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2005.11.22

最高裁判所判例 平成17年11月10日 第一小法廷決定 平成17年(行フ)第2号 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

判例 平成17年11月10日 第一小法廷決定 平成17年(行フ)第2号 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
要旨:市の議会の会派に所属する議員が政務調査費を用いてした調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書が,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例

内容:  件名 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 (最高裁判所 平成17年(行フ)第2号 平成17年11月10日 第一小法廷決定 棄却)
 原審 仙台高等裁判所 (平成16年(行ス)第2号)

主    文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
         

理    由

 抗告代理人佐川房子ほかの抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯等は,次のとおりである。
 (1) 仙台市(以下「市」という。)の区域内に主たる事務所を有する団体である抗告人は,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長に対し,市の議会の会派である相手方らにその受領した政務調査費に相当する額の不当利得の返還請求をすることを求める訴えを本案事件(仙台地方裁判所平成15年(行ウ)第8号)として提起している。
 本件は,相手方らに所属する議員が政務調査費を用いてした調査研究の内容及び経費の内訳を記載した調査研究報告書とその添付書類(以下「本件各文書」という。)について,抗告人が,相手方らを文書の所持者として民訴法220条4号に基づき文書提出命令を申し立てているものである。
 (2) 市は,地方自治法100条13項の規定を受けて,仙台市政務調査費の交付に関する条例(平成13年仙台市条例第33号。以下「本件条例」という。)を制定して,市の議会における会派に対し,当該会派の所属議員数に応じた金額の政務調査費を四半期ごとに交付することとしている。
 (3) 本件条例の委任に基づいて議長が定めた「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」(以下「本件要綱」という。)は,その6条2項において,会派に所属する議員が当該会派が交付を受けた政務調査費によって費用を支弁して調査研究を行った場合には,当該議員(数名の議員が共同で調査研究を行ったときはその代表者)は,当該会派の代表者に対し,調査研究報告書により,調査研究の内容及び経費の内訳を報告しなければならないとしている。しかし,本件条例,本件要綱等には,市長及び議長が調査研究報告書の提出を求めることができる旨の定めはなく,調査研究報告書の様式についても定めがない。
 (4) 他方,地方自治法100条14項の規定を受けて,本件条例9条は,前年度に政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者に対し,その政務調査費に係る収入額及び支出額を記載した収支状況報告書の作成を義務付けた上(1項),当該会派の代表者はこれを議長に対して提出しなければならない旨(2項),議長はその収支状況報告書の写しを市長に送付するものとする旨(5項)を規定している。そして,本件要綱8条は,議長は,会派から提出を受けた収支状況報告書の内容を検査し,必要があると認める場合は,会派の代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができるものとしている。
 また,本件要綱7条は,政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,収支状況報告書のほか,交付を受けた政務調査費の半期ごとの収入額及び支出額を記載した所定の様式による執行状況報告書を議長に提出するものとし(1項),議長は,収支状況報告書の写しを市長に送付するときは,執行状況報告書の写しを添付するものとしている(2項)。
 (5) 本件各文書は,平成13年度及び平成14年4月から同15年2月までに相手方らに所属する議員等が出張して行った調査研究に関し,本件要綱に基づいて作成され,各会派に提出された調査研究報告書及びその添付書類である。本件各文書には,調査研究に協力するなどした第三者の氏名,意見等も記載されている蓋然性がある。
 2 原審は,本件各文書は,専ら当該会派及び議長の利用に供する目的で作成され,それ以外の者に開示することが予定されていない文書であり,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとして,本件申立てを却下すべきものとした。
 3 ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯などの事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によってその文書の所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁,最高裁平成11年(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)。
 これを本件各文書についてみると,次のとおりである。
 (1) 地方自治法100条は,政務調査費の交付につき,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならないと規定した上(13項),「政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする」こと(14項)を規定している。これらの規定による政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることにかんがみ,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである。
