« 最高裁判所平成18年4月24日決定(再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件) | トップページ | 最高裁判所平成18年4月25日判決(所得税更正処分等取消請求事件) »

2006.07.21

最高裁判所平成18年4月25日判決(公金支出差止請求事件)

事件番号 平成16(行ヒ)312
事件名 公金支出差止請求事件
裁判年月日 平成18年04月25日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成16(行コ)21
原審裁判年月日 平成16年07月20日

判示事項
裁判要旨
市施行の土地区画整理事業が違法であると主張して同事業のために支出された公金の返還及び同事業に対する公金支出の差止めを求める住民監査請求が請求の対象の特定に欠けるところはないとされた事例

主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人佐竹俊之,同山本志都の上告受理申立て理由について
1 本件は,東京都羽村市の住民である上告人らが,羽村市を施行者とする福生都市計画事業羽村駅西口土地区画整理事業は違法であると主張して,被上告人に対し,地方自治法242条の2第1項1号に基づき同事業に関する公金の支出の差止めを求めるとともに,同項4号に基づき,当時羽村市長の職にあった者に対して平成13年10月から同14年9月までに同事業に支出した公金額相当額等の損害賠償を請求することを求める住民訴訟である。
2 原審の確定した事実及び記録上明らかな本件の事実関係は,次のとおりである。
(1) 羽村駅西口地区の整備事業は,昭和58年ころから調査が開始され,平成5年に「まちづくり委員会」が発足し,同6年には同委員会が羽村市に対して「都市基盤整備計画等について(具申)」と題する具申書を提出し,同7年には羽村市が「羽村駅西口地区都市基盤整備に関する調査報告書」を作成するなどし,土地区画整理事業を基軸としてその構想が進展してきた。
同8年4月には東京都が羽村市に福生都市計画土地区画整理事業羽村駅西口土地区画整理事業の都市計画についての意見照会をし,同年6月には都市計画案の公告及び縦覧がされた上,同10年3月には東京都知事が上記土地区画整理事業の施行区域を定める福生都市計画土地区画整理事業(羽村駅西口土地区画整理事業)の都市計画決定を告示した。
(2) 羽村市は,上記構想に係る事業を福生都市計画事業羽村駅西口土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)として施行することとし,被上告人は,平成14年3月17日,本件事業に係る事業計画(案)を公衆の縦覧に供した。上記事業計画(案)には,土地区画整理法所定の施行地区,設計の概要,事業施行期間及び資金計画が定められ,事業施行期間は,同年7月1日から同34年3月31日まで(ただし,事業計画の決定の日が上記開始日後になる場合には,当該公告の日から同34年3月31日まで)とする旨が定められていた。その後,被上告人は,上記事業計画(案)について利害関係人から提出された意見書を東京都都市計画審議会に付議した。
また,同14年9月には,本件事業の施行規程が羽村市議会で可決され,平成14年羽村市条例第37号として公布された。
(3) 上告人らは,平成14年10月1日,羽村市監査委員に対し,羽村市作成の平成13年度一般会計歳入歳出決算書の表紙,257頁及び259頁の写し,羽村駅西口区画整理反対の会作成の「羽村駅西口土地区画整理事業の経過」と題する書面並びに地権者作成の「羽村駅西口土地区画整理事業へ協力しない旨の通告書」と題する書面を添付して,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った。
上告人らが提出した監査請求書には,「この土地区画整理事業は,国民の基本的人権,財産権,生存権,生活権,環境権を定めた憲法第11条,第25条,第29条等の諸条項に違反し,都市計画の民主的な住民参加,説明責任,情報公開等の手続を定めた都市計画法第16条,17条,18条等に違反するのみならず,最少の経費の支出を求めている地方自治法第2条,及び地方財政法第4条等々の法令に違反する。よって市長の責任において,2001年度に不当,違法に支出された1億0451万9714円を羽村市に返還し,今後もこのような不当,違法な事業に対し,公金を支出しないよう適切な措置を求める。」などと記載されていた。
また,添付されていた上記決算書257頁の写しの備考欄(積立金からの支出済額の内訳が示されている部分)には,事業区分「04羽村駅西口地区整備事業に要する経費」として合計「104,519,714」と記載され,さらに,その下に詳細内訳として区画整理課の調査等委託料や用地購入費等が記載されていた。
(4) 羽村市監査委員は,平成14年10月15日,「請求人は土地区画整理事業そのものの違法性・不当性を問題としており,財務会計上の違法性・不当性が具体的に主張されていない」として本件監査請求を却下する決定をし,上告人らは,同年11月13日,本件訴えを提起した。
(5) 一方,羽村市は,本件事業の事業計画に定める設計の概要について平成15年4月14日に東京都知事の認可を得た上,同月16日,上記事業計画の決定の公告をした。
3 第1審及び原審は,次のような理由により,本件監査請求は請求の特定を欠
くものとして不適法であり,本件訴えは適法な監査請求を経ていない不適法なもの
であるとして,本件訴えを却下すべきものとした。
(1) 本件監査請求で金員返還を求める対象とされている公金の支出について,監査請求書においては,支出期間が1年間,支出総額が1億0451万9714円であることが記載されているにすぎず,監査請求書に添付された平成13年度一般会計歳入歳出決算書の表紙,257頁及び259頁の写しにおいても,支出項目ごとの支出金額が特定されているのみで,各項目において複数の支出がまとめて記載されているのか個別の支出が記載されているのか識別し難い上,当該項目において複数の支出がまとめて記載されているとみられるものについても,個々の支出に係る日時,支出金額,支出先等が明らかにされていないから,本件監査請求において,各公金の支出が他の支出と区別して特定認識できる程度に個別的,具体的に摘示されているものと認めることはできない。
(2) 上告人らは,本件監査請求において,本件事業に関する一切の公金の支出の包括的な差止めを求めていたものであるが,本件監査請求が行われた当時,本件事業については,事業計画がいまだ決定されておらず,利害関係人から提出された意見書が東京都都市計画審議会に付議されていた段階であって,その基礎的事項さえ定まっていなかったのであるから,このような事業に関するという基準によって,差止めの対象となる公金支出の範囲を識別することが可能であったとしても,これを全体として一体とみてその適否又は当否を判断することはできないし,これが行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点を判断することもできないといわざるを得ない。
