するのであって,買収が開始されていないにもかかわらず,新株予約権等の発行と同時に,株主に過度の財産上の損害を生じさせるような場合には,著しく不公正な方法による発行に当たる可能性が高い。」としている。また,買収の開始を条件として新株予約権を割り当てる旨,買収の開始前に決議したり,事前に開示しておくという方法を採らずに,買収の開始前の一定の日を基準日として,買収の開始を新株発行の行使条件とするような新株予約権を全株主にあらかじめ割り当てておくような場合には,買収者を含め,基準日以降に株式を取得する全ての株主に対して不測の損害を与える可能性がある。さらに,基準日時点の株主は,その保有する株式の価値が著しく低下するおそれがあり,かつ,新株予約権が譲渡できない場合には,当該価値下落分を新株売却によって回収する途が奪われることになるので,一般株主に不測の損害を与えることになる旨をも指摘している。(甲69)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,債務者による本件新株予約権の発行は,商法280条の39第4項,280条の10に規定する「著シク不公正ナル方法」によるものであり,これを事前に差し止める必要性があると考えるので,債権者の本件仮処分申請は認容すべきものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
2 本件新株予約権の発行は著しく不公正な方法によるものか
(1) 新株予約権の発行
ア 発行権限等
取締役会は,株主割当ての方法で新株予約権を発行し(商法280条ノ20第2項12号),また,新株予約権に譲渡制限を付する(同条同項8号)権限を有している。そして,新株予約権の権利内容(行使期間,権利行使の条件,消却の事由・条件)や利用方法について,商法上特段の制限は加えられていない。したがって,濫用的な敵対的買収に対する防衛策として,新株予約権を活用することも考えられないではない。
イ 本件プランの目的
本件プランは,前記認定のように,平成17年3月31日現在の株主名簿上の株主に対し,1株につき2個の新株予約権を無償で付与し,その後,債務者の発行済議決権付株式総数の20パーセント以上に相当する数の議決権付株式を保有する者が生じた場合に,取締役会が企業価値の最大化のために新株予約権の消却が必要であると認めないときは,新株予約権を消却しない旨の決議をし,本件新株予約権が行使され,新株予約権1個につき1円を払い込むことにより債務者の議決権付株式1株が発行されることが予定されているものであり,これにより平成17年3月31日(正確には同月25日の権利付け最終日)以降,債務者の株式を取得した敵対的買収者(本件プランにいう特定株式保有者)が出現し,この者によって債務者の経営権を争奪される危険が生じた場合には,敵対買収者の有する議決権付株式の発行済株式総数に対する保有割合を希釈して,その議決権の数を相対的に減少し,現在の経営者ないしこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の債務者に対する経営支配権を維持することを目的として企画・設計された,いわゆるポイズン・ピルといわれる企業防衛策である。
そして,本件プランによれば,例えば,平成17年3月31日現在において株主でなかった者が,その後,発行済株式総数の20パーセントの株式を保有するに至った場合に,本件プランに従って新株予約権が行使されて新株が発行された場合には,その保有割合は約7%程度に希釈されることになり,債務者の経営支配権に及ぼす影響力は一気に低下することになる。
したがって,本件プランが,債務者の主張するように,本件新株予約権の付与制度によって,買収者をその買収実施前に一時停止させて,取締役会と買収条件等につき真摯に交渉することを動機づけ,買収者に交渉機会確保措置を講じさせる予防的機能を有することは一応認められる。
しかし,濫用的な買収から企業を防衛するために新株予約権を行使させ特定株主の持株比率を低下させることは,とりもなおさずその時点における経営者又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持・確保することになるものであり,その上,上記説示のような本件新株予約権行使の要件や効果からすると,債務者における既存の取締役会ないしその支持株主の経営権を維持確保することも重要な目的となっていることは否定できないところである。
ウ 本件プランの問題点
取締役は会社の所有者である株主と信認関係にあるから,上記権限の行使に当たっても,株主に対しいわれのない不利益を与えないようにすべき責務を負うものと解される。
ところが,本件新株予約権は,その発行価額を無償,権利行使価格を1円とし,しかも,大量に発行されるものであって,次のとおり買収と無関係な株主が不利益を受けるおそれがあるものである。
(2) 買収と無関係な株主に生ずる損害
