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2008.07.12

悪意の受益者の返還義務等

(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に
利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

基本法コンメンタール(第3版)債権各論215頁[谷口知平](別冊法学セミナー)(日本評論社)
「本条は,(中略),悪意の受益者の受けた利益およびその法定利息の支払いと損害賠償義務を定めたものである」

我妻・有泉コンメンタール民法(総則・物権・債権)1232頁(日本評論社)
「悪意の受益者は,価格を返還するべき場合には,その価格に利息(遅延利息)をつける義務がある。利率は年5パーセントである(民法404条)」

新版注釈民法(18)債権(9)697~708条(有斐閣)
「利息」の付加返還義務(655頁)
この義務の性質 「悪意受益者は,受けた利益に「利息」を付して返還しなければならない。これは,通常且つ最小限の損害賠償をさせる趣旨と解されている。いいかえると,利得財産からは法定利息程度の付加利益が生ずるのが通常であり,これを損失者からみればいわゆる得べかりし利益の喪失になるので,それを併せて返還させる趣旨である。」
「損害賠償責任の性質」(657頁)
この責任の性質については学説が分かれている。
「第1説は,不法行為責任とするものであり,その中にも,「利息」返還義務をも含めて不法行為責任と説くもの(たとえば梅870)と,損害賠償責任だけをそのように解するもの(中略)とがある」
「第2説は,この責任は悪意受益者の返還義務を利得の返還原理を貫くために認められたものであるから,不法行為責任ではなく,不当利得返還請求権の性質をなお有するもの,と説く(我妻・下Ⅰ1108)。同じ趣旨を表現するため,「不法行為的責任」とか,本条に基づく「特別の責任」と呼ばれることもある。」

民事要件事実講座4民法Ⅱ(物権・不当利得・不法行為)
法定利息(114頁) 
「悪意受益者は,受けた利益に利息を付して返還しなければならない(民704条)。これは,立法担当者である梅謙次郎によると,いわば得べかりし利益の損害賠償の趣旨であるとされている。すなわち,悪意の受益者は,不当利得のほかに不法行為もした者であるから,受けた利益を返還するだけでは足りず,与えた損害を賠償することを要するが,不当利得である一定の財産上の利益には少なくとも法定利率に相当する損害を生じるものとみなしているものであるとする。」(中略)「しかし,この利息の性質について,他の立法担当者である穂積陳重は,旧民法財産編368条と同じく「法律上ノ利息」を意味するものであると説明している。」,「上記のとおり,行為とその責任とを中心とする不法行為と利得の返還による財産法秩序の是正回復を中心とする不当利得とはその構造が異なり,不法行為の故意過失と不当利得の悪意(過失)とを同視することは難しいから,この利得については,損害賠償ではなく,法定利息であると考えるべきである。したがって,これは不法行為による損害賠償請求権ではなく,また,利得返還請求権とも別個の請求権をなすものである。そして法定利息であることから,受益について悪意となった当日から発生するものと考えられる。」
「もっとも,これを遅延損害金(金銭債務の履行遅滞に基づく損害賠償)であると解し,悪意の場合は,受益のときから,遅滞に陥るとする規定であるとする説もある。(中略)しかし,遅延損害金は,法定利息とは別に考えるべきものであって,請求者は,遅延損害金の要件として,相手方に対する返還の催告の事実を主張立証するのれば足りる。なお,催告によって悪意に転じるとすると,受益の後に悪意となった場合は,悪意となった時から悪意者の責任を負うとされているから,催告がなされた場合は,催告によって悪意となった当日については法定利息が発生し,その翌日から遅延損害金が発生することになる。」

「遅延損害金」(148頁)
「不当利得に基づく利得返還債務は,法律上発生する債務であるから,期限の定めのない債務(民412条3項)として,履行の請求を受けたときから遅滞に陥る(大判昭2・12・26新聞2806号15頁)」,「この遅延損害金については,不当利得に基づく利得返還債務が金銭債務である場合には,上記のとおり,その損害の発生の立証は不要であり,損害額については法定利率が適用されることになる。これは債務不履行に基づく損害賠償請求権であり,上記の法定利息とは,別個の権利であるが,その填補する損害は,法定利息が補償しようとした損失と経済的利益は同一であるから,両者は請求権競合の関係に立つと考えられる。」

