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2006.09.05

最高裁判所平成18年07月20日(差押債権取立請求事件)

事件番号 平成16(受)226
事件名 差押債権取立請求事件
裁判年月日 平成18年07月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集巻・号・頁

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成15(ネ)1881
原審裁判年月日 平成15年10月22日

判示事項
裁判要旨
第三債務者が,仮差押命令の送達を受けた時点で,仮差押えを受けた債務の弁済のために取引銀行に対し先日付振込みの依頼をしていた場合において,上記送達後にされた振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することの可否

主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由
上告代理人宮下進ほかの上告受理申立て理由について
1 原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,その取引銀行であるA銀行(茂原支店扱い)との間で,平成13年4月20日,下記内容のパソコンバンクサービス及びオンラインデータ伝送サービス(以下「本件オンラインシステム」という。)の利用契約を締結した。
アこのサービスは,被上告人のコンピューター(端末機)を通じた依頼に基づき,A銀行における被上告人の普通預金口座から資金を引き落とし,A銀行又はその提携金融機関における受給者の預金口座へ給与や賞与の振込みを行う場合等に利用する。
イ被上告人は,A銀行に対し,あらかじめ伝送内容(受付サービスの種類,合計件数,合計金額)をファクシミリにより通知した上,所定の内容を端末機を通じてA銀行が指定したセンターコードあてに送信する。
ウ被上告人は,A銀行にデータ伝送を行った後は,送信したデータの内容に瑕疵がないときは,データの内容を取消し・変更できない。
エ被上告人は,A銀行が受信したデータの内容に瑕疵がある場合は,その内容を修正して速やかに再送信する。
オ本件オンラインシステムの利用日・利用時間は,A銀行が定めた営業日・時間内とする。
(2) Bは,同年12月31日限り被上告人を退職し,被上告人から退職金として1138万0800円を支給されることになった(以下,この退職金を「本件退職金」という。)。Bは,その退職に先立ち,被上告人に対し,本件退職金をC労働金庫木更津支店のB名義の預金口座(以下「本件口座」という。)へ振込みの方法で支払うことを依頼した。
(3) 被上告人は,同年12月26日,A銀行茂原支店に対し,本件オンラインシステムを通じて,本件退職金がA銀行の提携金融機関であるC労働金庫の本件口座に同月28日に振込入金されるよう依頼し(以下,これを「本件振込依頼」という。),本件振込依頼は,依頼の当日である同月26日,A銀行により受理され,本件オンラインシステムの中に依頼履歴として電磁記録された。なお,被上告人は,労働組合との協定により,原則として従業員の退職の日に退職金を支払うこととしており,これによれば,本件退職金の支払日は同月31日であったが,A銀行その他の銀行の同年末の最終営業日が同月28日(金)であったため,被上告人は,A銀行に対し,同日に上記振込入金がされるように依頼した。
(4) 上告人は,Bを債務者,被上告人を第三債務者とし,下記の債権を仮差押債権として,千葉地方裁判所に対し仮差押命令を申し立て(同裁判所平成13年(ヨ)第508号),同月26日,これに基づく債権仮差押命令(以下「本件仮差押命令」という。)が発令された。

