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2005.09.13

最高裁判所判例 平成17年09月13日 第三小法廷判決 平成14年(行ヒ)第72号 審決取消請求事件

判例 平成17年09月13日 第三小法廷判決 平成14年(行ヒ)第72号 審決取消請求事件
要旨: 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成9年法律第87号による改正前のもの)7条の2第1項所定の売上額は事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値をいう

内容:  件名 審決取消請求事件 (最高裁判所 平成14年(行ヒ)第72号 平成17年09月13日 第三小法廷判決 破棄自判)
 原審 東京高等裁判所 (平成12年(行ケ)第228号、233号)

主    文
原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人らの請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人鈴木亨ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成9年法律第87号による改正前のもの。以下「独禁法」という。)8条1項1号の規定に違反する営業保険料率に関するカルテル行為がされたとして,公正取引委員会平成10年(判)第4ないし第24号課徴金納付命令審判事件において上告人が被上告人らに対しそれぞれ平成12年6月2日付けでした各審決(以下「本件審決」という。)について,被上告人らが上告人に対し,本件審決のうち原判決別表3の「原告ら主張の課徴金額(1)」欄記載の金額又は「原告ら主張の課徴金額(2)」欄記載の金額を超えて課徴金の納付を命ずる部分の取消しを請求した事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 独禁法8条の3において準用する独禁法7条の2の規定によると,独禁法2条2項にいう事業者団体が一定の取引分野における競争を実質的に制限し,それが商品又は役務の対価に係るものであるときは,公正取引委員会は,事業者団体の構成事業者に対し,実行期間における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100分の6等の所定の割合を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。そして,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独禁法施行令」という。)5条は,売上額の算定の方法は,カルテルの実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法とすると定めている。
 (2) 機械保険事業の免許を受けた者を会員とし,独禁法2条2項にいう事業者団体に該当する日本機械保険連盟(以下「連盟」という。)は,平成5年3月7日から同8年3月6日までの間(以下「本件実行期間」という。)において,会員の損害保険会社が機械保険及び組立保険(以下「機械保険等」という。)の引受けをする際の保険料率を連盟が決める一定の保険料率によることとさせた。
 (3) 上告人は,連盟の上記行為が,機械保険等の引受けの取引分野における競争を実質的に制限し,独禁法8条1項1号の規定に違反する営業保険料率に関するカルテル行為であるとして,連盟に対し,平成9年2月5日付けで独禁法48条4項の規定に基づく勧告審決をし,さらに,独禁法8条の3の規定に基づき,連盟の会員である被上告人らに対し,同12年6月2日付けで総額54億4976万円の課徴金の納付を命ずる本件審決をした。
 (4) 損害保険会社が保険契約者から収受する保険料は,一般に営業保険料と呼ばれている。この営業保険料は,純保険料と付加保険料とに分けられる。純保険料は,営業保険料のうち将来の保険金の支払に充てられると見込まれるもので,その額は,営業保険料に予定損害率を乗じて得られた額である。また,付加保険料は,営業保険料のうち純保険料以外のもの,すなわち損害保険代理店に支払われる手数料,損害保険会社の経営に必要な経費及び利潤となるべきもので,その額は,営業保険料に予定事業費率を乗じて得られた額である。損害保険会社の会計処理上,収受した営業保険料は収益項目に計上され,支払った保険金は費用項目に計上されている。
 (5) 本件審決は,機械保険等の引受けという役務の対価は営業保険料の全額であるとして,被上告人らが本件実行期間中に収受した営業保険料を合計した額を売上額とし,これに100分の6(ただし,被上告人大同火災海上保険株式会社については,独禁法7条の2第2項の規定により100分の3)を乗じて得た額の課徴金の納付を命じたものである。
 (6) これに対し,被上告人らは,本件において課徴金の額を算定する基礎となる役務の対価は,被上告人らが本件実行期間中に収受した営業保険料の合計額から純保険料又は実際に保険金の支払に充てられた部分の額等を控除した残額であると主張して,本件審決の一部取消しを請求した。
 3 原審は,本件審決のうち原判決別表4の「原告ら主張の支払保険金を控除した場合の課徴金額」欄記載の金額を超えて課徴金の納付を命ずる部分を取り消した。原審の判断の要旨は,次のとおりである。
 (1) 課徴金制度が制裁的色彩を伴っているものであることは否定できないが,課徴金制度の基本的性格はあくまでもカルテルによる経済的利得のはく奪にあるから,役務とその対価を把握するに当たっては,可能な範囲では課徴金の額が経済的に不当な利得の額に近づくような解釈を採るべきである。そして,当該役務の把握に当たっては,まず当該事業活動の経済的性質や実態の分析を行う必要がある。
