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2005.11.22

最高裁判所判例 平成17年11月10日 第一小法廷判決 平成15年(受)第281号 損害賠償請求事件

判例 平成17年11月10日 第一小法廷判決 平成15年(受)第281号 損害賠償請求事件
要旨:
 1 刑事事件の法廷における被疑者の容ぼう等を撮影した行為及びその写真を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例
2 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう等を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為のうち,手錠をされ,腰縄を付けられた状態を描いたイラスト画の掲載は不法行為法上違法であるが,その余のイラスト画の掲載は違法ではないとされた事例

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成15年(受)第281号 平成17年11月10日 第一小法廷判決 一部棄却,一部破棄差戻し)
 原審 大阪高等裁判所 (平成14年(ネ)第1010号)

主    文
1 原判決主文第1項(1)を破棄する。
2 前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
3 上告人株式会社Y1及び同Y2のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人株式会社Y1及び同Y2の負担とする。
         

理    由

 上告代理人鳥飼重和ほかの上告受理申立て理由第3の2について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,平成10年7月に和歌山市内で発生したカレーライスへの毒物混入事件等につき,殺人罪等により逮捕,勾留され,起訴された被告人である(以下,被上告人を被疑者,被告人とする上記事件等を「本件刑事事件」という。)。本件刑事事件は,極めて重大な事案として,国民の多くの注目を集めていた。
 上告人株式会社Y1(以下「上告会社」という。)は,書籍及び雑誌の出版等を目的とする株式会社であり,昭和56年から平成13年8月まで,「FOCUS」と題する写真週刊誌(以下「本件写真週刊誌」という。)を発行していた。上告人Y2(以下「上告人Y2」という。)は,平成10年1月から平成13年8月まで,本件写真週刊誌の編集長及び発行人の地位にあった。上告人Y3(以下「上告人Y3」という。)は,平成11年当時,上告会社の代表取締役であった。
 (2) 平成10年11月25日,和歌山地方裁判所の法廷において,被上告人の被疑者段階における勾留理由開示手続が行われた。本件写真週刊誌のカメラマンは,小型カメラを上記法廷に隠して持ち込み,本件刑事事件の手続における被上告人の動静を報道する目的で,閉廷直後の時間帯に,裁判所の許可を得ることなく,かつ,被上告人に無断で,裁判所職員及び訴訟関係人に気付かれないようにして,傍聴席から被上告人の容ぼう,姿態(以下,併せて「容ぼう等」という。)を写真撮影した(以下,この写真を「本件写真」という。)。本件写真は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態にある被上告人をとらえたものである。
 (3) 上告会社は,平成11年5月19日,本件写真週刊誌の同月26日号に,「法廷を嘲笑う『X』の毒カレー初公判−この『怪物』を裁けるのか」との表題の下に,本件写真を主体とした記事(第1審判決添付の別紙1のとおりのもの。以下「本件第1記事」という。)を掲載し,そのころ,これを発行した。本件第1記事には,被上告人が手錠をされ,腰縄を付けられた状態であることを殊更指摘する記載がある。
 (4) 被上告人は,平成11年8月11日,上告会社及び上告人Y2に対し,本件写真の撮影及び本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載により被上告人の肖像権が侵害されたと主張して,上告人Y2については民法709条に基づき,上告会社については同法715条に基づき,慰謝料の支払等を求める訴えを提起した(以下,この訴訟事件を「第1事件」という。)。
 (5) 上告会社は,平成11年8月18日,本件写真週刊誌の同月25日号に,「『肖像権』で本誌を訴えた『X』殿へ−絵ならどうなる?」との表題の下に,被上告人の本件刑事事件の法廷内における容ぼう等を描いた3点のイラスト画と文章から成る記事(第1審判決添付の別紙2のとおりのもの。以下「本件第2記事」という。)を掲載し,そのころ,これを発行した。上記イラスト画(見開き2頁の本件第2記事の上段に1点,下段に2点が描かれている。以下,併せて「本件イラスト画」という。)のうち上段のものは,被上告人が手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり,下段の2点は,被上告人が訴訟関係人から資料を見せられている状態が描かれたもの及び被上告人が手振りを交えて話しているような状態が描かれたものである。本件第2記事の文章には,刑事事件の被告人である被上告人が第1事件の訴えを提起したことについて,被上告人を侮辱し,又はその名誉を毀損する表現がある。
 (6) 上告人Y3は,本件第2記事の掲載当時,上告会社の内部において,本件写真週刊誌の取材,報道に関し違法行為の発生を防止する管理体制を整えていなかったものであり,本件第2記事による被上告人に対する名誉毀損等の不法行為に関し,上告人Y3には,その職務の執行につき重過失があった。
 (7) 被上告人は,平成11年12月6日,上告人らに対し,本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載は,被上告人の肖像権を侵害し,被上告人の名誉を毀損し,被上告人を侮辱するものであるなどと主張し,上告人Y2については民法709条に基づき,上告会社については同法715条に基づき,上告人Y3については商法266条ノ3に基づき,慰謝料の支払等を求める訴えを提起した(以下,この訴訟事件を「第2事件」という。)。本件は,第1事件と第2事件が併合されたものである。
2 原審は,次のとおり判断して,第1事件については,慰謝料及び弁護士費用220万円並びにこれに対する遅延損害金の請求を認容した第1審判決を是認し,第2事件については,慰謝料及び弁護士費用220万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度において,被上告人の請求を認容した。