例えば、「民事要件事実」に記載された考え方を前提にすると
「利得した金額○○○円およびこれに対する利得の日である平成○○年○月○日より民法所定の年5部の割合による法定利息の支払を・・・・・」
「利得した金額○○○円およびこれに対する催告の日の翌日である平成△△年△△月△日より民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を」
という2つの記載は法律的にはいずれも誤りではないことになるのか・・・(但し、敢えて下のものとすることの合理性は見いだせないのであろうが)。

個人的には
法定利息=初日算入という考え方は短絡的に過ぎるように思う。
やはりその法の趣旨を考えるのであろう。
遅延的側面を考えるのであれば受領日は不算入になるように思えるし、運用的な面を考えるのであれば受領日を算入させてもよいとも思えるのか。
考えてみると
かなりやっかいな問題が含まれている。

平井利明のメモ

平成19年(ネ)第1664号不当利得金返還請求控訴事件
平成20年1月29日大阪高等裁判所第1民事部判決
(金融・商事判例1285号22頁)
「被控訴人の請求は、過払金の総額2,198,757円と平成16年7月13日現在での法定利息額79,152円の合計2,277,909円及びうち上記過払金の総額に対する平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。」

メモ:上記の平成16年7月13日現在までの法定利息の起算日は,過払いとなった平成15年1月6日の翌日のようである,よって,利得日当日は除外されている。但し,別紙4に基づいて計算されたものであるところその作成者が明記されていないのであるが,判決内容から考えると裁判所が作成したもののように考えられるのであるが、別紙4は,当事者が作成したと考えられる別紙1を前提とするものであると考えられるところ、別紙1が利得当日を不算入としているので,弁論主義の観点から利得当日を不算入とした可能性は残される)

平成18年(受)第1666号不当利得金返還請求事件
平成19年7月17日最高裁判所第三小法廷判決
(判例時報1984号33頁・判例タイムズ1252号118頁)
「本件各弁済によって過払金が生じていれば,被上告人は上告人に対し,悪意の受益者として法定利息を付してこれを返還すべき義務を負うものというべきである」

平成16年(ネ)第1374号不当利得返還請求控訴事件
平成16年10月19日東京高等裁判所民事第二部判決
主文(抜粋)
「控訴人は、被控訴人に対し、金479万3064円並びに内金401万7506円に対する平成12年2月23日から、内金48万6943円に対する平成11年5月14日から、内金28万0534円に対する同年10月14日から、内金8079円に対する同年4月25日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
「事案の概要 本件は、破産者(略)(以下「破産会社」という。)が○○不動産株式会社(以下「○○不動産」という。)から賃借した建物の敷金返還請求権について、平成10年4月30日に株式会社△△△銀行(現株式会社△○△銀行、以下「訴外銀行」という。)のために質権(以下「本件質権」という。)を設定し、被控訴人が同年9月24日に訴外銀行から同銀行の破産会社に対する債権とともに、本件質権の譲渡を受けたところ、破産会社が平成11年1月25日に破産宣告を受けてその管財人に選任された控訴人が、財団債権である破産宣告後の上記賃貸借契約に基づく賃料等の支払を行わずに、○○不動産との間で、破産宣告後の賃料、原状回復費用等に敷金を充当する合意をした(以下「本件充当合意」という。)ため、被控訴人の本件質権が消滅して債権の弁済を受けられずに損害を被り、他方、控訴人は破産宣告後の賃料等の支払を免れ同額の利得を得た悪意の受益者であるとして、被控訴人が、控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、596万2574円及び内金518万7016円に対する充当合意をした日である平成12年2月23日から、内金48万6944円に対する充当合意をした日である平成11年5月14日から、内金28万0534円に対する充当合意をした日である同年10月14日から、内金8079円に対する充当合意をした日である同年4月25日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払を求めた事案である。」
「控訴人は、本件充当合意をした時点で、悪意であったというべきであるから、各充当した時点以降の民法所定の年5分の割合による法定利息についても、その支払義務がある。」

メモ:この判決内容から考えると,利得日を算入していると考えられる(因みに,この判決については上告審の判決が存在するが起算日については上告審で争点となっていない)。

平井利明のメモ

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