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2005.11.04

最高裁判所判例 平成17年10月28日 第二小法廷判決 平成14年(行ヒ)第144号 損害賠償請求事件

判例 平成17年10月28日 第二小法廷判決 平成14年(行ヒ)第144号 損害賠償請求事件
要旨:
1 町が自然活用施設の運営を委託している団体に対してした補助金の交付が地方自治法232条の2所定の「公益上必要がある場合」に当たらないとはいえないとされた事例
2 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において,原告である住民が請求を放棄することはできない

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成14年(行ヒ)第144号 平成17年10月28日 第二小法廷判決 破棄自判)
 原審 福岡高等裁判所 (平成13年(行コ)第14号)

主    文
原判決のうち上告人らの敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
      
理    由
 上告代理人三井嘉雄の上告受理申立て理由第3点について
 1 本件は,大分県大分郡に属する挾間町(以下「町」という。)の住民である被上告人が,町が挾間町陣屋の村自然活用施設の運営を委託している団体に対してした補助金の交付が地方自治法232条の2の定める「公益上必要がある場合」の要件を満たさないから,その支出は違法であると主張し,地方自治法242条の2第1項4号(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ)に基づき,町に代位して,町長の職にあったA(以下「A」という。)の相続人である上告人らに対し,上記補助金に相当する額の損害賠償を求めている事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) Aは,昭和60年7月7日から平成9年7月6日まで町長の職にあった。
 (2) 町は,挾間町陣屋の村自然活用施設の設置及び管理に関する条例(平成2年挾間町条例第15号。以下「本件条例」という。)に基づき,地方自治法244条1項に定める公の施設として,平成2年に,挾間町陣屋の村自然活用施設(以下「陣屋の村」という。)を設置した。本件条例の定めるその設置の目的は,「町の豊かな自然を生かし,農業構造を再編し,生産性の高い集落農業の確立と活力ある地域づくりを目指しながら,自然教室として学童,住民に農業に親しむ機会を与えるとともに,都市との交流を促進する」というものである。
 陣屋の村には,農林漁業体験実習施設,食堂,宿泊施設等が設けられている。
 (3) 陣屋の村振興協会(以下「振興協会」という。)は,陣屋の村の管理及び運営の事業を行うことを目的とし,町の出資を基本財産として設立された権利能力のない社団であった。Aは,平成2年から同9年7月6日までその代表者である理事長の地位にもあった。
 町は,本件条例に基づき,委託契約を締結して,振興協会に対し,陣屋の村の管理及び運営を委託していた。
 (4) 振興協会の決算において,陣屋の村の運営収支は,平成2年度以降の毎年度赤字となっていた。
 町は,この赤字をその年度ごとに補てんするため,振興協会に対し,平成3年度から毎年度,200万円ないし250万円の補助金を交付してきた。
 (5) Aは,陣屋の村の食堂で供される和食が好みに合わないという利用者の声を町内の会合の席で聞いたことなどから,振興協会の理事長として,食堂営業の収入を増加させるため和食調理の腕の立つ調理員を採用すべきであると考え,平成8年9月調理員1名を振興協会に雇い入れた(以下,この雇入れを「本件雇用」という。)。Aは,本件雇用をするに際し,振興協会の運営収支がそれまでの毎年度赤字であったところ,調理員を増員すれば人件費が増加するので,平成8年度の運営収支が赤字になるのを避けるため,新たに雇い入れた調理員に腕を振るわせ料理の評判を高めて食堂の売上げを増加させるか,又はそれまで雇用していた他の調理員を解雇する必要があると判断していた。しかし,実際には,他の調理員の解雇は行われなかった。
 振興協会の平成8年度の決算においては,運営収支が1083万7242円の赤字となった。そこで,Aは,町長として,この赤字を補てんするため800万円の補助金(以下「本件補助金」という。)を振興協会に交付することを決定し,平成8年度の町の補正予算案にこれに係る支出を計上して町議会の議決を経た上,平成9年5月29日に支出命令をした。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,被上告人の請求を一部認容すべきものとした。本件補助金の交付の適否に関する原審の判断の要旨は,次のとおりである。
 (1) 本件条例の定める設置の目的等に照らし,陣屋の村を設置し,運営することは,町の公益に資するものである。したがって,陣屋の村を運営することにより生ずる赤字を補てんするため町が振興協会に対し補助金を交付することには,原則として,地方自治法232条の2に定める公益上の必要が認められるというべきである。
 (2) しかしながら,Aは,振興協会の理事長として,調理員を増員すれば,増収を図るか,又は既存の調理員の解雇をするという対策を講じない限り,平成8年度においてはそれまで以上に多額の赤字が発生すると判断していたにもかかわらず,その対策のめどを立てないまま,赤字が発生しても町からの補助金に頼ればよいと安易に考えて,漫然と本件雇用をし,その結果,同年度における振興協会の赤字を増加させた。これは,経営上の裁量を逸脱した放漫な行為であり,振興協会の平成8年度の運営収支の赤字のうちこのために増大した額を補てんする目的で町のした補助金の交付は,公益上の必要を欠くものというべきである。したがって,本件補助金の支出のうち,振興協会が本件雇用に係る調理員に対し平成8年度に支払った賃金の額に相当する部分は,地方自治法232条の2の要件を満たさない補助金を交付したものであって,違法である。
 (3) 振興協会が本件雇用をしたこと以外の事由で本件補助金の交付が公益上の必要を欠くとする被上告人の主張は,理由がない。
