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2006.09.04

最高裁判所平成18年06月06日判決

事件番号 平成17(受)2058
事件名 保険金等支払請求事件
裁判年月日 平成18年06月06日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号 平成17(ネ)95
原審裁判年月日 平成17年07月14日

判示事項
裁判要旨
「衝突,接触…その他偶然な事故」を保険事故とする自動車保険契約の約款に基づき,車両に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして,車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わない

- 1 -
主文
1 原判決のうち保険金請求に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人飯田泰啓の上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人が,被上告人に対し,自動車保険契約に基づく車両保険金の支払等を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,普通自家用自動車(以下「本件車両」という。)を所有していた。被上告人は,損害保険業を目的とする株式会社である。
(2) 上告人は,平成14年7月23日,被上告人との間で,①被保険自動車を本件車両,②車両の協定保険価額を105万円,③保険期間を平成14年7月27日から平成15年7月27日までとする自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。本件保険契約に適用される保険約款第4章(車両保険)第1節(車両条項)第1条には「当会社は,衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故によって保険証券記載の自動車(以下「被保険自動車」といいます。)に生じた損害に対して,この車両条項および一般条項に従い,被保険自動車の所有者(以下「被保険者」といいます。)に保険金を支払います。」との条項(以下「本件条項」という。)がある。また,上記約款第4章第1節第3条には,被上告人は,保険契約者,被保険者等の故意によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない旨の条項(同条(1)(イ))がある。
(3) 平成15年7月10日ころ,本件車両の前後部,両側面に引っかき傷が付けられるという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
3 原審は,概要次のとおり判断して,上告人の保険金請求を棄却すべきものとした。
本件条項に基づき車両保険金の支払を請求する者は,発生した事故が偶発的な事故であることについて主張,立証すべき責任を負うものと解するのが相当である。なぜなら,本件条項に基づく車両保険金の支払事由は「偶然な事故」とされているのであるから,発生した事故が偶発的な事故であることが保険金請求権の成立要件であるのみならず,そのように解さなければ,保険金の不正請求が容易となるおそれが増大する結果,保険制度の健全性を阻害し,ひいては誠実な保険加入者の利益を損なうおそれがあるからである。上記約款第4章第1節第3条の条項は,車両保険金が支払われない場合を確認的注意的に規定したものにとどまり,被保険者の故意により車両保険金の支払事由に該当したことの主張立証責任を保険者に負わせたものではないと解すべきである(最高裁平成10年(オ)第897号同13年4月20日第二小法廷判決・民集55巻3号682頁参照)。そして,本件事故が偶発的な事故であることについての立証はない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
商法629条が損害保険契約の保険事故を「偶然ナル一定ノ事故」と規定したのは,損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり,保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には,保険契約が成立しないということを明らかにしたものと解すべきである。同法641条は,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については,保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが,これは,保険事故の偶然性について規定したものではなく,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。
本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,盗難,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示して明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものであり,他方,前記約款第4章第1節第3条の条項は,保険契約者,被保険者等が故意によって保険事故を発生させたことを,同法641条と同様に免責事由として規定したものというべきである。本件条項にいう「偶然な事故」を,同法629条にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない。
したがって,車両の表面に傷が付けられたことが保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張,立証すべき責任を負わないというべきである。原審の引用する前記平成13年4月20日第二小法廷判決は,傷害保険についてのものであり,本件とは事案を異にする。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち保険金請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,免責事由の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,上告人は,保険金請求を除く請求(弁護士費用相当額の請求及び使用者責任に基づく損害賠償請求)に関する上告については上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同請求に関する上告はこれを却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田豊三裁判官濱田邦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男)

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