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2007.11.25

「医療費不払い対策、入院前に保証金・厚労省」とあるが応招義務との関係はどうなるのだろうか?

「厚生労働省は医療費の未収金対策として、病院が入院前の患者から保証金を徴収することを認める方針を固めた。」と報じられている。
[2007年11月24日/日本経済新聞 朝刊]

各病院において未収金が大きな問題となっていて,未収金問題は病院経営にも影響を与えるほどのものとなっていて,早急に解決されなければならない問題である。
未収金が医療機関の存立にダメージを与え,倒産あるいは廃院に至らせることとなれば多くの方々に大きな困難を与える。
保証金の予納が,未収金対策の一つの方策であることは理解できる。よって,その制度を導入することは一つの方策であると思う。

では,保証金を納めない場合には診療を拒絶できる場合があるということになるのだろうか?

経済的弱者が医療を受けられないということは避けられなければならない。本来は,社会福祉によってカバーされるべき問題であろうが,社会福祉が貧弱というか偏在しているというかいずれにせよ十分でないという現実がある。

報道の趣旨から考えると,入院に際する保証金の予納ということのようである。健康保険を利用しての,入院については,保険医療機関及び保険医療養担当規則(いわゆる療担規則)七イによって,「入院の指示は、療養上必要があると認められる場合に行う」と定められている。よって,入院の指示がある場合には,入院の必要性が認められるということになり,原則として何らかの治療が必要な場合であるということになろうか。
ところで,医師法や歯科医師法には医師や歯科医師の応招義務の定めがある(医師法・歯科医師法各19条)。この応招義務に関しては,「病院診療所の診療に関する件」(昭和二四年九月一〇日)(医発第七五二号)(各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)があり,そこにおいては「診療に従事する医師又は歯科医師は、診療のもとめがあった場合には、これに必要にして十分な診療を与えるべきであることは、医師法第一九条又は歯科医師法第一九条の規定を俟つまでもなく、当然のことであり、仮りにも患者が貧困等の故をもって、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならないことは勿論である。」とされ,「患者に与えるべき必要にして十分な診療とは医学的にみて適正なものをいうのであって、入院を必要としないものまでをも入院させる必要のないことは勿論である。」,「医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」としている。また,「所謂医師の応招義務について」(昭和三○年八月一二日 医収第七五五号)(長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)は,「医師が第十九条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第七条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。」としている。
通知の法的性格やその拘束力についての法律的な問題点はさておくとして,実務上,一定の拘束力を与えていることは疑いのない事実である。
このようなことを前提として考えるに,入院の必要性を認めながら,保証金の預託がなされないことを以て,入院を拒絶できることになるのだろうか。
ことの性質上,ケースバイケースにて考えられなければならない問題ではあるが,入院窓口としては微妙な問題の判断を迫られることになるのか?

それ以前に,
保証金を収めなければ病院にかかることが出来ないのだと考え病院に行くことをためらって(このような方は,きっと少なくないのだろう),病状を悪化させるようなことがあったとすれば,それは残念なことである。
未収金のある部分は,払えるのに払わない者によるものが少なからず存在する。仮に,このような方々の行動が医療機関の経営危機に少なからず影響を与え,その結果,多くの方々に負担を与えることとなるのだとすれば,悲しむべき問題といえる。
このようなケースの徴収を容易にする制度が必要であろう。
裁判という制度によることは,必ずしも現実的ではない。「改訂 詳解国民健康保険」に記載されているような方法を(相手方の経済状況に応じて)柔軟に利用できることなどが必要のように思える。
cf 
2007.09.19 第1回及び第2回医療機関の未収金問題に関する検討会資料(厚生労働省)


平井利明のメモ

保険医療機関及び保険医療養担当規則(いわゆる療担規則)
第二十条 医師である保険医の診療の具体的方針は、前十二条の規定によるほか、次に掲げるところによるものとする。
(中略)
七 入院
 イ 入院の指示は、療養上必要があると認められる場合に行う。
 ロ 単なる疲労回復、正常分べん又は通院の不便等のための入院の指示は行わない。
 
医師法
第19条
1項 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
歯科医師法
第19条
1項 診療に従事する歯科医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

