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2006.07.21

最高裁判所平成18年4月20日判決(所得税更正処分等取消,国家賠償請求事件)

事件番号 平成17(行ヒ)9
事件名 所得税更正処分等取消,国家賠償請求事件
裁判年月日 平成18年04月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成15(行コ)188
原審裁判年月日 平成16年09月29日

判示事項
裁判要旨
1 納税申告手続を委任された税理士が虚偽の記載をした確定申告書を提出するなどして過少申告をした場合に,納税者本人において当該税理士の上記行為を容易に認識し得たということはできない以上,これを納税者本人の行為と同視することはできず,国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできないとされた事例 
2 納税申告手続を委任された税理士が虚偽の記載をした確定申告書を提出するなどして過少申告をした場合に,税務署職員等から示された税額よりも相当低い税額で済むという同税理士の言葉を信じて調査確認をしなかったなど納税者本人に落ち度があり,過少申告加算税の賦課に関し国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできないとされた事例

主文
1 原判決中,上告人が平成10年2月3日付けで被上告人に対してした重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額相当分79万7000円に係る取消請求に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,被上告人の上記請求を棄却する。
2 上告人のその余の上告を棄却する。
3 訴訟の総費用は,これを5分し,その4を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
第1 上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由第1の4(2)及び第3(ただし,排除されたものを除く。)について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人(大正9年生まれ)は,平成8年に,10年を超えて所有していた居住用財産である練馬区所在の土地建物(以下「本件物件」という。)を9600万円で譲渡するとともに,大田区所在のマンション及びその敷地共有部分を5780万円で購入して転居した。
(2) 被上告人は,本件物件の譲渡に係る所得税の確定申告手続を夫のAに依頼したところ,Aは,確定申告時期が近づいた同9年2月ころ,雪谷税務署に相談に行き,税務署職員から上記譲渡に係る税額が国税と地方税とを合わせて800万円程度であると言われた。それは,以前から,練馬区の区民相談において説明を受けていた金額と同程度のものであった。
(3) Aは,納税額について長男に相談したところ,同人からも同旨の説明を受けたが,計算方法や申告書の記載方法が分からなかったため,長男の妻の母親が確定申告を依頼しているB税理士に相談することとなり,同月18日,長男の妻と共に関係書類を持参して同税理士の事務所を訪れた。B税理士は,Aらが持参した書類等を見ながら自ら計算した上,納税のために預かる金員を全額だまし取ろうと考えていたが,そのような意図を隠したまま,長男作成のメモに記載された税額である804万円について「大体,そんなものでしょう。」と述べた上,自らメモを作成しながら,「550万円で税金はあがるでしょう。その他に10万円を手数料として事務員に渡してくれ,全部で560万円。」と言った。Aは,どうしてそんなに安くなるのかと聞いたところ,B税理士は,「私は,長いこと税務署に勤めていたから,素人と計算が違う。ちゃんと計算ができるから間違いありませんよ。」と答えたため,更に質問をすることはなかった。
Aらは,確定申告手続をB税理士に委任することとし,その旨を被上告人に伝え,翌日,同税理士の事務所を訪れて560万円を同税理士に交付した。
B税理士への確定申告手続の委任に当たり,被上告人及びAらに脱税の意図は認められず,被上告人らは,専門家である同税理士を信頼して適正な申告をするよう依頼したものであった。また,被上告人らにおいてB税理士が後記(6)のとおり長年脱税をしていた事実を知っていたとうかがうこともできない。
(4) B税理士は,被上告人が住所を練馬東税務署管内に移した旨の虚偽の通知をした上,同年3月5日,練馬東税務署の資産課税部門統括国税調査官(以下「統括官」という。)に対し,他の2件の確定申告書と共に,被上告人の平成8年分の所得税について,被上告人を代理して,税理士名欄を空欄とし,被上告人の住所欄に練馬区内の虚偽の住所を記載し,虚偽の必要経費等を記載した上,課税譲渡所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出し,併せて,本件物件を平成2年に1億0600万円で取得したとの虚偽の記載をした「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(以下「本件お尋ね文書」という。)を提出した(以下,この確定申告を「本件確定申告」という。)。
統括官は,本件確定申告書に受理印を押捺し,表面の検算欄及び裏面の分離長期譲渡所得記載欄外の2か所に自己の印を押捺した上,控えをB税理士に交付した。統括官は,事績書にB税理士との間で申告相談を実施した旨記載したが,本件物件の取得価額等については本件お尋ね文書の内容をそのまま転記したのみで,裏付け資料と対比すべきものとはしなかった。なお,本件確定申告書の記載のみからはB税理士による虚偽記載が明らかとはならず,被上告人に係る事績書も同税務署に保存されて残っていた。統括官が賄賂を受け取ったとか,B税理士の依頼により故意に脱税に加担したという事実は認められない。
