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2014.04.21

医師法21条による届出に関する報道内容の誤りについて

 下記報道には,「異状死の24時間以内の届け出を義務づけた医師法に触れる可能性がある」とある。また,病院関係者は「命に関わる手術でない上,禁忌の鎮静剤を過剰に投与している最中の事故であり,明らかに異状死だ」と指摘。医療事故に詳しい弁護士は「当事者である病院の解剖は公正さを欠く。遅くとも解剖時点では異状死の疑いに気づいたはずで,解剖から届け出まで3日かかったのは疑問だ」と記載されている。

 しかし,私は,これらの見解は正しくないと考えている。

 死体を検案した場合に異状を認めた場合の届出義務(なお,「異状死」の届出に関する規定は医師法には存在しない)が,医師法21条に定められている。
 つまり,医師法第21条は,「医師は,死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」と定めている。
 このように医師法21条に定められているのは,死体を検案したところ,異状が見つかった場合であり,異状死の場合を広く含むものでは無い。よって,私は,異状死の届出という表現は,誤解を招く不適切な表現であると考えている。
 医師法21条によって,24時間以内の届出が義務づけられるのは
 「医師が」
 「死体を」
 「検案して」
 「異状があると認めた」
場合のみとなる。
 では,ここにいう「検案」とは,具体的にどのようなことを意味するのであろうか?
 医師法21条における「検案」の意味等を具体的に示した最高裁判所判決(都立広尾病院事件判決)がある。
 平成16年04月13日最高裁判所第三小法廷判決
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=50058&hanreiKbn=02

 当該最高裁判所判決は,次の通り述べている。
 ①医師法21条にいう死体の「検案」とは,「医師が死因等を判定するため」に「死体の外表を検査すること」をいう。
 ②当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わない。
 従って,上記最高裁判所の判決を前提とすると,医師法21条により24時間以内の届出が義務づけられるのは,
 ①自己の診療していた患者であるか否かを問わないけれども
 ②医師が,死因等を判定するために「死体の外表を検査」したところ,「異状(異常)を認めた」場合であることが必要であると考えなければならない。
 なお,医師法21条違反には刑罰が科せられるので,罪刑法定主義の観点から,その文言を拡張させて解釈することは厳に慎まなければならない。
 最高裁判所による「検案=外表検査」の解釈を前提とすると,下記報道に示されている,医療関係者が述べたとされる「禁忌の鎮静剤を過剰に投与している最中の事故であり,明らかに異状死だ」との考え方は,医師法21条との関係では,誤っているといわなければならない。
 また,医療事故に詳しい弁護士の意見とされる,「遅くとも解剖時点では異状死の疑いに気づいたはず」という見解も,医師法21条との関係では,正しいものではないといわざるを得ない。ただし,善意に解釈すると,「解剖時点では,外表面上の異状が見られた」ので,外表上の異状を認めたが故に届出をしなければならないというものであることも想定しうるが,「異状死の疑い」に気づいたという「疑い」に気づいただけでは,やはり届出義務は発生しないと言わざるを得ない(なお,繰り返しになるが,「異状死」という概念は,そもそも医師法21条には書かれていない概念である)。 「疑い」ではなく,「異状を認める」ことが届出の前提であることは,医師法21条の条文上明らかだからである。
 つまり,医師法の条文及び上記最高裁判所の判決を前提とすれば,「外表面上において異状があると認めた」場合についてのみ届出義務が発生するはずである。

なお
 平成24年10月26日(金)17時~19時 厚生労働省省議室で開催された「第8回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002mu39.html
の議事録には,厚生労働省医政局医事課長田原克志氏の発言等の記載がある。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002r4ko-att/2r9852000002r4m5.pdf

