« 平成18年10月26日最高裁判所第二小法廷決定(審判併合請求事件) | トップページ | 平成18年10月27日最高裁判所第二小法廷判決(損害賠償請求事件) »

2006.11.23

平成18年10月26日最高裁判所第一小法廷判決(損害賠償請求事件)

平成18年10月26日最高裁判所第一小法廷判決
損害賠償請求事件
事件番号 平成17(受)2087

原審裁判所名 高松高等裁判所
原審事件番号 平成16(ネ)277
原審裁判年月日 平成17年08月05日

裁判要旨
村の発注する公共工事の指名競争入札に長年指名を受けて継続的に参加していた建設業者を平成12年度以降全く指名せず入札に参加させなかった村の措置につき,村外業者に当たることを理由に違法とはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例

主文
1 原判決のうち主文第1項及び第2項(平成12年度以降の指名回避を理由とする損害賠償請求に関する部分)を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由
上告代理人中田祐児,同島尾大次の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,徳島県に属する旧木屋平村(以下「木屋平村」という。)の発注する公共工事の指名競争入札に平成10年度まで継続的に参加していた上告人が,同11年度から同16年度までの間,村長から違法に指名を回避されたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,合併により木屋平村の地位を承継した被上告人に対し,逸失利益等の損害賠償を求めている事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,土木建築工事の請負及び施工を業とする有限会社である。
木屋平村は,平成17年3月1日,旧美馬町,旧脇町(以下「脇町」という。)及び旧穴吹町と合併して被上告人となったが,平成3年4月から上記合併まで,Aが村長の地位に在った。
(2) 上告人は,有限会社となる前の昭和60年ころから平成10年度まで木屋平村が発注する公共工事の指名競争入札に継続的に参加し,工事を受注していたが,後記(7) 及び(8) 記載のとおり,同11年度から同16年度まで,A村長から木屋平村が発注する公共工事への入札参加者として指名されなかったため,入札に参加することができなかった。
(3) 指名競争入札の参加者の資格については,契約を締結する能力を有しない者等についての制限があるほか,地方公共団体の長において,あらかじめ,指名競争入札に参加する者につき,契約の種類及び金額に応じ,工事,製造又は販売等の実績,従業員の数,資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定めて,公示しなければならず(地方自治法234条6項,同法施行令167条の11第2項,3項,167条の5),平成13年4月1日からは,指名競争入札の参加者の資格について公表することが義務付けられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号,同法施行令7条1項2号)。
さらに,地方公共団体の長は,資格を有する者のうちから入札に参加させようとする者を指名するが(地方自治法234条6項,同法施行令167条の12第1項),同日以降は,地方公共団体が指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定めたときは,これを公表することが義務付けられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号,同法施行令7条1項3号)。
(4) 木屋平村は,「建設業者等指名停止等措置要綱」(以下「本件指名停止等要綱」という。)を定め,平成4年4月1日から実施してきた。
本件指名停止等要綱には,指名停止又は指名回避の事由となる項目とそれぞれの項目に対応する措置期間の基準が定められており,所定の項目に該当する者には指名停止の措置を行い,該当する疑いのある者には指名回避の措置を行うこととされている。その項目中に「その他重大な不法・不当行為を行い,指名業者として不適当と認められる者」という項目があり,その項目に対応する措置期間は2ないし12か月とされている。
木屋平村は,「木屋平村公共事業審議会規則」を定め,同9年4月1日から施行した。木屋平村では,この規則に基づいて,村の職員をもって組織する木屋平村公共事業審議会(以下「本件審議会」という。)が設置され,毎年度の一般競争入札及び指名競争入札の参加資格審査等に関する審議のため,各年度ごとに1回審議会が開催され,その審議結果が村長に答申されていた。
(5) 上告人は,平成8年11月ころ,木屋平村が実施しようとしていた村道拡張工事に関し,上告人の本店所在地前の50mほどの区間の工事について指名競争入札に参加させるよう求めた。当該工事は,1工区の工事区間が数百m程度,工事費にして3000ないし4000万円程度の工事であったため,本来であれば1500万円を超える工事について参加資格がなかった上告人を参加させることはできなかったが,木屋平村は,協議の結果,上記の区間について分割発注することとして,上告人を入札に参加させた。
