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2006.01.29

最高裁判所判例 平成18年01月19日 第一小法廷判決 平成17年(受)第761号 損害賠償請求事件

判例 平成18年01月19日 第一小法廷判決 平成17年(受)第761号 損害賠償請求事件
要旨:
 差押えがされている動産引渡請求権を更に差し押さえた債権者が,先行する差押事件で実施される配当手続に参加するために,執行裁判所に対して競合差押債権者の存在を認識させる措置を執るべき義務の有無(消極)

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成17年(受)第761号 平成18年01月19日 第一小法廷判決 破棄自判)
 原審 大阪高等裁判所 (平成16年(ネ)第984号)

主    文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         

理    由

 上告代理人村尾勝利の上告受理申立て理由について
 1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,平成6年6月8日,Aとの間で成立した裁判上の和解の和解調書に基づき,同人が投資顧問業の営業保証金として大阪法務局に供託した有価証券の取戻請求権(以下「本件取戻請求権」という。)に対する差押命令の申立て(以下「本件申立て」という。)を行い,同月9日,差押命令を得た(大阪地方裁判所平成6年(ル)第1666号事件。以下,同事件を「本件事件」,本件事件の執行裁判所を「本件事件執行裁判所」,上記差押命令を「本件差押命令」という。)。
 (2) 本件取戻請求権については,本件差押命令に先立って,Bの申立てに係る差押命令(同裁判所平成5年(ル)第1734号事件)及びCの申立てに係る差押命令(同裁判所平成5年(ル)第3511号事件。以下,同事件と上記第1734号事件とを併せて「本件先行事件」,本件先行事件の執行裁判所を「本件先行事件執行裁判所」という。)が発せられていた。
 (3) 上告人は,本件申立てと同時に第三債務者の陳述の催告の申立てをし,同催告に係る第三債務者国(大阪法務局供託官)の平成6年6月10日付け陳述書には,本件取戻請求権について本件差押命令と競合する本件先行事件の各差押命令があることが記載されていた。
 (4) 大阪地方裁判所所属の執行官は,本件先行事件について,平成7年12月20日,上記供託された有価証券の引渡しを受けて換価し,同月27日,その売得金を本件先行事件執行裁判所に提出した。
 (5) 本件先行事件執行裁判所は,平成8年2月16日を配当期日(以下「本件配当期日」という。)と指定し,本件先行事件の担当裁判所書記官は,C及びBを配当を受けるべき債権者として,Aを債務者として,それぞれ本件配当期日への呼出しを行い,同日,配当が実施された。
 (6) 上告人は,本件配当期日への呼出しを受けず,上記配当の手続(以下「本件配当手続」という。)に参加できなかった。上告人は,本件配当手続に参加することができていれば,214万0381円の配当を受けることができた。
 (7) 上告人は,本件差押命令が発せられてから本件配当期日までの間,本件事件執行裁判所に対し,本件事件に関して,その進行状況の確認等を含め何らの問い合わせもしていない。
 2 本件は,上告人が,執行裁判所の民事執行手続上の義務違反行為等により,本件配当手続に参加することができず,得べかりし配当金相当額の損害を被ったと主張して,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をした事案である。
 3 第1審は,上告人の請求は,�@得べかりし配当金相当額の損害214万0381円,�Aこれに対する本件配当期日から本訴提起日である平成15年4月8日までの間(以下「本件期間」という。)の遅延損害金について上告人には損害拡大の過失があるとして7割の過失相殺をした後の22万9313円及び�B214万0381円に対する本訴提起日の翌日である同月9日からの年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとした。これに対し,原審は,前記事実関係の下で次のとおり判断して,上記得べかりし配当金相当額の損害の発生について上告人にも過失があり,5割の過失相殺をすべきものとして,上告人の請求は,�@107万0190円,�A本件期間中の遅延損害金22万9313円(被上告人からの控訴であったため,不利益変更の禁止の原則により,第1審判決の認容額がそのまま維持された。)及び�B107万0190円に対する平成15年4月9日からの年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとし,その旨の変更判決をした。
