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2009.12.09

平成21年12月07日最高裁判所第三小法廷決定(気管内チューブの抜管行為の違法性関連)

平成19(あ)585殺人被告事件
平成21年12月07日最高裁判所第三小法廷決定

原審
東京高等裁判所   
平成17(う)1419
平成19年02月28日

裁判要旨
医師である被告人が,気管支ぜん息の重積発作により入院しこん睡状態にあった被害者から,気道確保のため挿入されていた気管内チューブを抜管する行為は,被害者の回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況になく,また,回復をあきらめた家族からの気管内チューブ抜管の要請も被害者の病状等について適切な情報を伝えられた上でされたものではないなどの事情の下では,法律上許容される治療中止には当たらないとされた事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=38241&hanreiKbn=01

判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091209113834.pdf

判決文より
「所論にかんがみ,気管内チューブの抜管行為の違法性に関し,職権で判断する。」
「事実経過(注:判決文をお読み下さい)によれば,被害者が気管支ぜん息の重積発作を起こして入院した後,本件抜管時までに,同人の余命等を判断するために必要とされる脳波等の検査は実施されておらず発症からいまだ2週間の時点でもあり,その回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況にはなかったものと認められる。そして,被害者は,本件時,こん睡状態にあったものであるところ,本件気管内チューブの抜管は,被害者の回復をあきらめた家族からの要請に基づき行われたものであるが,その要請は上記の状況から認められるとおり被害者の病状等について適切な情報が伝えられた上でされたものではなく,上記抜管行為が被害者の推定的意思に基づくということもできない。以上によれば,上記抜管行為は,法律上許容される治療中止には当たらないというべきである
そうすると,本件における気管内チューブの抜管行為をミオブロックの投与行為と併せ殺人行為を構成するとした原判断は,正当である。」

メモ
 法律上許容される抜管行為(延命治療行為の中止の一例と考えることが出来よう)があり得るという前提が示されている。
 しかし,その具体的な要件は示されていない。
 また,本件においては,法律上許容されるものに該当しないとの結論が示されている。

 なお,判示内容から考えると,判断可能な時期に客観的な資料に基づく「回復可能性」及び「余命」の判断がなされ,そして,客観的観点からの「余命」等の判断に基づいて家族も延命治療(本件では気管内チューブの挿入)の中止に同意するような場合には,患者本人も同じような考えであったろうとの推察ができるので(推定的意思),延命治療の中止も法律的に許容される場合があるとするものと考えられる。
 ただし,どの程度の「回復可能性」や「余命」を前提とするのか等は明らかでない。

 なお,この事案では,延命治療の中止を意味する挿管チューブの抜管が行われていて,この点に関してのみ最高裁は判断を下している。
 この事案では,より積極的に,筋弛緩剤であるミオブロックが用いられている。この点については最高裁としては特に判断を示していない。なお,本件では,消極的な意味合いを持つ延命治療の中止も,前提要件を満たさないために,殺人罪を構成するとされていることを考えると,より積極的な意味合いを持つミオブロックの投与が殺人罪を構成すると評価されたことは自然な判断の流れと考えられる)。
 従って,延命治療を中止することが法律的に許される場合に,更に,積極的な行為が行われることが許される場合があるか否かについて,特に最高裁は触れていないと考えられる(そのような判断をするために適切な事案でないことから,否定も肯定もしていないものと考えられる)。

平井利明のメモ

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