(6) 上告人は,平成10年8月ころ,上告人代表者名義の山林を取水えん堤及び高区配水タンクの設置場所として木屋平村の実施しようとしていた簡易水道拡張改良工事に関し,その用地の売却に絡めて同工事の指名競争入札に上告人を参加させるよう求めた。木屋平村は,他の業者に既に指名通知を発出していた上,金額及び施工の面で上告人を指名することができないため,上告人の要求に応じることができず,上記両施設の設置場所を他の者の所有地に変更した上で,入札を経て,工事を実施した。
(7) 平成11年6月30日に開催された本件審議会において,委員から,上告人については上記(5),(6) 記載の各事実(以下,同記載の上告人の各行為を「本件各行為」という。)があり,かつ,登記簿上の本店所在地の事務所は従業員等が不在で数年間機能しておらず代表者は脇町で生活しているのが現状である旨の意見が出され,その意見をA村長への答申の附帯意見として添付する旨の決議がされた。
A村長は,本件審議会の答申を受け,平成11年度に実施される指名競争入札においては上告人に対し指名回避の措置を採ることを決定した。
(8) 木屋平村では,従前から,村内業者では対応できない工事についてのみ村外業者を指名し,それ以外は村内業者のみを指名していたところ,平成12年4月6日に開催された本件審議会において,会長から,上告人については,信頼回復,指名回復のための木屋平村からの話合いの申出が拒絶されており,A村長は上告人には指名競争入札に参加する意思がないと判断している旨が報告されるとともに,委員から,上告人の登記簿上の本店所在地の事務所は従業員等が不在で機能しておらず,代表者は脇町で生活しているのが現状である旨の意見が出され,委員全員がA村長の判断に賛成した。
同13年5月14日に開催された本件審議会においては,委員全員から,上告人の登記簿上の本店所在地の事務所には常駐している者もほとんどおらず,上告人は村内業者として認められないとの意見が出された。
このようにして,平成11年度に続いて同12年度ないし同16年度の各年度において,木屋平村は,上告人の他の問題点を述べる意見に加えて,上告人が村内業者と認められないことを理由に,指名回避の措置を採った。
(9) 木屋平村は,村が発注する建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札に参加する者に必要な資格等に関する「木屋平村建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札参加資格審査要綱」(以下「本件資格審査要綱」という。)を定めるとともに,「木屋平村指名競争入札審査委員会設置要綱」(以下「本件審査委員会設置要綱」という。)を定め,いずれも平成14年4月1日から施行した。
本件審査委員会設置要綱には,木屋平村指名競争入札審査委員会を設置し,入札参加資格を有する者のうちから具体的にどの業者を指名するかについて同委員会で審査する旨が定められている。本件審査委員会設置要綱の附属文書として,「指名競争に参加する者を指名する場合の基準」(以下「本件指名基準」という。)及び「木屋平村発注の工事請負契約に係る指名基準の運用基準」(以下「本件運用基準」という。)があり,入札参加資格を有する者のうちから業者を指名する場合の基準を定めている。
本件資格審査要綱は,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する建設業者を「村内業者」,その他の建設業者を「村外業者」と定義しており,村外業者には入札資格はないとはしていないものの,村内業者と村外業者を明確に区別している。
(10) 上告人の登記簿上の本店所在地は木屋平村にあり,そこには上告人代表者の母である監査役のBが住み,「有限会社X」の看板を掲げ,そこにある電話の番号を「X」の名義で電話帳に掲載している。しかし,上告人の実質上の経営者であるCは,平成6年3月以降,上告人代表者である妻ら家族と共に,脇町内の住居に住み,同敷地内に上告人の事務所を設けており,その住居の電話番号を「X㈲」の名義で電話帳に掲載している。その他の取締役や従業員で,木屋平村内に居住している者はいない。Bも,同15年3月まで木屋平村の正規職員として勤務していたのであるから,本店所在地は,そこに常勤している者はおらず,営業拠点としての実態を有していない。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のように判示して,上告人の請求をすべて棄却すべきものとした。
(1) 指名競争入札における参加資格審査ないし業者指名の判断については,契約担当者たる地方公共団体の長の広範な裁量にゆだねられているが,そのし意を許すものではなく,その権限の行使が明らかに不合理であるなど,その裁量権を逸脱し又は濫用した場合には,国家賠償法上違法になる。
(2) 上告人の本件各行為は,木屋平村との信頼関係を損ねる行為であるから,A村長が,平成11年度に実施される指名競争入札において,本件指名停止等要綱に定める「その他重大な不法・不当行為を行い,指名業者として不適当と認められる者」に該当する疑いがあると判断し,上告人につき指名回避の措置を採ったことは,不合理であるとはいえない。
