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2010.01.27

平成22年01月26日最高裁判所第三小法廷判決(患者に対する抑制具の使用関連)

平成20(受)2029損害賠償請求事件
平成22年01月26日最高裁判所第三小法廷判決

【破棄自判】

原審
名古屋高等裁判所 
平成18(ネ)872
平成20年09月05日

裁判要旨
当直の看護師らが抑制具であるミトンを用いて入院中の患者の両上肢をベッドに拘束した行為が,診療契約上の義務に違反せず,不法行為法上違法ともいえないとされた事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=38356&hanreiKbn=01

判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100126115546.pdf

判決文より
「本件は,第1審原告亡Aの子である被上告人らが,E病院(以下「本件病院」という。)を開設する上告人に対し,当直の看護師らが本件病院に入院中のAの両上肢をベッドに拘束したことが診療契約上の義務に違反する違法な行為であるなどと主張して,債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償の支払を求める事案」

「本件抑制行為当時,せん妄の状態で興奮したAが,歩行中に転倒したりベッドから転落したりして骨折等の重大な傷害を負う危険性は極めて高かったというべきである。」
「また,看護師らは,約4時間にもわたって,頻回にオムツの交換を求めるAに対し,その都度汚れていなくてもオムツを交換し,お茶を飲ませるなどして落ち着かせようと努めたにもかかわらず,Aの興奮状態は一向に収まらなかったというのであるから,看護師がその後更に付き添うことでAの状態が好転したとは考え難い上,当時,当直の看護師3名で27名の入院患者に対応していたというのであるから,深夜,長時間にわたり,看護師のうち1名がAに付きっきりで対応することは困難であったと考えられる。」
「そして,Aは腎不全の診断を受けており,薬効の強い向精神薬を服用させることは危険であると判断された」
「これらのことからすれば,本件抑制行為当時,他にAの転倒,転落の危険を防止する適切な代替方法はなかったというべきである。」
「本件抑制行為の態様は,ミトンを使用して両上肢をベッドに固定するというものであるところ,前記事実関係によれば,ミトンの片方はAが口でかんで間もなく外してしまい,もう片方はAの入眠を確認した看護師が速やかに外したため,拘束時間は約2時間にすぎなかったというのであるから,本件抑制行為は,当時のAの状態等に照らし,その転倒,転落の危険を防止するため必要最小限度のものであったということができる。」
入院患者の身体を抑制することは,その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものである
「本件抑制行為は,Aの療養看護に当たっていた看護師らが,転倒,転落によりAが重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって,診療契約上の義務に違反するものではなく,不法行為法上違法であるということもできない。」
「Aの右手首皮下出血等が,同人が口でミトンを外そうとした際に生じたものであったとしても,上記判断に影響を及ぼすものではなく」
「また,前記事実関係の下においては,看護師らが事前に当直医の判断を経なかったことをもって違法とする根拠を見いだすことはできない。」

上告代理人の弁護士中村勝己先生は気さくな先生ですが,現実を直視しない名古屋高裁の判断を覆すために頑張りましたね。
因みに,名古屋高裁は「また,本件抑制行為は,夜間せん妄に対する処置として行われたものであるから,単なる「療養上の世話」ではなく,医師が関与すべき行為であって,当直医の判断を得ることなく看護師が本件抑制行為を行った点でも違法である。」としたことから,医療現場においては,深夜に一々医師の指示を仰がなければならないのか?という不安感があった。しかし実際問題として言うならば,転倒しそうであるか否かは,その目の前にいるものが判断できるのであって,常識的に考えるならば,医師や看護師でなくても判断できることである。また,このような危険防止のための抑制が医療行為であるとは原則として考えがたいところ,医師の判断を不可避とした名古屋高裁の判決は明らかに誤ったものと考えられる。
いずれにしても,看護師等の判断にて抑制の可能な場合のあることを最高裁が認めたことは,現実の医療現場に安心を与えると共に,転倒によって不幸な結果となるリスクのある多くの患者のためにもなる判断であったと考えられる。

平井利明のメモ

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