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2006.07.21

最高裁判所平成18年4月20日判決(所得税更正処分等取消請求事件)

事件番号 平成15(行ヒ)217
事件名 所得税更正処分等取消請求事件
裁判年月日 平成18年04月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成14(行コ)312
原審裁判年月日 平成15年05月15日

判示事項
裁判要旨
1 資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項所定の譲渡費用に当たるかどうかは,現実に行われた資産の譲渡を前提として客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきである。 
2 土地改良区の組合員が同区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良法42条2項に基づいて同区に支払った決済金等が所得税法33条3項所定の譲渡費用に当たるとされた事例

主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告人の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 土地改良法42条2項は,土地改良区の組合員が,組合員たる資格に係る権利の目的たる土地の全部又は一部についてその資格を喪失した場合において,同条1項の承継又は同法3条2項の規定による交替がないときは,その者及び土地改良区は,その土地の全部又は一部につきその者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければならない旨定めている。三条土地改良区は,この規定を受けて,その地区内の農地の転用に伴う権利義務の決済等について定めるため,地区除外等処理規程(以下「本件処理規程」という。)を制定している。本件処理規程によれば,三条土地改良区の組合員は,その地区内の土地につき農地法4条1項又は5条1項の規定による許可の申請を行う場合には,同土地改良区に対し,転用許可の申請をする旨の通知をするとともに,地区除外の申請をしなければならず,同土地改良区は,地区除外の申請がされたときは,除外すべき土地に係る決済金の額を所定の決済金算定基準により確定し,速やかにその決済をするものとされている。そして,上記決済金算定基準においては,決済金の額は,三条土地改良区が当該組合員から徴収すべき金銭の額と同土地改良区が当該組合員に対し支払うべき金銭の額との差額とされ,決済の範囲については,平成9年当時,別紙のとおり定められていた。
また,三条土地改良区は,土地改良施設を他の目的に使用させるときの取扱い等について定めるため,施設等使用規程(以下「本件使用規程」という。)を制定している。本件使用規程によれば,三条土地改良区に関係する区域内において開発行為を行おうとする者は,同土地改良区から土地改良施設を使用することにつき許可を受けなければならず,同土地改良区の理事長は,上記の許可の申請があったときは,開発行為による農地及び土地改良施設への影響を検討し,三条土地改良区施設等使用負担金徴収規程(以下「本件徴収規程」という。)に基づいて定める施設等使用負担金を一時金として徴収の上,土地改良施設の使用を承諾することができるものとされている。そして,本件徴収規程は,施設等使用負担金として,① 協力金(従来の土地改良施設等の補修及び整備を図るための協力金),② 特別排水負担金(転用に伴う単位排水量の増加分に対する負担金),③ 分区負担金(分区会計のうち用排水施設を管理するものについての転用に伴う単位排水量の増加分に対する負担金)を徴収するものと定めている。
(2) 上告人は,三条土地改良区内に存する農地であった本件土地について,農地以外のものに転用するため権利を移転したいとして,平成9年8月11日に農地法(平成10年法律第56号による改正前のもの。以下同じ。)5条の規定による許可の申請をし,同年10月21日にその許可を受けた。
(3) 上告人は,平成9年8月11日,上記(2)の許可の申請をするに当たり,三条土地改良区に対し,次のアないしエ記載の金員の合計113万6171円(以下「本件決済金等」という。)を支払った。本件決済金等のうち,アの決済金(以下「本件決済金」という。)は本件処理規程に基づき徴収されたものであり,イの協力金,ウの特別排水負担金及びエの分区(井栗区)負担金(以下,これらを併せて「本件協力金等」という。)は本件使用規程及び本件徴収規程に基づき徴収されたものである。
ア決済金64万6435円
イ協力金7万0890円
ウ特別排水負担金39万6984円
エ分区(井栗区)負担金2万1862円
(4) 上告人は,平成10年3月22日,株式会社Aとの間で,農地法等による許可を停止条件として本件土地を代金4654万円で売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。そして,本件土地について,登記原因を同月23日売買とする上告人から上記会社への所有権移転登記がされた。
(5) 上告人は,平成10年分の所得税の申告において,長期譲渡所得の金額の計算上,本件決済金等を所得税法33条3項にいう「資産の譲渡に要した費用」(以下「譲渡費用」という。)として収入金額から控除した。
(6) 被上告人は,本件決済金等を譲渡費用とすることを否認し,平成12年7月6日,上告人の平成10年分の所得税につき増額更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」といい,本件更正と併せて「本件更正等」という。)をした。
2 本件は,上告人が,本件決済金等は本件土地の譲渡費用に当たるとして,本件更正のうち申告額を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求めた事案である。
3 原審は,前記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件更正等に違法はないとして上告人の請求を棄却すべきものとした。
本件決済金は,本件土地の転用による組合員資格の喪失に伴い三条土地改良区との間でその事業に関する権利義務につき一時に決済が必要となった清算金にすぎず,その支払が農地法5条の転用移転の許可自体の法律上の手続に不可欠なものとなっているわけではない。また,本件協力金等は,転用された土地につき三条土地改良区内の土地改良施設を将来にわたって使用するための負担金にすぎない。本件決済金等は,本件土地の譲渡を実現するために直接必要な支出として実質的関連性があるものではなく,譲渡に際しての増加益のために必要な支出として合理的関連性があるものでもないから,本件土地の譲渡費用に当たらない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁,最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。しかしながら,所得税法上,抽象的に発生している資産の増加益そのものが課税の対象となっているわけではなく,原則として,資産の譲渡により実現した所得が課税の対象となっているものである。そうであるとすれば,資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法33条3項にいう譲渡費用に当たるかどうかは,一般的,抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく,現実に行われた資産の譲渡を前提として,客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。
前記事実関係等によれば,本件売買契約は農地法等による許可を停止条件としていたというのであるから,本件売買契約においては,本件土地を農地以外の用途に使用することができる土地として売り渡すことが契約の内容となっていたものである。そして,前記事実関係等によれば,上告人が本件土地を転用目的で譲渡する場合には土地改良法42条2項及びこれを受けて制定された本件処理規程により本件決済金の支払をしなければならなかったのであるから,本件決済金は,客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用に当たり,本件土地の譲渡費用に当たるというべきである。ただし,前記事実関係等によれば,転用目的での農地の譲渡に伴う決済に当たり三条土地改良区が組合員から徴収すべき金銭の中には決済年度以前の年度に係る賦課金等の未納入金が含まれているところ,仮に本件決済金の中に本件土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金が含まれていた場合には,本件決済金のうち上記未納入金に係る部分は本件土地の譲渡費用に当たらないというべきである。
また,前記事実関係等によれば,三条土地改良区の組合員がその地区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり本件使用規程及び本件徴収規程に基づく施設等使用負担金を支払った場合には転用された土地のために土地改良施設を将来にわたり使用することができることになるのであるから,上記の施設等使用負担金の支払は当該土地の譲渡価額の増額をもたらすものということができる。そうであるとすれば,上告人が上記の施設等使用負担金として支払った本件協力金等は,本件土地の譲渡費用に当たるというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件については,本件決済金の中に本件土地を転用目的で譲渡するか否かにかかわらず決済の時点で既に支払義務が発生していた賦課金等の未納入金が含まれていたのかどうかについて審理させるため,原審に差し戻すのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官泉徳治裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官島田仁郎裁判官才口千晴)