他方,本件指名停止等要綱に定められている措置期間に照らすと,上記のような理由による「指名回避」の措置を1年を超えて継続することは,不相当に長期にわたる措置として,裁量権の濫用に当たるというべきである。
(3) 木屋平村では,村内業者では対応できない工事についてのみ村外業者を指名し,それ以外は村内業者のみを指名していたが,木屋平村が山間へき地に在って過疎の程度が著しい上,村の経済にとって公共事業の比重が非常に大きく,台風等の災害復旧作業には村民と建設業者の協力が重要であることからすると,上記のような運用は合理性を有していたものと認められる。
したがって,上告人を村外業者と認めた木屋平村の判断に合理性が認められれば,A村長が上告人を指名しないからといって,同人が裁量権を逸脱し又は濫用しているとまではいえない。
他の村内業者は,少なくとも木屋平村内の営業所に常勤する取締役ないしは従業員がおり,木屋平村に主たる営業所を有していると認められるのに対し,上告人の登記簿上の本店所在地は木屋平村にあるが,そこに常勤している者はおらず,主たる営業所の実態を有していないのであって,上告人が村内業者であるとは認められないとの木屋平村の判断は合理的なものである。
上告人が村外業者であったとしても,入札参加資格自体が得られないわけではないので,木屋平村が,かかる理由に基づく「指名回避」という措置を平成12年度以降も継続したことについて議論の余地もないではないが,上告人が村内業者だけでは対応できない事業を施工する特別な能力を有しているともいえない以上,上告人が木屋平村の公共工事について指名されないことには変わりがなく,木屋平村の措置が違法であるとはいえない。
4 しかしながら,原審の上記3(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 地方自治法234条1項は「売買,貸借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし,同条2項は「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる。」としており,例えば,指名競争入札については,契約の性質又は目的が一般競争入札に適しない場合などに限り,これによることができるものとされている(地方自治法施行令167条)。このような地方自治法等の定めは,普通地方公共団体の締結する契約については,その経費が住民の税金で賄われること等にかんがみ,機会均等の理念に最も適合して公正であり,かつ,価格の有利性を確保し得るという観点から,一般競争入札の方法によるべきことを原則とし,それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は,公共工事の入札等について,入札の過程の透明性が確保されること,入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならないとし(3条),前記のとおり,指名競争入札の参加者の資格についての公表や参加者を指名する場合の基準を定めたときの基準の公表を義務付けている。以上のとおり,地方自治法等の法令は,普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札につき,機会均等,公正性,透明性,経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる。
(2) 前記事実関係等によれば,木屋平村においては,従前から,公共工事の指名競争入札につき,村内業者では対応できない工事についてのみ村外業者を指名し,それ以外は村内業者のみを指名するという運用が行われていたというのである。確かに,地方公共団体が,指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり,①工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや,②地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し,地元企業を優先する指名を行うことについては,その合理性を肯定することができるものの,①又は②の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得るのであり,価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点を考慮すれば,考慮すべき他の諸事情にかかわらず,およそ村内業者では対応できない工事以外の工事は村内業者のみを指名するという運用について,常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない。