病院診療所の診療に関する件
(昭和二四年九月一〇日)
(医発第七五二号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)
最近東京都内の某病院において、緊急収容治療を要する患者の取扱に当たり、そこに勤務する一医師が空床がないことを理由として、これが収容を拒んだために、治療が手遅れとなり、遂に本人を死亡するに至らしめたとして問題にされた例がある。診療に従事する医師又は歯科医師は、診療のもとめがあった場合には、これに必要にして十分な診療を与えるべきであることは、医師法第一九条又は歯科医師法第一九条の規定を俟つまでもなく、当然のことであり、仮りにも患者が貧困等の故をもって、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならないことは勿論である。
病院又は診療所の管理者は自らこの点を戒めるとともに、当該病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師その他の従業者の指導監督に十分留意し、診療をもとめる患者の取扱に当っては、慎重を期し苟も遺憾なことのないようにしなければならないと考えるので、この際貴管内の医師、歯科医師及び医療機関の長に対し左記の点につき特に御留意の上十分右の趣旨を徹底させるよう御配意願いたい。

一 患者に与えるべき必要にして十分な診療とは医学的にみて適正なものをいうのであって、入院を必要としないものまでをも入院させる必要のないことは勿論である。
二 診療に従事する医師又は歯科医師は医師法第一九条及び歯科医師法第一九条に規定してあるように、正当な事由がなければ患者からの診療のもとめを拒んではならない。而して何が正当な事由であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきであるが、今ここに一、二例をあげてみると、
(一) 医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。
(二) 診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。
(三) 特定人例えば特定の場所に勤務する人々のみの診療に従事する医師又は歯科医師であっても、緊急の治療を要する患者がある場合において、その近辺に他の診療に従事する医師又は歯科医師がいない場合には、やはり診療の求めに応じなければならない。
(四) 天候の不良等も、事実上往診の不可能な場合を除いては「正当の事由」には該当しない。
(五) 医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合も、患者がこれを了承する場合は一応正当の理由と認め得るが、了承しないで依然診療を求めるときは、応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。
三 大病院等においては、受付を始めとし、事務系統の手続が不当に遅れたり、或いはこれらのものと医師との連絡が円滑を欠くため、火急を要する場合等において、不慮の事態を惹起する虞があり、今回の例もかくの如きものに外ならないのであるから、この点特に留意する必要がある。

市立病院における入院患者の取扱について
(昭和二九年一月三〇日)
(唐市病第二二号)
(厚生省医務局長あて唐津市立病院開設者唐津市長照会)
入院患者の取扱について
当市立病院の入院患者取扱いについて左記の疑義が生じましたので何分の御指示を賜るよう御願い致します。

1 市立病院が市民外の入院申込患者に対し、市民病院の性格上、市民を優先する為に、その入院申込を拒否(診療は差支えない)した場合、医師法第十九条第一項の規定に抵触するや、否や、その解釈について
2 当市立病院の現在一五○病床(将来二一四病床)の施設中、その八割の一二○病床(将来一七二病床)を市民の分に、又残りの二割三○病床(将来四二病床)を市民外の分として、夫々区別して枠を決め、その範囲内に於いて、入院を承認するよう、当病院に於ける入院患者の収容方針とし差支えなきや、その可否について
(昭和二九年三月二六日 医収第一二○号)
(佐賀県知事あて厚生省医務局長回答)
昭和二十九年一月三十日唐市病第二二号をもって、貴県唐津市長から別紙のように照会のあった標記の件については、左記の通りと解せられるから貴職より唐津市長に対しよろしく御連絡相成りたい。

1 市民外の患者の入院を制限することは、市民病院の公的医療機関としての性格上、好ましいことではないが、市民外の患者の入院により当該市民の入院治療に直接著しい障害が生じ事情止むを得ない場合に限り、その為の入院制限は規定に抵触しないと思料される。
2 右の1の趣旨からみて、適当とは言い難い。

所謂医師の応招義務について
(昭和三○年八月一二日 医収第七五五号)
(長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)
昭和三十年七月二十六日三○医第九○八号をもって照会のあった標記の件について、左記の通り回答する。

1 医師法第十九条にいう「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第十九条の義務違反を構成する。然しながら、以上の事実認定は慎重に行われるべきであるから、御照会の事例が正当な事由か否かについては、更に具体的な状況をみなければ、判定困難である。
2 医師が第十九条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第七条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。

○医師法第十九条第一項の診療に応ずる義務について
(昭和四九年四月一六日 医発第四一二号)
(福岡市長あて厚生省医務局長回答)
昭和四十八年九月十九日付け福衛庶第八三○号をもつて照会のあった標記については、左記のとおり回答する。

休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第十九条第一項の規定に反しないものと解される。
ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応ずる義務がある。

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