本件新株予約権は,前記認定のとおり,平成17年3月31日時点の株主に対して無償で1株につき2個を割り当て,新株予約権の行使の要件が充たされたときには,1個当たり1円というほとんど無償に近い価額で債務者の株式1株を取得することができる権利であり,株式分割と同様に会社資産に増加がないのに発行済株式総数だけが3倍に増加するという効果を生じさせるものである。したがって,将来,新株予約権が消却されることなく,現実にこれが行使されて新株が発行されたときには,債務者の株式の価額は,理論的にはその時点で時価の3分の1程度に下落する可能性が存在する(もっとも,現実の株価水準は,債務者の業績,将来性,将来の本件新株予約権消却の可能性,敵対的買収者出現の可能性等の様々な要因を織り込んで推移するものであるから,将来の一時点で株価が一気に3分の1に下落すると断定することはできないものの,相当程度大幅な下落の可能性を否定することはできない。)。
したがって,新株予約権の権利落ち日(平成17年3月28日)以後に債務者の株式を取得した株主は,平成20年6月16日までの間に本件新株予約権が消却されずに,新株予約権が行使され新株が発行されたときには,当該株主が濫用的な買収者であるかどうかにかかわらず,債務者株式の持株比率が約3分の1程度に希釈されるという危険を負担し続けることになる。そして,本件プランによれば,新株予約権の行使の要件が将来充足される事態が発生するか否か,いかなる時点において充足されることになるのかは予測不能であるから,その確率がかなり低いものであるとしても,いずれの日にか上記の新株予約権が行使されて債務者株式の持株比率が約3分の1にまで希釈され,株価が大きく値下がりするという危険性を軽視することはできない。また,そのような事情が,今後約3年間にわたって株式市場における債務者株式の株価の上昇に対し,上値を抑える強力な下げ圧力として作用することも否定できない。
そうすると,上記のような不安定要因を抱えた債務者株式(その上,本件新株予約権がその適切な対価を払い込むことなく無償交付されるため,その価値に相当する分だけ価値が低下している。)は投資対象としての魅力に欠ける,買い意欲をそそられない株式となり,購入を手控える傾向が高まるものと考えられ,その結果,当該株式の株価が長期にわたって低迷する可能性の高いことが想定されるところである。そして,そのことは,新株予約権を取得した既存株主にとっても,株価値下がりの危険のほか,長期にわたってキャピタルゲインを獲得する機会を失うという危険を負担するものであり,このような不利益は,本件新株予約権の発行がなければ生じ得なかったであろう不測の損害というべきである。
債権者を含む既存株主にとっては,将来,敵対的買収者(特定株式保有者)が出現し,新株予約権が行使され新株が発行された場合には,その取得する新株によって,株価の値下がり等による不利益を回復できるという担保はあるものの,既存株主としても,本件新株予約権の譲渡が禁止されているため,敵対的買収者が出現して新株が発行されない限りは,新株予約権を譲渡することにより,上記のような株価低迷に対する損失をてん補する手立てはないから,既存株主が被る上記のような損害を否定することはできない。このような損害は,敵対的買収者以外の一般投資家である既存株主が受忍しなければならない損害であるということはできない。
これに対して,債務者は,本件プランが公表され,新株予約権の割当基準日である平成17年3月31日以降も,債務者の株価が下落したという事実は認められず,債務者の株式が投資対象としての魅力の乏しいものとなったというような事実は存在せず,既存株主に上記のような損害は発生していないと主張する。
確かに,債務者の指摘するとおり,直近1年間の債務者の株価の推移からみれば,平成17年4月以降の株価水準は必ずしも低い水準であるとはいえないし,出来高が従前と比較して顕著に減少した事実も認められないことは前記認定のとおりである。しかしながら,本件プランの内容は複雑であり,短期間のうちに一般投資家に広く理解されるようになっているとは言い難い上,原審仮処分命令が発令され,とりあえず,本件新株予約権の発行が停止されているという現状を考慮すれば,現時点で,株価の顕著な低落傾向を認めることができないとしても(実際には,前示のように,株価は,本件事案の結末を見守りながら,若干の低下傾向を示している。),債務者の指摘する事実をもって,上記認定が左右されるものということはできない。
ちなみに,本件新株予約権の発行によって,将来出現する可能性のある買収者をその買収実施前に一時停止させて取締役会と買収条件等につき真摯に交渉することを動機づける効果があり,それによって買収者が提示する株式の買い付け価格が上昇し,買収時に株主が得るプレミアムが上昇する可能性があるとしても,その利益を具体的に疎明する資料はなく,また,債務者の取締役会が,上記のような損害と買収プレミアム引上げ効果等による債務者の総株主の利益とを比較衡量した上,本件新株予約権の発行を決定したことをうかがわせる資料もない。むしろ,前記認定のように,当事者双方と特段の利害関係がないと考えられる東京証券取引所やジャスダックが,実際に発動されないまでも,発動が懸念される状況が生じた際には,株式の価格形成が極めて不安定になることが想定され,このように買収者以外の株主・投資者に不測の損害を与える要因を含む防衛策の導入は市場の混乱を招くものであり投資者保護上適当でないとの見解を示し,また,経済産業省・法務省も,既存株主の保有する株式の価値が著しく低下するおそれがあり,かつ,新株予約権が譲渡できない場合には,当該価値下落分を新株売却によって回収する途が奪われることになるので,一般株主に不測の損害を与えることになる旨を指摘していたのであるから,債務者としては,本件新株予約権の発行手続に入るに先立ち,損害発生の可能性やそれを上回るプレミアムの発生等について,十分に検討してしかるべきであると考えられるが,そのような検討ないしその結果についての何らの言及も疎明もない。
