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2006.07.21

最高裁判所平成18年4月20日判決(損害賠償請求事件)

事件番号 平成17(受)530
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年04月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成16(ネ)2205
原審裁判年月日 平成16年12月15日

判示事項
裁判要旨
1 情報公開条例に基づき開示請求がされた公文書に虚偽の情報が記載されていた場合において県の担当職員が当該公文書の記載内容の真否を調査せずに当該情報が同条例の定める非開示情報に当たると判断したことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例 
2 情報公開条例に基づき一部非開示決定がされた公文書に虚偽の情報が記載されていた場合において実施機関がこの事実を知った後も同決定を取り消すことなく同決定に係る取消訴訟に応訴したことが国家賠償法上違法とはいえないとされた事例

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人藤森克美の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
1 原審が適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 静岡県公文書の開示に関する条例(平成元年静岡県条例第15号。平成12年静岡県条例第58号による全部改正前のもの。以下「本件条例」という。)5条は,静岡県内に住所を有する者等は,静岡県知事(以下「知事」という。)等の実施機関に公文書(実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書等)の開示を請求することができる旨を定めている。他方,本件条例は,その9条において,開示の請求に係る公文書に同条各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合には,実施機関は当該公文書の開示をしないことができる旨を定め,同条3号本文は,「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」と,同条8号は,「監査,検査,取締り,徴税等の計画及び実施要領,渉外,争訟,交渉の方針,契約の予定価格,試験の問題及び採点基準,職員の身分取扱い,用地買収計画その他の実施機関が行う事務事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの,当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は県の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」と,それぞれ定めている。
また,本件条例7条は,実施機関は,やむを得ない理由がある場合を除いては,公文書の開示請求書を受理した日から起算して15日以内に請求に係る公文書の開示をするかどうかの決定をしなければならない旨を定めている。
(2)ア静岡県内に住所を有する上告人は,平成7年4月25日,本件条例に基づき,実施機関である知事に対し,平成5年度の静岡県(以下「県」という。)の財政課(以下「県財政課」という。),秘書課及び東京事務所のすべての食糧費支出に関する支出負担行為伺,支出票及び請求書の開示を請求した(以下,この請求を「本件第1次請求」という。)。
支出負担行為伺は,支出負担行為を行おうとする際に,その決裁を受けるために作成される文書であり,支出票は,支出を行おうとする際に作成される文書であって,支出票には債主(債権者)から徴した請求書が添付されることとされている。イ本件第1次請求に対して,知事は,平成7年5月30日,①支出負担行為伺中,「件名」欄の相手方名称及び会議名が記載された部分,「摘要(執行理由)」欄の会議名が記載された部分並びに「債権者(債主)」欄,②支出票中,「件名」欄の相手方名称及び会議名が記載された部分,「摘要」欄の会議名が記載された部分並びに「受取人(債主)」欄,③請求書中,「債主」欄の住所・氏名,口座振替先金融機関名及び預金口座の種別・番号が記載された部分を非開示とし,その余の部分を開示する旨の決定をした。
ウ上記イの決定について上告人からの異議申立てを受けた知事は,本件条例12条に基づき,静岡県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に諮問したところ,審査会は,平成8年12月20日付けで,同決定において非開示とされた部分のうち,①支出負担行為伺及び支出票中,「賄料」と明記され,かつ,実施機関が客観的事実をもって「交際的な懇談」であると認める会合に係る「件名」欄及び「摘要(執行理由)」欄の相手方名称(相手方の所属,職,氏名をいう。),②支出票中,「受取人(債主)」欄の口座振替先金融機関名及び預金口座の種別・番号(以下,これらを併せて「金融機関名等」という。)が記載された部分,③請求書中,金融機関名等が記載された部分は非開示が相当であるが,その余の部分は開示すべきであるとの答申(以下「本件答申」という。)をした。
本件答申において,審査会が「交際的な懇談」についての件名や相手方名称を非開示とするのが相当であるとした理由は,支出負担行為伺及び支出票に「賄料」とあるものには酒食を伴う会合に係るものが多いと思われるところ,食糧費の支出を伴う会合は,①勤務時間内に行われることが多い,事務,事業の協議,②勤務時間外に行われることが多い,個別の事務,事業に関して支援,協力を求めるための懇談,③勤務時間外に行われることが多い,相手方との円滑な関係を築く必要上行われる「交際的な懇談」とに分けられるが,このうち③については,大阪府知事の交際費に係る公文書の大阪府公文書公開等条例に定める非公開事由該当性が争われた最高裁平成6年1月27日第一小法廷判決・民集48巻1号53頁に照らし,会合に出席する相手方にとっては,円滑な関係を築こうとする県の要請に応え,好意に基づいて任意に個人的な立場で出席する私的な性格を有するものであって,みだりに公開されたくないとの感情を有することが予想され,相手方名称を開示することによって相手方が県に対して不信,不快の感情を抱き,相手方との円滑な関係が損なわれるおそれがあるから本件条例9条8号に該当する,というものであった。また,本件答申は,支出票の「受取人(債主)」欄中の金融機関名等及び請求書中の金融機関名等は,同条3号に該当するとした。
