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2006.03.01

最高裁判所判例 平成18年02月24日 第二小法廷判決 平成17年(受)第882号 損害賠償請求事件

判例 平成18年02月24日 第二小法廷判決 平成17年(受)第882号 損害賠償請求事件
要旨: 未成年者が強盗傷人事件を犯した場合において,親権者に同事件に結びつく監督義務違反があったとはいえないとされた事例

内容:  件名 損害賠償請求事件 (最高裁判所 平成17年(受)第882号 平成18年02月24日 第二小法廷判決 棄却)
 原審 札幌高等裁判所 (平成16年(ネ)第253号)

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         

理    由

 第1 事案の概要
 1 本件は,少年院を仮退院して保護観察に付されていたA(以下「A」という。),B(以下「B」という。)及びC(以下「C」といい,A及びBと併せて「Aら」という。)が集団で上告人に暴行を加えた傷害事件に関して,上告人が,被上告人らには,当時未成年であったAらの親権者として,�@ 被上告人らの下で生活すること,�A 友達を選ぶこと,�B 定職に就いて辛抱強く働くことなどの保護観察の遵守事項をAらに守らせ,また,これらが守られない場合には,Aらを少年院に再入院させるための手続等を執るべき監督義務があったにもかかわらず,これらを怠ってAらを放任したために,上記傷害事件が発生したものであると主張して,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) Aの生い立ち
 ア Aは,被上告人Y1(以下「被上告人Y1」という。)及び同Y2(以下「被上告人Y2」といい,被上告人Y1と併せて「被上告人Y1ら」という。)の長男として昭和56年12月に出生したが,平成8年には深夜はいかいで補導されるようになった。
 イ その後,Aは,�@ 中学校卒業後,塗装工の職に就いたが,3か月ほどで退職し,�A 平成9年には暴行やシンナー吸引等の非行事実により保護観察に付され,保護司の紹介でとび職に就いたが,1か月ほどで退職し,�B 平成10年2月(16歳2月)には恐喝の非行事実により医療少年院送致の処分を受けて関東医療少年院に収容され,次いで北海少年院に収容され,�C 平成11年10月(17歳10月)には被上告人Y1に対する傷害等の非行事実により特別少年院送致の処分を受けて帯広少年院に収容された。
 ウ Aは,平成13年4月(19歳4月),帯広少年院を仮退院して保護観察に付され,犯罪者予防更生法34条2項所定の一般遵守事項に加え,特別遵守事項として,「友達を選び,悪い誘いに乗らないこと。」,「定職に就いて辛抱強く働くこと。」,「進んで保護司を訪ね,指導,助言を受けること。」等が定められた。Aは,被上告人Y1宅に戻って,とび職,次いで飲食店勤務の職に就いたが,とび職の仕事振りは,無遅刻,無欠勤でまじめなものであり,家族との関係も良好であった。
 エ しかし,Aは,同年6月,被上告人Y1らの了解を得ることなく,上京して新宿のクラブに就職した。被上告人Y1らは,電話で再三にわたり,札幌市の被上告人Y1宅に戻るよう説得したが,Aは応じなかった。やがて,帯広少年院等でAと顔見知りとなっていたBも,Aの誘いを受け,上京して同人と同じクラブに就職した。
 オ Aは,同年8月16日,新宿のクラブを退職して,札幌市の被上告人Y1宅に戻ったが,被上告人Y1らは出勤しており,鍵を持っていなかったので,被上告人Y1宅に入ることができなかった。そこで,Aは,北海道中川郡a町の被上告人Y2の実家に宿泊した後,同月19日以降は,Bが戻っていた釧路市の被上告人Y3(以下「被上告人Y3」という。)宅に寝泊まりして,Bと遊び歩くようになったが,犯罪に結びつくような特段の問題行動は見られなかった。
 (2) Bの生い立ち
 ア Bは,被上告人Y3及び同Y4(以下,被上告人Y3と併せて「被上告人Y3ら」という。)の三男として昭和57年4月に出生したが,平成4年には深夜はいかいで補導されるようになった。
 イ その後,Bは,�@ 平成8年には中学校の教師に対する傷害等の非行事実により教護院送致の処分を受け,�A 平成10年1月(15歳9月)には窃盗,ぐ犯の非行事実により初等少年院送致の処分を受け,�B 中学校卒業後,鉄筋工等の職に就いたが,�C 平成11年6月(17歳2月)には道路交通法違反の非行事実により中等少年院送致の処分を受け,�D 平成12年2月(17歳10月)にも窃盗,道路交通法違反等の非行事実により中等少年院送致の処分を受けて帯広少年院に収容された。
 ウ Bは,平成13年5月(19歳1月),帯広少年院を仮退院して保護観察に付され,一般遵守事項に加え,Aと同様の特別遵守事項が定められた。Bは,被上告人Y3宅に戻り,被上告人Y3らの勧めで,同年7月ころ,普通,大型特殊及びけん引の各自動車運転免許を取得した。
 エ しかし,Bは,上記の各免許を活用できる職には就かず,同年8月1日,帯広少年院等で知り合ったAの誘いを受け,被上告人Y3らに相談することなく,上京して新宿のクラブに就職した。Bから上京や就職の報告を受けた被上告人Y3は,まじめに働くなら仕方がないと思い,戻って来るよう説得をしなかったが,保護司に連絡するよう指示したところ,同人はこれに応じた。なお,Bは,上京するまでは,決められた日に保護司の下に出頭していた。
 オ Bは,2週間ほどで新宿のクラブを退職し,長野県に住んでいる兄が,同人を迎えに行き,同月19日,釧路市の被上告人Y3宅に戻らせた。そこに前記のとおりAが遊びに来て,同日以降,被上告人Y3宅に寝泊まりするようになった。
