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2005.06.18

平成17年04月26日 第三小法廷判決 平成16年(行ツ)第178号 差押処分無効確認等請求事件

判例 平成17年04月26日 第三小法廷判決 平成16年(行ツ)第178号 差押処分無効確認等請求事件
要旨:
 農業災害補償法(平成11年法律第69号による改正前のもの)が定める水稲等の耕作の業務を営む者と農業共済組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組
み(当然加入制)は憲法22条1項に違反しない

内容:  件名 差押処分無効確認等請求事件 (最高裁判所 平成16年(行ツ)第178号 平成17年04月26日 第三小法廷判決 棄却)
 原審 札幌高等裁判所 (平成15年(行コ)第5号)

            

主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

第1 事案の概要
 1 本件は,上告人が被上告人に対し,被上告人が農業災害補償法(平成15年法律第91号による改正前のもの)87条の2に基づき滞納処分としてした本件差押えの無効確認又は取消しを求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 農業災害補償法(平成11年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)は,農業者が不慮の事故によって受けることのある損失を補てんして農業経営の安定を図り,農業生産力の発展に資することを目的として,農業共済組合等の行う共済事業,農業共済組合連合会の行う保険事業及び政府の行う再保険事業から成る農業災害補償を行うものとしている(法1条,2条)。農業共済組合は,1又は2以上の市町村の区域に設けられ,共済事業として,水稲等についての農作物共済等を行う(法5条,83条,84条)。農業共済組合の区域内に住所を有する水稲等の耕作の業務を営む者で,その耕作面積が一定の規模以上のものは,当該組合の組合員たる資格を有し,その組合員とされ,組合員たる資格の喪失,死亡などの事由がない限り,任意に組合から脱退することができない(法15条1項,16条1項,19条)。上記の資格を有する組合員と農業共済組合との間では,農作物共済の共済関係が当然に成立し(法104条1項),組合員は,定額の共済掛金の支払義務を負担し,事務費を賦課される(法86条,87条)。組合員が支払うべき農作物共済の共済掛金の額は,農業共済組合が定款で定める共済金額(法106条)及び農作物共済掛金率(法107条)によって算出される。国庫は,水稲等の農作物共済に関して組合員の支払うべき共済掛金のうち,2分の1に相当する金額を負担する(法12条1項)。農業共済組合は,水稲等につき,風水害,干害,冷害,雪害その他気象上の原因による災害,火災,病虫害及び鳥獣害によって生じた損害について,組合員に対して農作物共済の共済金を交付する(法84条1項1号)。農業共済組合連合会は,農業共済組合等が共済事業によって負う共済責任を相互に保険する事業を行う(法121条1項)。政府は,農業共済組合連合会が保険事業によって負う保険責任を再保険する(法133条)。
 (2) 上告人は,被上告人の区域内で水稲耕作の業務を営む者であり,被上告人の組合員の資格を有し,被上告人の組合員とされており,上告人と被上告人との間には農作物共済の共済関係が成立している。上告人は,平成9年ないし11年産の水稲に係る農作物共済の共済掛金及び事務費賦課金を支払わなかった。
 被上告人は,上告人が支払うべき共済掛金等を,平成9年産については58万3579円,同10年産については24万8193円,同11年産については44万6278円とそれぞれ算定し,同12年9月8日及び11月1日に,上告人の上記共済掛金等に係る滞納処分として,法所定の手続に従い,上告人の有する金融機関に対する預金払戻請求権について本件差押えをした。
第2 上告代理人房川樹芳の上告理由第2のうち憲法22条1項違反をいう部分について
 法が,水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面積が一定の規模以上のものは農業共済組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組み(法15条1項,16条1項,19条,104条1項。以下「当然加入制」という。)を採用した趣旨は,国民の主食である米の生産を確保するとともに,水稲等の耕作をする自作農の経営を保護することを目的とし,この目的を実現するため,農家の相互扶助の精神を基礎として,災害による損失を相互に分担するという保険類似の手法を採用することとし,被災する可能性のある農家をなるべく多く加入させて危険の有効な分散を図るとともに,危険の高い者のみが加入するという事態を防止するため,原則として全国の米作農家を加入させたところにあると解される。法が制定された昭和22年当時,食糧事情が著しくひっ迫していた一方で,農地改革に伴い多数の自作農が創設され,農業経営の安定が要請されていたところ,当然加入制は,もとより職業の遂行それ自体を禁止するものではなく,職業活動に付随して,その規模等に応じて一定の負担を課するという態様の規制であること,組合員が支払うべき共済掛金については,国庫がその一部を負担し,災害が発生した場合に支払われる共済金との均衡を欠くことのないように設計されていること,甚大な災害が生じた場合でも政府による再保険等により共済金の支払が確保されていることに照らすと,主食である米の生産者についての当然加入制は,米の安定供給と米作農家の経営の保護という重要な公共の利益に資するものであって,その必要性と合理性を有していたということができる。
 もっとも,その後,社会経済の状況の変化に伴い,米の供給が過剰となったことから生産調整が行われ,また,政府が米穀管理基本計画に基づいて生産者から米を買い上げることを定めていた食糧管理法は平成7年に廃止されるに至っている。しかしながら,上告人が本件差押えに係る共済掛金等の支払義務を負った当時においても,米は依然として我が国の主食としての役割を果たし,重要な農作物としての地位を占めており,その生産過程は自然条件に左右されやすく,時には冷害等により広範囲にわたって甚大な被害が生じ,国民への供給不足を来すことがあり得ることには変わりがないこと,また,食糧管理法に代わり制定された主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成15年法律第103号による改正前のもの)は,主要食糧の需給及び価格の安定を図ることを目的として,米穀の生産者から消費者までの計画的な流通を確保するための措置等を講ずることを定めており,災害補償につき個々の生産者の自助にゆだねるべき状態に至っていたということはできないことを勘案すれば,米の生産者についての当然加入制はその必要性と合理性を失うに至っていたとまではいえないと解すべきである。
 このように,上記の当然加入制の採用は,公共の福祉に合致する目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまる措置ということができ,立法府の政策的,技術的な
裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認め難い。したがって,上記の当然加入制を定める法の規定は,職業の自由を侵害するものとして憲法22条1項に違反するということはできない。
 以上は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和30年(オ)第478号同33年2月12日判決・民集12巻2号190頁,最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違憲はない。論旨は採用することができない。
第3 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)

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