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2015.02.28

「調査の目的・結果について,遺族が納得する形で説明する」こととは?

厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では,医療法の省令等の内容が検討されていますが,既に第6回目が開催されています。
その第6回目に配付された資料を前提に考えてみたいと思います。

検討会では

・どのような「事故」について調査をしなければならないのか?
・調査した「結果(調査報告書)」を遺族に渡さなければならないのか?

等の点について議論が割れています。
他にも色々と議論されているのですが,この2点について私の雑感(個人的意見)を書かせて頂きます。

1.事故調査を要する範囲(調査義務の範囲)について
  事故調査を要するのは「医療事故」があった場合となります。
  医療法は,医療事故を「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因」するものと明示されています。
 この「医療」「管理」が含まれるのか?ということが議論され,当初は「管理」を除外する方向性も検討されたようですが,現状では次の通り,厚労省は「管理」を含む方向性を示しています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000075316.pdf
●「医療」に含まれるものは制度の対象であり,「医療」の範囲に含まれるものとして,手術,処置,投薬及びそれに準じる医療行為(検査,医療機器の使用,医療上の管理など)が考えられる。
●施設管理等の「医療」に含まれない単なる管理は制度の対象とならない。
 「管理」が含まれますと,術後管理は当然として,それ以外にも見落とし,誤嚥,転落,転倒まで入る可能性が高く,高齢者の多い昨今をも勘案致しますと調査義務の範囲は相当広くなることが想定されます。
 なお,要件に該当する事故については,調査義務が生じますので,理論上は,例えば,遺族が調査不要であると理解を示したとしても,病院は,センターに報告のうえで調査をして,事故調査報告書を作成の上で,その結果をセンターに報告しまた遺族にも説明しなければならないことになります。
 因みに,院内事故調査は,病院サイドの自己負担(自腹)が予定されていますので,事故調査の対象数が多くなると,人手・費用の点で大きな影響を及ぼすことを覚悟しなければなりません(なお,地域を問わずまた診療所も除外されません)。
 また,大学病院等調査のための派遣要請を受けて調査のために人材を供出しなければならない病院等にとっても影響の大きい問題です。
 現状,診療についてすら人員が不足しているとされていることを考えますと,それほど調査範囲を拡げてしまって,実際の診療が大丈夫なのだろうか?という点が危惧されます。特に,地方の病院や診療所にとっては深刻な問題なのだろうと考えています。
人不足が叫ばれる現状において,数多くの調査のために医師等のスタッフが必要となり,実際の診療に当たる医療スタッフが不足するという事態の発生も懸念されるのです。

2.事故調査報告書の遺族への交付について
 従前,厚労省は次のような内容を示していました。
●遺族への説明については,口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)の適切な方法を管理者が判断する
●調査の目的について,遺族に対して分かりやすく説明する。
 つまり,口頭説明をするのか文書を交付するのかは病院が判断すれば良いということでした。
しかし,
第6回の検討会において,厚労省案が一転しました。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000075314.pdf
●遺族への説明については,口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う(← 重要点:「管理者が判断する」が削除されている)。
●調査の目的・結果について,遺族が納得する形で説明するよう努めなければならない。(←重要点:「結果」が挿入され,遺族が納得する「形」で説明することが求められる

 文字の変更だけでは何のことかと思うでしょうが,要するに内容だけで無く,説明の方法としても遺族の納得を得ることが必要であり,遺族が事故調査報告書を要求すれば(=口頭説明で納得しなければ)病院サイドはそれに応じなければならないということです

 つい先日,ある公立病院の事務方と話をさせていただいていたのですが,上記のような問題点というより,そもそも事故調査そのものについて関心がなかったとのことで,私の現状に関する説明を聞いて「驚いた。そんなことになってしまっているのですか。」との旨を話されることがありました。これが,医療界の実情なのでしょうね。

 先般,東京女子医大の件で,警視庁が東京女子医大に対して文書で,「事故調査報告書」の提出を求めたところ,東京女子医大は,強制捜査を免れるためにやむなく「事故調査報告書」を捜査機関に提出したということが報じられていました。

 このようなことも含めて,調査に協力すると,その情報が外部の手に渡り,そのことによって,責任追及がなされることにつながる事態が一般に理解されることとなると,(院内での)事故調査に積極的に協力する者がいなくなってしまうことが危惧されます。
 そうなると,余計に医療安全が図れないことになり,その結果として,多くの患者にその弊害が及ぶということが理解されていないように感じられます。

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