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2008.01.12

特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法案が従来の民事訴訟における理論に対して与える影響?

昨日の国会で「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(以下、本件措置法という)が成立した。
被害を受けられた方々とって,より早期に且つより多く救済するために,立法という方法によって(決して満足というものではないだろうが)具体的な救済への足がかりが作られることとなったことは大変良かったことだと思う。
もっというならば,国は,加害という事実を問わずに,重度の疾病に罹患等した方々や何らかの理由で重度の障害を負った方々の負担を出来るだけ取り除き,そしてより良き生活へと導くことの出来る制度を充実させるべき施策をとるべきであろう。このようなことは,短期的には国に負担のかかる制度ではあろうかと思うが,長期的に見れば一時の負担が大きな全体の利益として国及び国民に還元されることになるだろうと個人的には考えている。

そのことはとりあえずおく。

本件措置法(案)(以下、条文に用いられている漢数字は私の判断で一部算用数字に変換している)を見ていて,法律論的な観点から感じたことについて触れる。
法律案(衆議院のサイト)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16801023.htm

(給付金の支給手続)
第4条 給付金の支給の請求をするには、当該請求をする者又はその被相続人が特定C型肝炎ウイルス感染者であること及びその者が第6条第一号、第二号又は第三号に該当する者であること証する確定判決又は和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するもの(当該訴え等の相手方に国が含まれているものに限る。)の正本又は謄本を提出しなければならない。

(給付金の請求期限)
第5条 給付金の支給の請求は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに行わなければならない。
一 この法律の施行の日から起算して5年を経過する日(次号において「経過日」という。)
二 特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第Ⅸ因子製剤の投与を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染したことを原因とする損害賠償についての訴えの提起又は和解若しくは調停の申立て(その相手方に国が含まれているものに限る。)を経過日以前にした場合における当該損害賠償についての判決が確定した日又は和解若しくは調停が成立した日から起算して1月を経過する日

(給付金の額)
第6条 給付金の額は、次の各号に掲げる特定C型肝炎ウイルス感染者の区分に応じ、当該各号に定める額とする。
 一 慢性C型肝炎が進行して、肝硬変若しくは肝がんに罹(り)患し、又は死亡した者 4000万円
 二 慢性C型肝炎に罹患した者 2000万円
 三 前2号に掲げる者以外の者 1200万円

(定義)
第2条3項 この法律において「特定C型肝炎ウイルス感染者」とは、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第Ⅸ因子製剤の投与(獲得性の傷病に係る投与に限る。第5条第二号において同じ。)を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染した者及びその者の胎内又は産道においてC型肝炎ウイルスに感染した者をいう。

 本件措置法によれば,給付金の請求に際しては,司法手続きにおける判決等において感染の有無等の判断が裁判所によって示されていることが必要とされている。このように,司法権における判断(判決等)を給付に際する基準としたのは,行政不信に起因とするものとされている。例えば,原爆症等や水俣病等の認定の問題を考えてもわかるように,その認定を行政に委せると,門戸がかなり狭いものとなったという実例は少なくない。そのようなことを考えると,被害を受けた方々が行政ではなく司法にその認定を委ねたいと考えることには十分な理由があるものと言える。

 ただ,法律に携わる者として思うに,感染の有無等というほぼ事実関係(?)の認定という作業を裁判所に委ねるということは,具体的にどういうことなのだろうか?との疑問があった。
 というのは,裁判所が行使する「司法権」は,基本的には,法律を適用して法律上の権利等の有無を判断する国家作用であるとされている。従って,裁判所は,事実関係の有無だけを純粋に判断する機関とはされていない。もちろん,裁判所が事実認定を行うことは頻繁に行っていることではあるが,裁判所が事実認定を行うのは,法律上の権利の有無を判断するのに必要なためである。従って,事実認定を行うのは法律上の権利の有無を判断するに必要な範囲内に限られることが原則といえる。
 例えば,「損害賠償請求権」という法律的な権利があるのか無いのかを判断するために,その判断に必要な範囲において(のみ)事実関係の認定等が裁判所によって行われるのである。
 従って,本件措置法における給付を受けるためには,裁判所が「感染の有無等を認定する」との方針との報道に接して,どのような制度が具体的に想定されているのであろうか?という疑問が生じるのである。
 新たな司法上の制度を創設するのだろうか(非訟手続に類する手続等)?とも想像したりもしていたのだが,本件措置法の条文等を読む限りにおいては特別の制度の創設の規定はなく,従来型の訴訟等の手続の利用を前提としているようである(新たな制度を創設するには,時間的な問題等もあると考えられる)。
 つまり,例えば,被害を受けた者は,国に対して損害賠償請求などの訴訟などを提起し,その判決文などにおける理由において感染の有無等の認定がなされるという裁判手続等を経るという第一段階が必要であり,その第一段階となる裁判などにおける判決書などを,給付請求に際して添付書類として提出するということが方法になるようだ。もちろん,その判決などの理由の中で,感染等の事実が認定されていることが必要となる。
 このように従来からある訴訟手続等を利用することになるとすれば,判決文等における主文(「金・・・円を支払え」という部分)以上に,判決文中の「理由」の部分が重要性を有していることになると考えられる。

