平成23年02月25日最高裁判所第二小法廷判決(医療事故における期待権侵害関連)
平成21(受)65損害賠償請求事件
平成23年02月25日最高裁判所第二小法廷判決
【破棄自判】
原審
広島高等裁判所
平成19(ネ)114
平成20年10月10日
裁判要旨
適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする整形外科医の不法行為責任の有無を検討する余地はないとされた事例
判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110225113837.pdf
「本件は,上告人Y1が開設するA病院(以下「上告人病院」という。)において,同病院に勤務していた上告人Y2(以下「上告人Y2」という。)の執刀により,下肢の骨接合術等の手術を受けた被上告人が,上記手術による合併症として下肢深部静脈血栓症を発症し,その後遺症が残ったことにつき,上告人らに対し,(1) 上告人Y2は,必要な検査を行い,又は血管疾患を扱う専門医に紹介する義務があるのに,これを怠り,その結果,被上告人に上記後遺症が残った,仮に,上記義務違反と上記後遺症の残存との間の因果関係が証明されないとしても,上記後遺症が残らなかった相当程度の可能性を侵害された,(2) 仮に,上記因果関係及び上記可能性が証明されないとしても,上告人Y2は,その当時の医療水準にかなった適切かつ真しな医療行為を行わなかったので,被上告人は,そのような医療行為を受ける期待権を侵害されたなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案」
「前記事実関係によれば,被上告人は,本件手術後の入院時及び同手術時に装着されたボルトの抜釘のための再入院までの間の通院時に,上告人Y2に左足の腫れを訴えることがあったとはいうものの,上記ボルトの抜釘後は,本件手術後約9年を経過した平成9年10月22日に上告人病院に赴き,上告人Y2の診察を受けるまで,左足の腫れを訴えることはなく,その後も,平成12年2月以後及び平成13年1月4日に上告人病院で診察を受けた際,上告人Y2に,左足の腫れや皮膚のあざ様の変色を訴えたにとどまっている。これに対し,上告人Y2は,上記の各診察時において,レントゲン検査等を行い,皮膚科での受診を勧めるなどしており,上記各診察の当時,下肢の手術に伴う深部静脈血栓症の発症の頻度が高いことが我が国の整形外科医において一般に認識されていたわけでもない。そうすると,上告人Y2が,被上告人の左足の腫れ等の原因が深部静脈血栓症にあることを疑うには至らず,専門医に紹介するなどしなかったとしても,上告人Y2の上記医療行為が著しく不適切なものであったということができないことは明らかである。」
「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない。」
「したがって,上告人らについて上記不法行為責任の有無を検討する余地はなく,上告人らは,被上告人に対し,不法行為責任を負わないというべきである。5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
「論旨は理由があり,原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。」
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