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2006.09.30

最高裁判所平成18年09月04日判決(業認可処分取消請求事件)

事件番号 平成15(行ヒ)321
事件名 事業認可処分取消請求事件
裁判年月日 平成18年09月04日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成14(行コ)234
原審裁判年月日 平成15年09月11日

判示事項
裁判要旨
公道との接続部分として利用するため,国家公務員宿舎の敷地として利用されている国有地ではなく,これに隣接する民有地を公園の区域に含むものと定めた都市計画決定について,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできないとした原審の判断に違法があるとされた事例

主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由
上告代理人上條義昭,同高木一嘉の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 建設大臣は,旧都市計画法(昭和43年法律第100号による廃止前のも
の。以下同じ。)3条の規定により,東京都市計画公園第23号目黒公園(昭和62年の都市計画の変更以降の名称は「東京都市計画公園第5・5・25号目黒公園」である。以下「本件公園」という。)に関する都市計画の決定(以下「本件都市計画決定」という。)をし,昭和32年12月21日付けでその旨を告示した。本件公園は,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)4条5項所定の都市施設であり,農林省の附属機関である林業試験場の本場(以下,単に「林業試験場」という。)の跡地を利用して設置されるものである。本件都市計画決定は,林業試験場の南門の位置に本件公園の南門を設けるものとして,南門と区道との接続部分として利用するため,上告人らの所有等に係る土地(以下「本件民有地」という。)を本件公園の区域に含むものと定めていた。
(2) 東京都が本件民有地に南門と区道との接続部分を整備することを内容とする東京都市計画公園事業第5・5・25号目黒公園の認可の申請をしたのを受け,建設大臣は,都市計画法59条2項の規定により,同申請に係る都市計画事業の認可(以下「本件事業認可」という。)をし,平成8年12月2日付けでその旨を告示した。
(3) 本件民有地は,林業試験場の跡地と区道とに挟まれた土地であり,南門の
南に所在するものである。本件都市計画決定の告示がされた昭和32年当時,本件民有地の上には少なくとも4棟の建物が存在していた。
本件民有地の西隣には,国家公務員宿舎の敷地として利用されている国有地(以下「本件国有地」という。)があるところ,本件国有地も,本件民有地と同様に,林業試験場の跡地と区道とに挟まれた土地である。昭和32年当時,本件国有地の上には同24年3月に農林本省が所管する農林本省宿舎として建築された木造平家建の建物25棟が存在していた。
建設大臣が本件都市計画決定において本件民有地を本件公園の区域と定めた理由は,これを直接明らかにする資料はないが,① 林業試験場には奇木等を含む貴重な樹木が多いことから,その保全のため,大規模な伐採等は行わず,園路についても既存のものを活用することとすると,南門の位置は現状のとおりとすることになる,② しかし,南門は接道状況が悪いので,これを区道と直接に接続させる必要があるところ,本件民有地を入口部分とすれば,区道から南門までほぼ最短距離で見通しがよく間口の広い入口を設けることができる,③ 公園には災害時における避難場所としての機能も求められ,上記の点はこの目的にも合致する,という考慮に基づくものであったと推認される。
2 本件は,上告人らが,建設大臣の事務承継者である被上告人に対し,本件事業認可の取消しを求めた事案である。
3 原審は,前記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却した。
都市施設は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置するという観点に基づいて定められるべきものであって,都市計画を策定する上で,公有地を利用することによっては行政目的を達成することができない場合にのみ民有地を利用することが認められるべきであるといった観点が絶対的なものであると解することはできない。
建設大臣が本件都市計画決定において本件民有地を本件公園の区域と定めたことは,合理性に欠けるものではない。南門の位置を変更し,新たに園路を設けると,樹木の伐採等が必要になるのであり,このような南門の位置の変更は,できる限り既存の樹木を保全するという見地から望ましいものではない。本件都市計画決定について,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできない。
本件都市計画決定は違法ではなく,これを前提とする本件事業認可も違法ではない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
旧都市計画法は,都市施設に関する都市計画を決定するに当たり都市施設の区域をどのように定めるべきであるかについて規定しておらず,都市施設の用地として民有地を利用することができるのは公有地を利用することによって行政目的を達成することができない場合に限られると解さなければならない理由はない。しかし,都市施設は,その性質上,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから,都市施設の区域は,当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものである。この場合において,民有地に代えて公有地を利用することができるときには,そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである。
原審は,建設大臣が林業試験場には貴重な樹木が多いことからその保全のため南門の位置は現状のとおりとすることになるという前提の下に本件民有地を本件公園の区域と定めたことは合理性に欠けるものではないとして,本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとする。しかし,原審は,南門の位置を変更し,本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより,林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか,悪影響が生ずるとして,これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど,樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって,原審の確定した事実のみから,南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し,建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない。
そして,樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には,更に,本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して,本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならないのであり,本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには,その建設大臣の判断は,他に特段の事情のない限り,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって,本件都市計画決定は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのである。
5 以上によれば,南門の位置を変更することにより林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか等について十分に審理することなく,本件都市計画決定について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものであるということはできないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官津野修,同中川了滋,同古田佑紀の各補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
私は,本件公園に関する都市計画が昭和32年に決定された当時の状況にかんがみ合理性を欠くものであるといえるかどうかを判断するため,樹木の状況を明らかにし,南門の位置の決定あるいは区道との接続部分の設定の合理性について更に審理を尽くす必要があるとする趣旨の法廷意見に対し異論を挟むものではないが,以下の点について,補足して意見を述べておきたい。
法廷意見は,都市施設の区域の決定の合理性を判断するに際し,利用可能な公有地があるときは,そのことも一つの考慮要素となり得るとする。確かに,利用可能な公有地があり,民有地ではなくそれを利用しても都市計画の目的を実現する上で特に差が生じないような場合は,特段の事情がない限り,特定の個人に負担が集中することを避ける観点から,そのような民有地の利用は合理性を欠くといえるであろう。しかしながら,都市計画は,長い年月をかけて,状況の変化に応じて修正を加えながら,できる限り任意買収によって,最も適切と考えられる都市の姿を形作って行く場合が少なくないと思われるのであって,民有地だけではなく公有地が存在するために,都市計画の目的達成から見てより合理性の低い計画を立てることを余儀なくされるとすれば,それは,都市計画の本旨に反するといわなければならない。
もとより,法廷意見も,このようなことを求めるものではないが,この点に関する私の見解を明らかにしておくこととする。
裁判官津野修,同中川了滋は,裁判官古田佑紀の補足意見に同調する。
(裁判長裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官古田佑紀)

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