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2011.12.08

平成23年3月29日大阪高等裁判所決定(医療事故報告書についての提示命令申立て関連)

平成23年(ラ)第204号提示命令申立却下決定に対する抗告事件
(原審・京都地方裁判所平成22年(モ)第357号)

決定

(当事者略)

主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理由
1 抗告の趣旨及び理由,相手方の主張
(1) 抗告の趣旨
ア 原決定を取り消す。
イ 相手方は,別紙検証物目録11記載の物件を提示せよ。
(2)  抗告の理由
ア 別紙検証物目録11記載の物件(以下「本件書類Jという。)の原本は,医療機関が,外部組織である保険会社に対し,紛争が生じた際に提出する目的で作成するものであるから,外部の者に開示することを予定されない文書に当たらない。
 保険会社と医療機関との聞に保険契約が存する場合に,保険会社と医療機関とは別個に意思決定を行うことが予定されており,本件書類の原本は医療機関が自己の意思決定を保険会社に申告するためのものにすぎない。相手方と保険会社とは,本来的に利益相反関係が存し,一つの団体を形成することにはならない。したがって,保険会社は医療機関の「内部の者」であるとはいえない。
イ 個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりする場合に自己利用文書として文書提出義務の例外とされるのは,自己の意思を決定するに至る内心の葛藤のプロセスまでは開示の対象とすることが相当でないからである。本件書類の原本における「身体障害発生の状況とその原因」,「患者側のクレーム内容」,「患者のクレームに対する反論・見解」は,客観的な事実及び既に形成された相手方の意思が記載されているにすぎない。
ウ 医療機関が,本件書類が開示される場合に忌たんのない意見を記載することをちゅうちょする場合とは,本来自己に過失があると認識しているにもかかわらず,真実を隠して責任を逃れようとしている場合であるから,医療機関に保護されるべき利益はない。
(3) 相手方の主張
ア 保険会社は,保険事故に該当するか否かという意思決定を行うが,医療機関はそのような意思決定は行わないのであるから,両者が同じ検討課題について別個に意思決定を行うわけではない。
イ 内心の葛藤のプロセスを第三者に開示するか否かで開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれの有無が判断されるのではない。本件では,本件書類が開示されると,医療機関及び保険会社からなる団体の自由な意思形成が阻害される。保険会社は医療機関にとっての内部の者である。
ウ 本件では,証拠保全決定のあった平成22年10月26日には改ざんなどのおそれがあったとしても,それから4か月以上も経った現時点においても改ざんなどのおそれがあるとはいえない。
2 当裁判所の判断
 ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最高裁平成11年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。
 抗告人は,保険会社と医療機関との間に保険契約が存する場合に,保険会社と医療機関とは別個に意思決定を行うことが予定されていること,相手方と保険会社とは,本来的に利益相反関係が存し,ひとつの団体を形成することにはならないことから,保険会社は医療機関の「内部の者」であるとはいえない,と主張する。しかし,文書が意思の伝達手段であることからして,文書の作成者と所持者で別個の意思決定を行ったり,利益相反関係が存したりする場面があることはむしろ当然であって,そのことから直ちに,当該文書が専ら内部の者の利用に供する目的で作成されなかったとはいえない。本件書類の原本は,医療機関が自ら契約していた保険契約の利益を受けるために,保険契約上の義務として作成したものであるが,その内容は,単なる事実の報告にとどまらず,患者側の態度や医療の専門家としての意見などにも及んでおり,保険契約の当事者である医療機関と保険会社双方が,保険契約に基づく権利義務関係を判断するために,忌たんのない評価や意見を記載することが予定されている文書であるから,保険契約の当事者である医療機関及び保険会社以外の外部者に開示されることは基本的に予定されていない文書であって,本件書類の原本作成に当たって,保険会社は医療機関にとっての外部者ではなく,内部者に当たるといえる。
 また,抗告人は,個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりする場合に自己利用文書として文書提出義務の例外とされるのは,自己の意思を決定するに至る内心の葛藤のプロセスまでは開示の対象とすることが相当でなく,本件書類の原本における「身体障害発生の状況とその原因」,「患者側のクレーム内容」,「患者のクレームに対する反論・見解」は客観的な事実及び既に形成された相手方の意思が記載されているにすぎない部分であるから,提示されるべきであると主張する。
 しかし,自由な意思形成が阻害されるか否かについて内心の葛藤のプロセス開示の有無に限って判断する理由はないし,本件書類の「紛争になることを認識した日およびその理由」,「身体障害発生の状況とその原因」,「患者側のクレーム内容」,「患者のクレームに対する反論・見解」,「事故の背景・要因」の部分は,まさに将来提起される抗告人の相手方に対する訴訟における訴訟戦略に関わる部分であったり,医療の専門家としての意見であったりするため,これが訴訟前に抗告人に対して開示されるのであれば,相手方の訴訟についての自由な意思形成を本件書類作成にあたって行えなくなったり,医療の専門家として忌たんのない評価や意見を記載することを妨げたりしてしまう。さらに,上記以外の「初診時の状況」,「初診時より身体障害発生までの経過」,「身体障害発生後の医療上の処置」などの部分は,形式的には事実の報告に当たるが,「身体障害発生の状況とその原因」,「事故の背景・要因」と重複する内容を含んでいるし,当審において実施したインカメラ手続(民訴法232条1項, 223条6項)においても,本件書類は,結局,形式的には事実の報告に当たる部分も含めて,一体として忌たんのない評価や意見を記載されることが予定されている文書であると認められるのであるから,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるということができる。
 以上によれば,抗告人の主張は,理由がなく,抗告人の提示命令申立てを却下した原決定は,相当である。
 よって,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。

平成23年3月29日

大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官小松一雄
裁判官片岡早苗
裁判官平井健一郎

検証物目録
 抗告人が、被抗告人医療法人(略)の設置する(略)病院において、(略)から(略)までの聞に受けた診療にかかる下記1~10の資料及び被抗告人医療法人(略)が作成した医師賠償責任保険にかかる下記11の資料
1  診療録
2  諸検査結果票
3  医師指示票・指示簿
4  診療情報提供書
5  X線写真, C T, MRI,エコー写真,その他の画像
6  手術記録(ビデオその他の録画記録を含む)
7  麻酔記録
8  看護記録
9  保険診療報酬請求書
1 0  その他申立人の診療上作成された記録一切(編集更新履歴を含む電磁的記録を含む)
1 1  (略)医師会に提出された事故報告書,その他医師賠償責任保険に関して作成された記録一切(電磁的記録を含む)

注:事務所で担当した案件の決定文をOCR処理等したものを利用しており誤変換等が含まれている可能性があります。

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