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2007.02.05

産科に関する不処分の2例

奈良妊婦死亡に関する件(立件見送り)
奈良県所在の町立病院で昨年8月,意識不明となった妊婦(当時32歳)が死亡した問題で,奈良県警は,業務上過失致死容疑での同病院医師らの立件を見送る方針を固めたと報じられている。
死因となった脳内出血と担当医が診断した子癇発作との判別は困難で刑事責任を問えないと判断した,とのことであえる。同報道によれば,県警は任意で提出されたカルテなどを基に専門家約20人に意見を求めたが,脳内出血と子癇発作は,意識喪失やけいれんなどの症状が似ているため識別が困難との意見が大半を占めたとされている。
毎日新聞(2007年2月2日)
なお,この件については,詳しくは触れないが,報道が明かな誤報を行っていたのでそのことだけを指摘しておく。

無資格助産に関する件(起訴猶予)
前院長ら全員が起訴猶予及び行政処分見送り
横浜市の産婦人科病院の無資格助産事件で,横浜地検は1日,保健師助産師看護師法(助産師業の制限)違反容疑で書類送検されていた前院長と看護部長,看護師ら計11人全員を起訴猶予処分にした,ことが報じられている。
同報道によると,横浜地検の次席検事は処分理由について
(1)看護師が妊婦の産道に指を入れてお産の進み具合をみる「内診」をしているのは産科医療の構造的問題
(2)内診の胎児や母体への危険性が証拠上認められない
(3)病院は神奈川県警の家宅捜索後、看護師による内診をさせないなど是正措置を取っている
(4)前院長は捜索後の報道などで社会的制裁を受けたうえ、既に院長職を退いて医師資格を返上する届けを出し、引退する意向を示している
を挙げた,としている。
なお,起訴猶予処分を受け,医療法に基づく同院への立ち入り調査をしていた横浜市の医療安全課長は1日,行政処分をしない方針を明らかにした,とも報じられている。
(毎日新聞2007年2月1日東京夕刊)

厚生労働省は違法であるとの考え方を堅持している。
しかし,現実問題として,違法であるとの理由で全てを実際に禁止すると,現在の産科医及び助産師の絶対数を前提とすれば,出産できない地域が極めて多くに及ぶと言われている。
行政機関である厚生労働省が違法であると声高に述べ且つ厚労省の見解によれば明らかに違法行為であるとする行為に対して,行政処分すら行い得ないというのが現実なのだが,どう考えればよいのだろうか?

以下は,ネットで検索できる資料を集めてみたものである。
平成17年11月24日「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会まとめ」より
「日本の周産期医療については、新生児死亡率、周産期死亡率が世界で最も低くなっているなど世界最高の水準にあるが、施設分娩の増加、医療の進歩、医療機関の連携、そこで働く医師・助産師・看護師の協力と連携によるところが大きい。マスコミでも報道されているように、分娩医療機関はここ数年で10%減少し、地方においては分娩医療機関が近くにない所も出てきており、地元で出産ができない状況になると、住民が不安と不満を抱き、少子化を加速させていくのではないかとの指摘もある。」
「助産師の確保については、以下のような意見があった。・昭和20年代に比べて看護師等は10倍以上増加しているが、助産師については、5万5,000人いたものが、平成15年には2万6,000人と半減しており、助産師は絶対数が少ない。また、診療所に就業している助産師は少なく、地域における偏在という問題もある。」

13歳のハローワーク公式サイトより
助産師の数
『2004年末時点で、実際に就業している助産師の数は2万5257人になります。そのうち1万7539人が病院に勤務しています。年代別にみると、「25~29歳」が18.6%、「30~34歳」が17.0%を占めています。)』(平成16年保健・衛生行政業務報告」厚生労働省より)

以下,検討・・・・・・・
仮に,助産師の実働総数が1万8000人であるとして毎日3人の助産師が8時間交代で365日休み無く働くとすれば(1万8000÷3=)6000の医療機関(産院を含む)での産科が理論的には成り立ちうる。
我が国には47都道府県があるので一つの都道府県では約127の医療機関における助産が成り立ちうることになろう。
インターネットタウンページで「産婦人科」という検索用語を用いて各都道府県単位で検索すると次の通りの検索結果であった。
大阪府 459件(大阪市167件)
兵庫県 323件
京都府 159件
東京都 701件
神奈川県360件
千葉県 233件
埼玉県 265件
愛知県 313件
これらの中には,重複しているものや,産婦人科を標榜するものの婦人科のみを扱っていて産科を扱っていない医療機関(レディースクリニック等)もかなり含まれていると考えられるので,実際に「産科」を取り扱っている医療機関の実数はもっと少ないと考えられる。更には,産科医のみで運営していて,助産師が不要というところもあるだろう。
しかし,そのような点を考慮しても助産師の必要数に,実働数が不足していることは明らかなように思える。
なお,市町村の数は,2007年(平成19年)1月29日の時点で,市が781,町が836,村が195であり合計1,812となるそうだ(Wikipediaよる)。

また,厚労省の資料によれば平成17年の出生数は次の通りである。
出産数(=出生数+死産数)=1,062,530+31,818

因みに,平成16年診療科名(主たる)別にみた医師数(厚生労働省)
産婦人科10,163,産科431
(これには非実働もかなり含まれているのであろうし,現在は,更に実働が減少していると考えられる)

因みに,福島県の県立病院の産科医が現在起訴されて刑事裁判となっている。
このケースでは,当該県立病院は病床数150床の中規模病院であるが,産婦人科の常勤医はたったの1人であった。同医師は,同病院で勤務していた1年10カ月のあいだに約350件の分娩を扱い,このうち約60例が帝王切開術であり,そのうち50例は臨時手術だったと報じられている。

厚生労働省は,その行政の怠慢等によって国民の批判にさらされ,また,数々の裁判に敗訴する等の事態に追い込まれた。
それ以後,厚生労働省はどのような行為を行ってきたか。
個人的に思うに,極めて高尚で且つ現実的には実施不可能ではないかとまで思える基準を次々と生み出すに至っている。
考えるに,何かが起こった際には,厚生労働省としては,厳格な基準を作り且つその周知徹底をはかっているのだとの逃げ口上に用いるのではないかとさえ思える。
非現実的な基準と実情との間で苦渋の道を歩むことになるのは誰なのだろうか?
こんなことを考えざるを得ない。

平井利明のメモ

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