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2006.01.29

最高裁判所判例 平成18年01月19日 第一小法廷判決 平成15年(行ヒ)第299号 違法公金支出返還請求事件

判例 平成18年01月19日 第一小法廷判決 平成15年(行ヒ)第299号 違法公金支出返還請求事件
要旨:
県議会議員の職にあった者を会員とする元県議会議員会の内部的な行事等に要する経費を補助するためにされた県の補助金の支出が県の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であるとされた事例

内容:  件名 違法公金支出返還請求事件 (最高裁判所 平成15年(行ヒ)第299号 平成18年01月19日 第一小法廷判決 一部破棄差戻し,一部棄却)
 原審 東京高等裁判所 (平成15年(行コ)第101号)

主    文
1 原判決のうち静岡県の被上告人静岡県元県議会議員会に対する補助金の支出に係る請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 上告人らのその余の上告を棄却する。
4 前項の上告費用は上告人らの負担とする。
         

理    由

 上告代理人藤森克美の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,静岡県(以下「県」という。)の住民である上告人らが,県が被上告人静岡県元県議会議員会(以下「被上告人元議員会」という。)に対してした補助金の支出は公益上の必要性を欠き違法であるなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,上記補助金が支出された当時県知事の職にあった被上告人Y1(以下「被上告人Y1」という。),県議会事務局次長兼総務課長として上記補助金に係る支出命令を専決した被上告人Y2(以下「被上告人Y2」という。)及び被上告人Y3(以下「被上告人Y3」という。)並びに被上告人元議員会に対し,損害賠償(被上告人元議員会に対しては予備的に不当利得の返還)を求めている事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人Y1は,平成5年8月から県知事の職にあり,被上告人元議員会の顧問をしている者である。被上告人Y2は,同10年4月1日から同12年3月31日まで県議会事務局次長兼総務課長の職にあり,1000万円未満の補助金の支出命令の専決権限を有していた者である。被上告人Y3は,同年4月1日から県議会事務局次長兼総務課長の職にあり,上記と同じ専決権限を有している者である。
 (2) 被上告人元議員会は,昭和54年に設立された権利能力のない社団であり,県議会議員として在職したことがある者のうち会則の趣旨に賛同する者により組織されている。被上告人元議員会の目的は,平成13年1月31日の会則改正前においては「会員の親睦をはかり,意見の交換等を通じ,県政の発展に寄与すること」とされていたが,同改正後は「県政の発展及び県民の福祉増進を図ること」とされている。被上告人元議員会は,平成11年度及び平成12年度の会員数が93名から102名であり,その会員から1人毎年1万円の会費を徴収している。
 (3) 被上告人Y1は県の被上告人元議員会に対する平成11年度の補助金の交付決定をし,これを受けて専決権者である被上告人Y2は支出命令を発令し,同年度において450万円の補助金が支出された。また,被上告人Y1は県の被上告人元議員会に対する平成12年度の補助金の交付決定をし,これを受けて専決権者である被上告人Y3は支出命令を発令し,同年度において241万1026円の補助金が支出された(以下,上記各補助金を併せて「本件各補助金」という。)。
 (4) 県は,被上告人元議員会に対する補助金の交付に関し,静岡県元県議会議員会運営費補助金交付要綱(以下「交付要綱」という。)を定めている。平成11年度の補助金について適用された交付要綱は,その趣旨につき「知事は,県政貢献者の功労に報いるため,県政の研究,意見交換等を通じ県政発展に寄与する静岡県元県議会議員会に対し,予算の範囲内において,補助金を交付するものとし,その交付に関しては,静岡県補助金等交付規則(昭和31年静岡県規則第47号)及びこの要綱の定めるところによる。」と規定し,また,補助の対象につき「元議員会の運営事業に要する経費」と規定していた。交付要綱は,平成12年度の改正により,その趣旨につき「知事は,静岡県議会議員の職にあった者の礼遇に関する規程(昭和54年3月8日制定)に基づき,静岡県元県議会議員会に対し,予算の範囲内において,補助金を交付するものとし,その交付に関しては,静岡県補助金等交付規則(昭和31年静岡県規則第47号)及びこの要綱の定めるところによる。」と,また,補助の対象につき「ア 県政の発展に貢献する調査及び研修の実施並びに講演会及び県政懇談会の開催 イ 総会,幹事会及びその他必要な会議の開催 ウ 会報及び参考資料の刊行及び配付 エ その他県政発展のための必要な事業」とそれぞれ改められ,同年度の補助金から改正後の規定が適用されることになった。
 (5) 被上告人元議員会の県知事に対する平成11年度の補助金交付申請は,「県政の発展に寄与する諸事業の推進及び会員の親睦」を事業の目的とし,「総会及び役員会の開催」,「県内,県外視察研修」,「会報の発行」,「講演会の開催」及び「県政懇談会の開催」を事業の内容としてされたものであり,同年度の補助金の交付決定は,上記の事業を補助する目的でされたものである。被上告人元議員会の県知事に対する平成12年度の補助金交付申請は,「県政の発展に寄与する諸事業の推進」を事業の目的とし,平成11年度と同様のものを事業の内容としてされたものであり,平成12年度の補助金の交付決定は,上記の事業を補助する目的でされたものである。