エ知事は,本件答申を受けて,平成9年3月19日,上告人に対し,上記イの決定を一部変更し,同決定において非開示とした部分の一部を開示する旨の決定をした(以下,異議申立てにより変更された後の一部開示・一部非開示決定を「本件決定1」という。)。
オ上告人は,平成9年6月12日,静岡地方裁判所に対し,本件決定1のうち非開示に係る部分の取消しを求める訴訟を提起した(以下,この訴訟を「本件第1次訴訟」という。)。本件第1次訴訟において最終的に対象となった文書は,18件の支出負担行為に係る56文書であり,非開示とされた部分が本件条例9条8号又は3号に該当するかどうかが争われた。
静岡地方裁判所は,平成11年8月6日,上告人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したが,その控訴審である東京高等裁判所は,平成12年10月25日,この第1審判決を取り消し,上告人の請求を全部認容する旨の判決を言い渡した。この控訴審判決に対しては,金融機関名等が記載された部分の開示を命じた部分のみを不服として知事が上告受理申立てをしたが,同判決は,平成14年11月22日,最高裁判所の上告不受理の決定により確定した。
(3)ア上告人は,平成9年7月11日,本件条例に基づき,知事に対し,県財政課が平成6年10月26日に実施した食糧費支出に関する支出負担行為伺,支出票及び請求書並びに県東京事務所が同月27日及び平成7年3月24日に実施した各食糧費支出に関する支出負担行為伺,支出票及び請求書の開示を請求した(以下,この請求を「本件第2次請求」という。)。
イ本件第2次請求に対して,知事は,平成9年7月24日及び同月25日付けで,①支出負担行為伺中,「件名」欄の相手方名称又は会議名が記載された部分,
②支出票中,「件名」欄の会議名が記載された部分及び「債主」欄の金融機関名等が記載された部分,③請求書中,「債主」欄又は「預金口座」欄の金融機関名等が記載された部分を非開示とし,その余の部分を開示する旨の決定(以下「本件決定2」といい,本件決定1と併せて「本件各決定」ともいう。)をした。
ウ上告人は,平成9年8月28日,静岡地方裁判所に対し,本件決定2のうち非開示に係る部分の取消しを求める訴訟を提起した(以下,この訴訟を「本件第2次訴訟」といい,本件第1次訴訟と併せて「本件各訴訟」ともいう。)。本件第2次訴訟において対象となった文書は,3件の支出負担行為に係る11文書であり,非開示とされた部分が本件条例9条8号又は3号に該当するかどうかが争われた。静岡地方裁判所は,平成11年1月28日,本件決定2のうち,相手方名称又は会議名が記載された部分を非開示とする部分を取り消し,上告人のその余の請求を棄却する旨の判決を言い渡し,その控訴審である東京高等裁判所も,平成12年2月9日,知事の控訴及び上告人の附帯控訴をいずれも棄却する旨の判決を言い渡し,上記第1審判決は,同年10月19日の最高裁判所の上告棄却及び上告不受理の決定により確定した。
エ本件各訴訟は,県における食糧費をめぐる初めての情報公開訴訟であった。
(4)ア知事は,本件第1次訴訟の控訴審判決及び本件第2次訴訟の確定判決を受けて,平成12年11月10日,上告人に対し,本件各訴訟の対象となった合計67文書中の相手方名称又は会議名が記載された部分を開示したが,本件決定1の対象となった文書の中には,県財政課の支出に係るものとして,支出番号40201に関する支出負担行為伺,支出票及び請求書(以下,これらの文書を併せて,「本件文書1」という。)が,本件決定2の対象となった文書の中には,同じく県財政課の支出に係るものとして,支出番号21401に関する支出負担行為伺,支出票及び請求書(以下,これらの文書を併せて,「本件文書2」といい,本件文書1と併せて「本件各文書」ともいう。)が,それぞれ含まれていた。
本件文書1は,執行時期を平成6年2月23日,執行予定額を144万円,実際の支出額を143万7116円とするもので,例えば支出負担行為伺には,「債主」欄にAホテルの住所・名称が記載され,「執行理由」欄に「B交流会打合せ会賄料@18,000×80」と記載されていたが,実際は,地方財政対策関連の情報収集のため,県総務部幹部職員が国の幹部職員とゴルフを伴う懇談を実施する費用を支出するためのもので,実施日も同年3月下旬であり,出席者も十数名であった。本件文書1のうち上記(2)イの決定で非開示とされた部分は,①支出負担行為伺の「執行理由」欄中,「B交流会打合せ会」との記載部分及び「債主」欄のAホテルの住所・名称が記載された部分,②支出票の「摘要」欄中,「B交流会打合せ会」との記載部分並びに「債主」欄のAホテルの住所・名称及び金融機関名等が記載された部分,③請求書中,「債主」欄のAホテルの記名印等が押捺された部分及び金融機関名等が記載された部分であったが,以上のうち,Aホテルの住所・名称が記載された部分及び同社の記名印等が押捺された部分については,上記(2)エにおいて開示された。
また,本件文書2は,執行時期を同年10月26日,執行予定額を112万円,実際の支出額を110万8734円とするもので,例えば支出負担行為伺には,「件名」欄に「平成6年度C協会研修会にかかる賄料について」と,「執行理由」欄に「概算所要@16,000×70」と,それぞれ記載され,「債主」欄にAホテルの記名印等が押捺されていたが,実際は,本件文書1の場合と同様,地方財政対策関連の情報収集のため,県総務部幹部職員が国の幹部職員とゴルフを伴う懇談を実施する費用を支出するためのもので,実施日も同年11月下旬であり,出席者も十数名であった。本件文書2のうち本件決定2で非開示とされた部分は,①支出負担行為伺の「件名」欄中,「C協会研修会にかかる」との記載部分,②支出票の「件名」欄中,「C協会研修会にかかる」との記載部分及び「債主」欄の金融機関名等が記載された部分,③請求書中,「債主」欄の金融機関名等が記載された部分であり,以上のうち,本件第2次訴訟の確定判決によって開示すべきものとされた部分は,支出負担行為伺及び支出票中の「C協会研修会にかかる」との各記載部分であった(以下,この記載部分及び本件文書1中の「B交流会打合せ会」との記載部分とを併せて「本件対象部分」という。)。
