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2013.05.15

動産売買先取特権について対抗要件の具備の要否?

 売主が動産(商品)を買主に売り渡した場合に,売主は,その売掛債権(売買代金債権)について,買主の手もとにある当該動産(商品)に対して先取特権という担保物権を有する。
 これは,法律(民法)の規定に基づき当然に与えられる権利であり,当該商品の価値を支配するものであって抵当権に類する権利である。仮に,買主がその代金を支払わない場合には,売主は,買主の手もとにある動産(商品)を差し押さえて競売にかけて,その売却代金から配当を受けることができる。

民法
(先取特権の内容)
第303条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
(動産の先取特権)
第311条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
五.動産の売買
(動産売買の先取特権)
第321条 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。

民事執行法
(動産競売の要件)
第190条  動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「動産競売」という。)は、次に掲げる場合に限り、開始する。
一 債権者が執行官に対し当該動産を提出した場合
二 債権者が執行官に対し当該動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出した場合
三 債権者が執行官に対し次項の許可の決定書の謄本を提出し、かつ、第192条において準用する第123条第2項の規定による捜索に先立つて又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合
2 執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあつたときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができる。ただし、当該動産が第123条第2項に規定する場所又は容器にない場合は、この限りでない。
3 前項の許可の決定は、債務者に送達しなければならない。
4 第2項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

 しかし,買主が,その動産(商品)を第三者に対して転売して引き渡してしまうと,売主はその動産(商品)に対して先取特権を行使できなくなる。

民法
(先取特権と第三取得者)
第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

 ところで,売主は,第三者の手に渡った動産(商品)に対して先取特権を行使することが出来なくなるものの,買主は転売により第三者(転売先・第三債務者)に対して,転売売掛金(転売売掛債権)を有するところ,この転売売掛金は商品の価値が別の形として生じたものと言えることから,売主は,買主が転売先(第三債務者)に対して有する転売売掛金に対して先取特権の効果の及ぶことを主張することが出来ると考えられている(物上代位)。但し,売主がその権利を行使するためには,当該転売売掛金を差押えする必要がある。

(物上代位)
第304条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

 なお,先取特権の行使は,物上代位の場合も含めて,(法定)担保権の行使であることから,買主が倒産して破産管財人が選任されたような場合においても,当該破産管財人に対しても主張できるものと考えられている。

例えば,破産法
第2条
九 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65第1項の規定により行使することができる権利をいう。
(別除権)
第65条 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

 なお,差し押さえた債権については,添付命令を受けて自己の債権にするかあるいは取り立てて権に基づいて,売主は転売先(第三債務者)から直接その支払を受けることになる。

民事執行法
 (差押債権者の金銭債権の取立て)
第155条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは、その債権及び執行費用は、支払を受けた額の限度で、弁済されたものとみなす。
3 差押債権者は、前項の支払を受けたときは、直ちに、その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
(転付命令)
第159条 執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、支払に代えて券面額で差し押さえられた金銭債権を差押債権者に転付する命令(以下「転付命令」という。)を発することができる。
2 転付命令は、債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
3 転付命令が第三債務者に送達される時までに、転付命令に係る金銭債権について、他の債権者が差押え、仮差押えの執行又は配当要求をしたときは、転付命令は、その効力を生じない。
4 第一項の申立てについての決定に対しては、執行抗告をすることができる。
5 転付命令は、確定しなければその効力を生じない。
6 転付命令が発せられた後に第39条第1項第七号又は第八号に掲げる文書を提出したことを理由として執行抗告がされたときは、抗告裁判所は、他の理由により転付命令を取り消す場合を除き、執行抗告についての裁判を留保しなければならない。 

 よって,売主にとっては,債権回収のためのかなり強力な手段をいえる。ただし,その権利行使は容易でない場合がほとんどで,そのためかなりのノウハウ等も必要となる。
 幸い,当事務所は,商社法務にも携わっている関係から,この手続きが世間にそれほど知られる以前からその手続きを行っており(30年近くになるのでしょうか?),相当数の申立を行っている。
 私が弁護士になりたての頃は,東京地裁でもほとんど例が無いこともあり,私が大阪から東京地裁に駆け込んで,何とかお願いして即日発令ということもあった。今では到底考えられないことである。

 ところで,この度,動産売買の先取特権物上代位の行使により,買主が第三債務者に対する転売代金債権を差し押さえたところ,ある方から,取り下げの要請があった。そのようなことはかつて経験したことが無かったことから面食らってしまった。
 その根拠を尋ねると,先取特権物上代位の行使の前提となる,先取特権について対抗要件を具備していないということが根拠のようであった。そのような理屈も聞いたことが無かったので,戸惑ってしまった。しかし,当方としては,規定通り取立を行う旨を伝えると,返金のための訴訟を提起するとのことであった。
 よって,ことは重大であり,仮にそうであるならば実務に対する影響が非常に大きいことであることから自分なりに再度考えてみることとした。
 
 担保物権の教科書には動産売買の先取特権について対抗要件具備を求めるものはみあたらず,反対に対抗要件の具備は不要と書かれている。
 法定担保物権である先取特権が認められる理由や,不動産関連の先取特権については登記が(対抗要件ではなく)「効力要件」とされていて,先取特権の登記さえすれば,(先行する)登記された抵当権よりも優先するとされている(民法339条)。また,民法の333条及び304条の規定の趣旨。
 本件のような事実関係等については,従来から最高裁判所判例を含めて多くの裁判例が存在するところ(その多くは倒産事案において民法304条に関連するものである),それらにおいて,債権者(売主)に対抗要件(売主による占有)を求めたものはないと考えられる。
 因みに,最高裁判所平成17年2月22日判決は,「民法304条1項ただし書は,先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ,この規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。」と判示していますが,これは,動産売買先取特権については対抗要件具備が不要であることが前提と考えられる。
 
  やはりこのようなことを考えると,動産売買先取特権について対抗要件を求める考えは誤っていると考えて,その旨を通知したところ,相手方は対抗要件を要求する考え方を撤回したようで,第三債務者に対して差押え債権者である当方への支払を指示したとのことであった。
 
 

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