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2006.07.21

最高裁判所平成18年4月14日判決(転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件)

平成17(許)33 転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日 平成18年04月14日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 決定
結果 破棄自判

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成17(ラ)116
原審裁判年月日 平成17年07月21日

判示事項
裁判要旨
委任者が委任事務の処理のために受任者に交付した前払費用についての返還請求権は,当該委任事務の終了前においては,券面額を有するものとはいえず,被転付適格を有しない

主文
原決定を破棄し,原々決定中転付命令の部分を取り消す。
本件転付命令の申立てを却下する。
前項の申立て及び抗告の総費用は相手方の負担とする。
理由
抗告代理人安部祐志の抗告理由について
1 記録によれば,本件の経過は次のとおりである。
(1) 弁護士である抗告人は,Aから,債務整理事務の委任を受け,同事務を処理するための費用として,同社が所有していた工場の売却等により得た金員合計1493万4614円の交付を受け,同社の債権者らのうち相手方ほか1社を除く債権者らに対して合計411万8266円を支払い,残額1081万6348円を管理している。
(2) 相手方は,Aに対して相手方への金員の支払を命ずる旨の確定判決を債務名義として,同社が抗告人に対して有する上記(1)の1081万6348円相当額の返還請求権(以下「本件債権」という。)について差押命令及び転付命令を申し立てた。
(3) 原々審は,上記申立てを全部認容する旨の原々決定をし,原々決定は,抗告人及びAにそれぞれ送達された。これに対し,抗告人は,原々決定中転付命令の申立てを認容した部分を不服として執行抗告をした。
2 原審は,本件債権は,債権として現に存在し,また,弁済に充てられる金額を確定することもできるから,民事執行法159条1項にいう券面額を有するものであると判断して,上記執行抗告を棄却する旨の原決定をした。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,抗告人は,Aから,債務整理事務の委任を受け,同事務を処理するための費用として1081万6348円を管理しているところ,これは,民法649条の規定する前払費用に当たるものと解される。前払費用は,委任事務の処理のための費用に充てるものとして交付されたものであるから,受任者が委任事務を処理するために費用を支出するたびに当該費用に充当されることが予定されており,受任者は,当該委任事務が終了した時に,前払費用から支出した費用を差し引いた残金相当額を委任者に返還すべきこととなる。したがって,委任者の受任者に対する上記前払費用についての返還請求権は,当該委任事務の終了時に初めてその債権額が確定するものというべきである。そして,同請求権が委任者の債権者によって差し押さえられた場合であっても,受任者は,当該委任事務が終了しない限り,委任事務の遂行を何ら妨げられるものではなく,委任事務の処理のために費用を支出したときは,委任者から交付を受けた前払費用をこれに充当することができるものと解される。
以上によれば,委任者の受任者に対する前払費用についての返還請求権は,当該委任事務の終了前においては,その債権額を確定することができないのであるから,民事執行法159条1項にいう券面額を有するものとはいえず,転付命令の対象となる適格を有しないものと解すべきである。
本件債権は,上記前払費用についての返還請求権に当たるものであり,抗告人がAから委任を受けた債務整理事務が終了していない以上,転付命令の対象となる適格を有しないというべきである。
以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,上記説示によれば,原々決定中本件転付命令の申立てを認容した部分は不当であるからこれを取り消し,同申立てを却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官今井功裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官中川了滋裁判官古田佑紀)

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