裁判例

2020.10.13

令和2年10月13日最高裁判所第三小法廷判決(契約社員による退職金等請求関連)

契約社員による退職金請求関連

令和1(受)1190損害賠償等請求事件
令和2年10月13日最高裁判所第三小法廷判決
原審 東京高等裁判所 平成29(ネ)1842 平成31年2月20日判決

判示事項
無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89768

全文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf
本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して東京地下鉄株式会社(以下「東京メトロ」という。)の駅構内の売店における販売業務に従事していた第1審原告らが,第1審被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者のうち上記業務に従事している者と第1審原告らとの間で,退職金等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったなどと主張して,第1審被告に対し,不法行為等に基づき,上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求める事案

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最高裁判所令和2年10月13日判決(アルバイト職員との関係の事案で賞与等を支給しないことは労働契約法に違反しないとした例)

令和1(受)1055 地位確認等請求事件
令和2年10月13日判決 
最高裁判所第三小法廷
原審 大阪高等裁判所 平成30(ネ)406 平成31年2月15日判決

判示事項
無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89767

全文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf
 「本件は,第1審被告と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して勤務していた第1審原告が,期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している正職員と第1審原告との間で,賞与,業務外の疾病(以下「私傷病」という。)による欠勤中の賃金等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったとして,第1審被告に対し,不法行為に基づき,上記相違に係る賃金に相当する額等の損害賠償を求める事案」

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2020.10.09

訴訟救助関係のメモ

民事訴訟法
第三節 訴訟上の救助
(救助の付与)
第82条 訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対しては、裁判所は、申立てにより、訴訟上の救助の決定をすることができる。ただし、勝訴の見込みがないとはいえないときに限る。
2 訴訟上の救助の決定は、審級ごとにする。
(救助の効力等)
第83条 訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一 裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二 裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三 訴訟費用の担保の免除
2 訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3 裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる。
(救助の決定の取消し)
第84条 訴訟上の救助の決定を受けた者が第82条第1項本文に規定する要件を欠くことが判明し、又はこれを欠くに至ったときは、訴訟記録の存する裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、決定により、いつでも訴訟上の救助の決定を取り消し、猶予した費用の支払を命ずることができる。
(猶予された費用等の取立方法)
第85条 訴訟上の救助の決定を受けた者に支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。この場合において、弁護士又は執行官は、報酬又は手数料及び費用について、訴訟上の救助の決定を受けた者に代わり、第71条第1項、第72条又は第73条第1項の申立て及び強制執行をすることができる。
(即時抗告)
第86条 この節に規定する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

民事訴訟規則
第三節 訴訟上の救助
(救助の申立ての方式等・法第82条)
第30条 訴訟上の救助の申立ては、書面でしなければならない。
2 訴訟上の救助の事由は、疎明しなければならない。

訴訟上の救助を申し立てる場合について
大阪家庭裁判所家事第3部人事訴訟係

昭和32(ウ)58  訴訟救助の申立事件
昭和32年8月13日  仙台高等裁判所  
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=24837
主  文
本件訴訟上の救助申立を却下する。
理  由
 申立人の救助申請理由は別紙のとおりである。
 民訴法第一一九条によれば訴訟上の救助は各審においてこれを与うと規定されており、各審級毎に本案の係属する裁判所において付与すべきか否を決定すべきことになつている。
 しかるところ申立人は当審昭和三一年(ネ)第一三四号家屋明渡請求控訴事件において敗訴し該判決に対し上告状を当裁判所に提出し上告をなしたのであるが、その上告状には印紙を貼用せず、該印紙その他今後生ずべき訴訟費用の救助を求むる旨の申請をも同時になしているので、これが許否につき審判をなすべきであるが既に当裁判所としては本案につき終局判決をなしているので果して右申請につき当庁において判断をなすべきものなりや否やにつき検討の要がある。
 よつて按ずるに原裁判所たる当審はさきに控訴審としてなした本案判決に対して上告の提起があつた場合民訴法第三九九条の規定により、その上告の適否を審査しうべきであり、その場合即ち該審査の段階においては事件はなお当裁判所に係属すると認むべきであつてこれは一種の上告審としての手続関係ではあるが原裁判所に係属すると云う特種の関係にあるものというべきである。
 従て当審としては前記民訴法第一一九条によりいわゆる本案の係属する裁判所に該当するものとして訴訟救助を付与すべきか否につき判断をなすべき権限を有するものと解するのを相当とする。
 よつて次に救助を付与すべきか否の点について按ずるに訴訟上の救助が付与されるためには申請人において訴訟費用を支払う資力なく、本案の訴につき勝訴の見込あることを必要とする。
 然るところ申請人においては既に本案につき第一、二審とも敗訴している許りでなく、その証拠関係及び判決理由その他記録全般を仔細に検討するに上告審において勝訴の結果を得るが如きことは到底これを期待しうべくもないものと認める外はない。されば本件申立は申請人が果して無資力か否かにつき審究するまでもなく失当として却下すべきものとして主文のとおり決定する。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/837/024837_hanrei.pdf