 (1) 動産引渡請求権に対する差押命令については,民事執行法(以下「法」という。)上,その執行がされたことを公示する方法はなく,また,同差押命令を発した執行裁判所が競合する後行の差押債権者の存在を知る制度がないことからすると,同差押命令の執行において執行裁判所が競合差押債権者の存在を知り得るのは,差押債権者の申立てがある場合に行われる第三債務者の陳述の催告の制度によるほか,競合差押債権者の積極的な行動にゆだねられていると解される。そうすると,執行裁判所は配当を実施する主体として,競合差押債権者は自己の債権を民事執行手続上実現すべき当事者として,それぞれ,当該競合差押債権者が配当期日に参加できるように適切な措置を講ずべき民事執行手続上の義務を負うというべきである。
 (2) 本件事件執行裁判所は,本件事件において提出された第三債務者の陳述書に本件事件と競合する本件先行事件が記載されていたのであるから,本件事件執行裁判所と同一の官署に属する本件先行事件執行裁判所に対し,本件先行事件と競合する本件事件が存在することを連絡すべきであったのに,そのような措置を講じなかった点に民事執行手続上の義務違反がある。他方,上告人も,上記第三債務者の陳述書により,本件事件と競合する本件先行事件が存在することを知ったのであるから,同一の官署に属する本件事件執行裁判所及び本件先行事件執行裁判所に対し,事件の進行状況の確認を含め種々の問い合わせをして,各執行裁判所に競合差押債権者の存在を認識させ,競合差押債権者に対する本件配当期日への呼出しを欠くことのないようにしておくべきであったのに,そのような措置を講じなかった点に民事執行手続上の義務違反がある。以上の義務違反行為が競合して,上告人が本件配当手続に参加できず,上告人に得べかりし配当金相当額の損害が発生したから,上告人の上記義務違反行為に係る過失について過失相殺をすべきであり,その割合は5割と認める。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 1個の動産引渡請求権に対して複数の差押命令が発せられ,差押えの競合が生じている場合において,配当手続を実施するときには,執行裁判所は,執行官が当該動産の引渡しを受けた時までに差押え,仮差押え又は配当要求をした債権者を配当を受けるべき債権者として配当期日に呼び出さなければならない(法165条4号,166条,85条2項(平成16年法律第152号による改正前のもの))。本件では,上告人が本件申立てと同時に申し立てた第三債務者の陳述の催告に対して第三債務者国が本件事件執行裁判所に提出した陳述書に本件先行事件があることが記載されていたというのであるから,本件事件執行裁判所は,これにより,本件取戻請求権について本件事件と競合する本件先行事件が存在することを知るに至ったということができる。この場合,本件事件執行裁判所には,配当手続の実施に備えて,本件事件執行裁判所に係属した本件事件の存在を本件先行事件執行裁判所に知らせる民事執行手続上の義務があるというべきである。
 他方,第三債務者の陳述の催告の制度は,差押債権者が被差押債権に関する情報を取得するためのものであり,これにより当該被差押債権について競合する先行の差押事件(以下「先行事件」という。)の存在を知った当該差押債権者に対し,その申立てに係る差押事件の存在を先行事件が係属する執行裁判所に知らせる義務を負わせるものではない。そして,他に,法上,後行の差押債権者において,先行事件で実施される配当手続に参加することを確保するために執るべきものとされている民事執行手続上の措置はない。
 以上によれば,後行の差押債権者には,先行事件で実施される配当手続に参加するために,自らの差押事件の執行裁判所及び先行事件の執行裁判所に対し,自らの差押事件の進行について問い合わせをするなどして,競合差押債権者の存在を認識させる措置を執るべき義務はなく,したがって,このような措置を執らなかったことについて過失相殺の対象となる過失もないというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記過失相殺をしなかった第1審判決は正当であり(得べかりし配当金相当額の損害に対する本件期間中の遅延損害金に関しては,上告人から不服の申立てがない。),被上告人の控訴は棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 �コ治 裁判官 才口千晴)

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