« 昭和22年の東京の航空写真(goo) | トップページ | 本日(平成21年9月10日)は平成21年新司法試験の合格発表日 »

2009.09.09

平成21年08月31日大阪地方裁判所判決(アスベスト関連)

平成18(ワ)6122損害賠償請求事件
平成21年08月31日大阪地方裁判所第20民事部判決 


判示事項の要旨
アスベスト吹き付け建材を使用した建物(店舗)で就労していた男性が悪性胸膜中皮腫に罹患し,死亡したことについて,建物所有者に民法717条1項の工作物責任を認めた事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=04&hanreiNo=37973&hanreiKbn=03

判決文(裁判所サイト)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090909102546.pdf


事案の概要
本件は,Aの相続人である原告らが,Aが悪性胸膜中皮腫にり患し,死亡したことについて,被告Y1に対しては,債務不履行,不法行為又は土地の工作物の設置,保存上の瑕疵に係る責任に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を,被告Y2に対しては,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求める事案


主文
1 被告Y1株式会社は,原告X1に対し,2462万3747円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1株式会社は,原告X2に対し,827万4249円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Y1株式会社は,原告X3に対し,827万4249円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Y1株式会社は,原告X4に対し,827万4249円及びこれに対する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らの被告Y1株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
6 原告らの被告Y2株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,原告らと被告Y1株式会社との間に生じた費用はこれを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告Y1株式会社の負担とし,原告らと被告Y2株式会社との間に生じた費用は原告らの負担とする。
8 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。


「前提事実(当事者間に争いのない事実)」よりの引用

(1) Aは,昭和8年10月3日生まれの男性であり,株式会社Bの取締役店長として,同社の店舗兼倉庫として使用していた甲鉄道乙線丙駅高架下所在の貸建物区画番号α号の建物(以下「本件建物」という。)において勤務していた者である。Aは,平成14年7月,b病院において悪性胸膜中皮腫の診断を受け,平成16年7月20日,自殺により死亡した。
(2) 原告X1は,Aの妻であり,原告X2,原告X3及び原告X4は,いずれもAの子である。
(3) 被告Y1は,鉄道事業法,軌道法による運輸業等を業とする株式会社である。
(4) 被告Y2は,建築物及び関連設備に関するメンテナンス業務並びに清掃管理業務等を業とする株式会社である。
(5) C株式会社は,昭和45年3月2日,株式会社Bに対し,賃貸期間を同年4月1日からとして,本件建物を賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。)。
(6) C株式会社は,昭和48年3月1日,関連会社等を吸収合併し,同日,商号をD株式会社に変更した。
(7) D株式会社は,平成14年3月16日,被告Y2に対し,同年4月1日付けで本件賃貸借契約における賃貸人の地位を譲渡し,株式会社Bは,同日,上記賃貸人の地位の譲渡を承諾した。
(8) 被告Y1は,平成14年4月 1日,D株式会社販売株式会社に一部分割したD株式会社を吸収合併し(以下,この合併を「本件合併」という。),これにより,D株式会社の権利義務(C株式会社時代のものを含む。以下同じ。)を包括承継した。
(9) 被告Y2と株式会社Bは,平成15年3月,同月末日をもって本件賃貸借契約を解約することを合意した。

「主要争点」
[1] アスベスト(石綿)の危険性に関する知見及びアスベストの規制状況
[2] Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因
[3] 被告Y1には,本件建物の所有者として,本件建物に施工されているアスベスト含有吹き付け材による危険性を排除し又は同危険性を回避させる義務(以下,単に「安全性確保義務」という。)があるかどうか,及び同義務の違反(不法行為)があるかどうか。
[4] 被告Y1には,本件建物の占有者又は所有者として,本件建物の設置,保存上の瑕疵に係る責任があるかどうか。
[5] 被告Y1には,賃貸人として,本件建物の賃借人の役員又は従業員に対する安全性確保義務があるかどうか,及び同義務の違反(債務不履行又は不法行為)があるかどうか。
[6] 被告Y1の上記[3]ないし[5]の義務違反等とAの死亡との間に相当因果関係があるか。
[7] 原告らの損害の有無及びその額
[8] 過失相殺,損益相殺(抗弁)


<争点に関する裁判所の判断よりの抜粋>
争点[3],[5]及び[6](被告Y1の所有者としてあるいは賃貸人としての安全性確保義務違反に基づく責任の有無等)について
ア 昭和62年以前の安全確保義務違反の有無
前記(1)のとおり,建築物の吹き付けアスベストの暴露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策の必要性が世間一般に認識されるようになったのは,早くても昭和62年ころであることからすれば,C株式会社ないしD株式会社は,昭和62年以前においては,本件2階倉庫部分の吹き付けアスベストの危険性について予見することができず,安全確保義務を負わないというべきである。
イ 昭和62年以降の安全確保義務違反の有無
これに対し,前記(1)のとおり,昭和62年ころには建築物の吹き付けアスベストの暴露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策の必要性が世間一般に認識されるようになったと評価する余地があることからすれば,D株式会社は,昭和62年以降においては,本件2階倉庫部分の吹き付けアスベストの危険性について予見可能性があったといえる余地はある。しかしながら,前記(2)のとおり,アスベスト暴露の量が多くなればそれだけ中皮腫に発症しやすくなるものであるところ,Aは,昭和45年3月から平成14年5月までの約32年間,本件建物2階倉庫において本件粉じんに曝された中でも勤務していたことからすれば,アスベスト暴露開始から既に17年経過した昭和62年の時点において,吹き付けアスベストの撤去等の措置を執っていたとしても,Aにおける中皮腫の発症を回避できたものと直ちに認めることは困難である。そうすると,仮にD株式会社に昭和62年以降における安全確保義務違反があったとしても,当該義務違反とAの悪性胸膜中皮腫の発症との間には相当因果関係を認めることはできないというべきである。
したがって,C株式会社ないしD株式会社を承継した被告Y1について,安全確保義務違反に基づく責任を認めることはできない。

