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2006.09.05

最高裁判所平成18年07月13日判決(行政文書部分公開決定処分取消等請求事件)

事件番号 平成16(行ヒ)117
事件名 行政文書部分公開決定処分取消等請求事件
裁判年月日 平成18年07月13日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成14(行コ)57
原審裁判年月日 平成15年12月25日

判示事項
裁判要旨
土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格等に関する情報が大阪府情報公開条例所定の非公開情報(財産,所得等に関する個人識別情報のうち一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの)に当たらないとされた事例

主文
1 原判決のうち別紙目録の記載部分に関する部分を破棄し,同部分につき被上告人の控訴を棄却する。
2 上告人らのその余の上告を棄却する。
3 訴訟の総費用は,これを10分し,その1を上告人らの負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理由
上告代理人坂本団,同豊永泰雄,同海川直毅の上告受理申立て理由のうち別紙目録の記載部分に関する部分について
1 本件は,上告人らが,大阪府情報公開条例(平成11年大阪府条例第39号。平成12年大阪府条例第137号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例所定の実施機関である被上告人に対し,大阪府土地開発公社(以下「公社」という。)による公共事業用地の代替地の取得又は処分に関する文書である「平成11年度代替地取得及び処分協議決裁文書」(以下「本件文書」という。)等の公開を請求したところ,本件文書の一部を非公開とする旨の決定を受けたため,その取消しを求めている事案である。
2 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア本件条例8条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開しないことができる。」と定め,その1号及び4号において,以下のとおり規定している。
1号「法人(国及び地方公共団体その他の公共団体(以下「国等」という。)を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」
4号「府の機関又は国等の機関が行う取締り,監督,立入検査,許可,認可,試験,入札,交渉,渉外,争訟等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」
イ本件条例9条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている行政文書を公開してはならない。」と定め,その1号において,「個人の思想,宗教,身体的特徴,健康状態,家族構成,職業,学歴,出身,住所,所属団体,財産,所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」と規定している。
(2) 公社は,公共事業用地として買収の対象となる土地の所有者が代替地の取得を希望する場合に,これを取得して当該所有者に譲渡する業務を行っている。本件文書は,大阪府土木部用地室が公社による代替地の取得又は処分について公社と協議した際に作成し,又は取得した平成11年度分の文書のつづりであり,公社による代替地の取得又は処分に関して作成された申請書,契約書,協議又は決裁に関する文書等から成る。
本件文書のうち,別紙目録の(B),(C),(D)①,(E)ないし(I),(K)ないし(M)及び(N)①の記載部分には,事業用地の買収又は代替地の取得若しくは譲渡の際の価格及び単価(以下「買収価格等」という。)が記載され,また,本件文書のうち,同目録の(A),(D)②及び(N)②の記載部分には,大阪府土地開発公社土地評価審査会(以下「審査会」という。)が代替地の評価額を公社に答申した際の評価答申額,公社による諮問価格及び同評価答申額を基礎として時点修正を加えた算出額(以下「評価答申額等」という。)が記載されている。
本件文書には,買収の対象となる事業用地の所有者及び代替地の所有者又は取得予定者(以下「土地の所有者等」という。)の氏名又は名称,住所又は所在地と,上記各土地の所在,地番,地目及び地積が記載されているが,これらは後記の本件処分により既に公開されている。
(3) 被上告人は,上告人らによる行政文書の公開請求に対し,平成12年9月11日付けで本件文書の一部を公開しない旨の部分公開決定をし,その後,同13年4月10日付けで,本件文書のうち公開しないこととする部分を変更する旨の決定をした(以下,同決定による変更後の上記部分公開決定を「本件処分」という。)。
本件処分は,本件文書のうち別紙目録の記載部分(以下「本件記載部分」という。)に関する情報が本件条例8条1号,同条4号又は9条1号所定の非公開情報に該当するとして,本件記載部分を非公開としている。
(4) 大阪府における事業用地の取得価格は,「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)に基づき,「土地評価事務処理要領」(昭和38年3月7日用地対策連絡会決定「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」別記1)に定められた標準地比準評価法(買収対象の区域内における標準地の評価額から国土庁監修の土地価格比準表により比準して当該土地の価格を算出する方法)による評価によって正常な取引価格として算定された価格を基にすることとされている。この価格は,地価公示法(平成11年法律第160号による改正前のもの)6条の規定による公示価格(以下「公示価格」という。)との均衡を失することのないよう配慮された客観的な価格である。大阪府は,この価格を上限として,上記の評価を基にした正常な取引価格の範囲内で,地権者との合意により当該土地の取得価格を決定している。
また,公社による代替地の取得価格及び譲渡価格は,公示価格を規準とし,公示価格がない場合又はこれにより難い場合は当該土地の近傍類地の取引価格等を考慮した適正な価格によるものとされている。公社による代替地の取得価格及び譲渡価格は,審査会の意見を聴いて決定しなければならないこととされており,公社は,審査会に対し,代替地の取得価格及び譲渡価格について金額を明示して諮問し,審査会は,これらの価格を評価して公社に答申する。公社による実際の代替地の取得価格及び譲渡価格は,評価答申額等と同額である場合が多い。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり,本件処分のうち本件記載部分を非公開とした部分に違法はないと判断した。
(1) 土地の所有者等が個人である場合の買収価格等及び評価答申額等に関する情報は,いずれも本件条例8条4号及び9条1号所定の非公開情報に該当する。
(2) 土地の所有者等が法人である場合の買収価格等及び評価答申額等に関する情報は,いずれも本件条例8条1号及び4号所定の非公開情報に該当する。
(3) 土地の所有者等が国等である場合の買収価格等及び評価答申額等に関する情報は,いずれも本件条例8条4号所定の非公開情報に該当する。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 土地の所有者等が個人である場合の本件記載部分に関する情報についてア本件条例9条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている行政文書を公開してはならないとしているものと解される。
前記事実関係等によれば,土地の所有者等が個人である場合の本件記載部分に関する情報は,買収価格等又は評価答申額等に関する情報であって,当該個人の氏名等が既に公開されているというのであるから,個人の財産,所得等に関する情報であって特定の個人が識別され得るものということができる。
しかしながら,前記事実関係等によれば,大阪府における事業用地の取得価格は,「公共用地の取得に伴う損失補償基準」等に基づいて,公示価格との均衡を失することのないよう配慮された客観的な価格として算定された価格を上限とし,正常な取引価格の範囲内で決定され,公社による代替地の取得価格及び譲渡価格は,公示価格を規準とし,公示価格がない場合又はこれにより難い場合は近傍類地の取引価格等を考慮した適正な価格によるものとされているというのである。そうすると,当該土地の買収価格等に売買の当事者間の自由な交渉の結果が反映することは比較的少ないというべきである。そして,当該土地の買収価格等に影響する諸要因,例えば,駅や商店街への接近の程度,周辺の環境,前面道路の状況,公法上の規制,当該土地の形状等については,一般に周知されている事項か,容易に調査することができる事項であり,これらの価格要因に基づいて上記のとおり決定される価格及びその単価は,一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格であるということができる。したがって,上記の買収価格等をもって公社に土地を買収され,又は公社から土地を取得したことは,個人である土地の所有者等にとって,私事としての性質が強いものではなく,これに関する情報は,性質上公開に親しまないような個人情報であるとはいえない。
また,前記事実関係等によれば,公社による代替地の取得価格及び譲渡価格は評価答申額等と同額である場合が多いというのであるから,評価答申額等は,代替地の取得価格及び譲渡価格から推知されるものというべきである。そして,代替地の取得価格及び譲渡価格が一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格であることは上記のとおりであるから,これらの価格から推知される評価答申額等に関する情報も,性質上公開に親しまないような個人情報であるとはいえない。
したがって,土地の所有者等が個人である場合の本件記載部分に関する情報は,いずれも本件条例9条1号所定の非公開情報に該当しないというべきである。イそして,上述したところによれば,上記部分に関する情報を公開することによって,大阪府における今後の用地買収事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということはできないから,上記情報は,いずれも本件条例8条4号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
(2) 土地の所有者等が法人又は国等である場合の本件記載部分に関する情報について
前記事実関係等によれば,土地の所有者等が法人である場合の本件記載部分に関する情報は,買収価格等又は評価答申額等に関する情報であるというのである。買収価格等及び評価答申額等は,前記のとおり決定されるというのであるから,これらの価格に関する情報を公にすることにより当該法人の競争上その他正当な利益を害するとは認め難い。
また,上述したところによれば,土地の所有者等が法人又は国等である場合の本件記載部分に関する情報を公開することによって,大阪府における今後の用地買収事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということはできない。
したがって,上記情報は,いずれも本件条例8条1号又は4号所定の非公開情報に該当しないというべきである。
5 以上によれば,本件記載部分に関する情報が本件条例8条1号,同条4号又は9条1号所定の非公開情報に該当するとした原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち本件記載部分を非公開とした部分は違法であり,同部分について請求を認容した第1審判決は正当であるから,同部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。
なお,本件記載部分以外の記載部分に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官島田仁郎裁判官才口千晴)