(5) B税理士は,本件確定申告書及び本件お尋ね文書につき,Aらにその内容を説明したり,被上告人の署名押印を求めたりすることもなく,上記のような申告手続をし,被上告人から預かった550万円を納付せずに取得した。
他方,被上告人及びAらは,確定申告手続をB税理士に依頼した後,平成9年10月に東京国税局査察部による調査があるまで,同税理士に対し,確定申告書の控えや納税に係る領収書等の交付を要求したり,申告について税務署に問い合わせたりはしなかった。
(6) B税理士は,20年余の税務署勤務の後,昭和40年代に税理士を開業したが,始期は分からないものの,平成8年ころまで,賄賂を贈って協力を得た税務署職員の勤務する税務署の管内に納税者が住所移転した旨の虚偽の通知をし,この税務署に送付された資産譲渡に伴う事績書等の課税資料を当該税務署職員に抜き取らせ,譲渡所得の発生の事実が分からないようにした上,資産譲渡に係る所得を申告しない方法や,架空の又は水増しされた経費を必要経費として計上するなどの方法で脱税をしてきた。B税理士は,同年暮れころから,従前の税務申告につき不正申告の疑いを抱かれ,東京国税局査察部の調査を受けるなどし,同9年10月に逮捕され,同10年7月,贈賄,所得税法違反等の罪により懲役刑の実刑判決を受けた。
(7) 東京国税局査察部は,同9年10月21日,被上告人に対する臨場調査に着手した。被上告人は,上告人の指導に基づき修正申告をすることとし,同年11月14日,上告人に対し,租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のもの)31条の3,35条1項所定の各特例の適用を前提とする修正申告書を提出し,併せて,上記各特例の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出し,関係書類を添付書類として提出した(以下,この修正申告を「本件修正申告」という。)。
(8) 上告人は,同10年2月3日,本件修正申告により被上告人が新たに納付すべきこととなった税額分(548万4600円)に対する重加算税を賦課する第1賦課決定処分を行い,さらに,同月4日,上記各特例の適用を否認した額での増額更正(以下「本件更正処分」という。)及び本件更正処分により被上告人が新たに納付すべきこととなった税額分に対する重加算税を賦課する第2賦課決定処分を行った。
2 上記事実関係の下で,原審は,第1賦課決定処分を取り消すべきものであると判断したが,上告人はこの判断につき国税通則法68条1項の解釈適用を誤った違法があると主張するので,この点につき判断する。
(1) 国税通則法68条1項は,過少申告をした納税者が,その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し,その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は,納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に,過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって,悪質な納税義務違反の発生を防止し,もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
同項は,「納税者が・・・隠ぺいし,又は仮装し」と規定し,隠ぺいし,又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって,本来的には,納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし,納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても,それが納税者本人の行為と同視することができるときには,形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると,重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。そして,納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば,納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ,それに基づいて過少申告がされたときには,当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ,重加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方,当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで,当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は,B税理士に確定申告手続を委任した際,脱税の意図はなく,専門家である同税理士を信頼して適正な申告を依頼したものであり,同税理士が脱税を行っていた事実を知っていたとうかがうこともできないというのである。そして,税理士は,適正な納税申告の実現につき公共的使命を負っており,それに即した公法的規律を受けているのであるから,被上告人において,そのような税理士資格を有し,長年税務署に勤務していたというB税理士が,税法上許容される節税技術,計算方法等に精通していると信じたとしてもやむを得ないところであり,同税理士がそのような専門技能を駆使することを超えて隠ぺい仮装行為を行うことまでを容易に予測し得たということはできない。また,B税理士による確定申告後,東京国税局による臨場調査を受ける以前に,被上告人が本件確定申告書に虚偽の記載がされていることその他同税理士による隠ぺい仮装行為を認識した事実も認められず,同税理士を信頼して委任した被上告人において,これを容易に認識し得たというべき事情もうかがわれない。
