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2005.12.16

最高裁判所判例 平成17年12月15日 第一小法廷判決 平成14年(行ヒ)第325号 違法公金支出金返還請求事件

判例 平成17年12月15日 第一小法廷判決 平成14年(行ヒ)第325号 違法公金支出金返還請求事件
要旨: 情報公開条例に基づき多数の食糧費の支出に関する文書の写しの交付を受けた日から約4か月後にされた住民監査請求について地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由がないとされた事例

内容:  件名 違法公金支出金返還請求事件 (最高裁判所 平成14年(行ヒ)第325号 平成17年12月15日 第一小法廷判決 破棄自判)
 原審 福岡高等裁判所 (平成13年(行コ)第7号)

主    文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
本件訴えを却下する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人阿部哲茂の上告受理申立て理由第1及び上告参加代理人石津廣司,同中野昌治の上告受理申立て理由第1について
 1 本件は,北九州市(以下「市」という。)の住民である被上告人らが,市の平成7年度における食糧費の支出のうち,会合に出席した者1人当たりの金額が6000円を超えるなど一定の限度を超えるもの(以下「本件各支出」という。)に違法があると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,市長又は市の職員である上告人らに対し,本件各支出について損害賠償の支払又は不当利得の返還を求めた事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 市民オンブズマン北九州(以下「本件団体」という。)は,平成8年7月3日,市の情報公開条例に基づき,同条例所定の実施機関である市長等に対し,平成7年度における市の局長ないしこれに準ずる職員が出席した会合に係る食糧費(懇談会費)の支出に関する一般支出決議書,支出命令書及び請求書兼領収書(以下「一般支出決議書等」という。)並びに同支出に関する予算管理簿につき,本件情報公開請求をした。実施機関は,同年8月30日,一般支出決議書等については非公開とし,予算管理簿についてはその記載の一部を公開する旨の決定をした。
 (2) 実施機関は,平成9年8月1日,本件情報公開請求に係る上記の決定を変更し,一般支出決議書等のうち,実施年月日,市側出席者,出席者数,会議の場所,支出金額,支出内訳及び債権者名が記載された部分は公開し,会議,協議等の名称,開催目的のうち協議,懇談会等の相手方出席者を示す表示,相手方出席者並びに債権者の口座及びその印影が記載された部分は非公開とする旨の決定をし,同月19日,非公開部分を塗りつぶした上記文書の写しを本件団体に交付した。本件団体に交付された文書の件数は1422件,その枚数は3258枚であった。
 (3) 本件団体に所属する者は,上記の文書のうち,市の7局1委員会に係る食糧費の支出を分析し,平成9年11月20日ころ,分析結果の一応の集約を終えた。本件団体は,同月22日,上記の食糧費の支出のうち一次会に関するものについてみると,会合に出席した者1人当たりの金額が6000円を超えるものが230件程度あるなどの具体的な分析結果を新聞紙上で発表し,併せて監査請求の請求人を公募した。
 (4) 被上告人らは,本件団体の構成員と上記の公募に応じた者から成るものである。被上告人らは,平成9年12月15日,市監査委員に対し,法242条1項に基づき,前記の食糧費の支出のうち220件余が違法,不当であるとして,これによって生じた総額2523万円余の損害を補てんするために必要な措置を講ずべきことを求める旨の本件監査請求を行った。同監査委員は,同10年1月14日,監査請求期間の経過を理由として,本件監査請求を却下する旨の決定をした。
 3 上記事実関係等の下において,原審は,次のとおり判断して,本件監査請求に係る監査請求期間の経過につき正当な理由があるとし,本件訴えを適法とした。
 本件団体と被上告人らは,平成9年8月19日になって,本件各支出の概要を知ることができたということができる。同日から被上告人らが本件監査請求をした同年12月15日までには約4か月弱の期間が経過しているが,本件のように,法令上一義的明確に違法性,不当性が認められるわけではない事案の場合は,できるだけ多くの事例を収集し,分析する必要があり,それに相当の時間が掛かることも否定できないところであるから,上記の期間は,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に当たると解すべきである。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁平成10年(行ツ)第69号,第70号同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。
