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2007.09.26

不可抗力に関して(工事約款における「不可抗力」の検討)

不可抗力等に関しては,『債務者の故意・過失以外の事由を広く事変または偶然といい,これは更に,通常の事変と不可抗力とに分けられる。不可抗力は,ローマ法以来,債務者に無過失責任を負わせる場合に,その免責事由として認められてきたものである。昭和594条の場屋営業者のいわゆるレセプツム責任における不可抗力がこれにあたる。不可抗力とは,通常,外部から生じた原因でありかつ防止のために相当の注意をなしても防止しえない事件である,と理解されている(於保不二雄・債権総論[新版]昭和47・有斐閣)』との指摘がなされている(奥田昌道・債権総論[増補版]1992年・悠々社)。
即ち,この説明によると次のような関係に立つことになる。
①債務者の故意・過失による事由(=債務者に帰責事由のある場合)
②事変(偶然)=債務者の故意・過失以外の事由(=債務者に帰責事由のない場合)
  1)通常の事変
  2)不可抗力
よって,「不可抗力」は,「債務者に帰責事由のない場合」の一部分であることになる。


参考)民法及び商法における「不可抗力」

  平井利明のメモ

このように,「不可抗力」と「債務者に帰責事由のない場合」をこのような関係で(「債務者に帰責事由のない場合」⊃「不可抗力」・・・・「不可抗力」は「債務者に帰責事由のない場合」に包含される)とらえると,次の各規定は,それぞれ適切でないことが考えられる。

公共工事標準請負契約約款
(不可抗力による損害)第29条1項
「工事目的物の引渡し前に、天災等(設計図書で基準を定めたものにあっては、当該基準を超えるものに限る。)甲乙双方の責に帰すことができないもの(以下「不可抗力」という。)により、工事目的物、仮設物又は工事現場に搬入済みの工事材料若しくは建設機械器具に損害が生じたときは、乙は、その事実の発生後直ちにその状況を甲に通知しなければならない。
→「甲乙双方の責に帰すことができないもの」=「不可抗力」ととらえられていると考えられ,妥当でないことになると思われる。

民間建設工事標準請負契約約款(甲)(危険負担)第15条1項
「天災地変、風水火災、その他甲乙のいづれにもその責を帰することのできない事由などの不可抗力によつて工事の既済部分又は工事現場に搬入した検査済工事材料について損害を生じたときは、乙は事実発生後すみやかにその状況を甲に通知することを要する。」
→「その責を帰することのできない事由」⊂「不可抗力」とされているようであり,妥当でないことになると思われる。

建設工事標準下請契約約款
(工事の変更、中止等)第19条2項
「工事用地等の確保ができない等のため又は天災その他の不可抗力により工事目的物等に損害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため乙が工事を施工できないと認められるときは、甲は、工事の全部又は一部の施工を中止させる。この場合において必要があると認められるときは、甲乙協議して、工期又は請負代金額を変更する。」
→「工事用地等の確保ができない等のため」と「天災その他の不可抗力により工事目的物等に損害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため」との関係が不明瞭であることから,微妙ということになろう。

(天災その他不可抗力による損害)第26条1項
「天災その他不可抗力によつて、工事の出来形部分、現場の工事仮設物、現場搬入済の工事材料又は建設機械器具(いずれも甲が確認したものに限る。)に損害を生じたときは、乙が善良な管理者の注意を怠つたことに基づく部分を除き、甲がこれを負担する。」
→「不可抗力によつて」(これは,「甲乙双方の責に帰すことができないもの」であることを前提とする)とあるにもかかわらず「乙が善良な管理者の注意を怠つたことに基づく部分を除き」とあることは,妥当でないことなると思える。

しかしながら,
過失というものが,「~すべき注意義務があるにもかかわらず~せずに注意義務を怠った」と客観化され,他方,「不可抗力とは,通常,外部から生じた原因でありかつ防止のために相当の注意をなしても防止しえない事件である,と理解されている」と示されるとおり,「防止のために相当の注意をなしても防止しえない」との注意義務違反的な要素が含まれていることから,「甲乙双方の責に帰すことができないもの」と「不可抗力」との間の違いを具体例としては峻別することが困難になってきていることが考えられる。
従って,それほど厳密に峻別すべき必要性が,かつてほどは無くなってきていると考えられる。

但し,
商法第594条
1項 旅店、飲食店、浴場其他客の来集を目的とする場屋の主人は客より寄託を受けたる物品の滅失又は毀損に付き其不可抗力に因りたることを証明するに非されは損害賠償の責を免るることを得す
2項 客か特に寄託せさる物品と雖も場屋中に携帯したる物品か場屋の主人又は其使用人の不注意に因りて滅失又は毀損したるときは場屋の主人は損害賠償の責に任す
3項 客の携帯品に付き責任を負はさる旨を告示したるときと雖も場屋の主人は前2項の責任を免るることを得す
との規定を理解しようとすれば,上記のような不可抗力の本来的な意味を理解しておく必要がある。

民法及び商法における「不可抗力」

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