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2005.11.04

最高裁判所判例 平成17年10月25日 第三小法廷判決 平成15年(行ヒ)第320号 勧告取消請求事件

判例 平成17年10月25日 第三小法廷判決 平成15年(行ヒ)第320号 勧告取消請求事件
要旨:
 医療法(平成12年法律第141号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病床数削減の勧告は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる

内容:  件名 勧告取消請求事件 (最高裁判所 平成15年(行ヒ)第320号 平成17年10月25日 第三小法廷判決 破棄差戻し)
原審 東京高等裁判所 (平成15年(行コ)第132号)

主    文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
本件を水戸地方裁判所に差し戻す。
     
理    由
上告代理人濱秀和ほかの各上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,茨城県土浦市内において病院の開設を計画し,被上告人に対し,平成11年10月4日付けで,病床数を308床とする病院の開設に係る医療法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)7条1項の許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
 (2) 被上告人は,上告人に対し,同年12月9日付けで,医療法30条の7の規定に基づき,本件申請に係る病院の開設に関し,病床数を308床から60床に削減するよう勧告した(以下,この勧告を「本件勧告」という。)。本件勧告は,本件申請に係る病床数によって病院が開設された場合,茨城県保健医療計画が設定している土浦保健医療圏の区域における病床数が,同計画が定める同区域における必要病床数を超えることになるという理由によるものであった。しかしながら,上告人は,本件勧告に従わなかった。
 (3) 被上告人は,上告人に対し,同12年1月28日付けで,本件申請について許可する旨の処分をした。
 2 本件は,上告人が,本件勧告は違法であり,本件勧告に従わない場合は病床数を308床として保険医療機関の指定を受けることができなくなると主張して,被上告人に対し,本件勧告の取消しを請求する事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件訴えを却下すべきものとした。
 医療法30条の7に基づく勧告は,医療計画の達成を推進するため,病院の開設等についてされる行政指導にすぎない。健康保険法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)43条ノ3第4項は,上記の勧告を受けたにもかかわらずこれに従わない場合,保険医療機関指定の申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行うことができる旨規定しているが,行政庁には,同項に基づき病床数を制限して指定をするか否かの裁量があり,上記の勧告に従わなかった場合,法律上当然に病床数を制限して指定を行うという仕組みにはなっていない。したがって,本件勧告は,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」には当たらない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 医療法は,病院を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事の許可を受けなければならない旨定めているところ(7条1項),都道府県知事は,一定の要件に適合する限り,病院開設の許可を与えなければならないが(同条4項),医療計画の達成の推進のために特に必要がある場合には,都道府県医療審議会の意見を聴いて,病院開設申請者等に対し,病院の開設,病床数の増加等に関し勧告することができる(30条の7)。そして,医療法上は,上記勧告に従わない場合にも,そのことを理由に病院開設の不許可等の不利益処分がされることはない。
 他方,健康保険法43条ノ3第1項は,保険医療機関の指定は,病院等の開設者の申請があるものについて都道府県知事が行う旨を規定し,同条4項2号は,申請に係る病床の種別に応じ,医療法7条の2第1項に規定する地域における保険医療機関の病床の数が,その指定により同法30条の3第1項に規定する医療計画において定める必要病床数を勘案して厚生大臣の定めるところにより算定した数を超えることになると認める場合(その数を既に超えている場合を含む。)であって,当該病院の開設者等が同法30条の7の規定による都道府県知事の勧告を受けてこれに従わないときには,申請に係る病床の全部又は一部を除いて指定を行うことができる旨を規定している。平成10年法律第109号による改正前の健康保険法43条ノ3には,上記の規定はなく,同条2項が,都道府県知事は「保険医療機関等トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」には保険医療機関等の指定を拒むことができる旨を規定しており,医療法30条の7の規定に基づき都道府県知事が勧告を行ったにもかかわらず,これに従わずに病院開設がされ,保険医療機関の指定申請がされた場合には,前記の「保険医療機関等トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」に該当するものとして,保険医療機関の指定を拒否することができるという取扱いがされていた。これを踏まえて,健康保険法43条ノ3第4項2号は,医療法30条の7の規定に基づく病院の開設に関する勧告を受けた者がそれに従わないときには,必ずしも申請どおりには保険医療機関の指定が得られないことを明らかにする趣旨で設けられたものと解される。
 (2) 上記の医療法及び健康保険法の規定の内容やその運用の実情に照らすと,医療法30条の7の規定に基づく勧告で開設申請に係る病院の病床数の削減を内容とするものは,医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められてはいるけれども,当該勧告を受けた者に対し,これに従わない場合には,相当程度の確実さをもって,病院を開設しても削減を勧告された病床を除いてしか保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものというべきである。そして,いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては,健康保険,国民健康保険等を利用しないで病院を受診する者はほとんどなく,保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから,削減を勧告された病床を除いてしか保険医療機関の指定を受けることができない場合には,実際上当該病床を設けることができない不利益を受けることになる。このような医療法30条の7の規定に基づく上記勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると,この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。後に保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟によって争うことができるとしても,そのことは上記の結論を左右するものではない。