争点[4](被告Y1の,本件建物の占有者又は所有者としての,本件建物の設置,保存上の瑕疵に係る責任の有無)について
ア 本件建物の設置,保存上の瑕疵の有無について
工作物に設置,保存上の瑕疵がある場合とは,工作物が,その種類に応じて通常有すべき安全性を欠いている場合をいうと解するのが相当である。そして,人が利用する建物は,その性質上これを利用する者にとって絶対安全でなければならず,人の生命,身体に害を及ぼさないことが当然前提となっているものというべきところ,本件建物は,鉄道の高架下に存在する商業用店舗であり(甲A40),本件建物内で営業を行う者の生命,身体に害を及ぼさない安全な性状のものであることが予定されていたといえる。また,前記(1)で検討したとおり,昭和45年ころには,人の生命,健康に対するアスベストの危険性,有害性について,一般的に認識されていたものと評価できる。
ところが,本件建物は,本件2階倉庫の壁面部分に,人がそれを吸入することにより中皮腫等の石綿関連疾患を引き起こす原因物質であり,アスベストの中でもとりわけ発がん性などの有害性が強いクロシドライトを一定量含有する吹き付け材が露出した状態で施工されており(前記(2)ウ(ア)),しかも,頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあって,鉄道が通るたびに相応の振動が生じることにより,上記吹き付け材が飛散しやすい状態にあった(前記( )ウ(イ))2 のであるから,本件建物は,それを利用する者にとって,アスベスト吹き付け材から発生した粉じんの暴露,吸入により,生命,健康が害され得る危険性があったといえる。そうすると,本件賃貸借契約開始時である昭和45年3月の時点以降,本件建物には,設置,保存上の瑕疵があったものと認めるのが相当である。
これに対し,証拠(甲A3,甲A11の1,甲A26)及び弁論の全趣旨によれば,株式会社Bは,C株式会社から本件建物をスケルトン貸しで借り受けたが,いわゆる屋根裏部分(ちょうど,壁面にアスベスト吹き付け材が施工されている空間部分)を天井板や床板で仕切って本件2階倉庫部分を造ったことが認められるが,屋根裏部分を倉庫等として利用することは,商業用店舗においては少なからず実践されている利用方法であって,この事実によって,株式会社Bの本件建物の使用方法が異常なものであり,本件建物には,設置,保存上の瑕疵がなかったということはできない。また,同じく弁論の全趣旨によれば,Aは,密閉された本件建物2階倉庫内で,格別粉じんに対する予防策を講じずに壁面落下物を吸引しながら作業に従事していた事実が認められるけれども,Aは文具店の店長であり,本来的に粉じんが飛散する工場等の作業現場で働く者ではなかったことからすれば,粉じんに対する予防策を執らなかったことをもって,直ちに本件建物の異常な使用方法であり,本件建物には,設置,保存上の瑕疵がなかったということもできない。
イ 本件建物の所有者について
証拠(乙11,乙12)によれば,昭和44年12月,C株式会社を建築主として,本件建物の建築が開始され,昭和45年3月ころ,本件建物が竣工した事実が,証拠(乙11,乙13の1ないし6)によれば,C株式会社ないしC株式会社から商号変更したD株式会社は,本件建物に係る昭和46年度,昭和48年度,昭和51年度,昭和54年度,昭和57年度,昭和60年度の各固定資産税を,本件建物の所有者として支払った事実が,それぞれ認められ,これらの事実を総合すれば,昭和45年当時の本件建物の所有者はC株式会社であったことが推認でき,この推認を妨げるに足りる事実はない。
そして,C株式会社が,関連会社等との合併及び商号変更により,D株式会社となり,更にその後,被告Y1は,本件合併により,D株式会社の権利義務を包括的に承継して本件建物の所有者となったことは,当事者に争いがない。
ウ 本件建物の占有者について
前提事実証拠及び弁論, の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(認定に用いた証拠は各文末尾に記載する。)。
(ア) 本件建物は,頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあり,電車が通るたびに,棚に置いた商品が徐々にずれる程度の振動が生じていた。特に,昭和61年ないし62年ころ以降は,アスベスト吹き付け材の経年劣化もあいまって,本件粉じんが目立って飛散し,本件2階倉庫の商品棚,商品及び床面等に降り積もっている状態であった。(以上,(2)ウ(イ)で認定のとおり。)
