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2006.05.20

最高裁判所平成18年03月28日判決

事件番号 平成15(受)1099
事件名 解雇無効確認等請求事件
裁判年月日 平成18年03月28日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 福岡高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 平成15年03月26日

判示事項
裁判要旨 使用者が本俸等のほか期末手当等を支払うものとしていた労働者に解雇期間中の賃金を支払う場合において当該労働者が他の職に就いて得た利益の額を同期末手当等の全額を対象として控除することができるとされた事例

主文

1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 被上告人が上告人との間の雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 上告人は,被上告人に対し,245万7762円及びこれに対する平成11年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 上告人は,被上告人に対し,890万5668円及びうち91万6322円に対する平成13年8月7日から,うち93万0348円に対する同14年12月12日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 上告人は,被上告人に対し,平成15年1月1日から同16年4月30日まで毎月末日限り24万0102円を支払え。
(5) 被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを3分し,その2を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。


理由

上告代理人河津和明,同福山富士男,同鹿瀬島正剛の上告受理申立て理由第2について
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,昭和48年7月,上告人に雇用され,その設置する保育所において,保母として保育業務に従事してきたが,平成10年10月31日,その担当を保育業務から清掃整備業務に変更する旨の配置転換命令を受けた。
(2) 上告人においては,従業員に対し,本俸のほか,期末手当及び勤勉手当(以下,併せて「期末手当等」という。)を支払うものとされ,保育業務に従事する保母に対しては,更に特殊業務手当及び特別給与改善手当(以下,併せて「特業手当等」という。)も支払うものとされていた。被上告人は,上記配置転換命令を受けるまでは,本俸及び特業手当等として毎月合計24万0102円を支給されていたが,上告人は,上記配置転換命令を前提として,平成11年2月分以降は特業手当等を支払わないこととするとともに,同年3月分以降の本俸及び同月支給の期末手当を減額した。
(3) 上告人は,被上告人に対し,平成11年4月1日,被上告人に用務員を命ずる旨の配置転換命令(以下,(1)の配置転換命令と併せて「本件各配転命令」という。)をした。
(4) 上告人は,被上告人に対し,平成11年5月15日,同月18日限り被上告人を解雇する旨の意思表示をした(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。)。
(5) 本件解雇に係る雇用契約終了の日の翌日である平成11年5月19日から同14年12月31日までの期間(以下「本件期間」という。)において,本件各配転命令及び本件解雇がいずれも無効であるとすれば被上告人に支払われるべきであった賃金の額等は,次のとおりである。
ア平成11年5月19日から同13年4月30日までの間(以下「本件期間1」という。)に係る賃金等
(ア) 被上告人に支払われるべきであった本件期間1に係る本俸及び特業手当等の合計額は552万2346円であり,被上告人に支払われるべきであった本件期間1に係る期末手当等の合計額は249万7060円である。
(イ) 被上告人は,本件期間1のうち平成11年9月から同13年4月までの間(以下「就労期間1」という。)は,他で就労して合計358万0123円の収入を得ていた。
(ウ) (ア)の本俸及び特業手当等のうち,就労期間1に係るものは合計480万2040円であり,その余の期間に係るものは合計72万0306円である。(ア)の期末手当等のうち,就労期間1に係るものは合計196万8836円であり,その余の期間に係るものは52万8224円である。
(エ) 就労期間1における被上告人の労働基準法12条1項所定の平均賃金の合計額は,1か月24万0102円に20か月を乗じた金額である480万2040円となる。
イ平成13年5月1日から同14年12月31日までの間(以下「本件期間2」という。)に係る賃金等
(ア) 被上告人に支払われるべきであった本件期間2に係る本俸及び特業手当等の合計額は480万2040円であり,被上告人に支払われるべきであった本件期間2に係る期末手当等の合計額は237万7009円である。
(イ) 被上告人は,本件期間2のうち平成13年5月から同14年3月までの間(以下「就労期間2(1)」という。)及び同年10月から同年12月までの間(以下「就労期間2(2)」という。)は,他で就労して,就労期間2(1)において211万9269円,就労期間2(2)において59万3395円の各収入を得ていた。
(ウ) (ア)の本俸及び特業手当等のうち,就労期間2(1)に係るものは合計264万1122円であり,就労期間2(2)に係るものは合計72万0306円であり,その余の期間に係るものは合計144万0612円である。(ア)の期末手当等のうち,就労期間2(1)に係るものは合計124万8530円であり(そのうち,平成13年6月分の期末手当は52万8224円である。),就労期間2(2)に係るものは60万0255円であり,その余の期間に係るものは52万8224円である。
(エ) 被上告人の平均賃金の合計額は,就労期間2(1)については1か月24万0102円に11か月を乗じた金額である264万1122円となり,就労期間2(2)については同様に3か月を乗じた金額である72万0306円となる。
2 本件は,被上告人が,本件各配転命令及び本件解雇はいずれも権利を濫用してされたものであって無効であると主張して,上告人に対し賃金及びそのうち期末手当等に対する遅延損害金の支払等を求めている事案である。
3 原審は,上記事実関係等の下において次のとおり判断し,本件期間に係る賃金等の請求について,その一部を認容すべきものとした。
(1) 本件各配転命令及び本件解雇は,いずれも無効である。したがって,上告人は,被上告人に対し,被上告人が保母として保育業務に従事したことを前提として賃金を支払うべきである。もっとも,被上告人は,民法536条2項ただし書に従い,本件期間に他で就労して得た利益を上告人に償還しなければならず,賃金請求は,この償還しなければならない金額を控除した金額の限度で認容すべきこととなる。