 したがって,本件勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たるというべきである。
 5 以上と異なる見解の下に,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消し,本件を第1審に差し戻すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官藤田宙靖の補足意見がある。
 裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見と同様,本件勧告は行政事件訴訟法3条にいう「行政庁の処分」に当たると解すべきものと考えるが,このような考え方と,この問題につきこれまで当審の先例が示して来た一般的な考え方,すなわち,「行政庁の処分とは・・・行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」であって「正当な権限を有する機関により取り消されるまでは,一応適法性の推定を受け有効として取り扱われるもの」でなければならず,「その無効が正当な権限のある機関により確認されるまでは事実上有効なものとして取り扱われている場合」でなければならないとする考え方(参照,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁他。以下この考え方を,「従来の公式」と称する。)との関係について,若干の補足をしておくこととしたい。
 1 医療法30条の7の規定による開設中止勧告は,病院の開設許可等や医療法に基づく手続の関係では,行政指導としての性質を有するに止まり,名宛人の法律上の地位ないし権利義務に具体的な影響を及ぼすものではないこと,また,中止勧告がなされたとしても,名宛人の保険医療機関指定申請が当然に拒否されるという法律上の構造とはなっておらず,中止勧告が発せられれば,指定申請が拒否される可能性が高いとしても,それは事実上の問題に過ぎないのであって,勧告が直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定するものとは言えないことは,原審判決の指摘するとおりである。従って,「従来の公式」を,機械的に当てはめるとすれば,本件勧告に「行政庁の処分」としての性質を認めることはできないという結論が導かれることになるのであって,この意味において,原審判決が判示するところにも,理由が無いわけではない。
 ところで,「従来の公式」においては,行政事件訴訟法3条にいう「行政庁の処分」とは,実質的に講学上の「行政行為」の概念とほぼ等しいものとされているものであるところ,このような行為のみが取消訴訟の対象となるとされるのは,取消訴訟とはすなわち,行政行為の公定力の排除を目的とする訴訟である,との考え方がなされているからに他ならない。そしてその前提としては,行政活動に際しての行政主体と国民との関わりは,基本的に,法律で一般的に定められたところを行政庁が行政行為によって具体化し,こうして定められた国民の具体的な権利義務の実現が強制執行その他の手段によって図られる,という形で進行するとの,比較的単純な行政活動のモデルが想定されているものということができる。しかしいうまでもなく,今日,行政主体と国民との相互関係は,このような単純なものに止まっているわけではなく,一方で,行政指導その他,行政行為としての性質を持たない数多くの行為が,普遍的かつ恒常的に重要な機能を果たしていると共に,重要であるのは,これらの行為が相互に組み合わせられることによって,一つのメカニズム(仕組み)が作り上げられ,このメカニズムの中において,各行為が,その一つ一つを見たのでは把握し切れない,新たな意味と機能を持つようになっている,ということである。本件における医療法30条の7の規定に基づく勧告についても,まさにそういったことが指摘され得るのであって,法廷意見が4(2)において述べるのは,まさにこの趣旨である。ところが,先に見た当審判例における「従来の公式」は,必ずしもこういった事実を前提としているものとは言い難いのであって,従って,本件においてこれを採用するのは,適当でないものというべきである。
 2 なお,医療法30条の7による勧告を,行政事件訴訟法3条にいう「処分」であるとして性格付けたとき,それでは,この勧告は,いわゆる公定力を有することになり,取消訴訟以外の方法によって,その適法性を争うことはできないのか,また,取消訴訟の出訴期間の適用を受け,これを徒過した場合には,もはや出訴の道を塞がれることになるのか(例えば,本件において,勧告自体を直接に争うことなく,後に,保険医療機関の指定拒否処分の効力を抗告訴訟で争うこととした場合,この後の訴訟においては,もはや,勧告の違法性を主張することはできないのか)が問題となる。法廷意見も明示するとおり,この勧告それ自体の性質が行政指導であることは,否定するべくもないから,それは,相手方に対する法的拘束力を持たず,従って又,理論的に厳密な意味での(最も狭い意味での)公定力を有するものではない。しかし,行政事件訴訟法の定めるところに従い取消訴訟の対象とする以上は,この行為を取消訴訟外において争うことはやはりできないものというべきであって,こうした取消訴訟の排他的管轄に伴う遮断効は(これを公定力の名で呼ぶか否かはともかく)否定できないものというべきである。もっとも,従来の判例学説上,一般に行政指導は「処分」ではないとされて来たから,これを専ら取消訴訟で争うべきものとすることは,国民に不測の不利益をもたらしかねない,という側面があることを否定できない。しかし,この勧告につき処分性が認められることになれば,今後は,通常の場合,当事者において,まずはその取消訴訟を通じて問題の解決が図られることになるものと予想される外,必要に応じ,行政事件訴訟法46条に定める行政庁の教示義務,出訴期間等徒過についての「正当な理由」条項(同法14条1項及び2項における各ただし書を参照)等の活用がなされることにより,対処することが可能であると考えられる。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

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