イ本件各文書に記載されたB交流会及びC協会は,実際に存在しているが,本件各文書に係る各支出行為には全く関係しておらず,本件各文書は,県からAホテルに金員が支出されたことを除くと,いずれも虚偽の事実が記載された文書であった。
(5) 県財政課は,予算編成等を通じて,県の行財政全般を総括する部署であり,財源確保や県行政全般にわたる調整業務を担っており,その所掌事務は,①予算の編成及び執行の統括に関すること,②県債の発行及び償還に関すること,③県議会及び監査委員に関すること,④宝くじに関すること,⑤その他県行政に関すること,⑥東京事務所に関すること,⑦他部の主管に属しない事務に関することである。そして,県財政課が属する県総務部では,かねてから,地方財政対策関連の情報収集のため,幹部職員が国の幹部職員等と懇談を行ってきた。
(6) 本件条例による公文書の開示に関する事務等についての取扱いを定めた静岡県公文書開示事務等取扱要綱によれば,公文書の開示可否の決定は担当課所において行うものとされ,公文書の開示請求書を受理したときは,速やかに,当該公文書に記録されている情報が本件条例9条各号に該当するかどうかを検討し,必要に応じて関係する本庁各課又は出先機関と協議するほか,当分の間,文書課に(出先機関にあっては本庁事務主管課を経由して)口頭又は文書により協議するものとされている。
平成7年及び平成9年当時の県財政課における公文書開示事務処理手続は,同課の情報開示担当者が,開示請求された文書に記載されている事項が本件条例9条各号に該当するかどうかについて,本件条例の解釈運用基準,過去の対応事例,他の所属での対応事例等を調べた上で,その処理案を起案し,この処理案が総務係長兼課長補佐の稟議を経て財政課長に回され,財政課長において上記文書の開示の可否を決定するというものであった。県財政課が開示の可否を決定した平成5年度及び平成6年度の公文書の開示請求分は,合計約300件で,枚数にして約900枚であった。
(7) 県財政課では,本件第1次請求に係る各文書については,本件答申に基づき検討を行い,本件第2次請求に係る各文書についても,本件答申の趣旨に基づき検討を行った。本件答申がいう食糧費の支出を伴う会合のうちの「交際的な懇談」とそれ以外の協議,懇談との区別について,県財政課では,「交際的な懇談」は,一般に,参加者1人当たりの単価が高いことと使用される会場が有名ホテル等が多いことから,支出負担行為伺等に記載された参加者1人当たりの単価がおおむね1万円以上のもので会場が有名ホテル等である会合のみを「交際的な懇談」に当たるとして処理し,実際に各会合がどのようなものであったかなどの実態については立ち入って調査をすることはせずに,本件各文書は,いずれも参加者1人当たりの単価が1万円を超え,使用会場が有名なAホテルであることから「交際的な懇談」に当たるものと判断し,本件第1次請求については,会議名が記載された部分についての非開示決定を維持し,本件第2次請求についても,会議名が記載された部分を非開示とした。文書を開示すべきかどうかの判断に当たった県財政課の職員が,本件第1次請求及び本件第2次請求において開示請求された文書中に本件各文書のような虚偽の内容が記載された文書が含まれていることを知っていたとはいえず,本件各文書を秘匿する目的で殊更一部非開示の判断をしたとはいえない。
(8) 平成9年7月23日から同月26日にかけて,本件各文書に係る支出が不正支出である疑いがある旨の新聞報道がされ,この新聞報道があった後の相当期間内には,知事や本件各決定に係る判断に関与した職員は,本件各文書の内容が虚偽であることを知った。
(9) 上告人は,平成11年5月31日,静岡地方検察庁に対し,本件各文書に関連して,D(平成5~6年度の県財政課課長補佐)及び氏名不詳者を被告発人として虚偽公文書作成・同行使等の罪で告発した。同検察庁は,捜査をした結果,平成12年12月28日,D,E(平成6年度の県総務部長),F(平成6年度の県財政課課長)及びG(平成6年度の県財政課主査)の4名について,虚偽公文書作成・同行使の罪につき起訴猶予処分とした。なお,上記4名は,これより前の平成12年2月4日,本件各文書に係る支出金合計254万5850円及びこれに対する返還日までの利息69万4088円の合計323万9938円を県に返還した。
(10) また,上告人外1名は,平成13年,本件各訴訟に関して知事が応訴したのは不当抗争であり,この応訴に要した弁護士費用を県の公金から支出したのは違法であるとして,知事であるH及び平成9年度の県財政課課長であったIに対し,支出した弁護士費用相当額を県に返還するよう求める住民訴訟を提起した。第1審,控訴審とも,平成12年3月5日以前に行われた支出行為に関する請求部分については,所定の期間内に監査請求がされていないから訴えを却下すべきであり,その余の請求については,知事が本件各訴訟に応訴したことは違法な行為とはいえないとしてこれを棄却すべきであるとした。この控訴審判決に対して上告人らからの不服申立てはなく,上記第1審判決が確定した。
2 本件は,上告人が,知事及び県財政課の担当職員が虚偽の公文書作成及び違法な公金支出の事実を隠ぺいする目的で本件各決定において一部非開示の判断をしたこと並びに知事が本件各訴訟に応訴したことなどが国家賠償法上違法な行為であると主張して,同法1条1項に基づき,被上告人に対し,慰謝料並びに上告人が本件各訴訟及び本訴に関して支出した弁護士費用相当額等の賠償を請求する事案である。
3(1) 条例に基づく公文書の非開示決定に取り消し得べき瑕疵があるとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記決定をしたと認め得るような事情がある場合に限り,上記評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