また,前記事実関係等によれば,木屋平村では,平成13年度までは,本件資格審査要綱,本件指名基準及び本件運用基準は制定されておらず,本件指名停止等要綱を除いて,指名に関する基準は明定されていなかった。さらに,平成14年4月以降施行された上記の本件資格審査要綱等をみても,本件資格審査要綱において村内業者と村外業者とが定義上区別されているものの,その外に上記のような村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという実際の運用基準は定められておらず,しかも,村内業者とは,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する業者をいうとされているにとどまり,主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかにされていなかった。このような状況の下における木屋平村の上記のような運用は,村内業者で対応できる工事はすべて指名競争入札とした上で,村内業者か否かの判断を適当に行うなどの方法を採ることにより,し意的運用が可能となるものであって,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の定める公表義務に反し,同法及び地方自治法の趣旨にも反するものといわざるを得ない。
一方,上告人は,昭和60年ころから木屋平村が発注する公共工事の指名競争入札に継続的に参加し,工事を受注してきており,木屋平村内の住所ないし事務所所在地を登記簿上の本店所在地としていた。平成6年3月に,上告人の実質的経営者と代表者の夫婦が脇町内に住居を構え,同敷地内に上告人の事務所を設けるなどした後も,上告人の登記簿上の本店所在地は木屋平村のままであり,同所には上告人代表者の母でもある監査役が住み,「有限会社X」の看板を掲げ,そこにある電話の番号を「X」の名義で電話帳に掲載している。そして,平成10年度までは,木屋平村の指名競争入札において指名を受けていたというのである。また,平成12年度以降指名をされないでいることについて,木屋平村から上告人にその理由が明らかにされていたという事情もうかがわれない。
そうすると,上告人は,平成6年の代表者等の転居後も含めて長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり,同年以降も,木屋平村から受注した工事において施工上の支障を生じさせたこともうかがわれず,地元企業としての性格を引き続き有していたともいえる。また,村内業者と村外業者の客観的で具体的な判断基準も明らかではない状況の下では,上告人について,村内業者か村外業者かの判定もなお微妙であったということができるし,仮に形式的には村外業者に当たるとしても,工事内容その他の条件いかんによっては,なお村内業者と同様に扱って指名をすることが合理的であった工事もあり得たものと考えられる。
このような上告人につき,上記のような法令の趣旨に反する運用基準の下で,主たる営業所が村内にないなどの事情から形式的に村外業者に当たると判断し,そのことのみを理由として,他の条件いかんにかかわらず,およそ一切の工事につき平成12年度以降全く上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば,それは,考慮すべき事項を十分考慮することなく,一つの考慮要素にとどまる村外業者であることのみを重視している点において,極めて不合理であり,社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず,そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない。
5 以上によれば,木屋平村における指名についての前記運用と上告人が村外業者に当たるという判断が合理的であるとし,そのことのみを理由として,平成12年度以降上告人を公共工事の指名競争入札において指名しなかった木屋平村の措置が違法であるとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち同年度以降の指名回避を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。そして,被上告人が上告人を指名しなかった理由として主張する他の事情の存否,それを含めて考えた場合に指名をしなかった措置に違法(職務義務違反)があるかどうかなどの点について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
なお,その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官横尾和子,同泉德治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官才口千晴の補足意見がある。
裁判官才口千晴の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛同するものであるが,反対意見を踏まえ,補足して意見を述べる。
1 原判決は,本件指名停止等要綱所定の事由を理由とする指名回避の措置の期間は長くても1年であり,これを超えて同措置を継続する場合には裁量権の逸脱に当たるとし,かつ,村外業者であることを理由に指名回避を平成12年度以降も継続したことの妥当性については議論の余地もないではないとしながら,上告人を村外業者であると認定して,木屋平村の措置が違法であるとはいえないと判断し,第1審判決の被上告人敗訴部分を取り消し,上告人の請求を棄却したものである。
2 しかし,上告人が村外業者に当たり,村内業者だけでは対応できない事業を施工するだけの特別な能力があるとは認められず,上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置は裁量権の逸脱には当たらないとする原審の判断は,著しく合理性に欠けるものである。その理由は,以下のとおりである。