(1) みだりに自己の容ぼう等を撮影され,これを公表されない人格的利益は,被撮影者が刑事事件の被疑者や被告人であっても法的に保護され,本件写真の撮影及び本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載は,被上告人の上記法的に保護された利益である肖像権を侵害する。ある取材,報道行為が他者の肖像権を侵害する結果となる場合であっても,当該取材,報道行為が公共の利害に関する事項にかかわり,専ら公益を図る目的でされ,当該取材,報道の手段方法がその目的に照らして相当であるという要件を満たすときには,その行為の違法性が阻却される。これらの要件については,個別にその有無を判断するだけでなく,その程度を勘案して総合的に判断すべきである。本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載は,公共の利害に関する事項にかかわり,専ら公益を図る目的でされたと認められる。しかし,本件写真の撮影方法は相当性を欠き,また,本件第1記事には,被上告人が手錠をされ,腰縄を付けられた状態であることを殊更指摘する記載があるなど,本件第1記事の説明文も相当性を欠くから,本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載の違法性が阻却されるものではない。よって,上告会社及び上告人Y2は,被上告人に対し,本件写真の撮影及び本件写真を含む本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載につき損害賠償責任を負う。
 (2) 個人の容ぼう等を描写する手段が写真であるかイラスト画であるかは肖像権侵害の有無を決定する本質的問題とはいえず,イラスト画に描かれた容ぼう等がある特定の人物のものであると容易に判断することができるときには,当該イラスト画は,その個人の肖像権を侵害する。本件イラスト画は,被上告人の容ぼう等をとらえたものと容易に判断することができるから,被上告人の肖像権を侵害するものである。本件第2記事は,公共の利害に関する事項にかかわるものではあるが,これを全体として見た場合,被上告人が第1事件の訴えを提起した事実をやゆする意図に出たものであって,本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載が専ら公益を図る目的でされたとは認められず,本件イラスト画による肖像権侵害の違法性が阻却されるものではない。本件イラスト画は被上告人の肖像権を侵害するものであり,本件第2記事の文章は,被上告人を侮辱し,又はその名誉を毀損するものであるから,上告人らは,被上告人に対し,本件イラスト画を含む本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載につき損害賠償責任を負う。
 3 しかしながら,原審の上記判断(1)は結論において是認することができるが,同(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
 また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。
 これを本件についてみると,前記のとおり,被上告人は,本件写真の撮影当時,社会の耳目を集めた本件刑事事件の被疑者として拘束中の者であり,本件写真は,本件刑事事件の手続での被上告人の動静を報道する目的で撮影されたものである。しかしながら,本件写真週刊誌のカメラマンは,刑訴規則215条所定の裁判所の許可を受けることなく,小型カメラを法廷に持ち込み,被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり,その撮影の態様は相当なものとはいえない。また,被上告人は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたものであり,このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も認め難い。本件写真が撮影された法廷は傍聴人に公開された場所であったとはいえ,被上告人は,被疑者として出頭し在廷していたのであり,写真撮影が予想される状況の下に任意に公衆の前に姿を現したものではない。以上の事情を総合考慮すると,本件写真の撮影行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を侵害するものであり,不法行為法上違法であるとの評価を免れない。そして,このように違法に撮影された本件写真を,本件第1記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表する行為も,被上告人の人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。
 (2) 人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。しかしながら,人の容ぼう等を撮影した写真は,カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう等を化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,被撮影者の容ぼう等をありのままに示したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。したがって,人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。
 これを本件についてみると,前記のとおり,本件イラスト画のうち下段のイラスト画2点は,法廷において,被上告人が訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれたものである。現在の我が国において,一般に,法廷内における被告人の動静を報道するためにその容ぼう等をイラスト画により描写し,これを新聞,雑誌等に掲載することは社会的に是認された行為であると解するのが相当であり,上記のような表現内容のイラスト画を公表する行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を侵害するものとはいえないというべきである。したがって,上記イラスト画2点を本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表した行為については,不法行為法上違法であると評価することはできない。しかしながら,本件イラスト画のうち上段のものは,前記のとおり,被上告人が手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり,そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は,被上告人を侮辱し,被上告人の名誉感情を侵害するものというべきであり,同イラスト画を,本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を侵害するものであり,不法行為法上違法と評価すべきである。
 これと異なり,下段のイラスト画2点を公表したことをも違法であるとして,これを前提に上告人らの損害賠償責任を認めた原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。
 4 以上によれば,原判決主文第1項(1)は破棄を免れず,被上告人の被った損害について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととし,上告会社及び上告人Y2のその余の上告は,理由がないので,これを棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 �コ治 裁判官 才口千晴)

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