(3) したがって,本件監査請求のうち金員返還に係る部分も公金支出差止めに係る部分も,請求の対象の特定を欠くものとして不適法であるというべきである。
4 しかしながら,原審及び第1審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 住民監査請求においては,その対象が特定されていること,すなわち,対象とする財務会計上の行為又は怠る事実(以下「当該行為」という。)が他の事項から区別し特定して認識することができるように個別的,具体的に摘示されていることを要する。しかし,その特定の程度としては,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足り,上記の程度を超えてまで当該行為を個別的,具体的に摘示することを要するものではない。
また,対象となる当該行為が複数であるが,当該行為の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合には,対象となる当該行為とそうでない行為との識別が可能である限り,個別の当該行為を逐一摘示して特定することまでが常に要求されるものではない。そして,地方公共団体が特定の事業(計画段階であっても,具体的な計画が企画立案され,一つの特定の事業として準備が進められているものを含む。)を実施する場合に,当該事業の実施が違法又は不当であり,これにかかわる経費の支出全体が違法又は不当であるとして住民監査請求をするときは,通常,当該事業を特定することにより,これにかかわる複数の経費の支出を個別に摘示しなくても,対象となる当該行為とそうでない行為との識別は可能であるし,当該事業にかかわる経費の支出がすべて違法又は不当であるという以上,これらを一体として違法性又は不当性を判断することが可能かつ相当ということができる。また,当該行為を防止するために必要な措置を求める場合には,これに加えて,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点についての判断が可能である程度に特定されていることも必要になるが,上記のような事案においては,当該事業を特定することによって,この点を判断することも可能である場合が多い。したがって,そのような場合に,当該事業にかかわる個々の支出を一つ一つ個別具体的に摘示しなくても,住民監査請求の対象の特定が欠けることにはならないというべきである。
(2) 本件監査請求において,上告人らは,本件事業自体が,基本的人権等を定める憲法の諸条項,民主的な住民参加等を定める都市計画法の諸条項,最少経費の支出を求めている地方自治法及び地方財政法の条項等に違反する不当又は違法なものであるから,その事業に関する公金の支出は不当又は違法であると主張し,本件事業に関する平成13年度以降の一切の公金の支出を対象として,既支出分の返還と今後の支出の差止めの措置を求めているのであって,本件事業にかかわる公金の支出を全体として一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合に当たる。
そして,上告人らが本件監査請求において返還を求めるべきであるとした平成13年度の1億0451万9714円の支出が,監査請求書に添付された前記決算書(写し)に「羽村駅西口地区整備事業に要する経費」として記載されているものを指すことは明らかであり,対象外の支出との区別は可能である。本件監査請求において対象となる各支出行為の年月日や金額等が具体的に摘示されていなくとも,監査委員としては,当該事業を担当する区画整理課への確認,同課からの書類提出等により本件事業に関する各支出行為を明らかにさせることによって,本件監査請求の対象である各支出行為を容易に把握することができるものというべきである。
また,上記決算書における記載からも明らかなように,羽村市においては,既に,本件事業のための経費が,特定されて予算に計上され,決算上もそのような支出として整理されていたことがうかがわれ,本件事業の事業計画が決定され公告された後に,本件事業の位置付けや本件事業のための経費に関する予算上又は決算上の会計区分は変動するとしても,本件事業の同一性が失われるものではなく,本件事業のための経費支出の特定性が失われるとも考えられないのであって,本件事業を特定することにより差止めを求める対象となる公金の支出の範囲も識別することができるものということができる。
さらに,本件監査請求の時点では土地区画整理法上の事業計画の決定及び公告がされていなかったとはいっても,土地区画整理事業の都市計画決定がされて施行区域も定まり,羽村市の本件事業に関する事業計画(案)も縦覧に供され,施行規程も制定されるという段階に至っている以上,本件事業及びこれに伴う公金の支出がされることが相当の確実性をもって予測されるかどうかの判断を可能とする程度の特定性もあったということができる。事業計画の正式な決定前であるため,その後に本件事業の基礎的事項に変更があり得るとしても,上告人らの主張する違法性ないし不当性の内容からして,その変更が本件事業及びこれに伴う公金の支出の適否等の判断に大きく影響するものとは考えられない。したがって,将来の公金の支出についても,住民監査請求の対象の特定として欠けるところはないということができる。
そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべきである。
5 以上によれば,本件監査請求について請求の対象の特定を欠くとした原審及び第1審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れず,第1審判決も取消しを免れない。そこで,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して,本件を東京地方裁判所に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男)

|

« 最高裁判所平成18年4月24日決定(再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件) | トップページ | 最高裁判所平成18年4月25日判決(所得税更正処分等取消請求事件) »

裁判例」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。