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2011.01.23

「零戦 最後の証言」神立尚紀著

「零戦 最後の証言」
海軍戦闘機と共に生きた男たちの肖像

光人社NF文庫
2011年1月21日発行
単行本:平成11年10月

もう殆どの人の記憶の中には,現実の戦争というものはない。かくうう私もその一人である。
しかし,我が国には実際に戦火の中にあった時期があった。
そして,その時代は,現在のように,人が遠隔地からロボットを操作して相手を攻撃するといった時代ではなく,人が人とが目の前で闘っていた時代である。
そして,その人達の多くはとても若い世代の人であった。
最前線で日々闘いを繰り広げ,そして,生き残ってそのときのことを語る肉声が,神立氏の手によって,今を生きる我々の目の前に投げ出されている。
航空機というその当時の科学の最先端の機器の中にあって,肉体と精神の限界に直面しておられた個々の人の声は,ある意味とても新鮮であり,残酷であり,そして,生きために必要なこと,生をつなげることの重要さや,平和のありがたさを,率直に感じさせる。
局限状態にあって生に満ちた言葉の数々は,今大きな悩みを抱えている人達にまだやれるねと,こんなことでへたばってなるものか,なんとか生き抜くことこそが生まれてきたことの意義だと改めて認識させることのように思える。

 著者の神立氏は1995年から下零戦搭乗員の取材に取り組んでおられるとのことだが,彼は言う「戦後五十余年を経た現在,日本は空前の不況に喘いでいる。しかし,いくら不景気とはいえ,全てが灰燼に帰してしまったわけではない。戦争,そして敗戦を乗り越えてきた先人たちを思えば,まだまだ,やればできる,何とかなる,自信を持とうよ,そういう気持ちをも込めて,一気に書き上げた。
「高齢化社会といわれ,ともすれば高齢者人口が全体の何パーセントなどと数字のみで語られることが多いが,あの戦争を戦ったのも,戦後の日本の復興の基礎を作ったのも,この世代の人たちである。一人一人の人生にはそれぞれのドラマがあり,かけがえのない重みがある。本書が,日本の将来を担う若い世代と,戦争をじかに戦った世代との橋渡しになれば,と願っている。」

 神立氏は,最近まで知らなかったことだが高校の1年後輩にあたる方となる。高校時代のあのときの空気を吸っていた人物が,今までの人のためにそして将来の人のために残さなければならない声を集めることに精力を注いでおられることは,とても嬉しいことである。
 そして,年の流れと共に年々失われていく貴重な声の数々が,神立氏の努力を経て,多くの人々の心で共有され,明日への生きるための力となることを期待したい。

平井利明のメモ

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