厚生労働省医政局医事課の所轄事項は次の通りとされている。
「・医師,歯科医師その他医療関係者に関する事務(他局の所掌に属するものを除く。)の総括に関すること。
・医師,診療放射線技師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,視能訓練士,臨床工学技士,義肢装具士,言語聴覚士,あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師及び柔道整復師に関すること。
・外国医師の臨床修練に関すること。
・国民保護法第九十一条第一項に規定する外国医療関係者のうち外国医師による医療の提供の許可に関すること。
・死体の解剖及び保存に関すること。」
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0080

以下議事録からの引用である。
6p「○田原医事課長
医事課長でございます。
まず,参考資料2をごらんいただければと思います。医師法21条では,「医師は,死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に警察署に届け出なければいけない」というものでございまして,その犯罪の痕跡をとどめている場合があるということで,こういった届出義務を規定したというものでございます。
今,有賀先生のほうから御質問がありましたけれども,厚生労働省が診療関連死について届け出るべきだというようなことを申し上げたことはないと思っております。この法律と,ここに書いてある解釈をお示ししているということで,診療関連死というのが何を示すのかというのはちょっといろいろありますが,明示的にそれを届け出なさいということを申し上げてはいないのではないかと思います。
関連して,法医学的な異状を意味するということが書かれておりますけれども,この法医学的異状を判断する際に法医学会のガイドラインも参考にしてくださいというようなことは申し上げておりますけれども,それを参考にして,最終的には検案した医師が,異状であるかどうかということを判断していただくというものでございます。」

注:参考資料2
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002mu39-att/2r9852000002muvm.pdf

○田原医事課長
今,御指摘いただきました,国立病院のほうに対して,リスクマネジメントマニュアル作成指針ということで,そこには,警察への届出として,医療過誤によって死亡または障害が発生した場合,またはその疑いがある場合には,施設長は速やかに所轄警察署に届出を行うというような内容がございます。平成12年だったかと思いますけれども,それについては,これはあくまでも国立病院などに対してお示ししたものでありまして,国立病院のほうで実際にいろんな対応する際の参考になるように指針を示しているということで,ほかの医療機関について,こういうことをしなさいと言っているわけではないと考えております。
○有賀構成員
そうしますと,国立病院でない病院については,そのようなマニュアルになさいませということが届いていなければ,違うマニュアルがあってもよろしいと,こういう話ですね。
○田原医事課長
それはそれぞれ,検案した医師が第一義的には判断するものだと考えております。」

p8
「○田原医事課長
検案は外表を見て判断するとなっておりますけれども,その亡くなられた死体があって,死体の外表を見たドクターが検案して,そのときに異状だと考える場合は警察署に届け出てくださいということだと考えております。
○中澤構成員
それは,外表を見てということは,外表だけで判断されるということでよろしいわけですね。
○田原医事課長
基本的には外表を見て判断するということですけれども,外表を見るときに,そのドクターはいろんな情報を知っている場合もありますので,それを考慮に入れて外表を見られると思います。ここで書かれているのは,あくまでも,検案をして,死体の外表を見て,異状があるという場合に警察署のほうに届け出るということでございます。これは診療関連死であるかないかにかかわらないと考えております。
○中澤構成員
そうすると,外表では判断できないものは出さなくていいという考えですか。
○田原医事課長
ですから,検案ということ自体が外表を検査するということでございますので,その時点で異状とその検案した医師が判断できるかどうかということだと考えています。
○中澤構成員
判断できなければ出さなくていいですね。
○田原医事課長
それは,もしそういう判断できないということであれば届出の必要はないということになると思います。」

