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2009.03.30

平成21年03月27日最高裁判所第二小法廷判決(医事関係)

平成19(受)783損害賠償請求事件
平成21年03月27日最高裁判所第二小法廷判決
破棄差戻し

原審
東京高等裁判所   
平成17(ネ)5782
平成19年01月31日

裁判要旨
全身麻酔と局所麻酔の併用による手術中に麻酔による心停止が原因で患者が死亡した場合において,麻酔医に全身麻酔薬と局所麻酔薬の投与量を調整すべき注意義務を怠った過失があり,同過失と死亡との間に相当因果関係があるとされた事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37489&hanreiKbn=01

判決文(裁判所サイト)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090327131758.pdf

自治体病院の事案のようですが,
ここまで
添付文書や医学文献の内容にて注意義務をひっぱってよいのでしょうかね。
それに反する内容の文献があるにもかかわらず
いくつかの文献に積極的な記載があることをもって
全てを律してしまうような考え方が妥当なのか。

「具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最高裁昭和五四年(オ)第一三八六号同五七年三月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号五六三頁、最高裁昭和五七年(オ)第一一二七号同六三年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五三号一七頁参照)。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものである(最高裁平成四年(オ)第二〇〇号同七年六月九日第二小法廷判決・民集四九巻六号一四九九頁参照)」との最高裁の基準に合致しない事案の処理であると感じる。

平成21年4月1日追記)
 判決によれば,患者(当時65歳,身長143cm,体重43kg)は,平成9年5月14日,転倒して左大腿骨頸部内側骨折の傷害を負い,同年6月5日,人工骨頭置換術の手術適応と判断され,県立病院に入院したとされているが,患者Aには,骨折の前,骨粗しょう症が認められる以外,その健康状態は良好であり,本件手術当日,脱水・貧血状態にはなく,血圧,脈拍,体温等の全身状態も良好患者Aは,安静時でも強い骨折部痛を訴え,本件手術においては完全に痛みが分からない方法を希望そのため予定していた局所麻酔単独による麻酔方法から,全身麻酔と局所麻酔である硬膜外麻酔の併用による麻酔方法に変更したとのことである。
 ところで,本件判決は過失を認めるにあたって,患者が高齢者であることが一つの要素とされていると考えられる。
 患者菜65歳であるところ,世界保健機関 (WHO) の定義では65歳以上の人が高齢者とされておりその基準を形式的に当てはめると高齢者に含まれると一応はいえそうである。
 なお,「医療機器の添付文書の使用上の注意記載要領について」(平成17年3月10日厚生労働省医薬食品局安全対策課長薬食安発第0310004号)には,「高齢者への適用」についての記載要領が示されている。そこには,
(1) 高齢者は腎機能、肝機能等の生理機能が低下していることが多く、医療機器の使用において危険性が増加するおそれがあり、一般的に、医療機器の適用に当たっては常に十分な注意が必要である。使用方法、使用目的等から高齢者に用いられる可能性のある医療機器であって、他の患者と比べて高齢者で特に注意する必要がある場合には、「高齢者への適用」の項を設け、必要な注意を記載すること。また、高齢者に適用してはならない場合は「2)禁忌・禁止」の項にも記載すること。
(2) 記載の内容
(1)臨床試験、市販後調査等の具体的なデータから高齢者に適用した場合の問題が示唆される場合はその内容を簡潔に記載すること。
(2)同種同効品等の臨床での使用経験から高齢者に適用する場合に注意すべき問題が示唆される場合はその内容を簡潔に記載すること。
(3) 具体的な記載表現
前記(2)の具体的な記載表現は、当該医療機器の特徴、高齢者の特徴、当該医療機器を高齢者に適用した場合の問題点、必要な注意・処置の内容を簡潔かつ適切に記載すること。」
とある。
 このこともあって,ほぼ全ての添付文書には「高齢者」に関する事項が記載され,且つ,「高齢者は腎機能、肝機能等の生理機能が低下していることが多く、医療機器の使用において危険性が増加するおそれがあり、一般的に、医療機器の適用に当たっては常に十分な注意が必要である」との趣旨の記載がなされている思われる。
  しかしながら,ここに言うところ高齢者に我が国の65歳の方々が一般的に含まれると考えるべきなのであろうか。我が国の65歳において,一般的に,腎機能、肝機能等の生理機能が低下していることが多いということが言えるのであろうか。WHOは確かに65歳を高齢者としているが,それは高齢者に対して一定の配慮が必要という意味合いからであろう。WHOは全世界を対象としているため各国の食糧事情・医療事情,健康事情等を捨象して65歳という基準を設けているものと考えられる。仮に,そうだとすれば,我が国のように食糧事情・医療事情,健康事情等の比較的良い国において65歳という年齢が,腎機能、肝機能等の生理機能が低下している者としての高齢者として特別に扱う必要が本当にあるのだろうか。
 私が知る限りにおいて,現在の日本において65歳が一般的に腎機能、肝機能等の生理機能が低下している者としての高齢者として扱っている病院などまず無いのではないかと思える。添付文書に言うところの高齢者という概念については,多くの医師は,実際上は80歳前後ぐらいを念頭においているのではないだろうか(少なくとも65歳ではないと思われる)。
 因みに,上記の通り,原審も,患者は,本件手術当日,脱水・貧血状態にはなく,血圧,脈拍,体温等の全身状態も良好であったとしているのである。

 なお,ある地方の中核病院の医師に本件判決を読んで頂いたところ,次のような意見をいただいた。

麻酔方法としては問題ない
薬の使い方としても私も同量を用いる
血圧低下後の処置も間違ない
心臓マッサージに時間を要したのは、全身麻酔で側臥位(横向き)で手術を受けていたからではないか。そうであれば表に向けるのに時間を要し術野も閉じる必要がある。
このような(問題のある)判決がなされていることを多くの麻酔医に知ってもらいたい。

平成21年4月2日追記>
 頸部骨折後の手術であることや、心停止を再度繰り返している点などを考慮すると、本件は麻酔の副作用というよりは肺塞栓症による死亡であると考えられるとする意見が少なくないようですね。
 つまり、重要なる前提事実において重大な事実誤認がある事案とも言えそうだということです。

平井利明のメモ

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