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2007.01.19

医師の過重労働

産業保健情報誌「東京さんぽ21(平成19年1月号)№32」の特集の一つが「医師の過重労働」
産業医による論考が掲載されている。
「はじめに」の部分で
「最近、仕事に関して強い疲労やストレスを感じている医療関係者が増加し、特に医師の負担は増大する傾向にある。日本における医学の進歩、医療を取り巻く環境の変化、患者の意識の変化が、今日の過重労働を生み出していると考えられる。医師は応召義務と使命感から24 時間365 日わが国の医療を支えてきたが、病人の救命という達成感と患者からの信頼が疲労を癒してくれた一面がある。」
と触れられている。
途中,自殺に関する記載があり,「平成17 年度自殺の概要資料職業別自殺数によれば、総数32,552 人中医師は男79 人、女11 人の合計90 人であった。」とのことが指摘されている(なお,同概要資料は警察庁のサイトにアップされているが,医師の数は直接見いだせなかったので,別の細目が記載された資料があると思われる)。なお,当該情報誌には「警視庁」生活安全局地域課とあるが,警察庁の誤りと考えられる(参考,国立精神・神経センター 自殺予防総合対策センター)。因みに,名称が紛らわしいのであるが,警視庁http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/は基本的には東京に所在する自治体警察であり(大阪府警,兵庫県警等と同様の組織),警察庁は中央官庁である。
「最後に」とされる部分においては,
「医師不足のなか、医師の労働時間の削減や夜間勤務明けの勤務免除などを導入することは、現実的にかなり困難である。外国人医師の国内就労許可など余程の大幅な増員を図らない限り考えられない。しかし、睡眠が十分にとれずに、翌日の外来や手術に入ることは疲労による判断ミスが医療過誤につながる恐れがあり、パイロットなどの専門職と同じような勤務体系が必要であり、医療安全のためにも早期の対策が望まれる。今後、医療事故の検証には、当事者である医師の過重労働の有無など勤務状態の把握も必要であろう。」
との点が指摘されている。

自治体病院等の勤務医・看護師等には当直がつきものである。
ではその当直明けは仕事休みとなるか?
実はそうならないのが一般的のようである。当直明けは,通常勤務であることが普通のようだ。つまり,連続勤務となるところが極めて多いとのことである(30時間連続勤務等・・・・)。
我が国の医療は,救急体制を含め,このようなことを(ほぼ当然の)前提として,成り立っているのが現実である。
このことを理解せずして医療のことを語るのは難しい。

ただ,患者ともなる立場から考えれば,医師がゆとりを持って診療にあたることが出来るなど医療のシステムをもっと充実させることを期待したいのであり,「医師は足りている」等現実離れした答弁に終始する政府がまず認識を改める必要性があるということは言うまでもない。
仮に,ゆとりをもった診療ができるようにするためにはとてもお金ががかる等により無理だ,というのであれば,100点ではないシステムを,政府が許容しているといわざるを得ない。そして,当該システムが有するリスクを国民が甘受しなければならないことを「政府が求めている」と理解せざるを得ない。

仮に,このような現実・客観的情勢下においてすら,医師は,医療行為について100点を取らなければならならず,100点未満だと逮捕されたり民事裁判における和解等の席上においてまとまった金額の支払いを余儀なくされることがルールであるとすれば,途方に暮れる医師等が少なくないことは理解できることでもある。

上記の通り,現在のシステムは医師の力量を100%出させるシステムではない。だからといってそんな不完全なものは不要と言えるかというとそうでもないだろう。かつても述べたことであるが,仮に,60~80点程度のシステムであっても,「無」と比較すると雲泥の差である。以前にも触れたことになるが,殆どの場合は,100%とは言い得ないかもしれない医療行為によってなにがしかの点で救われているのである。それには,当該医療行為がなければもっと重い結果となったものが当該医療行為により軽減された,或いは,当該医療行為によって合併症が生じてしまったが当該医療行為が無い場合に発生していたと予想される結果と比すると低減していると言える場合等も含む。

業務過多あるいは過労等による気力・体力の減退或いは勉強等する機会の逸失により,それらが充足されている場合と比すると,100%あるいは100%に近い機能を果たせないがために,残念ながら,救えなくなる場面が生じる確率か高くなるとは言えよう。
そのような場合はどうなるのか?
そのような場合に,医師や医療機関の過失や違法を前提とする民法上の「損害賠償」や刑法上の「犯罪及び刑罰」で解決を図るべきなのだろうか?
【民法】
(債務不履行による損害賠償)第415条
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。(以下略)
(不法行為による損害賠償)第709条
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
【刑法】
(業務上過失致死傷等)第211条1項
 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

個人的には,現在の国策的なシステムに内在する問題を,医師等の個人等の責任に置き換えることはどう考えても妥当なことだとは言えないと考えている。

現在の法システムの中で,上記のような問題点の解決のための位置づけを考えるのならば,賠償ではなく,福祉の問題ととらえるか,国民全体の関心事として国民全員が支える保険(無過失補償)にて考えるということにならざるを得ないだろう,と個人的には考えている。
しかし,結局,この点も政府が殆ど対策をとらないのだから問題は深い。

平井利明のメモ

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