12p「○山本座長
私も法律家ですので一言申し上げさせていただきますと,法律の解釈適用について最終的な権限を持っているのは,日本においては司法権なので,そして司法権の頂点にあるのが最高裁判所ですから,最高裁判所が例えばこの医師法21条に対して一定の解釈を示したとすれば,それはもちろん判例が変更されるということは論理的にあり得ますけれども,基本的にはそれは日本国の中で,この医師法21条はそのように解釈されるということを明らかにするということになるというのが日本の国の仕組みですので,上に従うとかそのような話では基本的にはないということだと思います。
ですから,この医師法21条について,私の理解している限りでは,最高裁判所,一定の判断を示しているのではないかという気もするのですけれども。
○田原医事課長
医師法21条につきましては,最高裁で判示されて平成16年に出されておりますが,医師法21条にいう死体の検案とは,医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること,といっております。また,当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを問わないと解するのが相当であり,これと同旨の原判断という高裁の判断は正当として是認できるといったようなことが示されております。
○中澤構成員
済みません。簡単にこういうことだと言っていただければありがたいのですけれども。
○田原医事課長
簡単には,先ほど少し御説明しました,検案というのは,医師が死因を判定する際に,死体の外表を見て検査するということをいっていますということであって,死体が診療中の患者さんなのかそうでないか,そういったものとは関係はないといっているということです。
○中澤構成員
ということは,医療関連死はこの関係からは省かれるという考えでよろしいのですね。
○田原医事課長
そういうことではなくて,いわゆる,ここでいろいろ議論されている医療関連死であっても,医師が死因を判断するために外表を見て,異状がある場合は警察に届け出なければならないということです。」

17p
「○田原医事課長
今となってはというのはよくわかりませんが,あくまでも国立病院のほうの作成指針というのは,国立病院などが自主的にこうやったらいいのではないかということをお示ししただけであって,医師法21条の話とはまさに別々の問題だと思います。平成16年に最高裁のほうで,自分が診察していた患者かどうかは関係なく,死体の外表を検査して,検案をして,異状を認めた場合には警察署に届け出ることが必要であるということは示されているわけですので,そのことを念頭に御議論いただければと思います。」

(以上,議事録からの引用終わり)

 平成16年の最高裁判決の内容及び平成24年10月の厚労省医政局医事課長発言の内容に鑑みるならば,現場の実務においては,
 医師法21条について,「医師が死因を判断するために外表を見て,異状があるには場合は警察に届け出る」以外の解釈の余地は無いと,私は考えています。
 

 しかし,本件の報道に示されているような,医師法の条文及び上記最高裁判所の判決の内容をふまえていないと評価されなければならない論調が多くみられることが実情であり残念なことであり,十分に注意しなければならないと私は考えています。

 なお,上記は,根拠が十分にあるものと考えていますものの,開くまでも当職の個人的見解です。
 つきましては,実例に応じて,それぞれの病院で専門家を交えながら,最終的なご判断をいただく必要があると考えています。


以下,平成26年4月20日/朝日新聞デジタルよりの引用
◆男児急死,火葬後届け出 司法解剖できず,医師法違反の可能性(病院名略) 
(病院名略)(東京・新宿)が2月,首を手術した男児(当時2)が急死した4日後に警視庁に事故を届け出ていたことが朝日新聞の調べでわかった。遺体はこの間に火葬され,警視庁は事件性を調べるための司法解剖をできなかった。異状死の24時間以内の届け出を義務づけた医師法に触れる可能性がある。
(中略)病院関係者によると,(中略)男児は21日に容体が急変し,午後8時ごろ亡くなった。鎮静剤の副作用で急性循環不全に至った可能性があるという。病院は22日に病理解剖をした後,遺体を遺族に引き渡した。遺体は24日,告別式を終えてから火葬された。病院は25日になって警視庁へ届け出た。警視庁は業務上過失致死の疑いで捜査を進めているが,司法解剖をできなかった影響が出ているという。医師法違反にあたる可能性もあるとみて調べる。
病院関係者は「命に関わる手術でない上,禁忌の鎮静剤を過剰に投与している最中の事故であり,明らかに異状死だ」と指摘。医療事故に詳しい弁護士は「当事者である病院の解剖は公正さを欠く。遅くとも解剖時点では異状死の疑いに気づいたはずで,解剖から届け出まで3日かかったのは疑問だ」と話す。(以下略)」

なお,ポイント等について赤色等で表示したいところであるが,ココログが上手く反応しないので断念。

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