(1) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律が制定(平成13年4月1日施行)され,木屋平村においても,特定の工事につき具体的にどの業者を指名するかについて,本件審査委員会設置要綱並びにその附属文書である本件指名基準及び本件運用基準を定め,これを同14年4月1日から施行した。
しかし,木屋平村では,平成13年度まで指名に関する基準は明定されておらず,また,原則として村内業者を指名するという運用がされていたとはいえ,同14年度以降を含め,そのような指名基準が明確に定められてはいなかった。しかも,村内業者とは,本件資格審査要綱によっても,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する業者をいうとされているにとどまり,主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかではなかった。
また,山間へき地の過疎の村である木屋平村における公共工事の状況は,反対意見が指摘するような実態であることを否定するものではないが,理由もなく不適正かつ不合理な指名回避の措置がされてはならないことは当然である。
(2) 上記法律の制定趣旨は,公共工事についての機会均等の保障,競争性の低下防止,透明性及び公正性の確保等にあり,公共工事をめぐる談合や行政との癒着の是正,入札及び契約の適正化の促進は,時勢の求めるところであり,かつ自明の理でもある。本件において,公共工事の入札及び契約の適正化を促進すべき主体と入札参加者指名の主導権者が村長であることはいうまでもない。そのような立場にある村長の不適正かつ不合理な措置は,同法の趣旨に照らしても到底看過することができない。また,そのような措置を受けた場合の上告人の救済手段は本件訴訟等の司法手続をおいて他にないことも事実である。
(3) 一方,上告人は,長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり,平成6年の村外転居後も村内業者か村外業者かの判定は微妙な状況にあった。このような状況の下において,木屋平村が,上告人につき主たる営業所が村内にないという事実から形式的に村外業者に当たるとし,そのことのみを理由として,平成12年度以降一切上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば,それは社会通念上著しく妥当性を欠くものであり,その措置に裁量権の逸脱があったことは明らかである。上記のような上告人につき,村外業者であるという理由のみで,しかも,上告人にその理由を示すこともなく,また,その点に関し上告人から何らの意見聴取等をすることもないまま,平成12年度以降一切上告人を指名競争入札に参加させないことは,公共工事の入札や契約において要請される公正さに欠け,指名権者のし意的判断さえ強く疑わせるものといわざるを得ない。
これを違法であるとはいえないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,原判決のうち同年度以降の指名回避を理由とする損害賠償請求に関する部分は破棄を免れない。また,被上告人が上告人を指名しなかった理由として主張する他の事情の存否,それを含めて判断した場合に指名しなかった措置に違法があるか,違法があるとした場合の違法な指名回避の時期や損害等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す必要がある。
3 よって,私は,上記部分につき,原判決を破棄し,本件を原審に差し戻すとする多数意見に賛同するものである。
裁判官横尾和子の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見が,木屋平村が公共工事の指名競争入札の参加者の指名に当たり村内業者でないことのみを理由として平成12年度以降上告人を指名しなかったとすれば裁量権の逸脱濫用に当たるとすることに,以下に述べるところにより,賛成することができない。
1 地方公共団体が公共工事の指名競争入札の参加資格を地元企業に限り,又は原則として地元企業のみを指名することについては,①地元企業であれば,工事現場の地理的状況,気象条件等に詳しく契約の確実な履行,緊急時における臨機応変の対応が期待できること,②地元雇用の創出,地元産品の活用等地元経済の活性化に寄与することが考えられるので,合理性が認められる。そして,このように地元企業であることを必須の要件とすることも,そうすることが総体としての当該地域の住民(納税により公共工事の費用を負担する者,公共工事の経済効果により利益を受ける者など)の利益を損なうことのない限り,合理的な裁量の範囲内にあるというべきであり,この要件を欠くことを理由として指名を行わないことは裁量権の逸脱濫用には当たらない。
原審の認定する木屋平村の事情は,山間へき地の超過疎の村であり台風等の自然災害の被害に悩まされているところ,村の経済にとって公共事業の比重が非常に大きく,また台風等の災害復旧作業には村民と建設業者との協力が重要であるというのであるから,村内業者では対応できない工事を除き,指名競争入札の参加者の指名を村内業者に限定しても,少なくとも村民の利益を損なうものではなく,したがって,村内業者ではないことを理由として指名をしなかったことは裁量権の逸脱濫用に当たるものではない。
