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2006.07.21

最高裁判所平成18年4月25日判決(所得税更正処分等取消請求事件)

事件番号 平成16(行ヒ)86
事件名 所得税更正処分等取消請求事件
裁判年月日 平成18年04月25日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 その他

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成15(行コ)7
原審裁判年月日 平成15年12月09日

判示事項
裁判要旨
1 納税申告手続を委任された税理士が税務署職員と共謀した上で虚偽の記載をした確定申告書を提出するなどして過少申告をした場合に,納税者本人において当該税理士の上記行為を容易に認識し得たということはできない以上,これを納税者本人の行為と同視することはできず,国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできないとされた事例 
2 偽りその他不正の行為により税額を免れた国税に関し当該行為により免れた税額に相当する部分について修正申告がされたとしても,当該国税に更正すべき税額があるときは,国税通則法70条5項所定の期間内において更正をすることができる 
3 納税申告手続を委任された税理士が税務署職員と共謀した上で虚偽の記載をした確定申告書を提出するなどして過少申告をした場合に,過少申告加算税の賦課に関し国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認められるとされた事例

主文
1(1) 原判決のうち,1審被告が平成10年3月30日付けで1審原告に対してした過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(第1審判決主文第1項が取り消すこととしている加算税額99万1000円を超える部分を除く。)に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
(2) 上記過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定を取り消す。
2 原判決のうち,1審被告が平成10年3月31日付けで1審原告に対してした更正処分のうち納付すべき税額708万8300円を超える部分及び重加算税賦課決定(第1審判決主文第2項が取り消すこととしている加算税額438万1500円を超える部分を除く。)に関する部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 1審被告のその余の上告を棄却する。
4 第1項の部分に関する訴訟の総費用及び前項に関する上告費用は1審被告の負担とする。
理由
第1 事案の概要
1 本件は,1審原告から平成6年分の所得税の申告を委任された税理士が税務署職員と共謀して架空経費を計上した内容虚偽の納税申告書を作成,提出して過少申告を行っていたことが発覚し,1審原告が修正申告をしたところ,1審被告から,平成10年3月30日付けで過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「第一次決定処分」という。)を受け,さらに,同月31日付けで,1審原告が上記修正申告に際して適用があるものとした買換特例の適用を否認する更正(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税賦課決定(以下「第二次決定処分」という。)を受けたため,1審原告がこれらの処分の取消しを求めている事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 1審原告は,平成6年に,10年を超えて所有していた居住用財産である土地建物(以下「本件譲渡資産」という。)を代金1億4400万円で譲渡するとともに,別の1審原告所有地上に存した借地権付き建物を代金6206万円で購入して居住の用に供した。
(2) 1審原告は,本件譲渡資産の譲渡について租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。以下「措置法」という。)36条の6第1項2号所定の買換特例(以下「本件買換特例」という。)を適用することができることを知り,平成6年分の所得税の申告納税額を380万7000円と試算した。1審原告は,平成7年2月13日ころ,本件譲渡資産の譲渡に係る所得税の確定申告手続の相談のため,雪谷税務署に赴き,担当係官から平成6年分の正当な納税額が698万0800円であると教えられた。
(3) 1審原告は,同日,上記相談の帰りに立ち寄った喫茶店で税務署に行って来たことを話していたところ,客として来店していたA税理士が名刺を差し出すなどしたことから,近くの同税理士の事務所を見せてもらいに行き,「私は国税局のOBだ。」,「税務署長は私の部下のようなもんだ。」,「偉い人はみんな知っている。」などと言う同税理士を信用し,雪谷税務署で手直ししてもらった確定申告書の下書き等の書類を同税理士に見せた。同税理士は,「私に任せなさい。もう少し安くなるから。」と言ったため,1審原告は,同税理士に平成6年分の所得税の確定申告手続(以下「本件確定申告手続」という。)を依頼する決心をした。翌14日,1審原告が本件譲渡資産の譲渡に係る関係書類等を持参してA税理士に税額と手数料について尋ねたところ,同税理士は,「手数料込みで520万円でよい。」と答えたが,どのような方法で税金が安くなるかなどについて説明せず,1審原告もその点を尋ねたりはしなかった。1審原告は,同日,委任状に署名して,正式に本件確定申告手続をA税理士に委任し,同月17日,520万円を支払った。