 4 しかしながら,原審の上記3の(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 前記事実関係等によれば,陣屋の村は,町の豊かな自然を生かし,住民に自然に親しむ機会を与えるとともに,都市との交流を促進するという目的で設置された農林漁業体験実習施設,食堂,宿泊施設等から成る公の施設であり,振興協会は,陣屋の村の管理及び運営の事業を行うことを目的として町により設立されたものであって,町から委託を受けて専ら陣屋の村の管理及び運営に当たっているというのであるから,その運営によって生じた赤字を補てんするために補助金を交付することには公益上の必要があるとした町の判断は,一般的には不合理なものではないということができる。
 そして,本件条例が陣屋の村を設置することとした目的等に照らせば,仮に振興協会による事務処理に問題があり,そのために陣屋の村の運営収支が赤字になったとしても,直ちに,上記目的や陣屋の村の存在意義が失われ,町がその存続を前提とした施策を執ることが許されなくなるものではないというべきである。そうすると,本件雇用によって赤字が増加したという事情があったからといって,それだけで,陣屋の村を存続させるためにその赤字を補てんするのに必要な補助金を振興協会に交付することを特に不合理な措置ということはできない。
 加えて,前記事実関係等によれば,Aは,振興協会の理事長として,食堂営業の収入を増加させるため和食調理の腕の立つ調理員を採用すべきであると判断して本件雇用を決定したものであり,人件費の増加による赤字の発生の防止についても一応の見通しを持っていたものというべきであって,同人が本件雇用をしたことや,本件雇用をした平成8年9月から平成8年度の末日である平成9年3月末日までの間に他の調理員を解雇する措置に踏み切らなかったことが,経営上の裁量を逸脱した放漫な行為であったとはいえない。
 (2) 以上によれば,振興協会がした本件雇用に関して原審が説示する上記3の(2)のような理由で本件補助金の交付が公益上の必要を欠くということはできない。
 5 そうすると,上記と異なる判断に立って本件補助金に係る支出を違法とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人らの敗訴部分は,その余の論旨について判断するまでもなく,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,同部分に関する被上告人の請求は理由がないから,第1審判決のうち上告人らの敗訴部分を取り消し,同部分に関する請求を棄却すべきである。なお,被上告人は,請求を放棄する旨の書面を当裁判所に提出し,同書面は,本件口頭弁論期日において陳述したものとみなされた。しかしながら,地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において,これを提起した住民は,その請求を放棄することができないものと解するのが相当である。したがって,被上告人のした請求の放棄は,その効力を生じないものというべきである。
 よって,裁判官滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 裁判官滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。
 私も,条例に基づき地方自治法244条1項の定めるところによって設定された施設を管理運営することを事業目的とし,町の出資を基本財産として設立された権利能力のない団体である振興協会に対し,その赤字を補てんするために町が補助金を交付することは公益上の必要があるとした町の判断が,一般的には不合理なものではないという法廷意見には賛成するものである。
しかしながら,原審の確定した事実によれば,振興協会は,その理事長を町長が兼ねていたところ,特別の対策を講じない限り平成8年度においてはそれまで以上に多額の赤字が発生するという状況であったにもかかわらず,その対策のめどを立てないまま,町からの補助金に頼ればよいと安易に考えて赤字を増大させたというのである。
普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して,自らが代表者となる団体に補助金を交付する場合には,公益上の必要性の名の下に恣意的に補助金が交付され,普通地方公共団体の利益が害されることがあり得るのである。したがって,普通地方公共団体が,その長が代表者を兼ねている団体に補助金を交付する場合には,その公益上の必要が客観的にも肯定されるものでなければならない。そして,こうした見地からすれば,地方公共団体が上記のような団体に補助金を交付する場合には,民法108条,116条の法意が類推され,条例や規則による場合のほかは,議会において,公益上の必要が客観的に肯定されるかどうかが長の地位と団体の代表者の地位とが兼ねられていることも踏まえて実質的に審議された上で議決がされる必要があると解すべきである。このような議決がされたといえない場合には,その補助金の交付は公益上の必要を直ちに肯定することのできないものというべきであり,そのような補助金の交付を決定した長の判断は善良な管理者としての注意義務を尽くしたとはいえないと解すべきである。そのことは,本件のように補助金を受ける団体が町の出資を基本財産として設立されたものであっても変わりはない。
 記録によれば,本件補助金は,平成8年度の町の当初予算に計上された額の2.5倍を超える金額が補正予算において議決されたものであるところ,町長が自ら代表者である振興協会に交付されるものであるから,事業についての展望を持たないで生み出された振興協会の赤字を埋めるため安易にされるものではなく,公益性を持つものであることが,町議会の上記のような議決により客観化されて初めて適法なものとなるのであって,これを含む補正予算が議決されたとしても直ちに適法となるものではない。
本件において補正予算で大幅に増額してされた本件補助金の交付について,議会においてどのような審議が行われたのかについて審理を尽くすことなく,町長が代表者を兼任する振興協会の経営判断の点のみから,本件補助金の支出の違法性を判断した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法律の解釈の誤りがあるといわなければならない。したがって,本件補助金の交付が,その公益上の必要に関し,町議会において上記のような議決を経たものといい得るかどうかにつき審理を尽くさせるため,本件は原審に差し戻すのが相当である。 
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川了滋)

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