(別紙)
1 三条土地改良区が徴収すべき金銭の額
(1) 賦課金等
決済年度以前の年度に係る賦課金等の決済時点における未納入金額
(2) 償還金及び年賦支払金
三条土地改良区の借入金に係る償還金及び同土地改良区が負担する国営土地改良事業(決済年度の前年度以降に完了したものに限る。)の負担金に係る年賦支払金で決済年度の翌年度以降のものにつき定款の定めるところにより算定する当該土地の負担相当額
(3) 土地改良区営土地改良事業に係る事業費
ア維持管理事業以外の事業に係るもの
決済時点において三条土地改良区が行う土地改良事業(維持管理事業を除く。)に係る事業費のうち決済年度の翌年度以降の自己負担分につき定款の定めるところにより算定する当該土地の負担相当額(転用に伴い事業費が減額される場合にあっては,自己負担分のうち当該減額に対応する額を当該算定額から控除して得た額)
イ維持管理事業に係るもの
決済時点において三条土地改良区が行う土地改良事業(維持管理事業に限る。)に係る維持管理費のうち決済年度の翌年度以降の自己負担分につき定款の定めるところにより算定する当該土地の20年分の額(転用に伴い事業費が減額される場合にあっては,自己負担分のうち当該減額に対応する額を当該算定額から控除して得た額)
(4) 国営又は県営土地改良事業に係る負担金又は分担金
ア維持管理事業以外の事業に係るもの
決済時点において国又は県が行う土地改良事業(維持管理事業を除く。)に係る事業費のうち決済年度の翌年度以降において三条土地改良区が負担し,又は分担すべき額につき定款の定めるところにより算定する当該土地の負担相当額(転用に伴い事業費が減額される場合にあっては,同土地改良区が負担し,又は分担すべき額のうち当該減額に対応する額を当該算定額から控除して得た額)
イ維持管理事業に係るもの
決済時点において国又は県が行う土地改良事業(維持管理事業に限る。)に係る維持管理費のうち決済年度の翌年度以降において三条土地改良区が負担し,又は分担すべき額につき定款の定めるところにより算定する当該土地の20年分の額(転用に伴い事業費が減額される場合にあっては,同土地改良区が負担し,又は分担すべき額のうち当該減額に対応する額を当該算定額から控除して得た額)
(5) 県営圃場整備事業本成寺地区内のパイプ移設維持管理費に係るもの(本件土地は井栗地区内に存在するため,この項目は本件土地とは関係がない。)
(6) 経費に係るもの
各事業に共通する三条土地改良区の運営に要する経費に係る経常費で決済年度の翌年度以降のものにつき定款の定めるところにより算定する当該土地の20年分の額
2 三条土地改良区が支払うべき金銭の額
過誤納賦課金その他三条土地改良区が当該組合員に対して支払うべきものとして定款,規約若しくは規程又は総代会の議決により定められた金銭の額のうち当該土地に係るもの

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