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2010.03.17

平成22年03月15日最高裁判所第一小法廷決定(インターネット上の書き込みと名誉毀損関連)

平成21(あ)360名誉毀損被告事件
平成22年03月15日最高裁判所第一小法廷決定

原審
東京高等裁判所   
平成20(う)1067
平成21年01月30日

裁判要旨
1 インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の表現手段を利用した場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない。
2 インターネットの個人利用者による表現行為について,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて相当の理由があるとはいえないとして,名誉毀損罪の成立が認められた事例
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=38704&hanreiKbn=01

判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100317094900.pdf

判決文より
「インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損罪の成否について,職権で判断する。」

「個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。」

「そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)。」

「これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないから,これと同旨の原判断は正当である。」
 


刑法
(名誉毀損)第230条 
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。       
      
(公共の利害に関する場合の特例)第230条の2
 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

メモ:
 公の場において事実の書き込み等を行い,それが他の人の社会的名声を下げるものであるならば,それは名誉毀損にあたることになります。ウソの内容を書き込んで社会的名声を下げる場合はもちろんのことですが,その書き込み内容が真実に合致する内容であってもその内容がその人の社会的名声を下げるものである場合には,名誉毀損となることが原則とされていますので,注意が必要です。
 例外的に,その事実が「真実」である場合であって,その事実が「公共の利害」にかかわるものであって,且つ,公表者に「公益を図る目的」がある場合には罰せられないとなっています。なお,真実ではなかったとしても,真実と考えるに相当と思えるような根拠がある場合にも罰せられないと解釈されています。
 ちなみに,インターネットの世界は誰でも閲覧することの出来る世界ですから,そのような空間は「公の場」に該当します。

 従いまして,インターネット上で書き込みをする際には,このような点について十分な注意が必要なのです。

平井利明のメモ

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