(4) A税理士は,同年3月14日,1審原告の住所欄に虚偽の住所を記載し,長期譲渡に係る一般所得分の必要経費欄に「1億4336万6721円」と虚偽の数額を記載するなどして,長期譲渡所得金額,総所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を作成し,緑税務署に提出した。本件確定申告書には,本件買換特例の適用を受ける旨の記載はなく,関係書類も添付されていなかった。緑税務署のB統括国税調査官は,A税理士から1審原告ほか3名の平成6年分の譲渡所得に係る所得税の各確定申告につき架空経費等の計上により過少申告した事実を黙認するなどしてその発覚を未然に防止してもらいたい旨の請託を受け,その謝礼として現金500万円の供与を受けて賄賂を収受し,1審原告らの過少申告の事実を黙認した(A税理士とB統括国税調査官とが共謀の上行った1審原告に係る上記不正な過少申告行為を,以下「本件不正行為」という。)。A税理士は,1審原告から受領した520万円を自己の用途に費消した。
(5) 1審原告は,A税理士に本件確定申告手続を委任した際,同税理士が上記のような不正行為を行うことを認識せず,そのような疑いを抱くこともなく,同税理士が適法に確定申告手続を行うものと信頼して,本件確定申告手続を委任したものである。
1審原告は,同月16日,確定申告はすべて終了したとの報告を受け,その後,預けていた書類一切の入ったファイルをA税理士から受け取ったが,ファイルの中身を点検したり確認したりはせず,本件確定申告書の控えが入っているかどうかを確認することもしなかった。
(6) A税理士は,税務署職員として勤務した後,昭和40年代に税理士登録をして開業したが,遅くとも平成元年ころから,税務署職員の協力を得て,税務申告を不正に行って脱税行為を繰り返すようになり,同9年ころ,これらの脱税行為が発覚し,その後,所得税法違反等の罪により懲役刑の実刑判決を受けた。
なお,B統括国税調査官も,同10年6月,前記(4)の加重収賄等の罪により懲役刑の実刑判決を受けた。
(7) 東京国税局は,同9年10月14日,1審原告に対する査察調査に着手した。1審原告は,1審被告に対し,同10年1月6日,本件買換特例の適用を前提とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出し,併せて,本件買換特例の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出し,同年2月10日,関係書類を添付書類として提出した。
(8) 1審被告は,同10年3月30日,本件修正申告書の提出により1審原告が新たに納付すべきこととなった税額708万8300円に対し,過少申告加算税及び重加算税を賦課する第一次決定処分を行い,同月31日,1審原告の平成6年分の所得税について,本件買換特例の適用を否認した額での本件更正処分を行うとともに,本件更正処分により1審原告が新たに納付すべきこととなった税額2921万8200円に対する重加算税を賦課する第二次決定処分を行った。
第2 上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由第1の4(1)(ウを除く。)及び第2(4を除く。)について
上記事実関係の下で,原審は,1審原告に国税通則法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったと認めることはできないとして,第一次決定処分中の重加算税賦課決定のうち加算税額99万1000円(過少申告加算税額相当分)を超える部分を取り消すべきものであると判断したが,1審被告はこの判断につき同項の解釈適用を誤った違法があると主張するので,この点につき判断する。
1 国税通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し,その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
同項は,「納税者が・・・隠ぺいし,又は仮装し」と規定し,隠ぺいし,又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。そして,納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば,納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,重加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方,当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで,当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
2 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,1審原告は,A税理士に本件確定申告手続を委任した際,同税理士が本件不正行為のような不正行為を行うことを認識せず,そのような疑いを抱くこともなく,同税理士が適法に確定申告手続を行うものと信頼して,本件確定申告手続を委任したというのである。そして,税理士は,適正な納税申告の実現につき公共的使命を負っており(税理士法1条参照),それに即した公法的規律を受けているのであるから,1審原告において,そのような税理士資格を有し,国税局に勤務していたというA税理士が,税法上許容される節税技術,計算方法等に精通していると信じたとしてもやむを得ないところであり,同税理士がそのような専門技能を駆使することを超えて自ら隠ぺい仮装行為を行うことまでを容易に予測し得たということはできない。また,A税理士による本件確定申告書提出後,東京国税局の査察を受けるまでの間に,1審原告が本件確定申告書に虚偽の記載がされていることその他本件不正行為を認識した事実も認められず,同税理士が適法に確定申告手続を行うものと信頼して委任した1審原告において,本件不正行為を容易に認識し得たというべき事情もうかがわれない。