(3) そうすると,本件新株予約権の発行は,既存株主に受忍させるべきでない損害が生じるおそれがあるから,著しく不公正な方法によるものというべきであり,しかも,上記のとおり債権者が本件新株予約権の発行によって不利益を受けるおそれがあることも明らかである。
3 保全の必要性について
本件新株予約権が発行されれば,上記2(2)に説示したとおり,将来現実に新株予約権が行使されて新株が発行された場合には,既存株主の持株比率が大幅に減少し,かつ,株価が著しく低下するという不測の危険性が発生し,債務者株式が株式市場における投資対象としては敬遠され,株価が長期にわたって低迷する可能性が高く,その結果,既存株主にとっては,本件新株予約権の発行がなければ生じなかったであろう不測の損害を被るものといえるから,既存株主の一人である債権者が,事前に本件新株予約権の発行を差し止めることにつき保全の現実の必要性を有することは明らかである。
債務者は,本件新株予約権については,その行使段階である新株発行の差止めの可否という形での司法審査によれば足り,本件新株予約権の発行自体を差し止める必要性はないと主張するが,本件新株予約権の発行自体によって,上記のような不測の損害が生ずると認められるのであるから,新株予約権の行使段階における新株発行差止めという方法によっては,このような損害を回避することができないことは明らかであって,債務者の主張は理由がない。
また,債務者は,債権者の主張する損害は,事後の損害賠償によっては償えないような損害とはいえないから,事後的に債務者ないし債務者の取締役に対して損害賠償を請求することによって償われるものであって,保全の必要性はないと主張する。しかし,商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10は,明確に株主が会社に対し新株予約権の発行の差止を求めることができる旨を規定している。ところが,当該差止めを求める新株予約権が発行されてしまうと,その差止めを求める訴えは不適法となり,新株予約権発行差止請求権を行使する余地がなくなるところ,本案訴訟で差止めを求めるのでは,通常その時機を失してしまうことになり,実体上認められた請求権が画餅に帰することになる。このような本件差止請求権の性質からいって,債務者主張のような事後の損害賠償の余地があっても,保全の必要性を肯定するのが相当である。なお,本件における債権者は,機関投資家から調達した資金を,日本の上場企業の株式等に投資することを主たる目的とする会社であるから,債権者の取得した大量の債務者株式が,株式市場において低迷し,本件新株予約権の発行がなければ得られたであろうキャピタルゲインを失う可能性があり,そういう事態となれば債権者は機関投資家からの信頼を失うことにもなりかねず,その場合の損害は必ずしも事後的な損害賠償によって償われるものということはできないから,その意味でも,債権者にとっては保全の必要性があると解すべきである。
4 結論
以上のとおりであって,債務者による本件新株予約権の発行は,債務者に対する濫用的な買収を未然に防止するという目的で設計された制度に基づき行われたものであり,敵対的買収者が現れた場合など一定の場合に取締役会が本件新株予約権を消却しない旨の決議を行うことができるとして,現実の新株発行手続が一定の制限に服することを定めるものではあるが,本件新株予約権が行使され新株が発行された場合には,債権者を含めた既存株主が予測し難い損害を被るものであるから,債務者の取締役会に与えられている権限を逸脱してなされた著しく不公正な方法によるものといわざるを得ない。
そうすると,債権者がした本件仮処分命令の申立ては理由があるから,これを認容した東京地方裁判所の平成17年6月1日付け原審仮処分決定及びこれを認可した同裁判所同月9日付けの原審仮処分認可決定はいずれも正当である。
よって,本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。
平成17年6月15日
   東京高等裁判所第15民事部

        裁判長裁判官  赤   塚   信   雄

           裁判官  小   林       崇

           裁判官  古 久 保   正   人

|

« 特定非営利活動促進法 | トップページ | 祝:おめでとう »

裁判例」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/219649/40134617

この記事へのトラックバック一覧です: H17. 6.15 東京高等裁判所 平成17年(ラ)第942号 新株予約権発行差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告:

« 特定非営利活動促進法 | トップページ | 祝:おめでとう »