 (3) Cの生い立ち
 ア Cは,Dと被上告人Y5(以下「被上告人Y5」という。)の長男として昭和57年1月に出生したが,同被上告人がDと離婚してE(以下「E」という。)と再婚したことから,同人の養子となった。しかし,CとEの関係は円満ではなく,Eが勉強を強制したり,体罰を加えたり,友人宅へ遊びに行くことも許さなかったことから,Cは,窓から外出して深夜はいかいするようになった。
 イ その後,Cは,�@ 平成6年には深夜はいかいで補導されるようになり,�A 平成7年には占有離脱物横領,窃盗の非行事実により児童相談所に通告され,�B 中学校卒業後,塗装工,サイディング工の職に就いたが,�C 平成9年には窃盗,同未遂の非行事実により家庭裁判所に送致されて審判を受け,保護処分に付さない旨の決定を受け,�D 平成12年には詐欺未遂の非行事実により保護観察に付され,�E 同年11月(18歳10月)には強盗致傷の非行事実により中等少年院送致の処分を受けて月形少年院に収容された。
 ウ Cは,平成13年4月(19歳3月),月形少年院から仮退院して保護観察に付され,一般遵守事項に加え,Aと同様の特別遵守事項が定められた。Cは,いったん被上告人Y5宅に戻ったが,Eが正座をさせて長時間説教したりすることを嫌い,同年5月ころ,保護司の紹介で,ホテルの住み込みの配ぜん係の職に就いた。Cは,同年6月にはホテルを退職したが,Eとの同居を嫌って,被上告人Y5宅には戻らず,交際していたF(以下「F」という。)とその父親の家で同居し,Fの父親の漁業を手伝うようになった。そして,同年5月ころには,構成員ではないものの,暴力団事務所に出入りするようになっていたが,被上告人Y5は,このことを知らなかった。
 (4) Aらの不法行為
 CとFは,平成13年8月22日,テレホンクラブを利用して呼び出した男性から金品を強取することを企て,中学校の1年後輩であるBに共同して実行することを持ちかけたところ,同人は,これを承諾し,Aも誘った。そして,Aらは,共謀の上,同日午後11時ころ,金品を強取する目的で,Fに,上告人を釧路市の海岸付近に誘い出させ,上告人に対し,こん棒のようなもので殴打する暴行を加え(以下「本件事件」という。),約12万7000円を強取した。上告人は,本件事件によって,脳ざ傷,急性硬膜外血しゅ等の傷害を受け,入通院を余儀なくされ,右手指機能障害の後遺障害を負った。
 3 原審は,上記の事実関係の下において,被上告人らが親権者としての監督義務を怠ったということはできないなどと判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 第2 上告代理人品川吉正の上告受理申立て理由第2点について
 1 未成年者が責任能力を有する場合であっても,その監督義務者に監督義務違反があり,これと未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得るときには,監督義務者は,民法709条に基づき損害賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第1067号同49年3月22日第二小法廷判決・民集28巻2号347頁参照)。
 2 前記事実関係によれば,Aらは,暴行,恐喝,傷害,窃盗,強盗致傷等の非行歴を有し,保護観察や少年院送致の処分を繰り返し受けていたところ,本件事件当時,少年院を仮退院して保護観察に付され,一般遵守事項に加え,特別遵守事項が定められていたにもかかわらず,これらを守らないで,遊び歩いていたり,暴力団事務所に出入りするなどしていたというのである。
 しかし,前記事実関係によれば,本件事件当時,Aらは,いずれも,間もなく成人に達する年齢にあり,既に幾つかの職歴を有し,被上告人らの下を離れて生活したこともあったというのであり,平成13年4月又は5月に少年院を仮退院した後のAらの行動から判断しても,被上告人らが親権者としてAらに対して及ぼし得る影響力は限定的なものとなっていたといわざるを得ないから,被上告人らが,Aらに保護観察の遵守事項を確実に守らせることができる適切な手段を有していたとはいい難い。
 上告人は,Aらを少年院に再入院させるための手続(以下「再入院手続」という。)等を執るべきであったと主張する。
 そこで,この点について検討すると,前記事実関係によれば,Aらは,いずれも19歳を超えてから少年院を仮退院し,以後本件事件に至るまで特段の非行事実は見られず,AとBは,本件事件の約1週間前まで新宿のクラブで働き,本件事件当時は被上告人Y3宅に居住していたというのであり,Cは,本件事件当時,Fの父親の家に居住し,漁業の手伝いをしていたというのであるから,被上告人らにおいて,本件事件当時,Aらが本件事件のような犯罪を犯すことを予測し得る事情があったということはできない(Cが暴力団事務所に出入りするようになっていたことを被上告人Y5が知らなかったことは前記のとおりである。)し,Aらの生活状態自体が直ちに再入院手続等を執るべき状態にあったということもできない。
 3 以上によれば,本件事件当時,被上告人らに本件事件に結びつく監督義務違反があったとはいえず,本件事件によって上告人が被った損害について,被上告人らに民法709条に基づく損害賠償責任を認めることはできない。これと同旨をいう原審の判断は正当である。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀)

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