 前記事実関係等によれば,本件団体は,平成8年7月3日,市の平成7年度の食糧費の支出に関する文書について本件情報公開請求をしたが,食糧費の支出の内容を知るに足りる文書の公開を受けることができなかったところ,同9年8月19日,本件情報公開請求に係る一般支出決議書等の文書を交付され,それにより,個別の食糧費の支出の日,金額,その内訳及び債権者名並びに食糧費の支出に係る会合の場所,出席人数及び市側の出席者が明らかになったのであるから,支出の件数が多数に及ぶものであったとしても,本件団体の構成員は,同日において,監査請求をするに足りる程度に本件各支出の存在及び内容を知ることができたというべきである。また,同日ころには,市の一般住民においても,同様の手続を採るなど相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件各支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。そうすると,そのころから約4か月弱の期間が経過した同年12月15日にされた本件監査請求は,前記の相当な期間内にされたものということはできない。本件各支出の件数は220件を超えるものであるが,現に文書の公開を受けた本件団体の構成員において,その約3か月後には前記のとおりの分析を終えることができたのにかかわらず,それから更に約25日を経過した後に本件監査請求をしたというのであるから,支出の件数が多数であることなどによって,前記の相当な期間についての判断が左右されるものではない。したがって,本件監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由があるということはできないと解すべきである。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に判示したところによれば,本件訴えは不適法であるから,第1審判決を取り消し,本件訴えを却下すべきである。
 よって,裁判官泉�コ治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 
 裁判官泉�コ治の反対意見は,次のとおりである。
 私も,一般論としては,多数意見と同様に,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から,約4か月弱を経過してなされた監査請求には,法242条2項ただし書にいう正当な理由があるということはできない,と考える。
 しかしながら,本件には,次のような特殊事情がある。すなわち,本件団体が,平成8年7月3日,市の情報公開条例に基づき,平成7年度において市の局長(局長級を含む)が出席した会合に係る食糧費の支出に関する文書の公開請求を行ったところ,市側は,1年以上を経過した平成9年8月19日になって,1422件という多数の会合に係る文書(3258枚)の写しを本件団体に交付した。市側は,この文書により,会合の実施年月日,市側出席者,出席者数,場所,支出金額,支出内訳及び債権者名について部分公開したが,会合の名称及び開催目的のうちの相手方出席者を示す表示や,その他の相手方出席者に係る情報は塗りつぶし,これを非公開とした。そのため,相手方の氏名,身分,地位等が不明で,会合の内容等の表示も抽象的であって,具体的な内容は明らかにされなかった。一方,市の財政局長から局長等に宛てた平成6年3月30日付け通知「食糧諸費の執行について」は,「食糧諸費は,行政執行上の直接的必要性から実施される会議,式典等に付随して消費される接遇経費(会議用,式典用,接待用の茶菓・食事代・弁当等)である。従って,その支出により各種の事務事業が円滑に推進され,行政運営に寄与することが期待される場合に認められるものであって,それ自体を主たる目的とするものは,認められないので留意のこと。」と指示していた。
 上記の会合は,市の公費により公務として行われたものであるから,市は,情報公開条例に基づいて,交渉事務等の執行に著しい支障が生じると認められるというようなごく例外的場合を除き,会合の相手方出席者に係る情報も含め,食糧費支出に関する情報を市民に公開し,当該食糧費支出の適否について市民の審判を受けるべきである。市側が行った情報開示は,相手方出席者に係る情報を非開示とし,会合の名称や開催目的からも相手方出席者を示す表示を削除し,その上,会合の内容等の表示も抽象的で,具体的な内容を明らかにするものではなかったというのである。そうすると,市民としては,支出された食糧費が,上記財政局長通知に従い会議,式典等に付随して消費されたものか,あるいは接遇自体を目的として消費されたものかすら知ることができず,食糧費支出が適正妥当なものであったか否かを判断することができない。したがって,上記食糧費支出に係る情報公開は市の情報公開条例に違反するものであり,市は市民に対する説明責任を果たしていない。
 被上告人らは,不十分な内容の公開情報から,会合に出席した者1人当たりの金額が6000円を超えていることなどを一応の目処として本件各支出を抽出し,それが違法又は不当な公金の支出であるとして本件監査請求を行ったものであるが,監査委員としては,違法な情報非公開により損なわれた市の市民に対する説明責任を補完するため,その権限により本件各支出に係る文書を調査し,本件各支出に違法又は不当な点がないかを監査して市民に公表することが要請されるという局面にあったのである。
 本件には,以上のような特殊な事情があるので,これを考慮に入れると,上記のような情報の部分開示から約4か月弱の期間が経過したことをもって,法242条2項ただし書の正当な理由がないとするのは,住民による地方自治をうたう同法の精神に照らし相当とはいえない。本件監査請求は上記の正当な理由を有し適法であり,したがって本件訴えは適法であると考える。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 �コ治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

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