他方,税務署職員や長男から税額を800万円程度と言われながらこれが550万円で済むとのB税理士の言葉を信じた点や,本件確定申告書の内容をあらかじめ確認せず,申告書の控えや納付済みの領収証等の確認すらしなかった点など,被上告人にも落ち度はあるものの,これをもって同税理士による前記隠ぺい仮装行為を被上告人本人の行為と同視することができる事情に当たるとまでは認められないというべきである。
そうすると,前記事実関係の下においては,B税理士の前記隠ぺい仮装行為をもって納税者である被上告人本人の行為と同視することはできず,被上告人につき国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできない。これと同旨の原審の判断は是認することができ,論旨は採用することができな
い。
第2 同第1の4(3)及び第4(ただし,排除されたものを除く。)について
1 前記事実関係の下において,原審は,第1審と同様,第1賦課決定処分のうちの過少申告加算税額相当分についても取消しを免れないものと判断した。その理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 過少申告加算税も,重加算税と同様,申告という公法上の義務が十分に履行されなかったことを理由として当該納税者に課される特別の負担なのであるから,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」の有無は,当該公法上の義務違反について納税者に責任を問うのが正当か否かという観点から検討されるべきである。(2) 被上告人は,正規の国家資格を有するB税理士を全面的に信頼して適正な申告手続をするよう依頼したのであり,同税理士のした過少申告が被上告人の指示に基づくものであるとか同税理士の言動等から不当な申告を行うことが明らかにうかがわれたなどの特段の事情も認められないから,その公法上の義務を十分に履行したものと評価すべきであり,上記「正当な理由」が認められるというべきである。
被上告人やAらに何ら税務上の素養がなく,被上告人及びAともに高齢であることにかんがみると,国家資格を有する専門家たる税理士に委任した以上,その事務のすべてを任せ,先方からの連絡がない以上は,催促がましく連絡を取らないことがエチケットにかなうと考えることにも無理からぬ面があり,少なくとも,被上告人及びAについては,このような態度をとったことをとらえて公法上の義務違反に対する負担の賦課を正当化することは困難である。
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり,主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算税に比して少ないものである。
国税通則法65条4項は,修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき,その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが,過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば,同項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,B税理士が前記のような態様の隠ぺい仮装行為をして脱税をするなどとは予想し得なかったとしても,被上告人は,税務署職員や長男から税額は800万円程度と言われながら,これが550万円で済むとの同税理士の言葉を信じて,それ以上の調査,確認をすることなく,本件確定申告書の内容をあらかじめ確認せず,確定申告書の控えや納税に係る領収書等の交付を同税理士に要求したり,申告について税務署に問い合わせたりはしなかったというのであって,これらの点で被上告人には落ち度が見受けられ,他方,本件確定申告書を受理した税務署の職員が同税理士による脱税行為に加担した事実は認められないというのである。このような事実関係の下においては,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものとまでは認めることはできず,本件修正申告によりその納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件確定申告において税額の計算の基礎とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。
そうすると, これと異なり,第1賦課決定処分のうちの過少申告加算税額相当分(その額が79万7000円となることは計算上明らかである。)についてまで取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう限りにおいて論旨は理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,当該部分に関する被上告人の請求には理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に係る請求を棄却すべきである。
第3 本件更正処分及び第2賦課決定処分の取消請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官島田仁郎裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴)

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