2 指名に関する基準につき明文上村内業者と村外業者の区別がされたのは平成14年4月1日本件資格審査要綱施行以降であるが,それ以前から同趣旨の運用がされてきたことについては,原審が,「木屋平村は,村内業者では対応できない事業のみ村外業者を指名し,それ以外は村内業者のみを指定していた」と認定するところである。
村内業者の定義については,本件資格審査要綱中「木屋平村の区域内に主たる営業所を有するもの」とされているところ,村内業者のみを指名することの趣旨は1に述べたとおりであるから,「木屋平村の区域内に主たる営業所を有するもの」とは,この趣旨に沿う営業の実態を有するものをいうものと解される。したがって,登記簿上村内に本店が所在するとされているものの,代表者,取締役,従業員のいずれも村内に居住せず,また本店が営業拠点としての実態を有していない上告人が,村内業者に該当しないことは明らかである。
3 以上のとおりであるので,上告人の請求は,平成12年度以降の指名回避に係る部分も棄却されるべきであり,原審の判断は正当であるから,上告人の上告はすべて棄却すべきである。

裁判官泉德治の反対意見は,次のとおりである。
私は,A村長の上告人に対する平成12年度から同16年度までの指名回避(以下「本件指名回避」という。)についても,国家賠償法1条1項の違法性があるとはいい難いので,上告人の上告を棄却すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。
1 まず,本件指名回避のうち平成12年度及び同13年度の分について検討する。
(1) 地方自治法234条2項は「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる。」と規定し,同法施行令167条は指名競争入札によることができる場合を同条各号に掲げる場合に限定しており,同法は,普通地方公共団体の締結する契約については,機会均等の理念に最も適合して公正であり,かつ,価格の有利性を確保し得るという観点から,一般競争入札の方法によるべきことを原則とし,指名競争入札等の方法を例外的なものと位置付けているものと解することができる。したがって,普通地方公共団体の長が指名競争入札の参加者を指名するに当たっても,できる限り機会均等の理念及び価格の有利性の確保に配意するのが地方自治法の趣旨に適合するといえよう。しかし,地方自治法施行令167条の12第1項が,「普通地方公共団体の長は,指名競争入札により契約を締結しようとするときは,当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから,当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない。」と規定するにとどまり,参加資格を有する者のうちから指名しなければならないという制限は付しているものの,その範囲内における指名を普通地方公共団体の長の裁量にゆだねていることや,当該普通地方公共団体の区域内に主たる営業所を有する者に限って指名することを禁止する規定はないことからすれば,上記の機会均等の理念及び価格の有利性の確保を考慮に入れても,当該普通地方公共団体の区域内に主たる営業所を有する者に限って指名する方が当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合には,そのような指名を行うことも許容されると考える(随意契約によることが許される場合に関する最高裁昭和57年(行ツ)第74号同62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)。
(2) 原審の認定によれば,木屋平村は,山間へき地の超過疎の村であり,台風等の自然災害の被害に悩まされており,村の経済にとって公共事業の比重が非常に大きく,台風等の災害復旧作業には村民と建設業者との協力が重要であることから,村の経済の振興を図るとともに災害復旧作業の円滑な実施を期するため,同村の発注する公共事業の指名競争入札の参加者の指名に当たっては,村内業者では対応できない事業のみ村外業者を指名し,それ以外は村内業者のみを指名してきたというのである。ちなみに,平成12年国勢調査によると,木屋平村の人口は1314人で,世帯数は601である。少なくとも,木屋平村のような過疎の村にあっては,上記のような指名を行うことは,村の利益の増進にもつながるものというべく,上記の運用には合理性があり,法令に違反するものではないと考える。
(3) 原審の認定によれば,本件指名回避は,上告人が村内業者ではないことを理由になされたものであるところ,木屋平村内の上告人の登記簿上の本店には従業員がおらず,同本店は営業拠点としての実態を有しないので,上告人は村内業者とは認められず,また,上告人が村内業者だけでは対応できない事業を施工するだけの特別な能力があるとも認められないというのである。したがって,上告人が村内業者でないとしてされた本件指名回避に違法はないというべきである。