このような先例があるのですね(但し,旧民事訴訟法時代の判決)。

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2018.02.23

平成30年2月23日最高裁判所第二小法廷判決(抵当権の消滅時効関連)

平成29(受)468建物根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求事件
平成30年2月23日最高裁判所第二小法廷判決
原審
福岡高等裁判所
平成28(ネ)703
平成28年11月30日
判示事項  
抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合における当該抵当権自体の消滅時効
裁判要旨  抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる。
(補足意見がある。)
参照法条  民法167条2項,民法396条,破産法253条1項本文
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87485
 免責許可の決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,上記債権については,もはや民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきである(最高裁平成9年(オ)第426号同11年11月9日第三小法廷判決・民集53巻8号1403頁参照)。
 このことは,免責許可の決定の効力を受ける債権が抵当権の被担保債権である場合であっても異なるものではないと解される。
 民法396条は,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ,時効によって消滅しない旨を規定しているところ,この規定は,その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することとなるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。
 そして,抵当権は,民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである。
 したがって,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当である。
 以上のことは,担保すべき元本が確定した根抵当権についても,同様に当

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2018.02.15

平成30年2月15日最高裁判所第一小法廷判決(法令遵守体制等関連)

平成28(受)2076損害賠償請求事件
平成30年2月15日最高裁判所第一小法廷判決
【破棄自判】
名古屋高等裁判所
平成27(ネ)812
平成28年7月20日
判示事項  
親会社が,自社及び子会社等のグループ会社における法令遵守体制を整備し,法令等の遵守に関する相談窓口を設け,現に相談への対応を行っていた場合において,親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって,信義則上の義務違反があったとはいえないとされた事例
判決文より
上告人は,本件当時,法令等の遵守に関する社員行動基準を定め,本件法令遵守体制を整備していたものの,被上告人に対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか,被上告人から実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はないというべきである。また,上告人において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が,勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務を上告人自らが履行し又は上告人の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。
以上によれば,上告人は,自ら又は被上告人の使用者である勤務先会社を通じて本件付随義務を履行する義務を負うものということはできず,勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって,上告人の被上告人に対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない
 事実関係等によれば,上告人は,本件当時,本件法令遵守体制の一環として,本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け,上記の者に対し,本件相談窓口制度を周知してその利用を促し,現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。
その趣旨は,本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として,本件相談窓口における相談への対応を通じて本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為(以下「法令等違反行為」という。)を予防し,又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。
これらのことに照らすと,本件グループ会社の事業場内で就労した際に,法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が,本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば,上告人は,相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ,上記申出の具体的状況いかんによっては,当該申出をした者に対し,当該申出を受け,体制として整備された仕組みの内容,当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。

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最高裁判所第一小法廷平成30年2月15日判決(破棄自判)(親会社の子会社の従業員の行動に関する責任関連)

平成28(受)2076損害賠償請求事件
最高裁判所第一小法廷平成30年2月15日判決(破棄自判)
原審
名古屋高等裁判所
平成27(ネ)812
平成28年7月20日
判示事項  
親会社が,自社及び子会社等のグループ会社における法令遵守体制を整備し,法令等の遵守に関する相談窓口を設け,現に相談への対応を行っていた場合において,親会社が子会社の従業員による相談の申出の際に求められた対応をしなかったことをもって,信義則上の義務違反があったとはいえないとされた事例
判決文

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2016.06.27

最高裁判所平成28年6月27日判決(認定司法書士の代理権の範囲関連)

平成26(受)1813
損害賠償請求事件
平成28年6月27日判決
最高裁判所第一小法廷

原審
大阪高等裁判所
平成24(ネ)1027
平成26年5月29日判決

裁判要旨
債務整理を依頼された認定司法書士(司法書士法3条2項各号のいずれにも該当する司法書士)が,裁判外の和解について代理することができない場合
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85969

判決文全文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/969/085969_hanrei.pdf

【抜粋】

 本件は,司法書士法(以下「法」という。)3条2項各号のいずれにも該当する司法書士(以下「認定司法書士」という。)である第1事件上告人・第2事件被上告人(以下,単に「上告人」という。)に依頼した債務整理につき,第1事件被上告人・第2事件上告人(以下,単に「被上告人」という。)らが,上告人に対し,上告人は認定司法書士が代理することができる範囲を超えて,違法に裁判外の和解を行い,これに対する報酬を受領したなどとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき上記報酬相当額の支払等を求める事案