 今までの民事訴訟等に関する一般的な考えとしていうと,「判決内容(概ね主文に該当する)には拘束力が発生する」ものの,(原則として)「判決に書かれている理由中の判断には拘束力がない」とするものである(参照:民事訴訟法114条1項)。
 一般論としていうならば,裁判所は,適切に結論が導けるのであれば,必ずしも,原告や被告が取り上げる主張(請求の理由)の全てについて判断しなくてもよいとされている。
 例えば,訴訟において,「損害賠償金・・・・円を支払え」という訴え(請求)が提起された場合において,損害賠償請求を根拠付ける理由としてA,B,Cが主張されているとき,仮に,Aの理由を判断するだけで結論(損害賠償請求権の有無等)が導かれるのであれば,裁判所は,その他の請求の理由であるBやCについて判断を示すことは必ずしも必要とはされていない。
 
 しかし,本件措置法の法文を見る限りでいうなれば,本件措置法に基づく給付請求を行うためには,判決文における「理由」こそがまさに重要であることになる。例えば,損害賠償請求が,判決の主文において認められなくとも,感染の事実等が判決文の中の理由において認定されていたとすれば,本件措置法に基づく給付を受けうる可能性があることになる。

 従って,本件措置法に基づく給付請求に関係のある裁判事案については,裁判所は本件措置法に関連する「感染の有無等について」必ず判断を示さなければならないことになると考えられるだろう。

 では,仮に,本件措置法の給付が関連しそうな事件において,判決の結論には全く不満はないのだが,裁判所が(失念等によって)「感染の有無等について」判断を示さなかった場合や,裁判所の認定内容に不満があるというような場合にどうなるのであろうか。
 これらのような場合に,つまり,判決の結論(主文に書かれた内容)には不満はないが,判決理由における認定に関して不満のある場合に,控訴して認定内容を見直させることが出来るのであろうか?
 伝統的な民事訴訟法における理解では,判決の結論に不満のある者は控訴が可能だが,結論に不満はなく単に判決理由中の判断について不満があるだけの者は(原則として)控訴が出来ないと考えることが伝統的な考え方である(上訴についての法律上の利益という問題)。
 しかしながら,本件のように,判決文の理由中の判断に対して,法律が一定の価値を与える(?)ことを明記しているような場合には,従来型の考えを貫くことは困難であるように思えるので控訴が可能ということになるように思える。つまり上訴についての法律上の利益というものは,民事訴訟法的にどのように解釈すべきなのであろうかという問題とも言える。

 他にも,通常の民事訴訟は,当事者が主張し且つ証拠として提出したもののみに基づいて判決を書かなければならないというルールがある(弁論主義という)。しかしながら,本件措置法に関連する薬害に関する事実認定を行うとする場合には,そのようなルールでよいのであろうかという問題がある。主張については,裁判所によるフォローが可能であろうが,証拠については裁判官が自ら探してきてということは弁論主義を前提とする限り困難であろう。従って,一定の範囲において職権探知主義がとられるべき場合もあるのではないだろうか。ただ,本件措置法においては,被告として国が含まれることが必要であることが明記されており,また,その国が根本的な責任を認めているのであるから当事者である国がフォローするということになるのではあろうが。

 他にも思い当たることが多々ある。このような点をも含めて色々と考えると,本件措置法は,従来の民事訴訟法の議論に新たな且つ大きな一石を投じることにもなる?そんなことをも考えてしまった。
 本件措置法の内容がこの法律だけに留まる問題であるのか,将来的にも同様の立法等がなされる可能性があるのかも含めて,私自身,十分に検討を重ねたものではないが,考えるべき材料は少なくないように思える。

(参照)
民事訴訟法
(既判力の範囲)
第114条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

(控訴をすることができる判決等)
第281条1項 控訴は、地方裁判所が第一審としてした終局判決又は簡易裁判所の終局判決に対してすることができる。ただし、終局判決後、当事者双方が共に上告をする権利を留保して控訴をしない旨の合意をしたときは、この限りでない。


判決の参考例(概要)
(注:色々なパターンがある)

主文
1.原告の請求を棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,金○○○円及びこれに対する平成20年1月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。

第2 事案の概要
(注:当事者つまり原告と被告が主張している内容の概要が記載されている)
(省略)

1 争いのない事実等(証拠を引用しない事実は,当事者間に争いがない。)
(省略)

2 争点
(1)契約の成立
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略
(2)契約の無効
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略
(3)契約の取消
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略(原告の主張)省略
(被告の主張)省略
(4)契約の解除
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略
(5)弁済の提供
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略
(6)消滅時効
(原告の主張)省略
(被告の主張)省略

第3 争点に対する判断
(注:原告或いは被告が主張している内容に対する裁判所の判断が記載される)


1 争点(1)について
 ・・・・・・・・・・であり・・・・の証拠から判断すれば・・・の事実関係が認められるのであり,よって,本件においては契約の成立があったと認められる。
2 争点(2)について
 ・・・・・・・と認定される事実から考えると,本件契約は,公序良俗に反する内容を含むものであって全体として無効であると考えなければならない。
 よって,その他の理由については判断をするまでもなく,原告の請求には根拠のないことが明らかといわなければならない。

第4 結論
以上によれば,原告の被告に対する請求は,理由のないものであるから,主文のとおり判決する。

○○地方裁判所
裁判官○○

平井利明のメモ

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