 (6) 被上告人元議員会は,本件各補助金を使用して次の活動をした。
 ア 総会
 平成11年度の総会を2回にわたり,それぞれ会員41名及び32名参加の下,ホテルセンチュリー静岡で開催し,費用として合計145万2374円を支払った。また,平成12年度の総会を2回にわたり,それぞれ会員32名及び31名参加の下,上記ホテル等で開催し,費用として合計89万5255円を支払った。これらの総会における議題は,前年度の事業報告及び歳入歳出決算,当該年度の事業計画及び歳入歳出予算,役員の選任等であり,総会の際には懇親会が行われている。
 イ 県外視察
 平成11年度の県外視察を,会員18名参加の下,3泊4日の日程で行い,阿寒湖マリモ展示観察センター,川湯相撲記念館,博物館網走監獄,オホーツク流氷館,男山酒造り資料館,旭川優佳良織工芸館,雪の美術館,雪印乳業史料館,北海道開発庁,小樽市博物館及びザ・グラス・スタジオ・イン・オタルを訪問した。なお,同視察に参加した会員から1人5万5000円の参加費が徴収された。
 ウ 県内視察
 平成11年度の県内視察を,会員26名参加の下,1泊2日の日程で行い,ねむの木学園,吉行淳之介文学館,東京女子医科大学看護学部・吉岡弥生記念館,豊田町香りの博物館及びスズキ株式会社湖西工場を訪問した。なお,同視察に参加した会員から1人1万5000円の参加費が徴収された。
 エ 講演会
 平成11年度の講演会を,会員32名参加の下,元在日外国特派員協会会長を講師に迎え,「外国人記者からみた日本の政治」との演題で開催した。平成12年度においては,会員29名参加の下,富士通総研取締役研究開発部長を講師に迎え,「IT革命が生活・仕事を変える」との演題で,また,会員31名参加の下,NHK解説委員を講師に迎え,「プーチン大統領と今後の日ロ関係」との演題で,それぞれ講演会を開催した。
 オ 県政懇談会
 平成11年度の県政懇談会を,会員27名参加の下,県副知事を迎え,「快適空間しずおかの創造について」とのテーマで実施した。また,平成12年度の県政懇談会を,会員19名参加の下,県企画部空港建設局長を迎え,「空港建設の現状について」とのテーマで実施した。
 カ 会報 
 平成11年度において3回,平成12年度において2回,会報を発行した。
 3 原審は,要旨次のとおり判断し,本件各補助金の支出に違法性はないとして,同支出に係る上告人らの請求を棄却すべきものとした。
 本件各補助金は,被上告人元議員会の会員である県政貢献者の功労に報いるとともに,県政の発展に寄与する被上告人元議員会の事業を促進することを目的とするものであり,補助の対象となった具体的事業も公益性を有するものである。本件各補助金の交付につき地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」に当たるものと認めた県としての判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえず,本件各補助金の支出に違法性はない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件各補助金の対象となった事業は,いずれも被上告人元議員会の会員を対象とした内部的な行事等であって,住民の福祉に直接役立つものではなく,その事業それ自体に公益性を認めることはできない。また,前記事実関係によれば,本件各補助金の交付の趣旨は,県議会議員の職にあった者の功労に報いることと,その者らに引き続き県政の発展に寄与してもらうことにあるということができるが,県議会議員の職にあった者も,その職を退いた後は,もはや県民を代表する立場にはないのであるから,上記の趣旨により被上告人元議員会の内部的な事業に要する経費を補助するとしても,県議会議員の職にあった者に対する礼遇として社会通念上是認し得る限度を超えて補助金を交付することは許されないというべきである。ところが,本件各補助金の交付は,その金額が平成11年度が450万円,平成12年度が241万1026円であって,被上告人元議員会の事業の内容や会員数に照らしても,県議会議員の職にあった者に対する礼遇として社会通念上是認し得る限度を超えるものといわざるを得ない。そうすると,本件各補助金の交付につき地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」に当たるものと認めた県としての判断は裁量権の範囲を逸脱したものであって,本件各補助金の支出は全体として違法というべきである。
 5 以上によれば,本件各補助金の支出に違法性はないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があり,原判決のうち本件各補助金の支出に係る請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同請求に関し,被上告人Y1及び被上告人元議員会の故意又は過失並びに被上告人Y2及び被上告人Y3の故意又は重過失の有無を審理させるとともに,被上告人元議員会の故意又は過失が否定された場合の予備的請求の当否について審理させるため,本件を原審に差し戻すべきである。
 なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 �コ治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

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