 法は,認定司法書士の業務として,簡易裁判所における民訴法の規定による訴訟手続(以下「簡裁民事訴訟手続」という。)であって,訴訟の目的の価額が裁判所法33条1項1号に定める額を超えないものについて代理すること(法3条1項6号イ),民事に関する紛争であって簡裁民事訴訟手続の対象となるもののうち,紛争の目的の価額が上記の額を超えないものについて,裁判外の和解について代理すること(同項7号)を規定する。
 法3条1項6号イが上記のとおり規定するのは,訴訟の目的の価額が上記の額を超えない比較的少額のものについては,当事者において簡裁民事訴訟手続の代理を弁護士に依頼することが困難な場合が少なくないことから,認定司法書士の専門性を活用して手続の適正かつ円滑な実施を図り,紛争の解決に資するためであると解される。
 そして,一般に,民事に関する紛争においては,訴訟の提起前などに裁判外の和解が行われる場合が少なくないことから,法3条1項7号は,同項6号イの上記趣旨に鑑み,簡裁民事訴訟手続の代理を認定司法書士に認めたことに付随するものとして,裁判外の和解についても認定司法書士が代理することを認めたものといえ,その趣旨からすると,代理することができる民事に関する紛争も,簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである
 また,複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても,通常,債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし,最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば,裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は,個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる

 このように,認定司法書士が裁判外の和解について代理することができる範囲は,認定司法書士が業務を行う時点において,委任者や,受任者である認定司法書士との関係だけでなく,和解の交渉の相手方など第三者との関係でも,客観的かつ明確な基準によって決められるべきであり,認定司法書士が債務整理を依頼された場合においても,裁判外の和解が成立した時点で初めて判明するような,債務者が弁済計画の変更によって受ける経済的利益の額や,債権者が必ずしも容易には認識できない,債務整理の対象となる債権総額等の基準によって決められるべきではない。

 債務整理を依頼された認定司法書士は,当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が法3条1項7号に規定する額を超える場合には,その債権に係る裁判外の和解について代理することができないと解するのが相当である。

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2015.04.14

平成27年4月14日福井地方裁判所決定(高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件)原子力発電所差し止め関連

平成26(ヨ)31高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件
平成27年4月14日福井地方裁判所民事第2部

判示事項の要旨
高浜原発から半径250キロメートル圏内に居住する債権者らが,人格権の妨害予防請求権に基づいて高浜原発3,4号機の運転差止めを求めた仮処分請求につき,高浜原発の安全施設,安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといわざるを得ず,原子炉の運転差止めは具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段であり,原発事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じ,本案訴訟の結論を待つ余裕がなく,また,原子力規制委員会による再稼働申請の許可がなされた現時点においては,保全の必要性はこれを肯定できるとして,運転差止めを認容した事例
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=85038

決定文 http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/038/085038_hanrei.pdf

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2015.04.09

平成27年4月9日最高裁判所第一小法廷判決(親の監督義務関連)

平成24(受)1948損害賠償請求事件
平成27年4月9日最高裁判所第一小法廷判決

【破棄自判】

原審
大阪高等裁判所
平成23(ネ)2294
平成24年6月7日

判示事項
責任を弁識する能力のない未成年者が他人に損害を加えた場合において,その親権者が民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとされた事例
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85032

判決文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/085032_hanrei.pdf

判決文より
「本件は,自動二輪車を運転して小学校の校庭横の道路を進行していたB(当時85歳)が,その校庭から転がり出てきたサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し,その後死亡したことにつき,同人の権利義務を承継した被上告人らが,上記サッカーボールを蹴ったC(当時11歳)の父母である上告人らに対し,民法709条又は714条1項に基づく損害賠償を請求する事案である。上告人らがCに対する監督義務を怠らなかったかどうかが争われている。」

「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」

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2015.03.31

平成27年3月26日最高裁判所第一小法廷決定(非上場会社の株式買取価格決定関連)

平成26(許)39株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成27年3月26日最高裁判所第一小法廷決定

【破棄自判】

原審
札幌高等裁判所
平成26(ラ)151
平成26年9月25日

裁判要旨
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことの可否
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85016

決定文
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/016/085016_hanrei.pdf

「本件は,相手方を吸収合併存続株式会社,株式会社A(以下「A社」という。)を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)に反対したA社の株主である抗告人が,A社に対し,抗告人の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが,その価格の決定につき協議が調わないため,抗告人が,会社法786条2項に基づき,価格の決定の申立てをした事案」

「A社は非上場会社であるところ,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法をいう。)を用いて株式の買取価格を決定する場合に,当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(以下「非流動性ディスカウント」という。)を行うことができるか否かが争われている。」

「会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は,吸収合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い,その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照),非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在するが,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら,一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。
非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。」

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