(2) この見地に立って本件をみると,前記事実関係の下において,食糧費の支出を伴う会合のうち,「交際的な懇談」に係る懇談の相手方に関する情報が開示されることによってその相手方が県に対して不信,不快の感情を抱き,相手方との円滑な関係が損なわれるおそれがあるから本件条例9条8号に該当するとした本件答申は,その当時においては相応の理由を有していたものというべきであるし,本件答申の趣旨に沿って,開示請求の対象となった文書のうち「交際的な懇談」に係る懇談の相手方に関する情報を非開示とし,本件各文書についても,その記載内容から「交際的な懇談」に係るものであるとした県財政課職員の判断も,必ずしも不合理なものとはいえないというべきであって,本件各決定に係る判断に関与した職員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記判断をしたと認め得るような事情があったとは認められない。論旨は,県財政課の食糧費支出に係る公文書の開示に関して参照されるべき判決は,大阪府水道部が事業の執行のために行った懇談会等に係る公文書の大阪府公文書公開等条例所定の非公開事由該当性が争われた最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号255頁であって,本件答申が同判決ではなく前掲最高裁平成6年1月27日第一小法廷判決を引用したのは,著しく不合理であるという。しかし,本件答申がされた当時,県財政課の食糧費支出に係る公文書で,本件答申のいう「交際的な懇談」のような懇談の相手方に関する情報が,本件条例9条8号に該当するかどうかについては,上記両判決を含む判例等によっても明らかになっていたとはいい難く,当時の地方公共団体における食糧費支出の実態にも照らすと,本件答申が,「交際的な懇談」に係る懇談の相手方に関する情報については,上記第一小法廷判決によって示された判断が妥当するものとして,同号該当性の有無を判断すべきものとしたことには相応の理由があったというべきである。したがって,この点についての論旨は理由がない。
また,論旨中には,県財政課職員には,本件各文書の開示を検討するに当たり文書の内容の真否を調査すべき義務があるとして,県財政課職員が会合の実態を調査せず本件各文書の記載内容により判断したことが不合理であるとはいえないとした原審の判断を非難する部分がある。しかし,もともと本件条例中には,開示請求に係る公文書について,その記載内容の真否を調査すべき旨の定めはなく,かえって,公文書の開示の可否は原則として15日以内に決定しなければならないと定められていることや,県等の行政機関が日常作成保管する公文書の開示請求は,その性質上多数の文書を一括して開示請求することも予定されていることからすると,一般的に,担当職員において請求に係る全文書の内容の真否の調査をすることは義務付けられておらず,文書の記載内容に基づいて迅速に開示等の決定を行うことが予定されているものと解すべきである。したがって,本件条例の規定等から,県財政課の職員が,請求に係る多数の文書の記載内容の真否の調査を行わずに上記判断をしたことが,職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものということはできないから,この点に関する論旨も失当である。
なお,論旨は,本件各決定の判断に当たった県財政課の職員が本件各文書に虚偽の内容が記載されていることを知っていたともいうが,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するものにすぎず,採用することができない。
以上によれば,本件各決定において一部非開示の判断をしたことが国家賠償法上違法であるとはいえない。
4 論旨は,知事が本件各文書の一部に虚偽の記載があることを知りながら本件各訴訟に応訴したことは,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き国家賠償法上違法であるという。しかし,前記事実関係によれば,本件各訴訟において対象となったのは67文書であり,本件各文書はその一部(6文書)であるところ,本件各訴訟においては,本件各文書以外の対象文書についても,本件各文書と同様に,相手方名称等の非開示事由該当性が争点となっており,しかも,本件各文書については,相手方名称等のほか金融機関名等の非開示事由該当性も争点になっていたところ,本件第1次訴訟においては,第1審では,本件各文書に係る部分を含め知事の主張が認められて知事が全面勝訴し,また,本件第2次訴訟においても,本件各文書のうち金融機関名等の非開示部分については,知事の主張が容れられて請求が棄却され,上告審で確定しているのである。本件各訴訟は,県における食糧費をめぐる初めての情報公開訴訟であることから,知事らは,上記の経緯を踏まえて司法の最終判断を求めるべく応訴したものであり,本件各訴訟において知事らが虚偽の主張立証をしたこともうかがわれないことも勘案すると,知事らにおいて,他の訴訟対象文書と共通の争点を有する本件各文書の本件対象部分について,非開示決定を取り消すことなく応訴したことが,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き,国家賠償法上違法な行為ということはできないというべきである。
5 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官泉德治,同横尾和子の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官甲斐中辰夫の補足意見がある。
裁判官甲斐中辰夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,反対意見を踏まえ,以下に補足して意見を述べる。
国家賠償法1条1項により国の賠償責任が生ずるには,公権力の行使に当たった公務員の行為が,故意過失による違法な行為であることを要することはいうまでもない。
本件の場合,本件各文書は,平成6年に当時の県財政課職員らにより作成されたものであるところ,上告人から公文書開示請求を受け,最終的に本件各決定がなされたのは,平成9年3月及び7月ころであり,原審の認定によれば,本件各決定に当たった県財政課の職員は,文書を作成した職員とは異なり,本件各文書の本件対象部分の内容が虚偽であることを知っていたとはいえないというのである。反対意見は,3年前に行われた県財政課職員の本件各文書作成時の内容虚偽の認識が,本件各決定時においても,全体的一体的にとらえれば,その認識がない県財政課職員であっても,これを虚偽のものと認識しながら本件各決定を行ったものと評価すべきものという。