(4) 上告人は,平成6年3月に,上告人の実質的経営者と代表者の夫婦が脇町内に住居を構え,同敷地内に上告人の事務所を設けるなどした後も,平成10年度までは木屋平村の指名競争入札の参加者に指名されてきたが,原審の認定によると,多数意見の2の(5)及び(6)に掲記する同村との信頼関係を損ねる行為が指摘されたのを契機に,上告人が村内業者でないことが指摘され,それが事実と確認されて本件指名回避に至ったというのであるから,上告人が平成10年度まで村内業者として扱われていた事実があるからといって,本件指名回避が違法であるということにはならない。
(5) もとより,村長において,参加者の指名に当たり,選挙で自己を応援した者を優遇し,対立候補者を応援した者を排除することは,契約の公正の観点から許されるものではないが,A村長が選挙で対立候補者を応援した上告人に対する意趣返しとして本件指名回避をしたとは認められないこと,一方,木屋平村が村内業者として扱っていた建設業者が,同村内に取締役及び従業員又は従業員が在住し,同村内に実質的な本店(主たる営業所)を有し,そこに常勤する者がいる業者であることは,原審の認定するところであって,この認定を前提とする限り,本件指名回避に違法があるとすることもできない。
2 次に,本件指名回避のうち平成14年度から同16年度までの分について検討する。
(1) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号(平成13年4月1日施行)は,地方公共団体の長は,「政令で定める公共工事の入札及び契約の過程に関する事項」を公表しなければならないと規定し,同法施行令7条1項3号は,地方公共団体の長は,「指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準」を定めたときは,遅滞なくこれを公表しなければならないと規定している。
木屋平村は,入札参加資格が認められる者の中から,特定の工事につき具体的にどの業者を指名するかについて,本件審査委員会設置要綱並びにその附属文書である本件指名基準及び本件運用基準を定め,これを平成14年4月1日から施行した。
所論は,本件指名基準及び本件運用基準は,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号及び同法施行令7条1項3号の規定に基づき制定公表された「指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準」であって,本件指名基準及び本件運用基準には,村内業者と村外業者とを区別した上,原則として村内業者のみを指名するということは定めていないから,上告人を村外業者として指名しなかった本件指名回避は,本件指名基準及び本件運用基準に基づかずに行われたもので,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号及び同法施行令7条1項の規定に違反し違法であると主張する。
(2) 木屋平村は,地方自治法施行令167条の5第1項及び167条の11第2項の規定に基づき,同村が発注する建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札に参加する者に必要な資格等について定めるものとして,本件資格審査要綱を定め,平成14年4月1日から施行した。本件資格審査要綱は,申請書の提出期間について規定する4条において,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する建設業者を「村内業者」,その他の建設業者を「村外業者」と定義している。さらに,本件記録によれば,本件資格審査要綱は,資格審査について規定する5条において,申請書を提出した建設業者の等級の格付けは村内業者,村外業者とも6月1日に行うものとすると定めており,村内業者と村外業者とを明確に区別した上,各別に等級の格付けを行うことを予定しているということができる。また,本件指名基準は,工事の請負契約については,指名競争に参加する資格を有する者のうちから,「当該工事に対する地理的条件」等の事項を総合勘案して指名すると定めている。そして,本件運用基準は,本件指名基準の運用上の留意事項として,上記の「当該工事に対する地理的条件」については,「本店,支店又は営業所の所在地及び当該地域での工事実績等から見て,当該地域における工事の施工特性に精通し工種及び工事規模等に応じて当該工事を確実かつ円滑に実施できる体制が確保できるかどうかを総合的に勘案すること。」と定めている。本件資格審査要綱,本件指名基準及び本件運用基準は,木屋平村が,村内業者では対応できない事業についてのみ村外業者を指名競争入札の参加者に指名し,それ以外は村内業者のみを指名競争入札の参加者に指名するということを明言するものではないが,逆にこれを禁止するものではなく,上記のような定めからすれば,むしろ従来からの運用を許容しているものと解することができる。
(3) したがって,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号及び同法施行令7条1項が施行され,木屋平村において平成14年4月1日から本件指名基準及び本件運用基準が施行されたからといって,本件指名回避が違法になるものではない。