目録
「平成11年度代替地取得及び処分協議決裁文書」のうち,下記の各記載部分記
(A)大阪府土地開発公社土地評価審査会への評価答申額,諮問価格及び答申価格
(B)代替地(取得)譲渡調書のうち,事業用地の買収単価,買収金額,代替地の買収単価,買収金額,譲渡(予定)単価,譲渡(予定)金額及び譲渡予定単価算出方法
(C)代替地買受申請書のうち,単価及び価格(総額,金額及び買受希望額)
(D)① 代替地買収(譲渡)協議書のうち,契約金額,一括支払金額,単価及び価格② 代替地買収(譲渡)協議書のうち,評価額(原判決別紙「本件非公開部分一覧表」中の「本件公開文書の丁数」85記載の部分を除く。)
(E)代替地選定調書のうち,㎡当たり単価,坪当たり単価,金額及び買収予定価格
(F)代替地買収調書のうち,契約金額及び支払金額
(G)代替地譲渡通知書のうち,譲渡価格及び譲渡単価
(H)代替地取得処分計画書のうち,取得予定価格,譲渡予定価格及び土地補償金額
(I)土地売買契約書のうち,売買代金,売買代金の一部金(前金及び残金)並びに売買土地の単価及び金額
(K)代替地の取得及び処分に関する覚書に基づく協議に係る文書のうち,買収単価及び買収金額
(L)別途協議理由書(代替地譲渡理由書)のうち,金額(買収・譲渡金額)
(M)協議確認書の事業用地並びに代替地一覧表のうち,買収単価,補償金額,譲渡単価,譲渡金額及び譲渡価格
(N)① 代替地取得譲渡価格評価説明書のうち,単価,取得価格,取得及び譲渡価格
② 代替地取得譲渡価格評価説明書のうち,既答申価格及び算出額(時点修正額)

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