他方,税務相談で教示された金額よりも約180万円も低い金額を示されたにもかかわらずA税理士の言葉を安易に信じた点や本件確定申告書の控えの確認すらしなかった点など,1審原告にも落ち度はあるものの,これをもって同税理士の本件不正行為を1審原告本人の行為と同視することができる事情に当たるとまでは認められないというべきである。
そうすると,前記事実関係の下では,A税理士の本件不正行為をもって納税者である1審原告本人の行為と同視することはできず,1審原告につき国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできない。これと同旨の原審の判断は是認することができ,論旨は採用することができない。
第3 同上告受理申立て理由第1の4(2)及び第3について
1 前記事実関係の下において,原審は,次のとおり判示して,本件更正処分については国税通則法70条5項の適用はなく,本件更正処分は更正の期間制限を徒過した違法なものであり,これを前提とする第二次決定処分も違法であるとして,本件更正処分中修正申告額を超える部分及び第二次決定処分の全部を取り消すべきものと判断した。
(1) 国税通則法70条5項にいう「偽りその他不正の行為」の主体は納税者と解するのが相当であり,本件では,1審原告は,自ら確定申告書の作成,提出にかかわっていないし,A税理士が架空経費を計上して確定申告書を提出するとの認識はなかったのであり,後に査察によってこの事実を知り,本件修正申告に及んだのであるから,1審原告に「偽りその他不正の行為」があったとすることはできない。
(2) また,本件更正処分は,本件修正申告を前提としてこれに対してされたものと解さざるを得ないところ,本件修正申告には「偽りその他不正の行為」は存在しないから,「偽りその他不正の行為」により免れた税額も存在しないことが明らかである。それにもかかわらず,本件更正処分は,当該税額を免れた国税が存在することを前提としてされたものであるから,同項の適用はないというべきである。
(3) さらに,同項の「税額を免れた国税」とは,正当な税額との差額をいうが,本件における正当な税額は,本件買換特例適用後のそれであると解することも十分可能であるし,この点をおくとしても,同項は偽りその他不正の行為により税額を免れた国税について更正する場合に適用されるものであるところ,1審被告主張の「偽りその他不正の行為」は,A税理士においてした架空経費の計上であって,これによって本件買換特例適用の有無による増差税額が生じたものではないことからすると,本件更正処分の内容は,「偽りその他不正の行為」により免れた税額に対してされたものではなく,また,本件更正処分は本件買換特例の適用の有無による増差税額のみを対象とするものであるから,他の「偽りその他不正の行為」により免れた税額に対する更正と共に,これに伴ってされたものでもない。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 国税通則法70条は,国税の更正,決定等の期間制限(賦課権の除斥期間)を定めており,同条1項で,更正につき法定申告期限から3年という除斥期間を定めるなどしているが,同条5項において,「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ,若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税(当該国税に係る加算税及び過怠税を含む。)についての更正決定等」に関しては,その除斥期間を7年と定め,それ以外の場合よりも長い除斥期間を定めている。これは,偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合にこれに対して適正な課税を行うことができるよう,より長期の除斥期間を定めたものである。
本件不正行為は,虚偽の住所を記載し,必要経費欄に虚偽の数額を記載するなどして,長期譲渡所得金額,総所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書を作成,提出した上,提出先税務署の国税調査官に賄賂を供与して,架空経費等の計上により過少申告した事実を黙認させたというものであって,これが同項にいう「偽りその他不正の行為」に当たることはいうまでもない。
また,同項の文理及び立法趣旨にかんがみれば,同項は,納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限られず,納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである(最高裁平成14年(行ヒ)第103号同17年1月17日第二小法廷判決・民集59巻1号28頁参照)。したがって,A税理士が本件不正行為に及ぶことについて1審原告に認識等がなかったとしても,同項の適用は免れない。
(2) 国税通則法70条5項の文理及び前記の立法趣旨からすれば,同項の適用範囲は,偽りその他不正の行為によって免れた税額に相当する部分のみに限られるものではなく,同項により本来の期間を超えて7年に延長された除斥期間において更正をする場合,偽りその他不正の行為により全部又は一部の税額を免れた当該国税の全部が更正の対象となるものであると解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第111号同51年11月30日第三小法廷判決・裁判集民事119号283頁参照)。したがって,偽りその他不正の行為により免れた税額に相当する部分について修正申告がされたとしても,当該年分の当該国税に更正すべき税額があるときは,延長された除斥期間内であれば,なお更正をすることができるものである。
1審原告は,納税申告を委任したA税理士の本件不正行為により平成6年分の所得税について税額を免れたのであり,本件修正申告によって不正の行為により税額を免れた国税であったという性格が変更されるものではなく,上記のとおり,同年分の所得税に係る更正については,国税通則法70条5項により7年の除斥期間が適用されるものというべきである。