 (2)ア 本件要綱の定めによれば,調査研究報告書は,政務調査費によって費用を支弁して行った調査研究に関して,議員がその所属する会派に対する報告のため,調査研究の内容及び経費の内訳を記載して作成し,当該会派に提出するものである。そして,本件条例及びその委任を受けた本件要綱の定めは,調査研究報告書をもって,調査研究を行った議員から所属会派の代表者に提出すべきものとするにとどめ,これを議長に提出させたり,市長に送付したりすることは予定していない。この趣旨は,議会において独立性を有する団体として自主的に活動すべき会派の性質及び役割を前提として,調査研究報告書の各会派内部における活用と政務調査費の適正な使用についての各会派の自律とを促すとともに,調査研究報告書には会派及び議員の活動の根幹にかかわる調査研究の内容が記載されるものであることに照らし,議員の調査研究に対する執行機関等からの干渉を防止するというところにあるものと解される。
イ このような本件条例及び本件要綱の定め並びにそれらの趣旨からすると,調査研究報告書は,専ら,その提出を受けた各会派の内部にとどめて利用すべき文書とされているものというべきである。他方,政務調査費の交付を受けた会派が議長に提出すべきものとされている収支状況報告書及び執行状況報告書については,使途の適正及び透明性の確保のために議長の検査等が予定されている。この点において,両者は,その性質,作成目的等を異にするものである。なお,前記のとおり,本件要綱上,議長は収支状況報告書の内容を検査するに当たり必要がある場合は会派の代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができるとされている。この証拠書類等の資料に調査研究報告書が当たる場合があり得るとしても,それは,例外的に,議長の求めに従い,議長に対してのみ提示されるにすぎないから,先に説示した調査研究報告書の性質,作成目的等を左右するものではない。
 ウ また,調査研究報告書が開示された場合には,所持者である会派及びそれに所属する議員の調査研究が執行機関,他の会派等の干渉等によって阻害されるおそれがあるものというべきである。加えて,調査研究に協力するなどした第三者の氏名,意見等が調査研究報告書に記載されている場合には,これが開示されると,調査研究への協力が得られにくくなって以後の調査研究に支障が生ずるばかりか,その第三者のプライバシーが侵害されるなどのおそれもあるものというべきである。
(3) 本件各文書は,本件要綱に基づいて作成され,各会派に提出された調査研究報告書及びその添付書類であるというのであるから,専ら,所持者である相手方ら各自の内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であると認められる。
 また,本件各文書が開示された場合には,所持者である相手方ら及びそれに所属する議員の調査研究が執行機関,他の会派等の干渉等によって阻害されるおそれがあるものというべきである。加えて,前記のとおり,本件各文書には調査研究に協力するなどした第三者の氏名,意見等が記載されている蓋然性があるというのであるから,これが開示されると,調査研究への協力が得られにくくなって以後の調査研究に支障が生ずるばかりか,その第三者のプライバシーが侵害されるなどのおそれもあるものというべきである。そうすると,本件各文書の開示によって相手方ら各自の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる。
 4 以上によれば,前記の特段の事情のうかがわれない本件各文書は,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるというべきである。所論の点に関する原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官横尾和子の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。
 私も,法廷意見と同じく本件各文書の所持者は会派であると考える。しかし,議長が収支状況報告書の内容の検査に当たり必要がある場合に提出を求めることができる証拠書類等の資料に調査研究報告書が当たる場合があり得るとしても,それは例外的なものであり,それによって調査研究報告書の内部文書としての性質等を左右するものではないとの法廷意見に賛成できない。その理由は次のとおりである。
1 調査研究報告書は,法令の定めにより作成が義務づけられた文書である。
 すなわち,本件条例5条は,会派は,規則で定める使途基準に従って支出するものと定め,本件条例施行規則2条は,使途基準として,調査研究費,研修費,会議費等を列挙する。さらに,本件要綱は,2条において,政務調査費の対象外の経費として,交際費的な経費,政党本来の活動に要する経費等7項目を挙げ,議員個人に対しては調査研究費以外には支給しないものと定めている(7号)。
 そのうえで,本件要綱は,調査研究費が議員個人に支給されることから,とくに6条に調査研究費の事務について次のとおり規定している。
調査研究を行った議員は,所属会派の代表者に対し,調査研究報告書により調査研究の内容及び経費の内訳を報告しなければならない(2項)。また,調査研究のための市域外への宿泊を伴う出張については,会派の代表者は予め議長に,用務先,出張期間,調査研究項目等を記載した「調査研究のための出張について」の届出をしなければならない(4項,5項及び調査出張届出書)。
 2 また,本件条例等関係法令は,政務調査費の使途の透明性を確保するため議長に収支状況報告書に基づく検査を行う権限を付与し,必要に応じ証拠となる資料の提供を求めることができると規定する。
 そして,調査研究費については,通常それが議員個人に前渡されて支出されるため,その支出が使途基準を含め適正なものであるかどうか必要な場合に検査できるよう特別の規定をしたものと解することが,政務調査費について,市議会議員の市政に関する調査研究に資するとともにその透明性を確保するとの関係法令の趣旨に合致する。
 したがって,調査研究報告書は,会派の外部の者である議長の検査の対象となり得る文書として規定されており,専ら文書の所持者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書には当たらない。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 �コ治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

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