(イ) C株式会社は,昭和45年3月2日,本件賃貸借契約を締結し,株式会社Bに対し,本件建物を賃貸した(第2の2「前提事実」(5))。本件賃貸借契約では,本件建物が駅高架下に存在するという鉄道施設に関連した特殊物件であることを前提に(甲A8第1条,甲A40第1条,弁論の全趣旨),C株式会社に対し,管理上必要があるときに,本件建物に立ち入り,必要な措置を執る権限が認められていた(甲A8第13条,甲A40第13条,弁論の全趣旨)。
(ウ) 本件賃貸借契約上,C株式会社は,本件建物の主体建築物及び基礎的施設の維持管理に必要な修繕義務を負担しているところ(甲A8第12条,甲A40第12条,) 本件2階倉庫の壁面には,クロシドライトを含有する吹き付け材が施工されている((2)ウ(ア)で認定のとおり。)。
(エ) 株式会社Bは,Aのほか,Aの兄弟であるI,Jが取締役を勤めており(甲A42,49),Aが店長として勤務していた(第2の2「前提事実」(1))。
ところで,民法717条1項は,危険な工作物を支配,管理する者が,当該危険が現実化したことによる責任を負うべきであるとの考え方に基づくものであることからすれば,同項にいう「占有者」とは,被害者に対する関係で土地工作物から生ずる危険を支配,管理し,損害の発生を防止し得る地位にある者をいうと解するのが相当である。そうしたところ,上記(ア)ないし(エ)と前記イで認定した事実によれば,[1]C株式会社は,本件建物の所有者として,本件建物が駅高架下に存在するという鉄道施設に関連した特殊物件であることを前提に,本件賃貸借契約を締結し,同契約においては,C株式会社に対し,管理上必要があるときに,本件建物に立ち入り,必要な措置を執る権限が認められていたこと,[2]本件賃貸借契約上,賃貸人であるC株式会社は,本件建物の主体建築物及び基礎的施設の維持管理に必要な修繕義務を負担しているところ,本件2階倉庫の壁面には,アスベスト吹き付け材が施工されており,電車の振動及び経年劣化により,本件2階倉庫部分には本件粉じんが飛散し得る状態であったことが認められ,これらの事実によれば,本件2階倉庫の壁面につき修繕等の措置を執ることが許容されているのは専ら賃貸人たるC株式会社であって,賃借人の株式会社Bにはそのような権限がなかったものといえる。加えて,[3]賃借人である株式会社Bが,取締役はA及びその兄弟で占められている上,Aが店長として本件建物で勤務しており,個人営業が法人成りしたに過ぎないことにかんがみると,株式会社Bは,吹き付けアスベストに曝され続け,損害を被った被害者であるAと実質上同一であると評価できることを総合考慮すると,被害者であるAに対する関係で本件建物2階倉庫部分に施工されている吹き付けアスベスト材から生じる危険について,支配,管理し,損害の発生を防止し得る地位にあった者は,C株式会社であるというべきである。したがって,C株式会社が,民法717条1項にいう占有者に当たると認められる。
これに対し,証拠(甲A8第11条,甲A40第11条,証人W2 p15)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物はスケルトン貸しであり,店舗の内装に関する事項は本件建物の賃借人の責任に属するところ,前記のとおり,株式会社Bにより本件2階倉庫が造られ,倉庫等として使用されてきた事実が認められるが,本件で瑕疵が問題となっている部分は,本件建物の主体構造と一体となっている本件2階倉庫の壁面部分であって,内装に関する部分ではないから,内装に関してC株式会社に権限がないことをもって,C株式会社が占有者に当たるとの上記認定を妨げることはできない。また,被告Y1は,C株式会社が本件建物の合鍵さえ持っていなかったと主張するが,事実としての合鍵所持の有無と,支配,管理すべき責任の所在とは別個の問題であって,仮にC株式会社が本件建物の合鍵を所持していなかった(乙24)としても,そのことにより,C株式会社が占有者に当たるとの上記認定は妨げられるものではない。
エ まとめ
前記イ,ウによれば,結局,本件建物に係る民法717条1項の関係で責任を負うべき主体は,その責めを負うべき期間(すなわち,Aが本件建物内で吹き付けアスベストに曝され始めた昭和45年3月から,悪性胸膜中皮腫を発症した平成13年11月ころまでの間)に占有者(賃貸人)兼所有者(同項において占有者と所有者が同一のときは,同項後段の免責は問題とならず,占有者兼所有者が責任を負う。)であったC株式会社(昭和48年2月末日まで)ないしD株式会社(同年3月1日以降)を承継した被告Y1となる。そうすると,被告Y1は,原告らに対し,民法717条1項に基づき,後に検討するAが被った損害につき賠償する義務がある。

平井利明のメモ

|

« 昭和22年の東京の航空写真(goo) | トップページ | 本日(平成21年9月10日)は平成21年新司法試験の合格発表日 »

企業関連等」カテゴリの記事

裁判例」カテゴリの記事