しかし,国家賠償法1条1項の「公務員」及び「職務を行う」の文言を広く解釈するとしても,このように全く異なる時期に,異なる担当者がそれぞれ別個に行った行政行為を一体の行為としてとらえるというのは,いかにしても広すぎるものと言わざるを得ない。ことに本件各決定は,上告人による公文書開示請求を受けたことにより初めてなされた行政処分であり,3年前の担当者による会計上の支出負担行為や支出に関する文書作成行為とは,全く場面や根拠法令等を異にしており,これを1個の処分及び行為とみることはできない。また,これを組織としての決定としてみても,同様にそれぞれ別個の場面に別個の組織的決定がなされたものである。もともと上告人も本件損害賠償請求において本件各決定担当者の故意による違法性を主張するものであって,3年前の本件各文書作成行為とは別個の行為であることを前提としており,反対意見のように本件各決定担当者の虚偽の認識は不要であるとの主張は一審以来していない。これらを一体としてみなし本件各決定担当者に虚偽の認識があるものと評価し不法行為を構成することは,公務員による不法行為の概念を超えるものである。
また,反対意見のように同一組織体の行為については,時期が異なり個々の行為は異なったとしても,全体としては,認識があったものとみなすということになると,同一組織体とはどの範囲をいうのか,時期の前後は何年まで許容されるのかが問題となる。仮に,国や県において,課や部局及び省庁を越えて,国や県そのものを同一組織体としてとらえ,時期についても特に制限を設けないとすると,10年以上前に他部局等においてなされた行政行為の認識が,10年以上後に別の部局等でなされた行政行為の際に,担当職員にあったものとみなされることとなり,実際上も不合理な結果となるであろう。
反対意見引用の最高裁昭和51年(オ)第1249号同57年4月1日第一小法廷判決(民集36巻4号519頁)も,具体的にどのような公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定する必要はないとしているが,同時に一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめたものであることを前提としているのであり,一連の行為を反対意見のいうように広い意味に解するものではない。国家賠償法1条1項は,公務員の職務行為を一連の行為としてやや緩やかに解することはできても,一連の行為を担当した公務員の故意過失は,あくまでその行為時に必要とされるのであり,一連の行為の担当者に虚偽の認識がないのにかかわらず,これをあるものと擬制することにより故意過失があると解することは,その文言上からも無理があると考える。
次に反対意見は,本件各決定に直接関与した県財政課の職員は,本件各文書の本件対象部分について決定を行うに際し,その内容の真否を調査すべき義務があるところ,これを怠り,非開示決定をしたことについて過失があるという。
本件損害賠償請求は,本件各文書(2件6文書)の中の非開示とされた部分のうち,さらにその一部についての非開示決定の違法性をいうものであるが,記録によれば,本件第1次請求は,財政課関係で約150件(約450枚)が対象となっていたものであり,また,本件第2次請求は,これに先立って別の住民が平成6年度の財政課の食糧費支出に係る文書(約150件,約450枚)についての開示請求を行い,上告人の本件第1次訴訟と共に知事の一部非開示処分に対する取消訴訟を行っていたが,同住民がこれを取り下げるのに合わせて,上告人がそのうちの一部について重ねて開示を請求したものであったことがうかがわれる。このように本件各請求とこれに対する財政課による決定は,全体としてみると多数の文書が対象としてなされたものであり,過失及び調査義務を論ずるに当たり,これをそのごく一部である本件各文書のうちの本件対象部分のみに限定して論ずるべきではなく,その全体を踏まえた上で過失の有無等を論ずるべきである。反対意見は,開示請求を受けた県財政課職員は,開示の可否を検討するに当たり,文書内容の真否を調査すべき義務があることを前提としているが,その調査すべき対象となる文書は,本件各文書のみに限定すべき理由はないのであるから,原則として請求を受けた全文書ということになると思われる。
また,原審確定事実によれば,本件各文書は内容虚偽の部分があり,その作成行為は違法であるが,同時に開示請求を受けた担当職員はこれを知っていたとはいえず,秘匿する目的で一部不開示の判断をしたわけではない。担当職員は,本件各文書について監察や検査を受け内容の説明を求められたわけではなく,あくまで多くの他の公文書と一括してその開示請求を受けたに過ぎないものである。
以上のような前提で,県財政課職員に開示請求に係る公文書の記載内容について,その真否を調査すべき義務があるかを検討するに,もともと本件条例中には,開示請求に係る公文書の開示の可否を決定するに際し,その記載内容の真否を調査すべき旨の定めはなく,かえって,公文書の開示の可否は原則として15日以内に決定しなければならないと定められていることや,行政文書の開示請求は,その性質上多数の文書を一括して開示請求することも予定されていることからして,条例全体からみれば文書の記載内容に基づいて迅速に開示等の決定を行うことが予定され,請求に係る全文書の内容の真否の調査までは義務付けられていないと解すべきことは,法廷意見のとおりである。さらに付け加えれば,一般に行政機関において作成される公文書は,本件各文書よりも枚数が多い会議録や検討記録なども含まれているところ,これらの文書多数が一括して開示請求された場合,一方において条例等で多岐にわたる非開示事由が定められている以上,その該当性を検討することは担当職員の法的義務であるが,他方において請求に係る全文書の開示の可否を速やかに決すべく条例等で義務付けられているのであって,その中で担当職員に対し,膨大な量の文書であってもその内容の真否について調査すべき義務を負わせるのは酷に失し現実的ではないものといわねばならない。なお,反対意見は,「記載内容の不自然さを容易に感知することができた」ということを強調するが,なるほど事後的に本件各文書の内容が虚偽であることが判明した後に,本件各文書の本件対象部分のみを取り上げてこれを見ればそのようにいえるとしても,開示請求を受けた当時において,限られた時間内に多数の文書のうち本件各文書の本件対象部分について当然に感知することを要求するのも,同様に酷に失するものと言わざるを得ない。