 (2) 保険契約者は,保険契約に基づき,損害保険会社(保険者)に対して,営業保険料を支払う。損害保険会社は,多数の保険契約者から営業保険料を集め,その一部(純保険料部分)から基金を形成した上,被保険者の中で実際に事故に遭遇した者が現れた場合には,保険契約に基づき,同被保険者に対し基金から保険金を支払う。保険金の支払も,機械保険等の引受けという役務の一部を成している。そうすると,営業保険料のうち保険金の支払に充てられた部分は,保険団体を形成する多数の保険契約者から集められ,当初の保険契約に基づき,保険団体の構成員で事故に遭遇した保険契約者又はその指定する被保険者に還元されるもので,経済的には保険団体内部での資金の移動とみるべきものである。そして,この資金の移動を円滑適正に行うということこそが,機械保険等の引受けという損害保険会社の役務の中心となるものというべきである。
 したがって,営業保険料のうち保険金の支払に充てられた部分は,基金に留保され,保険団体内部での資金移動に供せられるだけのものであるから,前記役務に対する経済的な反対給付,すなわち対価とみることはできない。保険団体を構成する多数の保険契約者から資金を集めて基金を形成し,この基金から保険団体の構成員で事故に遭遇した保険契約者(又はその指定する被保険者)に保険金を支払うという損害保険会社の役務に対する対価は,営業保険料から支払保険金の額を控除した部分である。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 独禁法の定める課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による独禁法改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(独禁法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独禁法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである。
 (2) 独禁法7条の2は,課徴金の額について,当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に所定の割合を乗じて得た額に相当する額と定めており,これを受けて独禁法施行令5条は,売上額算定の方法の原則をいわゆる引渡基準によることと定め,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法によることとしているが,この合計額から控除すべきものとして,�@商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部の控除があった場合におけるその控除した額,�A商品の返品があった場合におけるその返品された商品の対価の額,�B相手方に対し商品の引渡し又は役務の提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約があった場合におけるその割戻金の額,という三つの場合だけを明文で掲げている。そして,独禁法施行令6条は,引渡基準によって売上額を算定すると事業活動の結果と著しく離れてしまう場合に,例外としていわゆる契約基準によることとし,実行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する方法とすると定め(1項),その場合の合計額から控除するものとして,上記の�Bだけを準用している(2項)。これらの施行令の定めは,いずれも,課徴金算定の基礎となる売上額の定め方について,一般に公正妥当と認められる企業会計原則上の考え方に準拠して,カルテルの実行期間における対象商品又は役務の純売上額(総売上額から値引き,返品及びリベート(割戻し)を控除したもの)を算定する方法によることとしているのである。
 (3) また,課徴金の額を定めるに当たって売上額に乗ずる比率については,業種ごとに一定率が法定されているが,この一定率については,課徴金制度に係る独禁法の規定の立法及び改正の過程において,売上高を分母とし,経常利益ないし営業利益を分子とする比率を参考にして定められているところ,企業会計上の概念である売上高は,個別の取引による実現収益として,事業者が取引の相手方から契約に基づいて受け取る対価である代金ないし報酬の合計から費用項目を差し引く前の数値であり,課徴金の額を定めるに当たって用いられる上記売上額は,この売上高と同義のものというべきである。
 (4) 他方,損害保険契約は,当事者の一方が偶然な一定の事故によって生ずることのあるべき損害をてん補することを約し相手方がこれにその報酬を与えることを約することによってその効力を生ずるものであるから(商法629条参照),損害保険契約に基づいて保険者である損害保険会社が保険契約者に対して提供する役務は,偶然な一定の事故によって生ずることのあるべき損害をてん補するという保険の引受けである。
 (5) 以上によれば,独禁法7条の2所定の売上額の意義については,事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値を意味すると解釈されるべきものであり,損害保険業においては,保険契約者に対して提供される役務すなわち損害保険の引受けの対価である営業保険料の合計額が,独禁法8条の3において準用する同法7条の2の規定にいう売上額であると解するのが相当である。
 そうすると,上告人が,被上告人らが本件実行期間中に収受した営業保険料の合計額を売上額とし,これに所定の割合を乗じて得られた額の課徴金の納付を被上告人らに命じた本件審決は,適法である。
 5 以上のとおりであるから,本件各請求を一部認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人らの請求は,理由がないから,いずれも棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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