(2) そして,他で就労していた期間に係る賃金に関しては,労働基準法26条を類推適用し,そこから上記利益の額を同賃金の額の4割の限度で控除した後の金額が支払われるべきであるから,本件期間に係る賃金として上告人の支払うべき金額は,次のとおりとなる。
ア本件期間1に係る賃金
本件期間1における本俸及び特業手当等並びに期末手当等の合計額801万9406円から,被上告人が他で就労して得た利益の合計額358万0123円を,就労期間1における本俸及び特業手当等並びに期末手当等の合計額の4割に当たる270万8350円の限度で控除した後の金額である531万1056円
イ本件期間2に係る賃金
本件期間2における本俸及び特業手当等並びに期末手当等の合計額717万9049円から,被上告人が他で就労して得た利益の合計額271万2664円を,就労期間2(1)及び同2(2)における本俸及び特業手当等並びに期末手当等の合計額の4割に当たる208万4085円の限度で控除した後の金額である509万4964円
(3) よって,本件期間に係る賃金等の請求は,原判決主文第2項(3),(4)の限度で認容すべきである。
4 しかしながら,原審の上記3(2)及び(3)の判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(以下「中間利益」という。)を得たときは,使用者は,当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが,上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって,使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり,上記中間利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には,更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(同条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解される(最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁,最高裁昭和59年(オ)第84号同62年4月2日第一小法廷判決・裁判集民事150号527頁参照)。
(2) 上記に従って本件期間に係る賃金から控除されるべき被上告人の中間利益の金額を算定すると,前記事実関係等によれば,本件期間に係る賃金として上告人が被上告人に支払うべき金額については,次のとおりである。
ア本件期間1に係る賃金等
(ア) 被上告人に支払われるべきであった就労期間1における本俸及び特業手当等の合計額480万2040円のうち,就労期間1における平均賃金の合計額の6割に当たる288万1224円は,そこから控除をすることが禁止され,その全額が被上告人に支払われるべきである。
(イ) 他方,上記の本俸及び特業手当等の合計額480万2040円のうち(ア)を超える金額(192万0816円)については,就労期間1に被上告人が他から得ていた合計358万0123円の中間利益を,まずそこから控除することとなるので,支払われるべき金員はない。
(ウ) 就労期間1に被上告人が他から得ていた上記の中間利益のうち(イ)の控除(192万0816円)をしてもなお残っている165万9307円については,これを,被上告人に支払われるべきであった就労期間1における期末手当等の合計額196万8836円から控除すべきである。したがって,上記期末手当等は,合計30万9529円が支払われるべきこととなる。
(エ) 結局,上告人は,被上告人に対し,就労期間1に係る賃金としては,本俸及び特業手当等のうち(ア)の288万1224円と,期末手当等のうち(ウ)の30万9529円との合計額319万0753円を支払うべきこととなる。
(オ) 就労期間1に係る賃金として支払われるべき(エ)の319万0753円と,その余の期間に係る賃金合計124万8530円(本俸及び特業手当等72万0306円と期末手当等52万8224円とを合わせた金額)とを合わせると,443万9283円となる。これが,本件期間1に係る賃金として上告人が支払義務を負う金額である。
イ本件期間2に係る賃金
アと同様にして計算し,就労期間2(1)に係る賃金として支払われるべき控除後の金額合計177万0383円と,就労期間2(2)に係る賃金として支払われるべき控除後の金額合計72万7166円と,その余の期間に係る賃金合計196万8836円(本俸及び特業手当等144万0612円と期末手当等52万8224円とを合わせた金額)とを合わせると,446万6385円となる。これが,本件期間2に係る賃)そうすると,本件期間に係る賃金等の請求は,次の金額の限度で認容し,その余を棄却すべきこととなる。
ア本件期間1に係る賃金
賃金合計443万9283円及びうち期末手当等である83万7753円(就労期間1に係る30万9529円とその余の期間に係る52万8224円との合計額)に対する平成13年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損金として上告人が支払義務を負う金額である。
(3害金
イ本件期間2に係る賃金
(ア) 平成13年6月分の期末手当7万8569円(控除前の同期末手当の額に,就労期間2(1)に係る期末手当等の控除前の合計金額に対する控除後の合計金額の割合を乗じた金額)及びこれに対する同年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
(イ) その余の賃金合計438万7816円及びうち期末手当等である93万0348円(就労期間2(1)に係る18万5710円から(ア)の7万8569円を引き,就労期間2(2)に係る29万4983円及びその余の期間に係る52万8224円を加えた金額)に対する平成14年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
5 以上と異なる見解に立って賃金から控除すべき中間利益の金額の算定を誤り,本件期間に係る賃金等の請求につき上記4(3)の金額を超えて過大に認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの限度で理由がある。その余の請求に関しては,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除された。
そうすると,原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官堀籠幸男 裁判官濱田邦夫 裁判官上田豊三 裁判官藤田宙靖)

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