さらに,本件各決定当時において,公文書開示請求を受けた担当職員が,文書の内容の真否の調査義務が一般的にせよ個別的にせよあるか否かについては,判例学説にもこれといったものはなく,その前提として文書内容が虚偽であればそのことから当然に非開示事由がないといえるかについても,その後においてすらこれを否定する有力な学説や判例も存在しているのである(宇賀克也・ケースブック情報公開法6頁以下,東京地判平成9年9月25日判例時報1630号44頁(最高裁において確定)など)。したがって,少なくとも本件各決定に当たった県財政課職員が,上記のように文書内容の真否についてまで調査すべき法的義務はないとの見解を採り,文書の記載文言に基づいて本件条例9条の非開示事由の該当性の判断を行ったことについて,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったとはいえないことは明らかであると考える。
以上のとおり,私は,本件各決定等が故意又は過失による不法行為であるとの理由による国家賠償責任を認めることができない。
裁判官泉德治の反対意見は,次のとおりである。
私は,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。その理由は,次のとおりである。
1 上告人の本訴請求は,知事が,上告人の平成7年4月25日の本件文書1等の開示請求に対し,同年5月30日付けで,本件文書1の「B交流会打合せ会」との記載部分を非開示とする本件決定1を行い,また,上告人の平成9年7月11日の本件文書2等の開示請求に対し,同年7月25日付けで,本件文書2の「C協会研修会にかかる」との記載部分を非開示とする本件決定2を行い,これらの記載部分(本件対象部分)を開示すべきであるとの裁判所の判決が出た後の平成12年11月10日に至るまでこれを開示しなかったのは,本件条例により認められた上告人の公文書開示請求権を故意又は過失により違法に侵害するものであり,上告人は,本件各決定により精神的苦痛を受け,更に上記権利回復のため異議申立てや処分取消訴訟の提起をせざるを得なくなり,時間とエネルギーを費やして精神的負担を受けるとともに,弁護士費用を支払うことを余儀なくされたので,国家賠償法1条1項の規定に基づき,被上告人に対し,慰謝料100万円,本件第1次訴訟及び本件第2次訴訟に係る弁護士費用125万9981円並びに本訴に係る弁護士費用23万円の合計248万9981円とこれに対する平成7年5月30日(知事が本件決定1を行った日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める,というものである。
2 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずると規定している。
本件は,違法な行政処分により権利を侵害されたとする国家賠償請求事件であるが,行政処分は,知事等の独任機関たる行政庁の名義で行われる場合であっても,実際には,行政庁を支える行政組織体の組織的決定として行われるものであって,国家賠償法1条1項の「公務員」の故意又は過失の存否も,行政組織体を構成する公務員を全体的一体的にとらえて,組織体として手落ち手抜かりが存したかどうかという観点から検討すべきである。すなわち,当該行政処分を実際に担当した個別具体的な職員の故意過失のみを問題とするのではなく,行政庁を支える行政組織体の構成員たる公務員を全体的一体的にとらえて故意過失が存するか否かを判断すべきである。
そして,国家賠償法1条1項の規定に基づく損害の賠償を請求する上において,上記「公務員」を具体的に特定する必要がないことは,いうまでもない(最高裁昭和51年(オ)第1249号同57年4月1日第一小法廷判決・民集36巻4号519頁参照)。
3 ところで,行政機関の保有する情報の公開に関する法律22条は,1項で「行政機関の長は,この法律の適正かつ円滑な運用に資するため,行政文書を適正に管理するものとする。」,2項で「行政機関の長は,政令で定めるところにより行政文書の管理に関する定めを設けるとともに,これを一般の閲覧に供しなければならない。」,3項で「前項の政令においては,行政文書の分類,作成,保存及び廃棄に関する基準その他の行政文書の管理に関する必要な事項について定めるものとする。」と規定し,同法施行令16条1項2号は,上記の行政文書の管理に関する定めにおいては,当該行政機関の意思決定に当たっては文書を作成して行うこと並びに当該行政機関の事務及び事業の実績について文書を作成することを原則とすることを定めなければならない旨規定している。これらの規定は,行政機関の保有する情報の開示を適正かつ円滑に行うため,行政機関は,意思決定に当たっては文書を作成すること並びに事務及び事業の実績について文書を作成することを原則とし,その分類,保存及び廃棄を適正に行うべきことを定めるものである。これらの規定から明らかなとおり,公文書の管理(分類,作成,保存及び廃棄)が適正に行われることは,公文書の開示が適正に行われることの前提条件をなすものである。したがって,公務員の故意又は過失による不適正な公文書の管理が行われれば,住民等の公文書開示請求権を害することにつながるのであり,公務員が故意又は過失によって住民等の公文書開示請求権を害したかどうかを判断する場合には,公文書の管理から開示までの一連の行為に関与した公務員を全体的一体的にとらえて,故意又は過失が存したか否かを検討すべきである。
そして,行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の上記規定は,公文書の管理と開示との間に存する当然の牽連関係を前提としたものであるから,地方公共団体においても,上記と同種の文書管理規定が定められているか否かにかかわらず,公務員の故意又は過失により住民等の公文書開示請求権が害されたか否かを判断する場合には,公文書の管理から開示までの一連の行為に関与した公務員を全体的一体的にとらえて,故意又は過失の有無を検討すべきである。