そうすると,平成6年分の所得税の法定申告期限(同7年3月15日)から7年を経過する前の同10年3月31日付けでされた本件更正処分は,国税通則法70条5項所定の除斥期間内にされたものということができる。
(3) 以上と異なる原審の前記判断には,国税通則法70条5項の解釈適用の誤りがあるといわざるを得ない。もっとも,本件修正申告に当たって新たな隠ぺい仮装行為が行われたことはなく,前記第2で説示したところからすれば,本件更正処分に基づいて納付すべき税額に関しても重加算税の賦課要件がないことは明らかであるから,原審が,第二次決定処分のうち過少申告加算税額相当分を超える部分を取り消すべきものとした点は,結論において相当ということができる。
これに対し,本件更正処分中修正申告額を超える部分及び第二次決定処分中過少申告加算税額相当分までを取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいう限度において理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,本件更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課の適否,具体的には,本件買換特例の適用に関する措置法36条の2第5項にいう「やむを得ない事情」の有無等につき更に審理を尽くさせるため,上記部分について本件を原審に差し戻すこととする。
第4 附帯上告代理人小林元治ほかの附帯上告受理申立て理由について
1 前記事実関係の下において,原審は,第1審と同様,第一次決定処分のうち過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定中の過少申告加算税額相当分については,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があったとはいえず,適法であり,これらに係る取消請求を棄却すべきものであると判断した。その理由の要旨は,次のとおりである。
1審原告は,A税理士から520万円という金額を示された時に,税務相談において教示された金額(698万円余)と全く異なる税額に疑問を持ち,同税理士にその根拠を尋ねるなどすれば,同税理士が脱税の意図を有していることを認識し得たものというべきであり,それらの確認を怠り,安易に同税理士を信頼して本件確定申告手続を委任してしまった1審原告には,代理人の選任,監督について過失があったというべきである。そうすると,1審原告が税務署職員と共謀した脱税行為を繰り返していたA税理士にだまされた被害者であることなどを考慮したとしても,1審原告に過少申告加算税を課すことが不当あるいは酷であるとまでは認められないから,本件修正申告書の税額の計算の基礎となった事実について,本件確定申告書において税額の計算の基礎とされていなかったことに国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があったと認めることは困難である。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
国税通則法65条4項は,修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき,その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが,過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば,同項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,確かに,1審原告には,A税理士から税務相談において教示された金額よりも180万円近く低い税額を示されながら,その根拠等について確認をすることなく,本件確定申告書の控え等の確認をすることなどもしていないといった落ち度が見受けられ,同税理士が本件不正行為に及ぶことを予測し得なかったからといって,それだけで,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるということはできない。
しかしながら,本件においては,税理士が本件不正行為のような態様の隠ぺい仮装行為をして脱税をするなどとは通常想定し難く,1審原告としては適法な確定申告手続を行ってもらうことを前提として必要な納税資金を提供していたといった事情があるだけではなく,それらに加えて,本件確定申告書を受理した税務署の職員が,収賄の上,本件不正行為に積極的に共謀加担した事実が認められ,租税債権者である国の,しかも課税庁の職員のこのような積極的な関与がなければ本件不正行為は不可能であったともいえるのであって,過少申告加算税の賦課を不当とすべき極めて特殊な事情が認められる。このような事実関係及び事情の下においては,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということができ,本件修正申告によりその納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認められるものというべきである。
(3) そうすると,これと異なり,第一次決定処分のうち過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定中の過少申告加算税額相当分を適法であるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。以上と同旨をいう限りにおいて論旨は理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,当該部分に関する1審原告の請求には理由があるから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に係る請求を認容すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男)

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