Bが被上告人から支給される,仮差押命令送達日以降支払期の到来する次のアからウまでの債権にして1749万2070円に満つるまで
ア給料(基本給と通勤手当以外の諸手当)から所得税,住民税及び社会保険料を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月額28万円を超えるときは,その残額から21万円を控除した金額)
イ賞与からアと同じ税金等を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月額28万円を超えるときは,その残額から21万円を控除した金額)
ウ上記ア,イにより弁済しないうちに退職したときは,退職金から所得税及び住民税を控除した残額の4分の1
(5) 本件仮差押命令は,同月27日午前11時ころ,被上告人の守衛所に送達された。同日は,被上告人の年内最終営業日であり,その終業予定時刻は午後零時15分であった。
(6) 被上告人の総務担当主任Dは,本件仮差押命令の受領後,Bに対する振込みの中断の可否について,人事勤労担当課長Eに質問し,E課長から,Bの給与は支払済みであり,本件退職金の振込手続は前日に完了しており,支払を止めるのは無理である旨告げられた。さらに,E課長は,本件退職金の振込依頼の撤回の可否を経理部主計担当主任Fに確認し,窓口営業終了時刻である午後3時までにA銀行茂原支店の窓口に赴いて手続を執る必要があると言われた。総務部長Gは,E課長から報告を受け,同月27日午後零時20分ころ,本件退職金の振込手続が完了したことを前提として裁判所に回答させることとした。
(7) 総務部担当者は,千葉地方裁判所に対し,同日午後1時ころ,仮差押命令を受けた第三債務者が提出する陳述書の書き方等について問い合わせをした上,Bが同月31日付け退職となっており,Bへの給与及び退職金は既に支払済みであって,本件仮差押命令に係る債権は存在しない旨を記載した同月27日付け陳述書を千葉地方裁判所に提出した。
(8) 同月28日,本件振込依頼に基づき,本件口座に本件退職金が入金された。
(9) 上告人は,Bが被上告人から支給される同月31日に支払期の到来した本件退職金の4分の1につき,千葉地方裁判所木更津支部に対し債権差押命令を申し立て(同支部平成14年(ル)第142号),これに基づく債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)が平成14年5月7日に発令され,同月8日に被上告人に送達された。
(10) 本件退職金のうち,本件仮差押命令及び本件差押命令の対象となったのは,284万5200円である。
2 本件は,上記の事実関係の下で,上告人が被上告人に対し,本件差押命令に基づく差押債権の取立てとして差押債権相当額の金員の支払を求める事案である。
3 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1) 金融機関を通じた振込手続は信頼性の高い決済手段として広く利用されており,この手続を利用する債権者及び債務者とも,振込依頼手続を完了すれば,依頼内容に従った振込みが金融機関によって実行され,有効な弁済がされることが確実であると信頼するに至っていると推認し得ることにかんがみると,第三債務者が,債務の本旨に従った弁済をするために,金融機関に対し差押債務者が指定した口座への振込みを依頼した後に,差押命令(仮差押命令についても同じ。)の送達を受けた場合,弁済期までに長い期間がある時期に振込依頼がされたなどの特段の事情がない限り,第三債務者の依頼に基づいて金融機関がした差押債務者に対する送金手続が差押命令の第三債務者への送達後にされたとしても,第三債務者の上記振込依頼に基づく弁済をもって差押債権者に対抗することができると解するのが相当である。
(2) 本件の事実経過の下においては,上記特段の事情も認められないから,被上告人は,本件退職金の弁済をもって仮差押債権者である上告人に対抗することができる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 金銭の支払を目的とする債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行うものとされ(民事保全法50条1項),弁済禁止の命令を受けた第三債務者がその対象となった債権の弁済をした場合は,差押債権者はその受けた損害の限度において更に弁済すべき旨を第三債務者に請求することができる(民法481条1項)。この弁済禁止の効力が生ずるのは,仮差押命令が第三債務者に送達された時である(民事保全法50条5項,民事執行法145条4項)。
前記事実関係によれば,本件仮差押命令は,本件退職金債権につき,第三債務者である被上告人からA銀行に対する本件振込依頼がされた日の翌日に被上告人に送達されたが,その時点ではまだA銀行から債務者であるBの本件口座への振込みはされておらず,同振込みは本件仮差押命令送達の日の翌日にされたことが明らかである。
(2) 依頼人から振込依頼を受け,その資金を受け取った銀行(仕向銀行)がこれを受取人の取引銀行(被仕向銀行)に開設された受取人の預金口座に入金するという方法で隔地者間の債権債務の決済や資金移動を行う振込手続が,信頼性の高い決済手段として広く利用されていることは,原判決の判示するとおりであるが,一般に,振込依頼をしても,その撤回が許されないわけではなく,銀行実務上,一定の時点までに振込依頼が撤回された場合には,仕向銀行は被仕向銀行に対していわゆる組戻しを依頼し,一度取り組んだ為替取引を解消する取扱いが行われている(全国銀行協会連合会が平成6年4月に制定した振込規定ひな型・全銀協平6・4・1全事第8号参照)。本件においても,前記事実関係によれば,被上告人は本件仮差押命令が送達された日(本件退職金が本件口座に振り込まれる日の前日)の午後3時までにA銀行茂原支店の窓口に赴けば振込依頼の撤回の手続を執ることが可能であると知っていたことがうかがわれる。
(3) 以上によれば,取引銀行に対して先日付振込みの依頼をした後にその振込みに係る債権について仮差押命令の送達を受けた第三債務者は,振込依頼を撤回して債務者の預金口座に振込入金されるのを止めることができる限り,弁済をするかどうかについての決定権を依然として有するというべきであり,取引銀行に対して先日付振込みを依頼したというだけでは,仮差押命令の弁済禁止の効力を免れることはできない。そうすると,上記第三債務者は,原則として,仮差押命令の送達後にされた債務者の預金口座への振込みをもって仮差押債権者に対抗することはできないというべきであり,上記送達を受けた時点において,その第三債務者に人的又は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情がある場合に限り,上記振込みによる弁済を仮差押債権者に対抗することができるにすぎないものと解するのが相当である。
以上と異なる見解に立って,弁済期までに長い期間がある時期に振込依頼がされたなどの特段の事情がない限り,第三債務者は,差押命令(仮差押命令についても同じ。)の送達後にされた振込みによる弁済をもって仮差押債権者に対抗することができるとした原審の判断には,民法481条1項の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
5 以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件の具体的事情の下において,被上告人が本件仮差押命令の送達を受けた時点で人的又は時間的余裕がなく,振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情があったかどうか等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官島田仁郎裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴)

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