4 原審の前記認定事実によれば,本件各文書は県財政課の食糧費の支出に係る文書であり,県財政課の課長,課長補佐及び主査が虚偽公文書作成・同行使の罪で起訴猶予処分を受け,本件各文書に係る支出金を県に返還したというのであるから,県財政課の職員が故意に「B交流会打合せ会賄料」及び「C協会研修会にかかる賄料」との虚偽の記載を行ったことは明らかである。そして,上告人の本件各文書に係る開示請求について,本件各決定を行ったのも県財政課の職員であるというのであるから,本件各文書の作成から開示までの一連の行為に関与した県財政課の職員を全体的一体的にとらえれば,県財政課の職員としては,上記記載内容が虚偽のものと認識しながら本件各決定を行ったものと評価すべきである。そして,上記記載内容が虚偽であり,「B交流会打合せ会」や「C協会研修会」が実際には行われていない以上,上記記載を開示しても,相手方とされた「B交流会」や「C協会」との円滑な関係が壊れ,信頼関係や友好関係が損なわれ,実施機関が行う事務事業の円滑な執行に支障が生ずるということはできず,上記記載の情報が本件条例9条8号の情報に該当しないことは明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第183号同11年6月11日第二小法廷判決で是認された東京高裁平成9年(行コ)第25号同10年3月25日判決・判例時報1668号44頁,最高裁平成9年(行ツ)第152号同13年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事202号235頁参照)(上記の各団体が名称を冒用されたことについて不快の念を抱くとしても,開示の前に上記各団体と上告人に対し名称を冒用したものであることを告知しておけば足りることであり,県の事務事業に支障が生ずる等のことはない。)。そうすると,県財政課の職員は,全体としては,上記記載の情報が虚偽のものであると認識していたものであって,そうであれば上記記載の情報が本件条例9条8号の情報に該当しないことを知ることができたにもかかわらず,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件対象情報を非開示とする本件各決定を行ったものというべきであり,少なくとも過失によって上告人の公文書開示請求権を違法に侵害したものといわざるを得ない。
5 原審は,本件各決定に直接関与した県財政課の職員において,本件各文書が内容虚偽の文書であることを知っていたとは認められないとして,そのことを主たる理由に本件各決定の違法性を否定しているが,この論理からすれば,県の職員が本来開示すべき支出の情報を支出の内容を偽って本件条例9条各号の非開示情報に加工しても,開示請求が出るまでに当該職員を他に異動させてしまい,他の職員に開示事務を担当させることにより,県としては公文書開示請求権侵害の責任を免れることになり,明らかに不合理な論理といわざるを得ない。
6 仮に,原審のように,本件各決定に直接関与した県財政課の職員のみを国家賠償法1条1項の「公務員」としてとらえ,その故意過失の有無を検討するという立場を採ったとしても,本件各決定は,同項の過失による違法な行為であるというべきである。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件文書1は,県財政課の食糧費が,平成6年2月23日に,東京都からも静岡市からも離れた伊東市に所在する高級ホテルのAホテルにおいて,80人の参加の下に開催された「B交流会打合せ会」の賄料として支出され,1人当たりの単価も1万8000円という高額のものであったという内容の文書である。県財政課の職員は,平成7年5月30日に知事名義で本件文書1の「B交流会打合せ会」との記載部分を非開示とする本件決定1を行ったのであるが,県財政課の職員として通常の資質能力を有しておれば,本件文書1の上記記載内容が極めて不自然なものであることに容易に気付いてしかるべきであり,上記記載内容の真偽を調査する義務を負うというべきであって,本件文書1の作成に関与した県財政課の職員やAホテルに照会するだけで,上記記載内容が虚偽のものであることを直ちに解明できたと考えられる。そして,上記記載内容が虚偽のものであることを認識すれば,当該情報が本件条例9条8号の非開示情報に該当しないことも知り得たというべきであり,本件文書1の「B交流会打合せ会」との記載部分を非開示とする本件決定1を行った県財政課の職員は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件決定1を行ったものであり,国家賠償法1条1項の過失が存するといわざるを得ない。県財政課が開示の可否を決定した平成5年度の公文書が多数に上るとしても,本件文書1の「B交流会打合せ会」との記載部分を意識的に黒塗りにして非開示としているのであるから,上記過失を否定する理由にはならない。
なお,本件記録によると,「B交流会」の開催事業は,県財政課の属する総務部ではなく,企画部が,平成6年度に予算化し,同年9月19日に東京都内のホテルにおいて,「首都圏で活躍中の本県関係者と県職員等との情報交換を行うとともに,本県関係者同志の人的ネットワークを構築し,首都圏に向けて広く本県の情報を発信することを目的として」,第1回の「B交流会」を開催している。この事実に照らしても,県財政課の職員としては,本件文書1の上記記載内容の不自然さを容易に感知することができたということができる。
(2) 本件文書2は,県財政課の食糧費が,平成6年10月26日にAホテルにおいて70人の参加の下に開催された「C協会研修会」の賄料として支出され,1人当たりの単価も1万6000円という高額のものであったという内容の文書である。県財政課の職員は,平成9年7月25日に知事名義で本件文書2の「C協会研修会にかかる」との記載部分を非開示とする本件決定2を行ったのであるが,県財政課の職員として通常の資質能力を有しておれば,本件文書2の上記記載内容が極めて不自然なものであることに容易に気付いてしかるべきであり,上記記載内容の真偽を調査する義務を負うというべきであって,本件文書2の作成に関与した県財政課の職員やAホテルに照会するだけで,上記記載内容が虚偽のものであることを直ちに解明できたと考えられる。そして,上記記載内容が虚偽のものであることを認識すれば,当該情報が本件条例9条8号の非開示情報に該当しないことも知り得たというべきであり,本件文書2の「C協会研修会にかかる」との記載部分を非開示とする本件決定2を行った県財政課の職員は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件決定2を行ったものであり,国家賠償法1条1項の過失が存するといわざるを得ない。県財政課が開示の可否を決定した平成6年度の公文書が多数に上るとしても,本件文書2の「C協会研修会にかかる」との記載部分を意識的に黒塗りにして非開示としているのであるから,上記過失を否定する理由にはならない。