3 さらに,所論は,原判決が高松高裁平成9年(ネ)第177号,第259号同12年9月28日判決・判例時報1751号81頁に違背するという。
上記高松高裁判決は,「指名競争入札における入札参加者の指名は,契約担当者の広範な裁量に委ねられている。しかし,それは契約担当者の恣意を許すものではない。特に,指名停止措置について要領等の定めがある場合に,その事由に該当しないのに,契約担当者が特定の業者をことさら入札参加者に指名せずに競争入札から排除することは,特段の事情がない限り,裁量権を逸脱又は濫用するものである。」と判示する。
原判決は,本件指名回避は,上告人が不法・不当行為を行ったことを理由とする指名停止の措置ではなく,上告人が村外業者であることを理由に指名競争入札の参加者に指名しないという措置として合理性を有すると判断したものであるから,上記の高松高裁判決とは事案を異にし,これに違反するものではない。
4 多数意見は,木屋平村において,村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという運用を行ったことが,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の定める公表義務に反するという。しかし,同法8条1号及び同法施行令7条1項3号は,指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定めたときは,遅滞なくこれを公表しなければならないと規定するにとどまり,上記基準の内容まで規定してはおらず,木屋平村は,平成14年4月1日施行の本件資格審査要綱,本件審査委員会設置要綱,本件指名基準及び本件運用基準の定める範囲内において,従前から長期間にわたり行ってきた上記運用を継続したもので,上記運用を行ったことが同法の定める公表義務に反するものということはできない。
なお,多数意見は,本件資格審査要綱において「村内業者とは,木屋平村の区域内に主たる営業所を有する業者をいうとされているにとどまり,主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかにされていなかった。」というが,「主たる営業所」という用語は,民事訴訟法4条4項,民事再生法5条1項等でも使用されている法令用語であって,本件資格審査要綱における村内業者の上記定義が不明確であるとはいえない。
また,多数意見は,木屋平村において,村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという運用を行ったことが,地方自治法の趣旨に反するという。しかし,本件においては,普通地方公共団体における一般的な状況として,一般競争入札,指名競争入札及び随意契約の運用実態がどのようなものであるのか,あるいは指名競争入札においてどの程度地元業者が優遇されているのか等の資料提出や論議はされておらず,そのような判断材料の乏しい中で,木屋平村のような山間へき地の超過疎村において村内業者を優遇することが同法の趣旨に反するとまで断ずるのは,いささか早計で厳格すぎるとの感を免れない。
5 そもそも,上告人の本訴請求は,上告人は,村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという木屋平村の運用の下において,平成8年度から同10年度の3年間の平均で,同村発注の公共工事の36.42%を受注し,同期間中の上告人の利益率は42.36%であったから,同11年度から同16年度においても同村の公共事業発注合計額9億4129万1419円の36.42%に当たる3億4281万8332円を受注でき,その42.36%に当たる1億4521万7845円の利益を得ることができたところ,本件指名回避により同額の損害を受けたとして,被上告人(実質的には601世帯の木屋平村)に対し,この損害等の賠償を請求するというものである。すなわち,上告人自身が,村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという木屋平村の運用が続くことを前提とした損害の賠償を請求しているのである。したがって,上記運用が違法であるというのであれば,上記運用の枠の中で得られた利益等を損害として賠償請求することはできないのである。
したがって,上告人の本訴請求の成否は,上告人が村内業者であるか否かにかかっているところ,前記のとおり,上告人が村内業者とは認められないとした原審の認定判断に不合理な点はないから,上告人の本訴請求は棄却されるべきである。
(裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉德治裁判官島田仁郎)

原文
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=33712&hanreiKbn=01
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061026161947.pdf

|

« 平成18年10月26日最高裁判所第二小法廷決定(審判併合請求事件) | トップページ | 平成18年10月27日最高裁判所第二小法廷判決(損害賠償請求事件) »

裁判例」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。