なお,本件記録によると,C協会は,全国知事会・全国市長会・全国町村会の地方公共団体代表3団体と,J協会及びK協会が共同して設立者となり発足した財団法人であり,その事業の1つとして「C研修会」を開催しているが,「C研修会」は,地方公共団体の地方債実務担当者及び金融機関・証券会社等の公共債担当者を対象に,地方債に係る当面の問題点・実務上の取扱い及び金融経済等についての知識を習得させるため,全国を数ブロックに分けて開催されるものである。この事実に照らしても,県財政課の職員としては,C協会の一会員にすぎない県が研修会参加者70人について単価1万6000円の賄料を支払うという,本件文書2の上記記載内容の不自然さを容易に感知することができたということができる。
また,本件記録によると,本件決定2が行われる前の平成8年12月20日には,審査会が,「平成6年度財政課の食糧費支出に関する支出負担行為伺及び支出票の一部開示決定に対する異議申立てについての諮問」についても,支出負担行為伺及び支出票中,「賄料」と明記され,かつ,実施機関が客観的事実をもって交際的な懇談であると認める会合に係る「件名」欄及び「摘要(執行理由)」欄の相手方名称は非開示とするのが相当であるとの本件答申を行っている。しかし,県財政課の職員は,本件文書2の記載内容の真偽そのものについて調査するという,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件決定2を行ったものであるから,本件答申により過失が否定されるものではない。その上,本件答申も,客観的事実をもって当該会合が交際的懇談であるかを調査すべきことを求めているところ,県財政課の職員は,その調査も怠っているのである。
7 以上,いずれにしても,県財政課の職員は,過失により職務上の義務に違反して本件対象部分を非開示とする本件各決定を行い,平成12年11月10日に至るまで本件対象部分を上告人に開示しなかったものであるから,被上告人は,国家賠償法1条1項の規定に基づき,上告人に対し,上告人が本件各決定によって公文書開示請求権を侵害されたことにより被った損害を賠償すべきである。
8 したがって,被上告人の損害賠償責任を否定した原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人の上記損害について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。
9 以上で,私の意見はすべて尽きているのであるが,補足意見における指摘にかんがみ,念のため次の点を付加しておくこととする。
上告人は,平成7年5月の本件決定1及び平成9年7月の本件決定2によって公文書開示請求権を違法に侵害されたとして,その損害賠償を請求している(なお,本件決定1は上告人の異議申立てにより一部変更されているが,「B交流会打合せ会」との記載部分については,平成7年5月の当初の決定時から非開示とされ,異議申立てによっても変更されていない。) 。
本件記録によると,本件文書1は平成6年2月及び同年5月に作成されたものであるところ,上告人の開示請求に対して本件決定1があったのは平成7年5月である。県財政課の職員が本件文書1を作成してから本件決定1を行うまでの期間は,約1年ないし1年3月である。また,本件文書2は平成6年10月及び同年12月に作成されたものであるところ,上告人の開示請求に対して本件決定2があったのは平成9年7月であるが,本件文書2については,既に別の住民が平成7年8月に開示請求をしており,これに対して一部開示決定(以下「先行決定」という。)があったのは同月であり,本件答申は本件決定1のほかに先行決定をも対象としてなされたものであって,本件決定2も基本的に先行決定を踏襲しつつ本件答申による修正を加えてなされたものである。県財政課の職員が本件文書2を作成してから本件決定2の先例である先行決定を行うまでの期間は,約9月ないし11月である。原審は,本件各文書の作成時から開示決定時までの間において,県財政課の職員がどのように異動したかについて何ら触れることなく,本件各文書を開示すべきかどうかの判断に当たった県財政課の職員が虚偽の内容の文書であることを知っていたとはいえないと認定しているが,本件決定2が踏襲した先行決定を考慮に入れれば,本件各文書の作成から開示決定までにさほどの期間が経過しているわけではないのである。そして,本件記録によると,本件各文書の起案者である県財政課の職員は少なくとも平成9年3月までは県財政課に在職していたことがうかがえ,また,前記の原審確定事実のとおり,本件決定2の2日前の新聞は本件各文書が内容虚偽の疑いのあるものであることを報道しているのである。
なお,本件条例は,個人に関する情報と法人その他の団体に関する情報とでその取扱いを区別しているところ,補足意見が指摘する東京地裁平成9年9月25日判決の事案で冒用されたのは個人の肩書氏名であり,本件で冒用された「B交流会」及び「C協会」の名称とは明らかに性質を異にするものである。
裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。
私も,県財政課の職員が本件対象部分を非開示としたことは,過失により職務上の義務に違反したものというべきであって,この点につき被上告人は損害賠償責任を免れないから,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すのが相当であると思料するが,その理由は,裁判官泉德治の反対意見中の6項と同様であるから,その限りにおいてこれに同調する。
(裁判長裁判官泉德治裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官島田仁郎裁判官才口千晴)

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